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2009年1月30日 (金)

「邦高洋低」の傾向が明らかに

08年の映画興行収入、邦画が過去最高に 洋画は過去最低
 「邦高洋低」の傾向が顕著に――。日本映画製作者連盟(東京・中央)が29日発表した2008年の映画興行収入は前年比1.8%減の1948億円だった。「崖の上のポニョ」などが好調だった邦画が前年比22.4%増加した一方で、洋画は同23.9%減少した。興行収入ベースで統計を開始した00年以来、邦画は過去最高、洋画は過去最低の結果となった。

 邦画の興行収入は1158億円で市場全体の約6割を占めた。昨年最もヒットした作品「ポニョ」(興行収入155億円)を筆頭に東宝の配給作品が邦画の上位10作品中、8作品に上った。一方、洋画の興行収入は789億円。50億円以上の作品が前年の4作品から2作品に半減した。

 入場人員は前年比1.7%減の1億6000万人、平均入場料金は同0.2%減の1214円とそれぞれ減少。だが映画館数は3359スクリーンと138スクリーン増加し、劇場間の競争が激しくなっている。(日経新聞1月29日 22:36)
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20090129AT1D2905L29012009.html

ハリウッド映画はもういいかってことと、目的と作り方がバレバレになってしまった。宮崎アニメの貢献度は恐るべき数字です。

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2009年1月29日 (木)

電子書籍220倍に急伸 紙媒体やCD低迷

■コンテンツ市場、07年は6.7兆円 5年で4.5%の伸び
 映画や音楽、書籍などコンテンツ(情報の内容)の国内市場規模は2007年に約6兆7500億円と、過去5年で4.5%成長した。携帯電話向け書籍が220倍に急伸するなど、インターネット配信などで消費される携帯向け商品が全体を押し上げた。

 電通総研がまとめた「情報メディア白書2009」によると、07年のコンテンツ市場規模は02年に比べ2890億円拡大した。主な分野別で最も伸び率が高かったのが携帯電話で読める書籍で、パソコン向けオンラインゲーム(1285%)などが続いた。金額で見ると、パソコン向けオンラインゲーム、携帯向け音楽配信が600億円以上も拡大。一方、紙媒体やCDなど従来型の商品は低迷した。

[2009年1月29日/日本経済新聞 朝刊]

■大日本印刷は、携帯電話向け電子書籍販売サイト「よみっち」で、新コンテンツ「ケータイ絵本」を2008年3月25日から配信開始。販売価格は105円~210円。主要3キャリアの携帯電話で利用できる。
 ケータイ絵本は、静止画と文章で構成されたページを紙芝居形式で読み進められるイラスト集。 制作・発行はフロート(本社:東京都中野区)が担当。同社は今後、プロからアマチュアまで広く作品を募集し、ケータイ絵本として配信する予定。
■大日本印刷のWebサイト http://www.dnp.co.jp/

■2008年度の国内電子書籍市場規模は推計355億円
各出版社がコンテンツの電子化に積極的に取り組み始めたことや取次サービスの流通の円滑化、コンテンツの拡充、プラットフォーム整備などにより、前年同期比173億円増の355億円となった。特に携帯電話向け電子書籍市場の伸びが顕著で、前年同期比約2.5倍の283億円と推計している。http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20376867,00.htm

■2008年の電子書籍市場、355億円規模に──約7割を占めるケータイ向け書籍が牽引
 2007年3月期は182億円と推計されることから、対前年度比で約2倍に推移していることになる。特にケータイ向け電子書籍市場は283億円と対前年比で約2.5倍に拡大しているという。
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0807/09/news139.html

2009年1月28日 (水)

勅使河原宏監督作品『十二人の写真家』予告編

勅使河原宏監督作品『十二人の写真家』予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=49TYno6l_OU

「十二人の写真家」  1955年/49分/16mm→DVD
[スタッフ]
  監督 : 勅使河原宏
  企画 : 亀倉雄策       製作 : 永井嘉一 
  撮影 : 御木本良       解説 : 吉田謙司
[出演]
   木村伊兵衛    三木淳    大竹省二     秋山庄太郎
   林忠彦      真継不二夫  早田雄二     濱谷浩
   稲村隆正    渡辺義雄     田村茂    土門拳
   (登場順)

[解説]
 映画『十二人の写真家』は、1955年(昭和30年)に写真雑誌『フォトアート』(研光社1949~1977)の創刊6周年を記念し、読者に向けて、プロのカメラマンたちの撮影風景を鑑賞して写真撮影に親しんでもらおうと制作された映画です。
 内容は文字通り、一線で活躍していた12人の写真家-木村伊兵衛、三木淳、大竹省二、秋山庄太郎、林忠彦、真継不二夫、早田雄二、濱谷浩、稲村隆正、渡辺義雄、田村茂、土門拳の撮影の模様を記録したもので、監督は美術・映画・書など分野を問わず活躍した、巨匠・勅使河原宏です。
 映画『十二人の写真家』が作られた1955年の日本は、戦後復興期から高度成長期への移行期、つまり二つの時代の谷間にありました。それゆえ、日本社会が写真家にもとめるものの質も、写真をとりまくメディアの状況も急速に変わりはじめていました。
この映画の中には、時代の過渡期に生きる写真家たちの仕事の模様が鮮明に記録されています。
カルティエ=ブレッソンに会った直後だという木村伊兵衛は早撮りに挑戦し、文士写真の第一人者・林忠彦は武者小路実篤を、建築写真の第一人者・渡辺義雄は神奈川県立音楽堂を撮影します。監督・勅使河原宏の妹である勅使河原霞(草月流二代目家元)を撮影する三木淳、中国貿易視察団の来日のドキュメント写真を撮影する田村茂、スタジオで「婦人画報」用の写真を撮影する女性写真の大家・秋山庄太郎など、偉大な写真家の貴重な撮影現場が映されています。濱谷浩は日本海に暮らす人々を、大竹省二は鵠沼海岸でモデルを、土門拳は廃墟で遊ぶ子どもたちを撮影し、写真家ごとに語られるモノローグでは、真継不二夫が「撮影される側になると照れてしまう」と、早田雄二が「撮影現場では明朗な雰囲気づくりを心がけている」と、稲村隆正が「私はいつまでも女の写真を撮り続ける」と吐露します。
これら十二人の写真家たちのその後を見ると、それぞれがそれぞれの思いを抱えながらも環境の変化に対応し、代表作というべき仕事を発表していきます。この映画のなかには、現代に繋がる戦後写真の原形というものが現れていると云えるかも知れません。
写真表現が多様化している今日、改めて“原点”を見つめていただけたらと思います。
1955年に制作された映画『十二人の写真家』の配給業務を行っております。
自主上映会、興行によるロードショーでの上映など、どのような上映形態も受け付けております。
ポレポレ東中野  www.mmjp.or.jp/pole2/
http://www.mmjp.or.jp/pole2/12nin-no-shashinka-haikyu.html
 
勅使河原 宏(てしがはら ひろし、1927年1月28日 - 2001年4月14日)は、華道三大流派と呼ばれるうちのひとつ、草月流三代目家元、映画監督。
勅使河原宏は1927年1月28日にいけばな草月流の創始者勅使河原蒼風の長男として東京で生まれた。東京の私立暁星中学を経て、昭和19年東京美術学校(現・東京芸術大学)の日本画学科に入学し、日本画を学ぶが、3年後に洋画科に転じる。在学中からピカソや岡本太郎などの前衛芸術に傾倒し、安部公房や関根弘らによる前衛芸術の会「世紀」に参加。卒業後の28年、友人から美術映画「北斎」の企画を持ち込まれ、これを監督したことから映画界に入り、亀井文夫監督の記録映画「砂川」「生きていてよかった」「世界は恐怖する」などの制作に協力したのを経て、木下恵介を師事した。のち松山善三、羽仁進、草壁久四郎、荻昌弘ら同世代の映画人とシネマ57を結成し、集団実験フィルム「東京1958」を制作。34年に父蒼風に従って渡米した際、16ミリキャメラを携えており、旅行先で知り合ったプエルトリコ系のプロボクサー、ホゼー・トーレスのトレーニングから試合までの様子を記録した短編「ホゼー・トーレス」を発表。この間、アートシアター運動の中心人物としてその組織化に尽力し、37年安部公房脚本のテレビドラマを映画化した自身初の長編劇映画「おとし穴」を監督、これがアート・シアター・ギルド初の日本映画作となった。39年に勅使河原プロを設立。同年再び安部と組み、砂の穴に閉じ込められた女と男を通じて人間の本質を描いた野心作「砂の女」を映画化し、カンヌ国際映画祭審査員特別賞、サンフランシスコ映画祭銀賞、毎日映画コンクール作品賞、キネマ旬報ベスト1位を獲得。さらにアカデミー賞監督賞・外国語映画賞にノミネートされるなど、国内外で絶賛され、「砂の女」は自他共に認める生涯最高の代表作となった。以後も41年「他人の顔」「インディース長編記録映画・暴走」、43年「燃え尽きた地図」などで国際的に高く評価され、43年には日本人初のアカデミー賞審査員を務めたが、47年米軍岩国基地のドキュメント「サマー・ソルジャー」のあとはしばらく映画を離れ、福井県宮崎村の草月陶苑で越前焼の作陶に打ち込んだ。しかし54年に父が、55年に2代目家元を継いでいた妹の霞が相次いで死去し、草月流3代目家元を継承。59年にはスペインの建築家ガウディを題材とした「アントニー・ガウディ」で映画界に復帰し、62年から「草月シネマパーク」を再開した。平成元年には久々の劇映画となる野上弥生子原作の「利休」を風格ある大作にまとめあげ、モントリオール世界映画祭最優秀芸術賞、芸術選奨文部大臣賞を受賞するなど、健在ぶりを示し、平成4年には富士正晴原作の「豪姫」を監督した。華道家としては複数人で行う生け花『連花』を提唱し、また5年のパリ日本文化祭での大茶会をプロデュースした。作庭やオペラ出演、テレビのドキュンメンタリー番組にも手を広げ、多彩な芸術活動を体験に根ざした新しい華道家として注目を集めた。平成13年(2001年)4月14日、逝去。74歳だった。
勅使河原宏 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%85%E4%BD%BF%E6%B2%B3%E5%8E%9F%E5%AE%8F

TeshigaharaHiroshi.com(勅使河原宏 公式サイト) http://www.sogetsu.or.jp/teshigaharahiroshi.com/

新日曜美術館 アートシーン “勅使河原宏展 限りなき越境の軌跡”ほか
放送日2007年8月19日  チャンネルデジタル教育

2009年1月27日 (火)

米映画大手、邦画を強化 フォックス・初の制作出資

 米映画大手の日本法人が邦画の制作・配給事業を強化する。20世紀フォックス映画(東京・港)は邦画制作に初めて出資し、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(同)は4月公開の邦画で初の製作委員会幹事社を務める。世界的な金融危機で米ハリウッドの製作本数が絞り込まれるのは必至。最近の邦画人気を受け、邦画事業に経営資源を注ぐ。

 邦画製作は配給会社、放送局、広告会社などが出資する「製作委員会」方式が主流で、出資比率に応じ興行収入から利益を得るほか、テレビ放映、DVD、音楽・出版など二次利用権も独占取得できることが多い。(日経済新聞1月27日)

 昨年の累計興行収入は邦画が大手3社で約820億円と前年同期に比べて3割増。対して洋画はメジャー5社で約420億円と、前年同期の6割程度に過ぎなく日本での洋画公開環境は嶮しい。

 邦画公開作品「崖の上のポニョ」が約154億円、「花より男子ファイナル」が約77億円、「劇場版ポケットモンスター」が約48億円と好調だが、洋画公開作品で50億円を超えたのは「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」のみという厳しさである。

