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2008年1月 5日 (土)

コルタサル短篇集『悪魔の涎・追い求める男』(岩波文庫)

ブエノスアイレスの幻想作家 コルタサル,フリオ(Cort´azar,Julio)といえば、長編小説「懸賞」('60年)、「石蹴り遊び」('63年)でラテンアメリカ文学界の旗手として知られている。
一定の時間的な広がりのなかで展開していく小説が映画へなぞられるならば、限られた空間のなかで物語を展開させなければならない短編は、優れた写真に似ている。映像というのは限られた枠の中で現実の断片を切り取るものだが、それを見ている人の前で拡散してダイナミックなヴィジョンとなって、日常より遥かに広がりのある現実を開示させなければならない。

「意味深いイメージをを選び出すと、それだけを映すか語ることになる。出来事はそれ自体価値のあるものであり、映像もしくは言葉によって語られている挿話をはるかに越えたところへ、観る人読む人聴く人の知性と感受性を向かわせる導入口、増幅装置としての役割を果し得るようなものでなければならない」

そのような考えを短編作品にしたのが「悪魔の涎」である。
夕暮れの公園で何気なく撮った逢引とおもわれた写真、日常として捉えていたものを拡大現像していくと、非日常としての殺人が印画紙に写されていた。そこへ現実と非現実の交錯する不可思議な世界が生まれ、恐怖の導入口へ立たされ恐ろしい増幅装置が作動してゆく。殺人現場の写真のネガを捜す組織の女。想像は底なしの深さで身震いするし、やがて犯人は撮影者を狙うだろう。
ヌーヴェルバァーグ台頭していた映画界では、監督のミケランジェロ・アントニオーニが「悪魔の涎」を読んで触発されて『欲望』(Blow-Up)を製作した。プロモーションビデオもなかった時代なので、ジェフ・ベックとジミー・ぺィジがツィンリードギターで演奏しているヤードバーズのLiveシーンが観れると、映画館やフィルムイベントへかけつけたものだった。映画としては2時間近くもあるが、40分程度にVTR編集して観たほうがプロットの骨組みを浮立たせるという実験をしたことがある。それはコルタサルの考えた映像コンセプトに近いもので、全体が解りやすく刺激的な映画となった。映画『欲望』(Blow-Up)に焚付けられ好きな作品なのにストーリィー解説がうまくできずにいるwebページが多く在る。この物語は日常と非日常の境界ラインに立つギリギリの心理にあり、幻想として扱われてしまうとコルタサルの考えたゾッとする戦慄は奔らないだろう。
「続いている公園」「夜、あおむけにされて」「正午の島」は現実と虚構の境を描く佳作。「パリにいる若い女性に宛てた手紙」は口から子兎を生み続ける男の話。アッシャー家の崩壊を想わせる「占拠された屋敷」。薬物への耽溺とジャズの即興演奏のなかに彼岸を垣間見るサックス奏者を描いた「追い求める男」。「南部高速道路」は何日も続く道路渋滞に巻き込まれて前後左右の車との間にコミューンを形成していく。ゴダールを連想する傑作「すべての火は火」。
斬新な実験性でシュルレアリズムの方法を現在ある時空の中で活用した、独自の物語位置を占めるコルサタルの10の短編は、映画の原案10本分のテキストが内包されている。

【代表的テキスト、年譜、肖像写真はじめコルタサル自身による作品の朗読】http://www.juliocortazar.com.ar/

映画『欲望』(Blow-Up)関連web
http://plaza.rakuten.co.jp/ekatocato/8000
http://blind.zombie.jp/blog/archives/000052.html
http://www6.plala.or.jp/khx52b/movie/directer-index/antonioni.html
http://www.asahi-net.or.jp/~hj7h-tkhs/jap_review_new/jap_review_blowup.html
http://www4.ocv.ne.jp/~take/movie/zmovie/yokubou/yokubou.html

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