アキレスと亀 -- ゼノンのパラドックス
第二の議論はいわゆるアキレスの議論である。すなわち、走ることの最も遅いものですら最も速いものによって決して追いつかれないであろう。なぜなら、追うものは、追いつく以前に、逃げるものが走り始めた点に着かなければならず、したがって、より遅いものは常にいくらかずつ先んじていなければならないからである、という議論である。
(岩波書店:アリストテレス全集3 自然学 258ページ)
アキレスは、亀の後を追いかけている。ある時点に亀のいる地点に、アキレスが到達するとしよう。すると、その時点では、亀は少し前進しているはず。それで、さらにその時点で亀のいる地点に、アキレスが到達すると、その時点でも、やはり亀は少し前進しているはず。従って、これを無限に繰返しても、アキレスは永久に亀に追いつけない。
アキレス(ギリシア名:アキレウス)は、トロイ戦争のギリシア軍側のヒーローで、大変足が速かったと言われている。常識的・経験的に言って、アキレスが亀を追い越せないわけがないのだが、ここでは、運動というものがそもそも論理的に立証可能かどうかが問われているのである。
ここで留意すべき点は、アキレスは、速く、亀は遅いということは、言葉では述べられてはいるが、速さとは何か、速いとか遅いとかとはどういう意味なのかということについては何の説明も定義もされておらず、従って、速度とか距離の変化とかの概念はこの論理の中では一切使われていないということである。あくまで、その時点、その地点での到達如何をのみ問題にする形で、議論が進められている。この前提に立って考えると確かに難しいパラドックスのように思えてくる。
よく見かける、模範解答的解決法として、無限等比級数が、一定値に収束することを示すというやり方がある。例えば、アキレスが、(1/2)メートル進む間に、亀は(1/4)メートル、アキレスが、(1/4)メートル進む間に、亀は(1/8)メートル進むという割合でアキレスが亀を追いかけた場合、この過程を無限に繰り返したとしても、アキレス、または亀が進む距離(メートル)は、
(1/2)+(1/4)+(1/8)+(1/16)+...+(1/2n)+...
となるのだが、その値は、無限に足しこまれているにもかかわらず、アキレスが亀を追い越す所の1メートルに限りなく近づいていくだけで無限大にはならず、(ある種の演算処理を施せば1に等しいことも示せる)、そしてまた、所要時間についても、アキレスが先に亀のいた地点に行くというその1行程にかかる時間は限りなく零に近づいていくため、一定値に収束していくわけで、結局、これは、アキレスが亀に追いつく限りなく微小に直前のところまでのことを言っているにすぎないのだという説明である。
しかし、これでは、ゼノンのパラドックスの克服にはなっていないという指摘もよくなされることである。ゼノンは、無限の行程が必要とされるような運動というものは、有りえないということが言いたいわけで、それに対して無限の数列の和の性質について論じたところで、論駁になっていないというわけだ。
いずれにせよ、西洋哲学史を貫くようなタイムスパンでこの問題は、論じ続けられてきた。そして、今に至ってもなお論じられている。
http://www.infonia.ne.jp/~l-cosmos/relativity/zeno/ZenoParadox.html


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