「ハリー・ポッター」「パイレーツ・オブ・カリビアン」など大作はヒットするが、中規模以下は難しい。 ハリウッド・メジャーの収入の6割程度を海外市場が占める。
世界2位の規模の日本で洋画の人口が落ちている。だから邦画強化という考え方が米映画大手会社に出てきた。

日経新聞 見出し記事 2009年1月27日(火)
*日航、12路線廃止・減便、09年度全日空も10路線、3年間で1割削減、地方経済に大きく影響

*米排ガス規制強化、オバマ大統領表明、日欧並み水準に環境政策を転換、環境競争力底上げ、ビッグ3に自助努力を促す
*対テロ・景気、スピード重視、連日の経済・安保会合、米オバマ政権の1週間、景気対策や金融安定化法、修正・改革協議活溌に
*米石油大手大幅減益に、10-12月原油価格急落が響く
*米中古住宅販売12月6.5%増加、08年は13%減
*米地デジ移行に延期論、新政権、貧困世帯などに配慮、放送・通信業界は負担増
*米映画大手、邦画を強化、フォックスは初の制作出資、ソニーピクチャーズは幹事社に就任

*国際会計基準、09年度から利用可能、会計審報告義務化、12年メドに判断、日本企業となお再導入企業、準備に時間も
*米ファイザー、同業ワイスを買収、6兆円、潤沢資金で首位固め、成長市場に投資を集中、経費削減効果、年3600億円
*キャタピラー2万人削減、新興国など建機需要急減

*上場企業200社超、今期最終赤字へ、世界需要が急減、円高・株安重し、今期一段の増加も、前期比既に30社増
*香川銀・徳島銀が統合へ、地方経済悪化で地銀の再編加速、県境を越え基盤強化へ
*旧型原発の出力向上容認へ、改良工事、効率を高めCO2削減を促す

*住宅ローン、変動金利型増える、5-9割、大手4行12月新規、個人、目先の負担を軽減
*新銀行東京が改善計画を金融庁に提出、経営陣の報酬をカット
*大和生命、債務庁超過700億円、保護機構が最大300億円穴埋め
*欧州、金融不安、再び強まる、銀行救済追加対策も

*ホンダ、中国で生産能力強まる、生産能力2割強上げ、低燃費車が好調
*雪印、日本ミルクと統合へ、売り上げ高5000億円、牛乳再び取り込み
*パソコン、急速に単価下落、昨年4-12月国内出荷、台数横ばい、金額は7.7%減
*2次補正今日にも成立、景気対策にやっと半歩、財源法案4兆円なおメド経たず、追加策は議論遅れる、給付金ずれ込み、

*消費安値シフト鮮明、購入価格実質低下6割、雇用環境が悪化で家計防衛を強める
*外食売上高、3年ぶり減、昨年11月、ファミレスなど不振
*NEC携帯基幹部品を共通化、開発費1機種当たり4割減
*NEC携帯基幹部品トーキン増資へ、300億円規模、将来有望の電機自動車用電池事業を育成

*大王紙今期経常減益も、製紙大手、需要低迷で下方修正
*信越化学、純利益15%減、10-12月、シリコンウエハー低迷、円高も減益要因に
*JSR純利益49%減、今期半導体材料落ち込む
*太陽誘電、赤字200億円、電子部品の需要急減
*荏原最終赤字170億円、今期下方修正
*SMKの今期、需要急減で大幅下方修正、16億円最終赤字
*キヤノン電、今期準利益73%減、スキャナーの販売減

2009年1月26日 (月)

フンボルトペンギン Spheniscus

Penguin_034 ペンギン (Penguin) は、ペンギン目(学名:Sphenisciformes)・ペンギン科(学名:Spheniscidae)に属する鳥類の総称である。南半球に生息する海鳥であり、空を飛ぶことができない。
ペンギンは、現在では6属18種だが、化石から、かつてはもっと多くの種類が存在したことがわかっている。属や種を特徴付けるのは頭部周辺で、それぞれ特徴的な形態をしている。
最大種はコウテイペンギン (Aptenodytes forsteri) で、体長100~130 cmに達する。ただし、絶滅種のジャイアントペンギン (Pachydyptes ponderosus) はコウテイペンギンよりも更に大型のペンギンであった。
多くの鳥類は陸上において胴体を前後に倒し、首を起こす姿勢をとるが、ペンギン類は胴体を垂直に立てた姿勢をとる。翼は退化し、ひれ状の「フリッパー」と化していて飛ぶことができない。首や足も短く、他の鳥類とは一線を画す独特の体型をしている。
(Wikipedia)

Penguin_035

ペンギン大喜び
42秒
https://www.youtube.com

2009年1月25日 (日)

『猿の手』(The Monkey's Paw)W・W・ジェイコブズ

◇あらすじ◇

ホワイト老夫妻は猿の手のミイラを手に入れた。
元の持主の軍曹が言うことには猿の手には魔力が宿っていて、望みを三つだけ叶える力があるという。ホワイト老夫は、家を買った月賦の残金200ポンドが欲しいと願った。

翌日一人息子のハーバートが、工場の機械に挟まれて死んだと知らされる。
会社は賠償を認めないが、日頃の報酬として封200ポンドをホワイト夫妻に支払った。

老夫婦は息子の死を嘆き悲しんだ。
それから猿の手に 「死んだ息子を返してくれ!」と願った。
その夜に夫妻は家のドアをノックする音に気付いた。
夫人はその何者かを息子として迎え入れようとしたが、
しかしホワイト氏は不吉な気配を感じとって猿の手に三つ目の願いを祈った。
激しいノックの音は突然に途絶えて消えた。

そしてホワイト夫妻には、200ポンドだけが残ったのだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○ラザロ  『ヨハネによる福音書』に登場する人物。
一度死んでイエスの手により、甦ったとされる。その死と復活は基督教において重要な意味を持ち文学作品へ用いられる。
○ペット・セマタリー  猿の手とラザロの甦りをモチーフにしたスティーブン・キングの長編小説。死者を悼み、蘇りを願う気持ちが破滅につながる話。これは「二つめの願い」の過ちに気が付かなかった者の悲劇である。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

◇W・W・ジェイコブズ (William Wymark Jacobs, 1863年9月8日 - 1943年9月1日)
短編怪奇小説の「猿の手」や「徴税所」が有名だが、彼の大部分の作品は海に題材をとったむしろユーモラスなものである。

ロンドンのワッピング(en:Wapping)にて波止場で働く労働者の息子として生まれた。彼は私立学校をでたあと、今ではロンドン大学に編入されたバークベックカレッジに入学、1879年に郵政銀行の職員となった。

1885年に彼の最初の短編作品が発表された。成功への道のりは比較的遅かったが、1896年に出版した短編集 Many Cargo が人気を博し、翌1897年には長編 The Skipper's Wooing を、1898年に短編集 Sea Urchins を続けざまに発表してその人気を不動のものにした。Many Cargos 以前に書かれたものから Sea Urchins までの一連の作品はジェローム・K・ジェロームのアイドラー誌に掲載され、1898年10月からはストランド・マガジンと契約し、同社から出版された。

1899年に郵政銀行を退職、1900年に結婚(妻は熱心な婦人参政権論者だった)後、エセックス郡ロートン(en:Loughton)のパークヒルとゴールディングヒルに居を構えた。ゴールディングヒルには後に彼のブルー・プラークが設けられている。ロートンは彼の愛した街で、短編で書かれる街のモデルになることがあった。

ジェイコブズの他の作品には Captains All 、 Sailors' Knots 、 Night Watches などがある。ワッピング波止場の夜警の冒険譚である Night Watches において、ジェイコブズはロンドンのイーストエンドの下品とされる言葉使いをセンスよく作品に取り入れてみせた。P・G・ウッドハウスは自叙伝 Bring on the Girls(1954年、ガイ・ボルトン(en:Guy Bolton)と共著)の中でジェイコブズのその技量に感銘を受けたことを書き残している。

第一次世界大戦前後からジェイコブズの小説の創作ペースは落ち、その後は自分の作品の舞台化と演出に精力をかたむけた。1899年にロンドンで初演されたジェイコブズの最初の舞台作品 The Ghost of Jerry Bundler は、1902年にはリバイバル公演を遂げ、1908年になってようやく出版された。彼は1943年に自身で最期の地にと望んだ場所であるロンドンのイズリントン、ホールスレイにて死去した。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

◇◇◇著作リスト◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
Many Cargoes (1896)
The Skipper's Wooing (1897)
Sea Urchins (1898) /aka More Cargoes (US) (1898)
A Master of Craft (1900)
The Monkey's Paw" (1902)「猿の手」
Light Freights (1901)
At Sunwich Port (1902)
The Lady of the Barge (1902) 「徴税所」を収録。
Odd Craft (1903)
Dialstone Lane (1902)
Captain's All (1905)
Short Cruises (1907)
Salthaven (1908)
Sailor's Knots (1909)
Ship's Company (1911)
Night Watches (1914)
The Castaways (1916)
Deep Waters (1919)
Sea Whispers (1926)

2009年1月24日 (土)

