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2006年11月19日 (日)

デウス・エクス・マキナ(Deus ex machina)は「機械仕掛けの神」を意味する

もとはギリシア語のἀπό μηχανῆς θεός (apo mekhanes theos) からのラテン語訳。
古代ギリシアの演劇において、劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、いきなり絶対的な力を持つ神が現れ、混乱した状況に解決を下して物語を収束させるという手法のこと。

悲劇にしばしば登場し、特に盛期以降の悲劇で多く用いられる。アテナイでは紀元前5世紀半ばから用いられた。特にエウリピデスが好んだ手法としても知られる。表記は「デウス・エクス・マキーナ」とも。

エクス・マキーナ(機械による)とは、この場面において神を演じる役者がクレーンのような仕掛けで舞台(オルケストラ)上に登場し、このからくりが「機械仕掛け」と呼ばれたことによる。由来は、「機械仕掛けで登場する神」ないし、舞台装置としての解決に導く神そのものが機械仕掛けであることとも解される。日本語で思いがけない展開を指す「どんでん返し」(歌舞伎において、大道具の背景を倒し、瞬時に場面転換することから来た)とも発想は類似している。

転じて、演劇に限らず、いきなり都合のいいものを持ち出して安易に解決するという御都合主義や、大風呂敷を広げて収拾がつかなくなった挙句、問題の解決を放棄した無理な結末などを意味するようになった。今日の小説・漫画・映画・テレビドラマなどでもしばしばデウス・エクス・マキナの手法は用いられる。

すでにアリストテレスの『詩学』においては、デウス・エクス・マキナはよい解決としては評価されていない。アリストテレスは、演劇の物語の筋は必然性のある因果関係に基づいて導き出されるものであるべきとして、無から解決を導くこのような手法を批判している。好ましくない解決とされることの多いデウス・エクス・マキナではあるが、劇場機構の進化としては、盛期アテナイ演劇の成果のひとつとして評価される。
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[デウス・エクス・マキナの例]
ギリシア悲劇
アイスキュロス『恵み深い女神たち』 アトレウス家のオレステスを追う復讐の女神たちに対して、アポロンがオレステスの無罪を宣し、女神たちが承服する。
ソポクレス『ピロクテテス』 オデュッセウスの説得を拒むピロクテテスに対して、神となったヘラクレスが現れ、アカイア勢への助力を命じる。
エウリピデス『オレステス』 母を殺したオレステスは狂い、エレクトラともども死刑を宣告される。エレクトラはその原因であるとみなしたメラネウスを殺そうとするが、アポロンの計らいで和解する。
エウリピデス『タウリケのイピゲネイア』 逃亡したオレステスとイピゲネイアに追っ手を出そうとしたタウリケの領主に女神アテナが現れ、追っ手をとどめる。
悲劇
ゲーテ『ファウスト』 ファウストはメフィストフェレスと「時よ止まれ、汝はいかにも美しい」と言えばメフィストフェレスに魂をゆだねるという契約を結んだが、終幕でこの言葉を吐いて絶命したファウストの魂は、メフィストフェレスの手には渡らず、天使やグレートヒェンの霊に送られ、神による救済に至る。
喜劇
シェイクスピア 『夏の夜の夢』妖精王オーベロンのほれ薬のために、錯綜していた四角関係が整理され、相愛の恋人二組が誕生する。
オペラ
モーツァルト『イドメネオ』 王が王子を生け贄に捧げようとし、王子の恋人が自分が犠牲になると進み出ると、神の声が響いてすべてが赦される。古典的なデウス・エクス・マキナの使われ方。
ミュージカル
『キャッツ』 夜の都会の片隅に猫が集まり、一年に一度「ねこの中のねこ」を選び出すという話。選ばれた猫は永遠の命を授かり天上に生まれ変わることができる。年老いた娼婦ねこグリザベラが選ばれ、主題歌を歌い、満月へと登る。
テレビ時代劇
日本のテレビ時代劇には、数多くのデウス・エクス・マキナの例を見ることができる。『水戸黄門』の印籠、『遠山の金さん』のお白洲における桜吹雪の刺青の、ドラマ終盤における効果は、まさにデウス・エクス・マキナの典型といえよう。

アニメ
宮崎駿のアニメ作品には、デウス・エクス・マキナの手法を見ることができる。『魔女の宅急便』の飛行船事件、『もののけ姫』のシシ神殺害、『ハウルの動く城』の戦争開始とサリマンによる唐突な戦争の終結など。
文学
『ねこの事務所(宮沢賢治・作)』 かまどで寝ている薄汚れた〃かま猫〃が主人公。同僚たちは努力家で親切な彼を貶めようと、仲間ぐるみで意地悪をするようになる。事務長の黒猫も陰口に丸め込まれ、かま猫も成すすべなく泣くばかり。そんな荒んだ事務所に獅子が現れ、解散を命じられる。

[機械仕掛けの神]
「デウス・エクス・マキナ」という言葉は、その本来の意味とは別に、SFなどフィクション中でしばしば「機械仕掛けの神」というメカ類の呼称としても用いられる。多くは「機械神」あるいは「究極の機械」という意味あいで命名されている。

『神の機械』 The God Machine (マーティン・ケイディン)
『からくりサーカス』 (藤田和日郎の漫画作品)
自動人形の造物主・フェイスレスは人類を破滅に追いやるため、病をバラ撒く巨大な天使を放つ。彼はこれを「機械仕掛けの神」になぞらえ、物語は最終章へ突入するという急展開となる。
『デウス・マシーン』 (ピエール・ウーレットのSF小説)
『マトリックス・レボリューションズ』 (ウォシャウスキー兄弟監督の映画作品)
マシン世界を統合する最高位のマシンとして、「デウス・エクス・マキナ」が登場する。

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