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2008年2月28日 (木)

古事記から聞こえてきた物語

昔々、大和は三輪山のふもと、引田部(ヒケタベ)の村に、アカイコという女がいた。
赤い猪の子、という名は、三輪山の信仰にちなんだ名であって、決して赤ら顔の猪に似ていたわけではない。
それどころか、幼いころからあかあかと照り輝いて美しかった。

ある日のこと、川で衣を洗っていると、背後に気配がした。振り向いて見ると、わらわらと男どもがやってきた。野山遊びのなりではあったが、みんな立派なかたちをしていた。
先頭はとりわけきらぎらしい少年だった。目が合った。アカイコの心にぼっと火がともった。誘いの型どおりに少年が問うた。
「きみはどこの子だ」
浅黒い精悍な顔に、やんちゃな表情を浮かべていた。確かに初めて会うのだが、どこか深々と懐かしい気がする。アカイコはすっと、これもまた型どおりに答えていた。
「ヒケタベのアカイコという」
名を教えるのは受け入れたしるし。喜びが、少年の目に一瞬、走った。そして言った。
「結婚するなよ。今に召すから」
アカイコがうなづくやいなや、少年は走り出し、男たちが笑いながらあとを追った。アカイコは微笑んでまた川に向き合い、鼻唄まじりで仕事を続けた。

あの少年は長谷(はつせ)の宮の大王である、と知ったのは、その翌日。村人の噂話でだった。それで「召す」などとエラそうなことを言ったのか、とアカイコは合点して、くすりと笑った。それだけのことだった。大王はどうしようもない乱暴者だ、という評判にも、アカイコの心は動かなかった。すぐにかっとして人を殺す、という噂話も、少年がともした心の火を消すことはなかった。

それからは誰の誘いも拒んだ。あまりしつこく誘われると、怒った。それで、なんと情のこわい女だ、あれではアカイコというよりコワイコだ、と仇名がついて、いつしか誘いはなくなった。

けれどアカイコは幸せだった。
少年との約束を胸に秘めて、光った。
誘われよう、という気がないので、のびのびと暮らした。好きなように寝起きし、好きなように装い、好きなようにふるまった。
それで、アカイコはますます照り輝いた。
親きょうだいも村人も、そんなアカイコを愛した。
恋人からの連絡を、首を長くして待ってはいたが、だからアカイコは少しも淋しくなかった。

(つづきは妖精の詩 「アカイコ」の頁へ)
http://faily.cocolog-nifty.com/blog/cat7925356/index.html

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