青蛙神  第一幕

青蛙神

岡本綺堂

 第一幕の登場人物
李中行
その妻 柳
その忰 中二
その娘 阿香
高田圭吉
旅の男

          第一幕

 時は現代。陰暦八月十五日のゆうぐれ。
 満州、大連市外の村はずれにある李中行の家。すべて農家の作りにて、家内の大部分は土間。正面には出入りの扉ありて、下のかたの壁には簑笠などをかけ、その下には鋤(すき)またや鍬(くわ)などの農具を置いてあり。その傍らには大いなる土竃(どがま)ありて、棚には茶碗、小皿、鉢などの食器をのせ、竃のそばには焚物用の高梁(コーリャン)を束ねたるを積み、水を入れたるバケツなどもあり。よきところに木卓を置き、おなじく三四脚の木榻(もくとう)あり。下のかたには窓あり。上のかたは寝室のこころにて、ここにも出入りの扉あり。家の外には柳の大樹、その下に石の井戸あり。うしろは高梁の畑を隔てて、大連市街の灯が遠くみゆ。
(家の妻柳、四十余歳。高梁を折りくべて、竃の下に火を焚いている。家内は薄暗く、水の音遠くきこゆ。下のかたより家の娘阿香、十七八歳、印刷工場の女工のすがたにて、高田圭吉と連れ立ちて出づ。高田は二十四五歳、おなじく印刷職工の姿。)
高田 (窓から内を覗く。)阿母(おっか)さんは火を焚いているようだ。じゃあ、ここで別れるとしよう。
阿香 あら、内へ這入(はい)らないの。
高田 まあ、止そう。毎晩のように尋ねて行くと、お父(とっ)さんや阿母さんにうるさがられる。第一、僕も極まりが悪いからな。
阿香 かまわないわ。始終遊びに来るんじゃありませんか。お寄りなさいよ。
高田 始終遊びに来る家(うち)でも、この頃はなんだか極まりが悪くなった。まあ、帰るとしよう。
阿香 いいじゃありませんか。(袖をひく。)今夜は十五夜だから、一緒にお月様を拝みましょうよ。
高田 (躊躇して。)それにしても、まあ、ゆう飯を食ってから出直して来ることにしよう。
阿香 じゃあ、屹(きっ)とね。
高田 むむ。(空をみる。)今夜は好い月が出そうだ。
阿香 お月様にお供え物をして待っていますよ。
(高田はうなずいて、下のかたへ引返して去る。阿香はそれを見送りながら、正面へまわりて扉を叩く。)
柳 (みかえる。)誰だえ。お父さんかえ。
阿香 わたしですよ。
柳 戸は開いているよ。お這入り……。
阿香 (扉をあけて入る。)あら、暗いことね。まだ燈火(あかり)をつけないの。
柳 いつの間にか暗くなったね。
阿香 町の方じゃあ、もう疾(と)うに電燈がついているわ。
柳 町とここらとは違わあね。あかりをつけないでも、今にもうお月様がおあがりなさるよ。
阿香 それでもあんまり暗いわ。
(阿香は上のかたの一室に入る。柳は竃の下を焚きつけている。表はだんだんに薄明るくなる。下のかたよりこの家のあるじ李中行、五十歳前後、肉と菓子とを入れたる袋を両脇にかかえて出づ。)
李中行 そろそろお月様がおあがりなさると見えて、東の空が明るくなって来た。
柳 (窓から覗く。)お父さんかえ。
李中行 むむ。今帰ったよ。(正面の扉をあけて入る。)阿香はどうした。
柳 たった今、帰って来ましたよ。時に買い物は……。
李中行 (袋を卓の上に置く。)まあ、どうにか斯(こ)うにか買うだけの品は買い調(ととの)えて来たが、むかしと違って、一年増しに何でも値段が高くなるにはびっくりするよ。月餅(げっぺい)一つだって、うっかり買われやあしない。
柳 まったく私達の若い時のことを考えると、なんでも相場が高くなって、世の中は暮らしにくくなるばかりだ。それでもこうして生きている以上は、不断はどんなに倹約しても、お正月とか十五夜とかいう時だけは、まあ世間並のことをしないと気が済まないからね。
李中行 そうだ、そうだ。おれもそう思うから、見す見す高い物をこうして買い込んで来たのだ。阿香が帰っているなら、あれに手伝わせて早くお供え物を飾り付けたら好かろう。もうお月さまはお出なさるのだ。
柳 (窓から表を覗く。)今夜はすっかり晴れているから、好いお月さまが拝めるだろう。
李中行 むむ。近年にない十五夜だ。
(阿香は着物を着かえ、小さいランプを手にして、一室より出づ。)
阿香 お父さん。お帰りなさい。
李中行 さあ、みんな買って来たから、早く供えてくれ。
阿香 十五夜のお供え物も高くなったそうですね。
李中行 今もそれを云っていたのだが、だんだん貧乏人泣かせの世の中になるばかりだ。
阿香 (笑う。)おめでたいお月見の晩に、そんな泣き言を云うもんじゃないわ。じゃあ、阿母さん。
柳 あいよ。
(母と娘は上のかたの壁の前に種々の供物をして、月を祭る準備をする。李は疲れたように、榻(とう)に[#「榻(とう)に」は底本では「搨(とう)に」]腰をおろしている。)
阿香 お父さん。草臥(くたび)れたの。
李中行 むむ。何だかがっかりしてしまった。
柳 町へ買い物に行って来たぐらいで、そんなにがっかりするようじゃあ困るね。
李中行 一つは気疲れがしたのだな。近所でありながら、滅多に町の方へ出ないものだから、たまに出て行くと自動車や自転車で危なくってならない。おれはどうしても昔の人間だよ。時に中二(ちゅうじ)はまだ来ないのかな。
阿香 兄さんは来るかしら。
李中行 来るも来ないもあるものか。十五夜には家(うち)へ帰って来て、おれたちと一緒に月を拝めと、あれほど云い聞かせて置いたのだから、屹と来るに相違ないよ。
柳 十五夜で、店の方が忙がしいのじゃないかね。
李中行 なに、あいつの勤めている店は本屋だ。おまけに主人は日本人だから、十五夜に係り合があるものか。あいつ、何をしているのかな。
柳 そう云っても奉公の身の上だから、自由に店をぬけ出して来ることは出来ないのかも知れない。
阿香 十五夜だから暇をくれなんて云っても、主人が承知するか何(ど)うだか判らないわ。
李中行 でも、去年は来たではないか。
阿香 去年は去年……。今年はどうだか……。ねえ、阿母さん。
柳 中二も主人の気に入って、今年からは月給が五円あがったというから、それだけに仕事の方も忙がしくなったかも知れないからね。
李中行 月給のあがったのは結構だが、それがために十五夜に帰って来られないようでは困るな。
阿香 あら、お父さん。十五夜よりも月給のあがった方が好いわ。
李中行 おまえも今の娘だな。(舌打ちして。)まあ、仕様がない。毎年親子四人が欠かさずに月を拝んでいるのに、今年だけはあいつが欠けるのか。
柳 そう思うと、わたしも何だか寂しいような気もするが、いつまで待ってもいられまい。
阿香 今に高田さんが来ますよ。
柳 お前、約束をしたのかえ。
阿香 きっと来ると云っていましたわ。
李中行 高田さんが来たところで、あの人は他人だ。せがれの代りになるものか。こうと知ったら、町へ出た時にあいつの店へ寄って、もう一度よく念を押してくれば好かったな。
阿香 (それには構わず。)高田さんは何をしているんだろう。
(阿香は表へ出で、柳の下に立って下のかたをみる。表はいよいよ明るくなる。)
柳 (窓から声をかける。)もうお月様はおあがりになるかえ。
阿香 (空をみる。)ええ、もういつの間にかお上りになりましたよ。
柳 じゃあ、もう拝みに出なけりゃあならない。さあ、お父さん。
李中行 中二はまだ帰らないのかなあ。
阿香 高田さんはどうしたんだろうねえ。
(李は妻に促されて、渋々ながら立ち上り、打ち連れて表へ出る。月の光いよいよ明るく、虫の声。)
柳 おお、好いお月さまが出た。十五夜にこんなに晴れたのは、近年にめずらしい。さあ、拝みましょうよ。
(李と、柳、阿香の三人は形をあらため、下のかたの空を仰いで拝す。)
柳 まあ、まあ、これで好い。ことしの月も無事に拝んだ。
李中行 日が暮れたら急に冷えて来た。秋風はやっぱり身にしみるな。
(李と柳は引返して内に入る。阿香はまだ立って下のかたを眺めている。)
柳 お月さまを拝んでしまったら、今夜の御祝儀に一杯お飲みなさいよ。
李中行 今夜はせがれを相手に飲む積りだったが、あいつめ、まだ形をみせない。こうなったら仕様がないから、せめて高田さんでも来ればいいな。(外へ声をかける。)おい、高田さんは屹(きっ)と来ると云ったのか。
阿香 ええ、ええ、屹と来る筈なんだけれど……。あの人は何をしているんだろう。わたし行って呼んで来るわ。
柳 まあ、いいよ。若い女が夜あるきをするにゃあ及ばない。そのうちに来るだろうよ。
阿香 でも、ちょいと行って来るわ。お父さん。まあそれまではお酒を飲まずに、待っていて下さいよ。(早々に下のかたへ去る。)
柳 とうとう出て行ってしまった。あの子は高田さんばかり恋しがっているんだよ。
李中行 (笑う。)まあ、仕方がない。打っちゃって置け。おれはこの通りの貧乏だから、若い娘を印刷工場へ通わせて置くが、いつまでそうしても置かれない。遅かれ早かれ他(よそ)へ縁付けなければならないのだ。(又笑う。)高田さんは善い人だよ。
柳 そりゃ私も知っているけれど……。じゃあ、いよいよと云うときには、お前さんも承知してくれるのね。
李中行 むむ、承知するよ。日本人でも何でも構うものか。相手が正直で、よく働く人で、娘も進んで行くというなら、おれは喜んで承知するよ。昔と今とは世の中が違うからな。
柳 お前さんがそう云ってくれれば、わたしも安心だけれど……。
李中行 それだから安心していろよ。はははははは。
(正面の扉をたたく音。)
柳 阿香が帰ったのかしら。(考える。)そんなら戸をたたく筈もないが……。
李中行 それとも、せがれが遣って来たのかな。
(柳は立って扉をあけると、旅すがたの男一人入り来る。男は四十余歳にて、鬚あり。)
柳 (すかし視て。)おまえさんは誰だね。
旅の男 おかみさんはもう私を見忘れましたかね。
柳 はてね。そう云えば、なんだか見たような顔でもあるが……。
旅の男 (笑いながら。)御亭主は覚えていなさるでしょうね。
李中行 (立ちあがって覗く。)成程、見たことがあるようだが……。ちょっと思い出せないな。
旅の男 (しずかに。)わたしは預け物をうけ取りに来たのです。
李中行 (思い出して。)ああ、判った、判った。おまえさんは……あの人だ、あの人だ。
旅の男 ここの家(うち)に四五日御厄介になったことのある旅の者です。三年後(のち)の八月十五夜の晩には、必ず再びたずねて来ますからと云って、小さい箱をあずけて行った筈ですが……。
柳 ああ、わたしも思い出した。三年前の雨のふる晩に、泊めてくれと云って来た人だ。
李中行 見識らない人ではあるし、夜は更けている。むやみに泊めるわけには行かないと一旦は断ったのを、お前さんは無理に泊めてくれと云って、とうとうこの土間の隅に寝込んでしまったのだ。
柳 おまけにその明くる朝から病気になったと云い出して、私達もどんなに心配したか知れやあしない。
旅の男 まったくあの時には飛んだ御厄介になりました。それから四五日もここの家に寝かして貰って、再び元のからだになったのです。(頭を下げる。)今晩あらためてお礼を申上げます。
李中行 わたしの方では忘れていたが、成程そのときに、三年後(のち)の十五夜の晩には再びたずねて来ると云ったようだ。
旅の男 その約束の通りに、今夜再び来ました。
李中行 そう聞くと、なんだか懐かしいようでもある。まあ、まあ、ここへ掛けなさい。
(旅の男は会釈しただけで、やはり立っている。)
李中行 そこでお前さんは、あれから三年の間、どこを歩いていなすったのだ。
旅の男 それからそれへと旅の空をさまよっていました。いや、そんなお話をしていると、長くなります。おあずけ申して置いた箱を受取って、今夜はこのまま帰るとしましょう。
李中行 そんなに急ぎなさるのかね。
旅の男 急がないでもありません。どうぞあの箱を直ぐにお渡しください。
李中行 はは、わたし達は正直物だ。預かり物は大切に仕舞ってあるから、安心しなさい。(柳に。)さあ、持って来て早く渡して遣るが好い。
(柳は一室に入る。旅の男はやはり立っている。やがて奥にて柳の声。)
柳、ちょいと、お前さん……。
李中行 なんだ。
柳 どうも不思議なことがあるんですよ。
李中行 なにが不思議だ。
柳 あの箱が大へんに重くなって、わたしの力じゃあ迚(とて)も動かせないんですよ。
李中行 馬鹿なことを云え。あのくらいの箱が持てないと云うことがあるものか。
柳 それでも鉄のように重くなって、些(ち)っとも動かないんですよ。
李中行 なにを云っているのだ。まだそれ程の年でもないのに、おまえは些っと耄碌(もうろく)したようだな。
(李も渋々ながら奥に入る。旅の男は冷然として聴いている。やがて室内にて李の声。)
李中行 なるほど不思議だな。こんなに重い筈はなかったのだが……。(出て来る。)もし、おまえさん。ちょいと手を仮してくれないか。
(旅の男は無言にて立上り、李と共に室内に入りしが、やがて夫婦と三人がかりにて、一個の小さい革の箱を重そうに持ち出して来て、卓の上に置く。)
柳 こんなに小さい箱がどうして重いのだろうね。
李中行 三年前(まえ)にあずかった時には、こんなに重いとは思わなかったが……。どうも不思議だな。
旅の男 (嘆息して。)いえ、あの時にも重かったのです。それで拠(よんどこ)ろなく預けて行ったのです。
李中行 一体このなかには何が這入(はい)っているのだな。金の塊(かたまり)でも積め込んであるのかね。
旅の男 (おごそかに。)金の塊よりも貴(とうと)い物が収めてあるのです。
柳 それでは玉か宝石のたぐいでも入れてあるんですかえ。
