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2007年10月28日 (日)

この世で2つだけ存在し続けるものは何か?

フランスの作家、詩人であるボリス・ヴィアン(Boris Vian, 1920年3月10日 - 1959年6月23日)。セミプロのジャズ・トランペット奏者としても名をはせ、余技として歌手活動もおこなった。『日々の泡(L'Écume des Jours)』、『北京の秋(L'automne à Pekin)』など前衛的な作風の小説で知られる。また1940年代後半に、脱走兵の黒人作家と称してヴァーノン・サリヴァン(Vernon Sullivan)のペンネームで通俗的で暴力的なハードボイルド小説を執筆していたことも知られている(ヴィアン自身は白人である)。ジャズ批評やアメリカ文学の紹介などの分野においても顕著な功績を残した。

Boris_vian

「ヴァーノン・サリヴァン」というアメリカ風のペンネームで発行されたハードボイルドスリラーの小説4作は、金を稼ぐために執筆された。中でもサリヴァン名義のデビュー作『墓に唾をかけろ(J'irais cracher sur vos tombes)』が有名である。

友人の出版業者から、当時フランスで流行り始めていたアメリカのハードボイルド小説を翻訳するよう依頼されたヴィアンは、「翻訳するぐらいなら俺が自分で書く方が速い」と『墓に唾をかけろ』を短期間で「でっち上げ」、韜晦趣味の表れから黒人脱走兵を名乗って出版させた。差別者である白人への憎悪に燃える黒人青年の残虐な復讐を描いた物語は、大衆からは好評を得たが、俗悪な暴力小説として糾弾されて裁判沙汰に発展するなど、作品としての評価以外でセンセーショナルな名を売った。結局裁判に敗訴したヴィアンは、『墓に唾を描けろ』の発行部数(100,000部)に比例して、100,000フランの罰金を科せられてしまう。その後も、ヴィアンの過激な通俗作品は、たびたび出版禁止の措置が取られた。パリのホテルで売春婦の残虐な死体が発見され、死体の傍にこの本があった事も起因となっている。

一方、ヴィアン名義では、みずからが本命とする前衛的な作品(『心臓抜き(L'Arrache Coeur)』や『赤い草(L'Herbe Rouge)』、『北京の秋(L'automne a Pekin)』)を次々に発表していった。そして、後世の批評家がヴィアンの最高傑作と見なす恋愛小説『日々の泡(L'Écume des Jours)』も執筆している。1946年に発表された『日々の泡』ではプレイヤード文学賞を狙うも、最終選考で惜しくも落選した。このことに象徴されるように、ヴィアン名義の作品は一般からも注目されず、評論家からも酷評を受けた。この間に標準化協会を退職し、文筆業で生活していくことになった。

ヴィアンは、フランスで初めてレイモンド・チャンドラーの翻訳を手がけた功績でも知られる。アメリカの風俗をもっともらしく描写したサリヴァン名義の作品からも伺えるように、その当時のフランスでは珍しく、ヴィアンはアメリカの大衆文化に精通していた。

Jazzonv
[ ジャズ・トランペット奏者として]
成果が得られない長編小説の創作活動に嫌気がさしていたヴィアンは、劇や短編小説や歌などの創作に熱心になる。1958年のダリウス・ミヨーとのオペラフィエスタでの共演など、玄人はだしの活躍ぶりを見せた。ヴィアンは、パリのサン・ジェルマン・デ・プレの「タブー(Tabou)」というクラブでよく演奏していた(現在、そのクラブは潰れてしまって存在しない)。当時、ヴィアンは詩の中でも「trompinette」と親しんで呼んでいたポケット・トランペットで演奏していた。ヴィアンのもっとも有名なシャンソン作品は、インドシナ戦争中に作詞された反戦歌『脱走兵(Le deserteur)』(作曲:H.B.ベルグ Harold Bernard Berg)である。この歌はフランスの人々に広く愛唱されたが、当時ラジオでの放送禁止曲ともなった。ヴィアンの歌は、セルジュ・レジアニ、ジュリエット・グレコ、ナナ・ムスクーリ、イヴ・モンタン、マガリ・ノエル、アンリ・サルヴァドールなど様々なアーティストにカバーされている。セルジュ・ゲンズブールなどは、「ステージ上でボリス・ヴィアンに出会ったことで、自分も腕試しに作曲をしてみようと思った」と述べている。

