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2007年1月21日 (日)

零からの想像する力

1950年代はSFの一大転換期であった。
それまで荒唐無稽なB級小説に過ぎなかったSFにリアリズムの概念が初めて導入された。
リアリスティックなSFの出現は、SF雑誌『アスタウンディング・サイエンスフィクション』(後の『アナログ』誌)の3代目編集長ジョン・W・キャンベルの影響が強い。 50年代以前のSFにありがちな荒唐無稽なSFが編集長である彼の元に送られてくると、キャンベルはそれらをこてんぱんに批判した。たとえば、宇宙人が地球人を食用の家畜として飼う話を読んだ時には、「食用にするなら地球人を育てるより牛を育てたほうがずっと効率的だ」と批判したり、宇宙人が地球人女性を性の奴隷として連れ去る話を読んだ時には「ちょっと美の感覚が違えば、人間の女でなくとも豚でもよかったはずだ」と批判した。このため、「準光速で走っている宇宙船が突然直角に曲がる」ような小説は無くなった。

一方、最新の物理学的、あるいは天文学的な知識に基づいた遠大かつ科学的な宇宙叙事詩も書かれた(映画『2001年宇宙の旅』の原型となった『前哨』など)。このように厳密な科学的知識に基づいたSFをハードSFと呼ぶ。アーサー・C・クラークやアイザック・アジモフ、より新しい作家ではジェイムズ・P・ホーガン、堀晃などがこの傾向の作品を書いている。

冷戦や核戦争による人類の滅亡が現実的な問題となってくると、そのような状況を反映した「終末もの」SFが書かれた。この時期に書かれた「終末もの」の代表作としてネビル・シュートの『渚にて』がある。この作品の世界では、核戦争が起こって北半球が死の灰に覆われてしまっている。人類は南半球で、次第に南下してくる死の灰におびえながら生活している。

しかしこの時期に書かれた破滅もののSFが真にリアリスティックなものであったかどうかに関して疑問の声もある。この頃書かれたSF小説は、世界が破滅するという絶望的な状況でありながら、主人公はなぜかそれなりに幸福な生活をして哲学者のように破滅を達観している。ブライアン・オールディスはこうした特徴を皮肉ってこれらの小説群を「心地よい破滅テーマ」と呼んだ(『十億年の宴』)。

1960年代には、イギリスを中心にニュー・ウェーブSFの流れが起きた。これは、対象を外宇宙から内宇宙へ、内省的・思弁的な方向に向けたもので、マイケル・ムアコックの主宰する『ニューワールズ』誌を中心に、J・G・バラード、ブライアン・オールディスなどが前衛的な作品を発表した。この流れはアメリカにも波及し、SFと他のジャンルとの中間的な作品や、SFの中で文学的実験を行おうとする作品も現れ、ニュー・ウェーブSFの登場を印象づけた。このムーブメントはフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』やハーラン・エリスン、ロバート・シルヴァーバーグなどに代表される。かれらに共通するのは、人間の社会や歴史、文明、文化に対する巨視的で批判的な視点であり、また、単なる科学の礼賛やその批判ではなく、SFを人間にかかわるあらゆる問題に対する文学的思索(スペキュレーション)の手段として利用していることである。
寓話性や哲学性を持った文学的価値も高いSFが増えてきたのも、この頃からである。
その極北的な作品として、トマス・M・ディッシュの『リスの檻』がある。この作品ではSF的ギミックも疑似科学もいっさいでてこない。主人公(実はディッシュ自身)は、ドアも窓もない部屋に閉じ込められている。(理由は説明されない)。あるのはタイプライター一台だけ。毎日新聞が届けられるが、なぜか次の日には消えてしまう(これまた理由は説明されない)。
この小説はその一台だけあるタイプライターに、主人公が暇潰しに書いた文章というスタイルを取っている。その為「暇だからちょっと物語を書いてみよう」といって、話を書き始めたかと思うと、「やっぱり飽きたのでやめる」といいだして突然話を中断したりする。
ディッシュはこの物語で、現代人の孤独を浮き彫りにしようとしたのだと言われているが、おそらくそれを読みとれた読者は多くなかったであろう。ディッシュのこの物語は、文学性を意識し過ぎるあまり、難しくなり過ぎていた。
既存のSFの枠を打ち壊して文学的であろうとしたニューウェーブはその目的ゆえついには娯楽の小説であるはずの大衆小説ですらなくなってしまい、最終的に読者を失って急速にしぼんでしまう。