旅の男 これは私の命にも換えがたい大切の品で、これを持って諸国をめぐっているうちに、三年前の八月、この大連の町へ来る途中で、俄(にわか)にこの箱が重くなって、どうしても動かなくなりました。そこでこちらの御厄介になったのですが、明くる朝になっても箱はやはり重いのです。今だから正直に白状しますが、あのときに病気と云ったのは嘘で、実はなんとかしてこの箱を持ち出そうと苦心して、四日も五日も逗留していたのですが、箱はどうしても動かないのです。私もとうとう諦めて、兎も角もこちらにお預け申して立去ったのですが、三年の後に来てみれば、箱はこの通りで矢はり重い。私ひとりの手では持ち運びは出来ない。(悲痛の顔色。)もう仕方がありません。私は神に見放されたのです。
(男は目を瞑(と)じ、腕をくんで、万事休すというが如くに嘆息す。李の夫婦は顔をみあわせる。)
李中行 なんだか謎のような話で、わたし達には一向わからないが、この箱に入れてある貴い物の正体はなんだね。
旅の男 こうなったら隠さずに話します。この箱のなかに祭ってあるものは……三本足の青い蝦蟆(がま)です。
李中行 え、三本足の青い蝦蟆だ……。
柳 まあ、気味の悪い。なぜそんな物を大事そうに持ち歩いているんだろうねえ。
旅の男 おまえさん達は青蛙神(せいあじん)を知りませんか。
李中行 青蛙神……。(考える。)いや、聞いたことがある。江南のある地方では、青蛙神と云って三本足の青い蝦蟆を祭るということだが……。では、その青蛙神がこの箱の中に祭ってあるのか。
旅の男 青蛙神に酒と肉とを供えて祈祷すれば、どんな願いでも屹(きっ)と成就するのです。
李中行 (うなずく。)むむ。それは私も昔から聞いているが、ほんとうにそんな奇特があるものかな。
旅の男 ここらの人はよく知らないので、不思議に思うのも尤(もっと)もですが、南の方へゆけば青蛙神を疑う者はありません。
李中行 わたしが祈っても、奇特があるだろうか。
旅の男 勿論です。
柳 (李の袖をひく。)わたしは何だか気味が悪い。おまえさん、詰まらない願掛けなぞをおしなさるなよ。
李中行 まあ、黙っていろ。(男に。)ねえ、お前さん。こうしてお近づきになったものだから、私の為にその箱をあけて、青蛙神を一度拝ませてくれませんかね。
旅の男 なにか願掛けでもなさるのか。
李中行 おまえさんも大抵察していなさるだろうが、わたし達はこの通りの貧乏人で、総領のせがれは町の本屋に奉公させてある。次の娘は大きい印刷工場に通わせてある。併しそのくらいのことでは、この時節になかなか楽には暮されない。わたし達夫婦もだんだんに年を取る。悴もやがて嫁を貰わなければならない。娘もどこへか縁付けなければならない。それやこれやを考えると、どうしても纏まった金をこしらえて置かないと安心が出来ないのだ。
旅の男 御もっともです。
李中行 お前さんも尤もだと思うなら、私があらためて頼みます。幸い今夜は十五夜で、酒も肉も用意してあるから、それを青蛙神にそなえて、わたしに纏まった金を授けて下さるように祈っては下さるまいか。
旅の男 わたしが祈るのではない。おまえさんが自分で祈るのです。
李中行 では、わたしに祈らせて下さい。
柳 もし、お前さん……。(再び袖をひく。)
李中行 まあ、いいと云うのに……。(男に。)もし、どうぞ願います。
旅の男 本来ならば唯で拝ませることは出来ない。私にも相当のお賽銭をそなえて貰わなければ困るのだが、余人とちがって、お前さん達には色々の御世話にもなっているから、唯で拝ませてあげましょう。
李中行 (熱心に。)拝ませて下さるか。ありがたい、有難い。
柳 (不安らしく。)お前さん、そんなことは……。
李中行 うるさいな。まあ、なんでもいいから俺に任かせて置け。
(男は腰につけたる巾着より鍵をとり出して、箱の錠をあける。そうして、口のうちにて何か呪文を唱えると、箱のうちより三足の青い蝦蟆一匹が跳り出でて、卓のまん中にうずくまる。李の夫婦は驚異の眼をみはって眺める。)
柳 あ、この蝦蟆は生きているようだ。
旅の男 生きているのです。
李中行 いくら蝦蟆でも、この箱に這入ったままで、二年も三年も飲まず喰わずに、よく生きていられたものだな。
旅の男 さあ、なんなりともお祈りなさい。
李中行 すぐに祈ってもいいのですか。
旅の男 併しその祈祷の文句を他人に知られてしまっては奇特がありません。誰にも聞えないように、口のうちで静(しずか)にお祈りなさい。判りましたか。
李中行 はい、はい。判りました。わかりました。
(李は月を祭りし酒と肉を持ち来りて、青蛙の前に供える。柳はやはり不安らしく眺めている。)
李中行 これで宜しいのですか。
旅の男 (うなずく。)よろしいのです。
(李は土間にひざまずきて、口のうちにて何事かを祈る。下のかたより李の長男中二、二十二三歳、洋服に中折れ帽をかぶりて足早に出で来りしが、来客ありと見て少しく躊躇し、窓より内を窺っている。李はやがて拝し終りて立つ。)
旅の男 済みましたか。
李中行 (頭を下げる。)はい。済みました。
(男は再び呪文を唱うれば、青蛙は跳って元の箱に入る。男はしずかに蓋を閉じ、更にその箱を捧げるようにして、俄(にわか)におどろく。)
旅の男 おお、箱が軽く……。元のように軽くなりました。
李中行 箱が軽くなった……。
旅の男 この通りです。
(男は箱を軽々とささげて李に渡せば、李は恐る恐る受取りて、これも驚く。)
李中行 なるほど軽い、軽い。さっきはあんなに重かったものが、俄にこんなに軽くなるとは、どう云うわけだろうな。
旅の男 神のこころは私にも判りません。併し元の通りに軽くなったのは、私の仕合せです。(喜悦の色。)わたしはまだこの神に見放されないのです。これでようよう安心しました。(箱を押頂く。)では、夜の更けないうちに、もうお暇としましょう。
李中行 せめて今夜一晩は、泊まって行きなすっては何(ど)うだね。
旅の男 (かんがえて。)いや、折角ですが直ぐに行きましょう。御亭主にもおかみさんにも、御縁があったら又お目にかかります。
(男は会釈して箱を小脇にかかえ、しずかに表へ出て上のかたへ立去る。李も門口に出て見送る。李中二はつかつかと進み入る。)
中二 お父さん、阿母さん。今晩は……。
柳 おお、中二か。お父さんはさっきからお前を待っていたんだよ。
中二 店の方が忙がしかったもんですから、つい遅くなりました。
李中行 (引返して来る。)お前、大へんに遅かったではないか。おれ達はもう月を拝んでしまったのだ。
中二 今帰った人は誰です。
李中行 (笑ましげに。)あれはおまえの識らない人だ。三年前(まえ)にここの家(うち)へ泊まったことがあって、その時の預け物を今夜うけ取りに来たのだ。
中二 お父さんの拝んでいたのは何です。
李中行 あれは江南でいう青蛙神だ。
中二 青蛙神……。
李中行 はは、判らないか。おまえ達はここらで育ったから、なんにも知るまいが、三本足の青い蝦蟆を祭るのだ。
中二 (笑う。)そんなものを祭って、どうするのです。
李中行 どうするものか。自分の願いが叶うように祈るのだ。
柳 それでお前さんは何を祈ったの。
李中行 大抵はおまえも察しているだろうが、本当のことは迂闊に云えない。他人に知られると、奇特が無いというからな。まあ、その奇特のあらわれるまでは、黙っていることにしようよ。
中二 (又笑う。)お父さんはまだそんなことを信じているんですか。
李中行 おまえ達のような若い者の知らないことだ。まあ、黙って見ていろ。
中二 いずれお父さんのことだから、慾の深いことを願ったんでしょう。
李中行 (少しぎょっとして)え、何……。そんなわけでも無いのだ。
中二 (からかうように。)じゃあ、何を願ったんです。再び清朝の世になるようにとでも祈ったんですか。
李中行 馬鹿をいえ。
中二 それじゃあ百までも長生きをするように……。
李中行 ええ、黙っていろというのに……。今の若い奴等は兎かくに年寄りを馬鹿にしてならない。おれたちの若いときには、神さまの次に年寄りを尊敬したものだ。
中二 お父さん。私は神様よりも年寄りを尊敬しますよ。(笑いながら進みよる。)青蛙神を拝むくらいなら、先(ま)ずあなたを拝みますよ。
李中行 親にからかうな。(押退ける。)町へ出ていると、だんだんに生意気になっていけない。
柳 まあ、そんなことは何(ど)うでもいいから、早くお酒をお始めなさいよ。
李中行 (中二に。)お前は月を拝んだか。
中二 拝みました。
李中行 ほんとうに拝んだか。どうも怪しいぞ。お前はこのごろ嘘つきになったからな。
中二 まあ、そう叱ってばかりいないで、十五夜の御祝儀に一杯頂きましょう。(榻(とう)にかける。)時に妹はどうしたんです。
柳 高田さんを呼びに行ったのさ。
中二 高田さんが来るんですか。そりゃあ話し相手があって好いな。
李中行 おれでは話し相手にならないと云うのか。どこまでも親を馬鹿にする奴だ。(同じく榻にかける。)さあ、青蛙神に供えた酒だ。先ずおれから頂戴して、おまえにも飲ませてやる。
中二 わたしも蝦蟆のお流れ頂戴ですか。これは些(ち)っと嬉しくないな。
李中行 こいつ、まだそんなことを云っているのか。早く酌をしろ。
中二 はい、はい。
(中二は酌をすれば、李は飲み終って中二にさし、柳が酌をして遣る。こうして、父と子はむつまじく飲んでいると、下のかたより高田圭吉は阿香と連れ立ちて出づ。)
阿香 (内に入る。)唯今……。あら、兄さんも来たの。
高田 又お邪魔に出ました。
中二 やあ、いらっしゃい。さあ、こちらへ……。
柳 さあ、おかけなさい。(榻をすすめる。)
中二 (打解けて。)高田さんもお忙がしいんですか。
高田 今のところはそうでも無いんですが、五六日すると夜業が始まると云いますから、又ちっと忙がしくなるでしょう。あなたのお店もなかなか繁昌するそうですね。
中二 ひどく繁昌という程でもありませんが、不景気の時節としては、まあ、まあ、好い方でしょう。なにしろ書物をよむ人が殖えましたからね。
(中二は高田に杯をさせば、阿香が酌をする。)
高田 あなたのお店は日本人の経営とはいいながら、日本の書物のほかに、支那の書物も売るんだから、どうしても繁昌するわけですよ。
中二 支那の書物も、このごろは上海版の廉(やす)いものが続々発行されるので、自然買い手も多いんです。
高田 上海版といえば、捜神記の廉いのは来ていませんかね。活版本でも好いんですが……。
中二 調べてみましょう。たしか来ている筈です。あなたは捜神記のような本をお読みになるんですか。
高田 わたしも此頃は支那の怪談に興味を持つようになって、覚束ないながらも拾い読みをしているんですよ。日本に有り来りの怪談は、大てい支那から輸入されているんですからね。
中二 わたしは日本の怪談を知りませんが、支那から渡ったものが多いんですか。
高田 日本国有の怪談は少い。大抵はこっちが本家本元ですよ。
(このあいだに、李は卓にうつ伏して、うとうとと眠り始める。月の光、だんだんに薄暗くなる。)
阿香 あら、お父さん。もう居眠りを始めたの。
柳 一杯飲むと、いつでもこれだよ。
阿香 でも、あんまり早いわ。(傍へ寄りて肩をたたく。)お父さん……。折角高田さんを呼んで来たんじゃありませんか。お起きなさい。
李中行 (眼をあく。)折角呼んで来ても、若い者が寄り集まると、おれをそっち退けにして、何か判らない話を始めるから、直ぐに眠くなってしまうのだ。
中二 判らない話じゃあない。内のお父さんは実に好い人だと云って、二人が感心しているんですよ。
高田 そうです、そうです。
李中行 おまえさんまでが人を馬鹿にするか。わたしは他愛なく眠っているようでも、この二つの耳は兎のように働いているのだ。はははははは。さあ、ついでくれ。
(李は娘に酌をさせて又飲む。月の光、いよいよ暗くなる。)
柳 (窓から覗く。)おや、いつの間にか月が暗くなって来たようだ。
阿香 (おなじく覗く。)まあ、御覧なさいよ。あんな黒い雲が……。ほんとうに妙な形で、まるで蝦蟆のようですわ。
柳 成程ねえ……。あの雲は不思議な形をしている……。
李中行 なに、蝦蟆のような雲が出た……。(立ってゆく。)
阿香 あれ、あの雲が……。月を半分隠して仕舞ったんですよ。
李中行 (窓から覗く。)成程、あんな雲はめずらしいな。(中二に。)おい、来てみろよ。大きい蝦蟆のような雲が出た。
中二 お父さんは蝦蟆が好きだな。(云いながら立ちかけて物につまずく。)おや、なんだろう。
(中二は俯向(うつむ)いて我が足もとを透し視ようとする時、三足の青蛙が卓の上にひらりと飛びあがる。)
高田 (思わず立つ。)や、蝦蟆だ。蝦蟆だ。
中二 三本足の蝦蟆だ……。
李中行 何、そっちにも蝦蟆がいるのか。
(李は立寄る。柳と阿香も見かえる。ランプはおのずから消えて、家内は暗くなる。その暗中に、青蛙の全身より鬼火の如き青き光を放つ。人々はおどろき怪みて凝視するうちに、消えたと思いしランプは再び明るく、青蛙の姿はいつか消える。表の月も再び明るくなる。)
中二 (高田と共に笑い出す。)なんだ。なんにもいないじゃあないか。
高田 居ない、居ない。はは、まったく眼のせいだ。これが幻覚とか錯覚とか云うんだろうな。
柳 でも、わたしの眼には蝦蟆の姿がはっきりと見えましたよ。
阿香 わたしにも見えましたわ。鬼火のように青く光って、その卓の上に……。
李中行 むむ、おれにも見えた。しかも三本足で、確にさっきの青蛙神だ。
中二 お父さんの迷信にも困ったものだな。あんまり蝦蟆の噂ばかりするもんだから、皆んなの眼にそんな幻影が見えたんですよ。
高田 たしかに我々の幻覚ですよ。ははははははは。
中二 はははははは。
李中行 はてな。
(李はまだ疑うように考えている。柳と阿香は顔をみあわせて半信半疑の体(てい)。高田と中二は事もなげに笑いながら、再び榻にかける。風の音。寝鳥のおどろき起つ声。)