ジャズ・ファンだったヴィアンは、デューク・エリントンやマイルス・デイヴィスなど、パリを訪れたジャズ・アーティストたちとフランスとの橋渡し的な存在として活動した。また、フランスのジャズ雑誌(『ル・ジャズオット』や『パリ・ジャズ』など)にフランスとアメリカ双方のジャズを扱った数多くの評論を執筆した。しかし、概して黒人のジャズこそを本物のジャズと見なす傾向が強く、白人のジャズプレイヤーには辛辣な批評を示した。ヴィアンは、生涯アメリカを訪れたことはなかったが、アメリカへのあこがれは強く、ジャズとアメリカを扱った題材が作品の大部分を占めている。
ヴィアンは、長年心臓に欠陥を抱え、不整脈に苦しんでいた。トランペットを吹くことは心臓病を抱えたヴィアンには危険なことだったが、かれ本人は意に介していなかった。むしろ自分で「40になる前に死ぬよ」と常々語っており、短命を予感していたようである。

1959年6月23日の朝、論争の的となっている映画化された『墓に唾をかけろ(J'irai cracher sur vos tombes)』の試写会のため、ヴィアンはシネマ・マルブッフの館内にいた。ヴィアンはプロデューサーと作品の解釈を巡り、何度も衝突してきた。そして、その日もエンドロールで流れる制作関係者名から自分の名を外したがったヴィアンは、この映画を公然と非難した。映画が始まって数分後、伝えられるところによると、ヴィアンはこのように口を滑らせたと言われている。「こいつらはアメリカ人になったつもりなんだろうか? 馬鹿にしやがって!」その直後、急な心臓発作に見舞われたヴィアンは座席に倒れ込み、病院へ搬送される途中に息を引き取った。僅か39歳での死であった。

ヴィアンの文学作品は、ジャズに対する愛情と密接に結びついていた。『日々の泡(L'Ecume des Jours)』の序文で、ヴィアンはこのように書いている。
「この世で2つだけ存在し続けるものは何か? それは可愛らしい少女と一緒にいて感じるような愛、そして、ニューオーリンズとデューク・エリントンの音楽だけである。それ以外のものは全て消え去るべきである。ただ、ただ醜いだけなのだから……」
ヴィアンはその文章のなかで、音楽に対する想いと文学に対する想いを同時に表現したのである。

批評家たちは、『日々の泡(L'Ecume des Jours)』で、ヴィアンの独創的な、遊び心のある言葉の言い回しは、プロットとキャラクターといった物語一般の要素を補填する四次元的な手段を構成している、と論評している。この作品は、レイモン・クノーに「今までのラブストーリーで、これほど最も胸の痛む悲痛な現代的なラブストーリーは見たことがない」とまで言わしめた作品でもある。しかしながら、そういったヴィアンの特徴的な調子や気風や文章の魅力を翻訳時にその意味を捕らえ直す場合、翻訳者は直面する困難な壁がある。たとえば、ヴィアンの作品を英語に翻訳する場合、英語特有の比較的不明瞭さが翻訳の困難さを生み出していると考えられる。"L'ecume"は、英語で「泡」「あぶく」「しぶき」を意味する。しかし、"l'ecume des jours"という表現では、「奇妙で不自然な作り話」というような意味になってしまう。これが典型的なヴィアンの文学的な側面であり、超現実主義的な感触である。

映画『うたかたの日々』(原題:L'ecume des jours) 1968年フランス。監督:シャルル・ベルモン、主演:ジャック・ペラン、マリー・フランス・ピジェ
『ボリス・ヴィアンの憤り』 1981年日本。パンク・ロック歌手の町田町蔵による楽曲。 
『日々の泡』は、日本で原作を元に漫画化および映画化されている。
『うたかたの日々』(1994年)、岡崎京子により漫画化
『クロエ』(2001年)監督:利重剛、主演:永瀬正敏、ともさかりえ

Boris Vian ボリス・ヴィアン ワーズワースの冒険 2 分 22 秒 http://www.youtube.com/watch?v=tkia4fjVAbs

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