1980年代にはアップルコンピュータ社のパーソナルコンピュータのポスターから啓示を受けて、ウィリアム・ギブスンが『ニューロマンサー』を書き、サイバーパンクの時代が幕を開ける。サイバーパンクではコンピュータの内部に構築されたサイバースペースが主な舞台となる。既にデビューしていたブルース・スターリングがこの分野の旗を振るようになった。この分野の作家には『重力の衰える時』のジョージ・アレック・エフィンジャーやルーディ・ラッカーが挙げられる。サイバーパンクの雰囲気を日本語に訳すために黒丸尚はルビを多用した独自の訳文を使った。

その後、主体となる技術をコンピュータから蒸気機関に移し替えたスチームパンクと呼ばれる作品も書かれるようになる。そこでは19世紀の蒸気機関車時代あるいはそれに似た世界を舞台に、極端に発達した蒸気機関による文明が描かれた。

やがてサイバーパンクは収束していき、ポストサイバーパンクの時代となる。ポスト・サイバーパンクではナノテクを扱ったニール・スティーヴンスンの『スノウ・クラッシュ』などが有名である。

現在の日本SFに連なる流れは、1954年に日本初のSF雑誌「星雲」が刊行されて創刊一号のみで頓挫した後、様々なSF叢書・シリーズが出されたがいずれもヒットにはいたらず、出版界では「SFと西部劇に手を出すとつぶれる」のジンクスが通念となった。1960年の前後に、SF同人誌「宇宙塵」の創刊、早川書房の発行する『SFマガジン』の創刊、第1回日本SF大会の開催が続き、ここから本格的に日本SFの歩みが始まる。『SFマガジン』で募集された早川SFコンテストから、小松左京、筒井康隆、半村良、光瀬龍、平井和正、豊田有恒などが次々とデビュー。早川書房が発行する雑誌・書籍以外でも、眉村卓、星新一、今日泊亜蘭などがSF作品を発表した。これらの作家は、海外SFの影響を受けながらも、それぞれに特徴ある作風で日本独自のSFを展開していった。また平井和正、豊田有恒、柴野拓美などは、SF漫画の原作やSFアニメの脚本やSF考証などを手がけ、小説に留まらない活躍をした。
日本SFの特徴として、矢野徹、野田昌宏、浅倉久志、伊藤典夫などの優れた翻訳家の存在が挙げられる。
優れた海外SFを紹介するだけでなく、どういうSFが面白いのかという点でSFファンのオピニオン・リーダーとしての役割を果たしていた。『SFマガジン』初代編集長の福島正実は、雑誌編集だけでなく、海外SFの翻訳や創作も手がけ、確固たる信念に基づいて日本SFの普及に努めた。そしてSFブームが始まる。
1970年に日本万国博覧会が大阪で開かれて、未来志向のSFに対する世間の関心も一挙に高まってくる。
小松左京の『日本沈没』がベストセラーになり映画化された。それまでのSFアニメに比べて本格的な『宇宙戦艦ヤマト』がTV放映されアニメブームを起こした。そこからSFはあらゆる産業へと拡大していった。
映画『スター・ウォーズ』の公開が強い影響を与え、SFの浸透と拡散が起るようになる。

1980年代にはビジュアル面でのSFは繁栄を示し、『風の谷のナウシカ』をはじめとするジブリ映画が公開される。
上井草のサンライズは『機動戦士ガンダム』以降も次々と、クオリティーの高いSFアニメを制作して話題作を生み出した。
一般にはアニメとは子供のものであるという認識、そして玩具市場のものでしかないという固定観念が強かった。だが『ガンダム』劇場公開を求めた、高年齢層のファンの署名活動もありターゲットは変革されていった。
下井草にあったSFイラスト集団のスタジオぬえも、サンライズや『超時空要塞マクロス』でSFアニメに参戦する。
日本SF大会DAICON III、DAICON IVにおいて優れたオープニングアニメでファンの注目を集めた集団がGAINAXを設立し、商業アニメに進出する。
日本SF作家クラブはメディアにとらわれないSFの賞である日本SF大賞を設けた。
1990年になると代杉並区はアニメ制作のハリウッド化して、輪出車の国産業売り上げを遥かに超えていった。

SFと現実の科学技術の関係については、科学的知見がSFのネタとなることが多いことは言うまでもないが、逆にSFが科学の発展の方向性を決定づける起爆剤となることもある。その典型的な例がロボットである。
手塚治虫の『鉄腕アトム』や『機動戦士ガンダム』などにあこがれて、ロボット工学の道を進んだ技術者は大勢おり、日本がその分野で世界の最先端にいるのはこれが原因と分析されることも多い。
「『2001年宇宙の旅』のHAL9000を実際に作ってみたい」という動機で、人工知能の研究を行っているケースは世界中に見られる。
テレビ、ロケット、パソコン、携帯電話なども、まずSFの世界に現われて、実現化するに至った発明物である。
ある意味ではSFが科学技術に影響を与えてその発展を促しているとも考えられる。

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