――幕――

青蛙神  第二幕

 第二幕の登場人物
李中行
その妻 柳
その忰 中二
その娘 阿香
高田圭吉
村の男 會徳
工場の事務員 浦辺、村上
女工 時子、君子
ほかに村の男、女若者。苦力など

          第二幕

 おなじく李中行の家。
 第一幕より五日の後、晴れたる日の午後三時頃。
(妻の柳は長柄の鎌を持ち、李中行は長煙管を持ち、たがいに云い募って詰めよるを、近所の農家の亭主會徳が支えている。砧(きぬた)の音せわしく聞(きこ)ゆ。)
會徳 これ、これ、どうしたものだ。好い年をして夫婦喧嘩は外聞が悪いではないか。まあ、まあ、静かにするが好い。
柳 だって、お前さん。まあ、聴いてください。この頃は高梁(コーリャン)の刈入れ時で、どこの家でも眼が廻るほど忙がしいのに、この人は朝から煙草ばかりぱくぱく喫(の)んで、寝そべって……。
李中行 なんでおれが寝ているものか。夜明けからちゃんと起きているのだ。
柳 起きているか、死んでいるか、判るものか。秋の日は短いというのに、なぜ朝からぶらぶら遊んでいるんだよ。
李中行 遊んでいるのではない。こうして黙って坐っていても、おれには又おれの料簡がある。燕雀いずくんぞ大鵬のこころざしを知らんと、昔の陳勝呉廣(ちんしょうごこう)も云っているのだ。
柳 なんの、聴き取り学問で利口ぶったことを云うな。百姓が畑へも出ないで、毎日のらくらしていてそれで済むと思うのかよ。早く刈込んで来なければ、たべ物ばかりか、焚き物にも困るじゃないか。ほんに、ほんにお前のような人は豚にも劣っているのだ。
李中行 なにが豚だ。
會徳 まあ、両方がそう云い募っていては、果てしが無い。そこで、おれはどっちの贔屓(ひいき)をするでもないが、きょうの喧嘩はどうも親父の方が好くないようだぞ。おふくろの云う通り、今は高梁の刈入れ時で、人間の手足が八本も欲しいという時節に、朝から喞(くわ)え煙管で一日ぶらぶらしているのは、あんまり悠長過ぎるではないか。お前はそんな怠け者ではなかった筈だが……。
李中行 (笑う。)はは、おまえまでが女房の味方をするのか。いや、それも無理のないことだ。成程、おれは悠長過ぎるかも知れない、怠け者かも知れない。まあ、なんとでも云うが好い。何事も自然に判ることだ。はははははは。人間はなんでも好い友達を持たなければいけない。お前もおれという好い友達を持ったお蔭で、又どんな仕合せなことが無いとも云えないから、それを楽しみに待っているが好い。はははははは。
會徳 (柳と顔を見あわせる。)どうも少し変だな。気がおかしくなったのではないか。
柳 少しどころか、大変におかしいんですよ。
會徳 まったく気がおかしいようだ。困ったものだ。な。兎もかくも息子のところへ知らせて遣ったらどうだな。
柳 娘が工場へ行きがけに、中二の店へ寄って来る筈になっているから、今夜か明日(あした)の晩には来るでしょうよ。
會徳 むむ。息子が来たらば好く相談をするがよかろう。(李を横目に見て。)どうも不断とは様子が違っているようだから、まあ逆らわずに捨てて置く方が無事らしい。お前もその積りで……。(喧嘩をするなと眼で知らせる。)
柳 (渋々ながら首肯(うなず)く。)まったくこんな人を相手にしているのは暇潰しだ。まあ、仕方がないから、私ひとりで仕事に出ましょうよ。
會徳 それが好い、それが好い。では、おれも行くとしようか。
李中行 もう帰るのか。そんなに齷齪(あくせく)働かなくっても好いではないか。
會徳 どうして、どうして、今もいう通り、手足が八本もほしい時節だ。
(會徳は下のかたへ立去る。)
柳 誰だってそうだ。齷齪しなければ生きていられない世の中ということを知らないのは、お前さんぐらいのものだ。(鎌を持ちて行きかけて立戻る。)おまえさんは何かに祟られているんだよ。
李中行 祟られている……。
柳 屹(きっ)と何かに祟られているんだよ。十五夜の晩に、おかしい旅の奴が来て、青蛙神だとか云って三本足の青い蝦蟆を見せると、わたしが止めるのも肯(き)かないで、おまえさんは何か祈ったろう。障らぬ神に祟り無しと云うのはその事だ。神様だが魔物だか判らないようなものに、うっかり祈ったり、願掛けをしたりすると、飛んでもない祟りや災難を受けることがあるものだ。お前さんは屹とあの蝦蟆に祟られたんだよ。それで無くって、今まで真面目に働いていた人間が、急に生まれ変ったような怠け者になる筈が無いからね。
李中行 祟られるなら祟られても好い。幾度云っても同じことで、おれの料簡はおまえ達には判らないのだ。まあ、打っちゃって置いてくれ。
(李は笑いながら悠々と長煙管の煙草をのんでいる。)
柳 (舌打ちして。)ええ、どうとも勝手にするが好い。気違いじじいめ。
(柳はそのまま表へ出で、足早に下のかたへ立去る。李はそのうしろ姿を見て、大きく笑い出す。)
李中行 なにが気ちがいだ。どいつも今にびっくりするな。あはははははは。(立って土間をあるき廻る。)中二の奴めも利口ぶって、何かおれに意見するだろう。あははははは。あいつ等はみんな青蛙神の奇特を知らないのだ。青蛙神に祈れば、自然に福を授けられると云うことを知らないのだ。あははははは。いや、あんまり笑ったので喉が渇いて来た。あははははは。
(李は頻りに笑いながら、竃(かまど)のそばへ行き、棚から大きい茶碗を把ってバケツの水を掬って飲む。やがて飲み終りて何ごころなく見かえり俄(にわか)におどろく。)
李中行 や、蝦蟆が出た……。おお、三本足だ……。確にこのあいだの青蛙神だ。はて、どこから来たのだろう。それとも矢っぱりおれの家に残(のこ)っていたのかな。そうだ、そうだ。いつまでもここの家を立去らないで、おれを守ってくれるに相違ないのだ。いや、有難いことだ。(土間にひざまずいて拝し、再び顔をあげる。)や、いつの間にか姿が見えなくなったぞ。なに、見えても見えなくても構わない。ここの家のどこかにいて呉れれば、それで好いのだ。はははははは。
(李は榻(とう)に腰をおろして、再び煙草を喫んでいる。砧の音。やがて下のかたより高田圭吉、仕事着のままにて走り出で、窓より内を覗く。)
高田 おお、お父さんは内にいるのか。もし、もし……。
李中行 (みかえる。)やあ、高田さんか。
高田 (高田は正面の扉をあけて、忙がわしく入り来る。)どうも大変なことが出来(しゅったい)しましてね。
李中行 大変なこと……。何が出来したのですな。
高田 阿香さんが……。
李中行 娘が……。
高田 機械場の調べ革に巻き込まれて……。
李中行 (おどろいて立つ。)それでどうしました。
高田 みんなも驚いて機械を止めたんですが、もう間に合わないで……。
李中行 (すり寄る。)もう間に合わないで……。娘は怪我をしましたか。
高田 怪我ぐらいなら好いが……。兎もかくも直ぐに近所の病院へ送ったんですが……。なにしろ手も足も折れて仕舞ったらしいので……。
李中行 (進みよる。)そ、それでも……。娘は、たたすかりますか。
高田 (躊躇しながら。)どうもそれが……。病院の医者もむずかしいと云っているんですよ。
(李はおどろいて倒れかかるを、高田はあわてて支えながら、再び榻に腰をかけさせる。)
李中行 (唸るように。)娘は……阿香は……。ああ、死ぬのか。
高田 それで取りあえず知らせに来たんです。さあ、早く病院へ来てください。阿母さんはどこにいるんです。
(李は答えず、卓の上に顔を伏せている。)
高田 (あたりを見まわす。)え、阿母さんはどうしました。畑へ行っているんですか。僕は阿母さんを呼んで来ますから、あなたは一足先へ行って下さい。病院は工場の近所ですから、工場へ行って訊けば直ぐに判ります。さあ、早く……。早く行ってください。
(高田は急いで引立つれば、李は失神したようにふらふらと立上る。)
高田 阿母さんはどこにいるんです。
(李は答えず、唯ぼんやりしている。)
高田 (じれて。)じゃあ、僕が探して来る。あなたは早く行って下さいよ。好いですか。(云い捨てて下のかたへ走り去る。)
(李はつづいて歩み出す気力もないように、再びぐったりと榻に腰をおろし、卓の上に俯伏(うつぶ)している。下の方より村の若者がバケツ二個を天びん棒に荷(にな)いて出で、何か歌いながら井戸の水を汲みて去る。それと入れちがいに、下のかたより柳は鎌を持ちて走り出で、すぐに内へ駈け込む。)
柳 (息をはずませて。)もし、お前さん。阿香が大変な怪我をしたそうで……。どうしたら好いだろう。お前さんも高田さんから話を聞いたろうね。
(李はやはり俯伏している。柳はその腕をつかんで、無理にひき起す。)
柳 お前さん、しっかりおしなさいよ。阿香はどうも助かりそうも無いと云うじゃあないか。中二のところへも知らせたと云うから、中二は直ぐに駈け付けたろうけれど、わたし達もこうしちゃいられない。お前さん、早く行って様子を見て来てくださいよ。
李中行 (力なげに。)行ってみたければ、お前ひとりで行くが好い。おれは忌(いや)だ。
柳 わたしは女だから困るじゃないか。お前さん早くおいでなさいよ。
李中行 (頭をふる。)忌だ、忌だ。
柳 なぜ忌だというのさ。娘が死にかかっているんじゃないか。
李中行 (嘆息して。)それだから忌だというのだ。可愛い娘が機械にまき込まれて、死にかかった蟋蟀(きりぎりす)のように、手も足も折れてしまった。……。そんな酷(むご)たらしい姿を見せ付けられて堪るものか。その話を聞いただけでも、おれはもう魂が抜けたようになっているのだ。
柳 (おなじく嘆息する。)そう云えば、わたしもそうだが、それでも息のあるうちに、一度逢って遣りたいような気もするからね。当人だって何か云って置きたいことがあるかも知れない。
李中行 遺言があるならば、中二が聞いて来るだろう。なにしろおれは御免だ。(また俯伏す。)
柳 困るねえ。だって、まだ死ぬか生きるか確に決まったわけでも無いじゃあないか。(李の肩に手をかけて揺る。)お前さん。後生だから行ってみて下さいよ。
(李は答えず。)
柳 仕様がないねえ。じゃあ、いっそ思い切ってわたしが行こうかしら。こんな装(なり)をして行っちゃあ、娘の外聞にもかかわるかも知れない。けれど、この場合にそんなことを云っちゃあいられない。
(柳は鎌を片付けて、身支度をする。下のかたより會徳出づ。)
會徳 (窓から声をかける。)なんだか娘が怪我をしたと云うではないか。
柳 (泣き声で。)高田さんの話では、もう助かりそうも無いと云うんですよ。
會徳 それは飛んだことだな。なにしろ早く行ってみたら好かろう。
柳 そう云うんだけれど、この人がぐずぐずしていて、行って呉れないんですよ。
會徳 それではお前が行くがいい。ひとりで困るなら、おれが一緒に行って遣ろうか。
柳 じゃあ、済まないが、そうして下さい。
會徳 よし、よし。
(柳は身支度して表へ出で、會と共に下のかたへ行こうとする時、下の方より李中二走り出づ。)
中二 おお、阿母(おっか)さん。
柳 これから病院へ行こうと思っているんだが、阿香はどんな様子だね。
中二 妹はもういけない。
柳 いけない……。
會徳 もう死んだのか。
中二 病院へ送られると直ぐに息を引取ってわたしでさえ間に合わない位でした。(顔をしかめて嘆息する。)なにしろ機械にまき込まれて、手も足もばらばらになって仕舞ったんだから、どうにも手当の仕様が無かったそうです。
會徳 工場では時々にそんなことがあると聞いていたが、全く怖ろしいことだな。
中二 そこで、阿母さん。死骸は今ここへ運んで来るから、病院までわざわざ出て行くには及びません。まあ、内へ這入(はい)って待っておいでなさい。(云いかけて下のかたを見る。)ああ、もう来た、もう来た。
(下のかたより高田圭吉出づ。)
高田 (柳に。)どうも残念なことでした。僕が途中まで引返すと、もう死骸を送って来るのに逢って仕舞ったんです。所詮むずかしかろうとは思っていたんですが、こんなに早かろうとは思いませんでした。
柳 (泣き出す。)まったく夢のようで……。こんなことになると知ったら、工場なんぞへ遣るんじゃあなかったが……。
中二 (なだめるように。)まあ、内へ……内へ……。
(中二は母を扶(たす)けて内へ連れ込もうとする時、下のかたより工場の事務員浦辺、三十五六歳、洋服を着て先に立ち、若き事務員村上は花環を持ち、あとより支那の苦力(クーリー)二人が担架をかき、担架には阿香の死骸を横えて白い毛布をかけてある。又そのあとより同じ工場の女工時子、君子が草花を持ちて出づ。)
高田 (会釈して。)皆さん、御苦労でした。
中二 狭い所ですが、どうぞこちらへ……。
(中二は母を連れて内に入る。一同もつづいて内に入れば、中二と高田が指図して、會徳も手伝い、阿香の死骸を上のかたの寝室へ運び込む。浦辺は苦力に向って、もう帰ってもよいと知らすれば、二人は担架を舁(か)きて去る。村上は花環をささげ、時子と君子も花をささげる心にて、連れ立ちて寝室に入れば、中二と會徳は室内に残り、高田は出る。)
浦辺 (高田に。)ここにいるのがお父さんですね。
高田 (李をみかえって。)そうです、そうです。(柳を指さして。)これが阿母さんです。
浦辺 (夫婦に。)委細は息子さんに話して置きましたが、まことに飛んだ災難で、なんとも申上げようがありません。
(李と柳とは無言で頭を下げる。)
浦辺 勿論、工場の方にも規定があって、相当の弔慰金を差上げる筈になって居りますから、いずれ改めておとどけ致します。
李中行 (低い声で。)はい、はい。
(村上、時子、君子は寝室より出づ。)
浦辺 よく拝んで来ましたか。
時子 (眼を湿(うる)ませながら。)はい、お花を供えて拝んでまいりました。
君子 お午過ぎまで一緒に仕事をしていた阿香さんが、俄にこんなことになろうとは……。
(二人は袖を眼にあてて啜(すす)り泣きをする。)
村上 調べ革のあぶないと云うことは、阿香さんもよく知っている筈だがなあ。
高田 何かの用があって機械場へ行く場合には、よく気をつけるように云い渡されているんだが……。どうして調べ革のそばへ近寄ったのかなあ。
浦辺 その場にいた者の話によると、阿香さんもそんなに危ない所を通ったと云うわけでもないのだが、なんだか物にでも引かれたように、自分の方からふらふら[#「ふらふら」は底本では「ふらふら」]と機械のそばへ寄って行ったように見えたと云うことだが……。
高田 (打消すように。)いや、そんなことは無い。阿香さんの死んだのは確に過失ですよ。自分の方から機械のそばへ寄ったなんて、そんな馬鹿なことがあるものか。(激して。)阿香さんが……何で自殺なんぞするものか。
浦辺 (しずかに。)君、誤解しちゃあいけないよ。工場の方では、過失であるとか無いとか云うことを問題にして、弔慰金の額を多くするとか少くするとか云うわけじゃあない。いずれにしても規定の弔慰金はかならず支出するのだが、唯その場にいた者がそんな話をしていたから、僕はその取次ぎをしたに過ぎないのだ。
李中行 娘の方から機械のそばへ寄って行ったのでしょうか。
浦辺 さあ、今もいう通り、私も人の噂を聞いただけで、自分が実地を見ていたわけではないのだから、確なことは云えませんよ。
李中行 ねえ、高田さん。ほんとうでしょうか。
高田 一つ工場に勤めていても、僕はそのとき機械場の方へ行っていなかったので、そんなことは嘘だか本当だか知りませんよ。併し阿香さんが自分から機械にまき込まれる筈がありませんからね。
柳 そうですとも……。なんで娘がそんなことをするもんですか。積ってみても知れたことですよ。
村上 (浦辺に。)じゃあ、もう行きましょうか。
浦辺 むむ。わたしももう一度拝んで行こう。
(浦辺は寝室に入る。)
時子 (高田に。)ここの家のお墓はどこにあるんでしょう。
高田 僕も今まで知らなかったが、中二君の話ではここから、三四町ほど距(はな)れた所にあるそうだ。
君子 それじゃあ時々に御参詣に来られますわね。
柳 (泣きながら。)どうぞお墓参りに行って遣ってください。あれも嘸(さ)ぞ喜びましょうから。
(柳も時子も君子も眼をふいている。一室より浦辺出づ。あとより中二と會徳も出づ。)
浦辺 では、皆さん。いずれ又伺います。
中二 色々ありがとうございました。
(浦辺は先に立ち、村上、時子、君子、皆それぞれに会釈して表へ出で、下のかたへ立去る。)
會徳 みんなも力落しであろうけれど、もう斯(こ)うなったら仕方がない。早く近所の人たちを呼んで来て、葬式の支度に取りかかることにしようではないか。
中二 何分よろしく願います。
會徳 では、すぐに行って来よう。
(會徳は早々に下のかたへ立去る。)
中二 さあ、お父さん阿母さんも奥へ行って、妹を拝んでお遣りなさい。
(李は黙っている。柳も無言で泣いている。)
高田 (嘆息する。)無理もないなあ。阿香さんは死んでしまった。ああ、僕もなんだか世の中が暗やみになったようだ。
(高田はふらふらと寝室に入る。中二は同情するように見送る。そのうちに柳は声を立てて泣き出すので、中二は進み寄ってその肩に手をかける。)
中二 阿母さん。もう泣いても仕様がありません。これも運命――これもよんどころない災難とあきらめて、妹の死んだ跡を弔って遣るより外はありませんよ。工場の方でも相当の金をくれるそうですから、それで立派な葬式をして遣りましょう。それがせめてもの追善(ついぜん)ですよ。
柳 (又泣く。)金をくれる……。金を幾ら呉れたところで、娘の命が買えるものか。(喰ってかかるように。)若い者のくせに、お前が意気地がないからだ。なぜ工場の奴等にもっと厳しく掛合って遣らないのだ。唯(た)った一人の妹を殺されて、黙っている奴があるものか。
中二 でも、粗相で死んだのですからね。誰が悪いと云うわけでもない。今もいう通り、これも拠(よんどこ)ろない災難と諦めるの外はありませんよ。ねえ、お父さんも諦めてください。
李中行 まったく諦めるより外はないが……。これ、中二、おれはどうも気にかかってならない事がある。娘は自分の方から機械のそばへ寄って行って、調べ革とかいうものに捲き込まれたのだろうか。
中二 そんなことを云う者もありますが……。どうも確なことは判りませんよ。(考えて。)まあ、嘘でしょうね。
李中行 (疑うように。)嘘だろうか。
柳 嘘だ、嘘だ。わたしはさっきから嘘だと云っているじゃあないか。おまえさんも判らない人だね。(上のかたを見て。)高田さんと云う人もあるのに、娘がなんで自分で死ぬものかよ。
中二 (うなずく。)どう考えても粗相ですよ。
李中行 そこで、工場の方では幾らぐらいの金を呉れるのだろうな。
中二 工場の方にも色々の規定があるのだそうで、妹には三千二百円くれると云うことです。
李中行 三千二百円……。こっちの両(テール)に直すと、幾らほどになるのだな。
中二 この頃は上海の銀相場が廉いから、こっちの一両は日本の八十銭……。三千二百円は丁度こっちの四千両(テール)に相当しますね。
李中行 (愕然として叫ぶ。)四千両……。四千両……。(中二の胸をつかむ。)これ、ほんとうに四千両か。
中二 そうです、そうです。
李中行 四千両……。ああ、怖ろしいことだ。
(李は掴みし手を放して、よろよろと倒れかかるを、中二は抱える。)
中二 これ、どうしたんです。お父さん、しっかりおしなさいよ。
柳 お前さんまでが何(ど)うしたんだよ。
(この騒ぎに、高田も寝室より出づ。)
高田 お父さんが又どうかしたんですか。さっきも驚いて倒れかかったが……。(又もや嘆息して。)まったく無理もないな。
李中行 (唸るように。)水をくれ……。水をくれ……。
(中二と高田は李を介抱して榻にかけさせ、柳は茶碗に水を汲んで来て飲ませる。これで少しく落付くと、高田も棚の茶碗を把りてバケツの水を飲む。)
柳 (不安らしく。)急にどうしたんだろうねえ。
中二 脳貧血でも起したのかも知れませんよ。お父さん、もう気分は好いんですか。
李中行 もう好い、もう好い。だが、どうも怖ろしくてならない。(俄に立上る。)これ、そこらに蝦蟆はいないか。
中二 蝦蟆……。
李中行 それ、このあいだの晩の……三本足の青い蝦蟆だ。(恐るる如くに見まわす。)よく見てくれ、探してくれ。
(中二と柳はあたりを見まわす。高田も見まわす。)
中二 蝦蟆なぞは見えませんよ。
高田 そんな物はいません、いません。
李中行 いないか。
中二 相変らず蝦蟆に取憑かれているんだな。(少しく声を強めて。)それはお父さんの眼のせいですよ。
李中行 ほんとうに居ないかな。(腰をおろして大息をつく。)ああ、怖ろしいことだ。
高田 何がそんなに怖ろしいのです。
李中行 いや、まあ、皆んな聴いてくれ。こうなったら正直に打明けるが、このあいだの晩、おれが青蛙神に祈ったときに、どうぞここ一月のうちに八千両(テール)の金をわたくしにお授け下さいと……。
中二 八千両……。
李中行 そうだ、八千両……。実は一万両と云いたかったのだが、それではあんまり慾が深過ぎるかと遠慮して、八千両と祈ったのだが……。そうすると、どうだ。(恐怖に身をふるわせる。)それから五日目の今日(きょう)になって、八千両の半分――四千両が不意に授かるようになった。併しその四千両は……大事な娘の命と引換えになったのだ。
(聴いている三人も思わず顔を見あわせる。)
李中行 ああ、考えても怖ろしい。そこで、残りの四千両――それを授けられる時には、又ひとりの生贄を取られることになるだろう。いや、それに相違ないのだ。(更に身を顫(ふる)わせる。)さあ、今度はだれの番だ……。誰の番だ……。
(三人も一種の恐怖に襲われたように黙っている。下のかたより會徳を先に村の男村の女出で、窓の外より内を窺う。)
李中行 (いよいよ亢奮して。)さあ、今度は誰だ……。誰だ……。だれの命が四千両と引換えになるのだ。
(李は狂うように立ちかかるを、三人は捨台詞にておさえる。會徳等は内をのぞいて不安らしく囁き合う、家々の砧の音高くきこゆ。)

――幕――

青蛙神  第三幕

 第三幕の登場人物

李中行
その妻 柳
そのせがれ 中二
高田圭吉
村の男 會徳
第一の男
第二の男
ほかに村の男三人

          第三幕

 おなじく李中行の家。
 第二幕より更に十五日の後。小雨ふる宵。
(李中行と高田圭吉が卓の前に向い合っている。卓の上には小さいランプが置いてある。薄く雨の音、虫の声さびしく聞(きこ)ゆ。)
高田 (立ちかかる。)相変らずお邪魔をしました。
李中行 (あわてて引留めるように。)まあ、もう少し話して行ってください。お前さんが帰ってしまうと、急にさびしくなっていけない。中二が来るまで待っていて下さいよ、お願いですから……。
高田 (躊躇して。)中二君は今夜も来るんですか。
李中行 来ます、来ます。ゆうべは店の都合で出られなかったが、今夜はきっと来ると云っていました。今夜は泊るでしょう。
高田 泊るんですか。
李中行 なにしろ、娘がああ云うことになってしまって、わたし達ふたりでは寂しくって仕様がないので、主人にも訳を話して、当分は一晩置きぐらいに泊りに来て貰うことにしているのです。それだから、今夜は屹(きっ)と泊りに来ますよ。(寝室をみかえる。)あの一件以来、女房は半病人のような姿でぼんやりしている。私ひとりでは何(ど)うにもなりませんからね。
高田 (嘆息して。)察していますよ。
李中行 察してください。今度のことに就いて、誰でも皆んな気の毒だと云っては呉れるが、そのなかでも本当にわたし達の心を察してくれるのは、高田さん、お前さんばかりだ。ねえ、そうでしょう。お前さんが毎日墓参りに行ってくれるので、娘もどんなに喜んでいるか知れませんよ。(声を陰らせる。)あんなことさえ無ければ、ねえ、お前さん。近いうちに、おたがいに親類になれるのだったが……。
高田 あれ以来、僕も何だか大連にいるのが忌(いや)になったので、いっそ内地へ帰って仕舞おうかとも思ったんですが、帰ったところで仕様もないので、まあ当分はやっぱりここで働くことにしたんです。なんの為に働くのか、自分でも判らないんですが……、(又もや嘆息して。)まあ、我慢して働けるだけは働く積りです。
李中行 おたがいに寂しいのは仕方がない、張合のないのも仕方がない。まあ、まあ、我慢して働くより外はありませんよ。
(柳はやつれたる姿にて、小さい蝋燭に灯をとぼして出づ。)
柳 高田さん、いらっしゃい。
高田 どうですか、気分は……。
柳 なに、どこが悪いと云うわけでもないんですが、なんだか力が抜けたようで……。
高田 御もっともです。それに葬式や何かの疲れもありますからね。まあ、なるたけ体を楽にして、休んでおいでなさい。
柳 じゃあ、御免なさい。(行きかけて耳を傾ける。)雨が又降り出したのか。ああ、さびしい晩だねえ。(力なげに寝室に入る。)
李中行 (小声で。)あの通りですからな。
高田 困りますね。阿母(おっか)さんも不断はなかなか元気が好かったんだが……。
李中行 二口目には亭主に食ってかかって、始末に負えない奴でしたが、あの一件からまるで気抜けがしたようになって仕舞って……。もう少ししっかりして呉れないと困ります。
高田 そうですねえ。(云いかけて、これも耳を傾ける。)さっきから話にまぎれて気が注(つ)かなかったが、阿母さんのいう通り、いつの間にか雨が降り出して来ましたね。
李中行 成程、又ふり出して来たようだ。此頃の秋のくせで仕方がない。
(雨の音。虫の声。それを聴くとも無しに耳を傾けて、二人はしばらく無言。下のかたより第一の男、三十余歳、笠をかぶりて出て、入口の扉を叩く。)
李中行 (みかえる。)中二かな。
(外にては又叩く。)
高田 (立って扉をあける。)中二君ですか。
第一の男 (入り来る。)今晩は……。
李中行 (立上りて、不審そうに。)お前さんはどこの人だな。
第一の男 わたしは旅の者で、奉天の方から大連の町へ来たのですが、……何分初めてのことですから、土地の方角はわからず、日は暮れる、雨は降る、まことに困っているのですが、今晩一晩だけ泊めて下さるわけには参りますまいか。
李中行 (冷(ひやや)かに。)いけない。お断りだ。
第一の男 寝床などは無くても構いません、この土間の隅にでも寝かして下されば宜しいのです。たった一晩だけですから……。
李中行 (声暴(あら)く。)いや、なんと云ってもお断りだ。見識らない人間を泊めることは真平だ。早く出て行ってくれ。
第一の男 どうしてもいけませんか。
李中行 いけない、いけない。
高田 (やや気の毒そうに。)ここは一軒家じゃあない、ほかにも百姓家(ひゃくしょうや)は沢山あるのだから、ほかの家(うち)へ行って頼んで御覧なさい。
第一の男 はあ。(躊躇している。)
李中行 まあ出て行ってくれ。今もいう通り、旅の人間を泊めるのは真平御免だ。すぐに出て行ってくれ。ええ、おまえも強情な男だな。
(李は無理に男を表へ押出せば、男は井戸端へ出て跡をみかえり、やがて笠をかたむけて下のかたへ立去る。)
高田 なんだか変な男だ、ほんとうに奉天から来たのかな。
李中行 奉天から来ようが、遼陽から来ようが、旅の男なぞを泊めることは出来ない。あの青い蝦蟆を持っていた男も、丁度今夜のような雨のふる晩に、無理に泊めてくれと云って押込んで来たのだが、あの時にあの男を泊めて遣らなかったら……。ああ、わたしが悪かったのだ。
(李は悔むように嘆息する。寝室より柳出づ。)
柳 今、だれか来たようでしたね。
高田 知らない人が泊めてくれと云って来たんです。
柳 (李に。)おまえさん、断ったろうね。
李中行 勿論のことだ。今も云っている所だが、知りもしない旅の人間なぞを何(ど)うして迂闊(うかつ)に泊められるものか。無理に断って、逐い出してしまったのだ。
柳 なんでも逐い出してしまうに限るよ。又どんな魔ものが舞い込んで来るかも知れないからね。(云い捨てて、再び寝室に入る。)
高田 (見送る。)やっぱり落付いていられないんですね。
(李は困ったと云うような顔をして、無言にうなずく。高田も気の毒そうに黙っている。雨の音、下のかたより第二の男、やはり第一と同じくらいの年配にて、笠をかぶりて出で、入口の扉をたたく。二人は一旦見返ったが、李はわざと素知らぬ顔をしている。高田は立って扉をあける。)
高田 どなた……。
第二の男 (入り来る。)旅の者ですが、一晩泊めて頂きたいので……。
高田 え、お前さんも泊めてくれと云うのか。
李中行 (ぎょっとしたように、飛び上って呶鳴(どな)る。)いけない、いけない。お断りだ。
第二の男 初めてこっちへ来ましたので、土地の方角はわからず、日は暮れる、雨は降る……。
李中行 (いよいよ呶鳴る。)ええ、同じようなことを云うな。日が暮れようが、雨が降ろうが、それをおれが知ったことか。ここの家は宿屋ではないのだ。
第二の男 宿屋でないのは知っていますが……。
高田 いや、そればかりでなく、ここの家(うち)は忌中だから他人を泊めることは出来ないのだ。ほかへ行ってくれ給え。
第二の男 ははあ、忌中ですか。一体だれが死んだのです。
高田 そんな詮議をするには及ばないから、早く行って呉れたまえ。
第二の男 わたしは疲れ切っているので、もう一足も歩かれないのです。
(男はそこらにある高梁(コーリャン)の束の上に腰をおろす。寝室より柳が窺い出づ。)
柳 おまえさん。又だれか来たようだが、早く断っておしまいなさいよ。
李中行 断っても動かないのだ。(高田に眼配せしながら。)さあ、出て行ってくれ。早く出て行かないと、引摺り出すぞ。
高田 夜の更けないうちに、ほかへ行って頼むが好い。ここの家は忌中だというのに……。
李中行 さあ、出ろ、出ろ。
(二人は立ちかかる。)
第二の男 ああ、なさけを知らない人達だな。
(男は渋々立ちあがりて表へ出づれば、李は扉を手あらく閉める。男は下のかたへ立去る。)
柳 さびしいような、騒々しいような。なんだか忌な晩だねえ。(寝室に入る。)
李中行 入り代り、立ち代り、おかしな奴が押掛けて来て、まったく忌な晩だ。高田さんに居て貰って好かった。私ひとりだったら、あんな奴等はなかなかおとなしく立去ることではない。それに付けても、中二は遅いな。
高田 (腕時計をみる。)もう七時過ぎですから、やがて来るでしょう。あいにくに雨がだんだん強くなったようですね。
李中行 なに、あいつはまだ若いから、些(ちっ)とぐらいの雨には困りもしますまいよ。(云いかけて思い出したように。)いや、あの中二の奴めは早くから日本人の店へ奉公に行って、夜学に通わせて貰ったりして、些っとばかり西洋の本なぞを読むようになったものだから、此頃はだんだん生意気になって、親の云うことなぞは頭から馬鹿にして取合わないのですが、今度のことは全く私が悪かったのです。飛んでもない慾に迷って、青蛙神に願掛けをしたものだから、四千両の金の代りに娘の命を取られるような事にもなったのですよ。誰がなんと云っても、それに相違ないのです。
高田 (まじめに。)そんなことが無いとも云えませんね。
李中行 ところで、お前さん。(あたりを見廻しながら声を低める。)実はね、その三本足の青い蝦蟆がゆうべもここへ出て来たのですよ。
高田 本当にここへ出て来ましたか。あなたの眼のせいじゃあ無いんですか。
李中行 (頭を掉(ふ)る。)いいえ、確に出て来て……。(卓の下を指さす。)この卓の下にうずくまっているのを見付けたので、私は直ぐに捉(つか)まえて……。
高田 (熱心に。)つかまえて……。それからどうしました。
李中行 娘のかたきだから、いっそ踏み殺してでも遣ろうかと思ったのですが……。そんなことをして、又どんな祟りをされるかも知れないと思うと、わたしも何だか怖くなったので、そのまま紙の袋へ入れて、遠い野原へ捨てて来たのです。ねえ、おまえさん。現在わたしがこの手で捉まえたのが、確な証拠ではありませんか。
高田 むむ。(うなずく。)そうして、その蝦蟆はそれぎり姿を見せませんか。
李中行 それはお前さん。わざわざ遠いところへ捨てて来たのだから、二度と帰って来る筈はありません。みんな眼のせいだ、眼のせいだと云っていたが、あの蝦蟆はやっぱり本当にここの家(うち)に忍んでいたのですよ。(高田の顔を覗いて。)お前さんはまだ疑いますか。
高田 疑うと云うわけではありませんが……。不思議ですよ。
李中行 まったく不思議ですよ。
高田 ふむう。(考えている。)
(二人は暫く無言。下のかたより李中二、洋服に雨外套を着て、洋傘をさして出で、入口の扉を叩く。高田はみかえりて立とうとするを、李は制す。)
李中行 およしなさい、およしなさい。今夜のような晩には、又どんな奴が押掛けて来ないとも限らない。迂闊に戸を開けない方が無事ですよ。
高田 いや、今度こそは中二君でしょう。(立って扉をあける。)ああ、やっぱり中二君だ。降り出して困ったでしょう。
中二 雨は仕方もないが、ここらは路が悪いのと暗いのでね。(外套をぬぎながら。)町から来ると、まったく閉口ですよ。
李中行 町に住み馴れたと思って、そんな生意気なことを云うなよ。お前もここで生れて、ここで育った人間ではないか。
中二 阿母さんは……。奥ですか。
(李はうなずく。中二は榻(とう)に腰をかけて、巻煙草を喫(す)いはじめる。)
高田 今夜もお泊まりだそうですね。
中二 ええ。親父やおふくろが頻りに寂しがるので、主人にも訳を話して、まあ当分は一晩置きぐらいに泊まりに来ることにしているんです。(思い出したように。)ああ、丁度好い。高田さん、あなたからも親父に云い聞かせて頂きたい事があるんですがね。
高田 どんなことです。
中二 御承知の通り、妹が今度の災難について、あなたの工場から三千二百円の弔慰金をとどけて呉れたでしょう。勿論、葬式や何かで幾らかは使いましたけれど、三千円余りの金はまだ残っているんです。その金を差当りどうすると云うことも無いんですから、町へ持って行ってどこかの銀行へ預けて置けと云うんですが、親父がどうしても承知しないんです。
高田 銀行は不安心だとでも云うんでしょうか。
李中行 そうです、そうです。お前さんもよく知っていなさるだろうが、この三四年のあいだに銀行は幾つも潰れている。去年もあの取付け騒ぎで、日本の銀行と支那の銀行が二つも一度に潰れてしまったではありませんか。
高田 それは近年怪しげな銀行がむやみに殖えたからで……。一口に銀行と云っても、そのなかには確な銀行もありますよ。現に僕の工場で取引をしている二三の銀行などは、相当に信用もあり、確実だと聞いていますが……。
李中行 いや、誰だって確でないと思う銀行にあずける者はない。確だと思えばこそ預けるのだが、それが案外にばたばたと潰れてしまうのだから、めったに油断はできない。なんでも自分の金は自分がしっかりと預かっているに限りますよ。五分の利が付くとか、六分の利が付くとか、そんな慾張ったことを考えるから、元も子もなくして仕舞うことになる。現にわたしの知っている者でも、あの銀行騒ぎのために大損(おおぞん)をした者が幾人もあります。娘の命と掛け換えの大事の金を、どうしてそんな危ないところへ預けて置かれるものですか。たとい忰がなんと云っても、お前さんが何と勧めても、こればかりは私がどうしても不承知ですよ。(寝室をみかえる。)女房だって不承知に決まっています。(中二に。)あの金は高田さんの工場からおれ達夫婦に呉れたのだ。おまえに呉れたのでは無いのだぞ。おれ達の金を何(ど)うしようと、おれ達の勝手ではないか。おまえが余計な世話を焼くには及ばないのだ。(卓を叩く。)
中二 お父(とっ)さんは相変らず頑固だなあ。(高田と顔をみあわせて苦笑いする。)
李中行 はは、安心していろ。おれだって迂闊なことをするものか。あの金はみんな金貨や銀貨に引きかえて、大きい瓶のなかに入れて埋めてあるのだ。そうして置けば、誰も気の付く筈がない。だれにも取られる筈がない。はは、どんなものだ。はははははは。
高田 そうして置いたら大丈夫かも知れませんが、その代りに利子が取れませんね。
李中行 又それを云いなさるか。若い人達はそれだから困るな。利息などを取ろうとするから、却って大きい損をするのだ。
(高田は笑いながら中二と再び顔を見合わせ、とても云っても無駄だという思入れ。中二もあきらめたように首肯(うなず)く。李はやがて立上る。)
李中行 いつも云うことだが、年寄りと若い者とはどうも話が合わない。高田さん。せがれが帰って来ましたから、若い同士でまあゆっくりお話しなさい。私は御免を蒙ってお先へ休みますからな。
高田 相変らず早寝ですね。
李中行 早寝は昔からの癖ですよ。
(李は笑いながら寝室に入る。二人も笑いながら後を見送る。)
中二 あれだから話にならない。はははははは。
高田 いや、日本でも田舎へ行くと、やっぱりあんな年寄りがありますよ。
中二 そうですかなあ。いや、それがおかしいんですよ。あなたの工場から妹の弔慰金を送って来ると、親父はしきりに気味を悪がって、そんな金を貰うと跡がおそろしいと云って、容易に受取ろうとしなかったのを、私たちが無理に勧めて受取らせたんです。ところで、さあ其金を自分の手に受取っていると、又むやみにそれが惜しくなって、銀行へも預けないで自分がしっかり握っていると云うんだから、可笑(おか)しいじゃありませんか。一体、どこへ埋めたのかな。(立って土間をみまわす。)それとも畑のなかへでも埋めたかな。
高田 お父(とっ)さんは工場から届けて来た弔慰金をどうしても受取らないと云うのを、私達が色々に説得して受取らせることにしたんですが……。青蛙神に八千両(テール)の金を祈って、扨(さて)その半額の四千両が手に入るようになると、その代りに娘が命を取られた。してみると、残りの四千両が手に入るときには、更に第二の犠牲を払わなければならない。こう思うと、お父さんの怖ろしがるのも無理はないかも知れませんね。
中二 私もこのあいだ親父の話を聴いたときには、一旦はなんだか変な心持にもなりましたが、つまり偶然の暗合で、別にどうと云うことも無いんですよ。(笑いながら。)あなたは青蛙神とか云うものを信じますか。
高田 さあ、信じると云うわけでもありませんが……。今もいう通り、八千両(テール)の金を祈って、それから五日目に丁度その半額の金が手に入るというのは……(すこし考えて。)勿論、偶然の暗合ではありましょうが……。私はこのごろ好んで怪談の書物を読んでいるせいか、こういう場合には兎角その方へ引き付けて、ミステリアスに考える傾きがあるようです。
中二 そうすると、あなたも親父とおなじように、第二の犠牲を恐れているんですか。
高田 いや、そうまではっきりとも考えていないんですが……。お父さんは余程それを気にしているようですね。
中二 親父は勿論、おふくろも頻りにそれを気に病んでいるようですから、私は努めてその迷いを打ち破ろうとしているんですが……。(又笑う。)今のお話の様子じゃあ、あなたも私の味方にはなって呉れそうもありませんね。
高田 いや、味方になりますよ。
中二 でも、あなたは今度の出来事を偶然の暗合とばかりは認めていないんでしょう。
高田 そこが自分にもよく判らない、いわゆる半信半疑なんですが……。まあ、いずれにしても、この際お父さんや阿母さんに余計な心配をかけるのは好くありませんから、私も努めて打ち消すように注意しますよ。
中二 どうぞそう願います。なにしろ、親父もおふくろも非常な迷信家ですから……。
高田 (自分を嘲(あざ)けられたような軽い不快を感じながら。)私もその迷信のお仲間かも知れませんよ。はははははは。(無理に笑いながら、立って歩きまわる。やがて立停まって。)ゆうべも又ここへ蝦蟆が出たそうですね。
中二 ゆうべは忙がしいので、わたしは泊りに来ませんでしたが……。親父が又そんなことを云いましたか。
高田 つかまえて、何処へか捨てて来たそうです。
中二 はあ、そうですか。(笑う。)親父もよく色々のことを云いますね。
高田 眼で見たばかりでなく、その蝦蟆を捉(つか)まえたと云うのだから、嘘じゃ無いでしょう。
中二 嘘じゃ無いかも知れません。ここらには蛙のたぐいは沢山棲んでいますからね。
高田 併し三本足の青い蝦蟆なんぞは滅多に棲んでいないでしょう。
中二 (冷(ひやや)かに。)今のおやじの眼には、どんなひきがえるを見ても青く見えるでしょう。三本足にも見えるでしょうよ。
高田 (いよいよ不快を感じて。)そう云えばそうかも知れませんね。やっぱりあなたの方が現代人らしい。(又もや歩きまわりながら、思い出したように腕時計をみる。)ああ、いつまでもお饒舌(しゃべり)をしてしまった。じゃあ、今夜はもうこれでお暇(いとま)しましょう。
中二 まだなかなか降っているようだが、傘を持っていますか。
高田 なに、近い所ですから……。
中二 まあ、これを持っておいでなさい。(自分の洋傘を取って渡す。)
高田 じゃあ、ちょいと拝借して行きます。お休みなさい。
中二 おやすみなさい。
(高田は洋傘をさして表へ出で、下のかたへ去る。雨の音。)
中二 よく降るな。起きていても仕様がない。私も今夜は早寝をするかな。
(中二はランプを持ちて寝室に入る。舞台は暗くなる。)
 舞台は再び薄明るくなる。雨の音。
(先刻の男二人は下のかたの窓を破りて忍び入りと覚しく、第一の男は手に火縄を振り、第二の男はマッチを持っている。)
第一の男 戸締りがなかなか厳重なので、手間が取れた。
第二の男 泊り込んで仕事をしようと思ったのだが、おやじめ、油断をしないので困った。
第一の男 (小声で。)ここらか。(火縄を振る。)
第二の男 むむ。おれは確に見て置いた。(マッチを擦る。)おやじはこの土間のまん中に埋めていたのだ。
第一の男 音のしないように邪魔な物を片付けろ。だが、こんな家に大金が仕舞ってあろうとは思いも付かないことだな。
第二の男 それも娘の死んだお蔭だ。
(二人はそっと榻(とう)を片寄せ、更に卓を片寄せる。それから壁の隅にある鋤と鍬のたぐいを持ち来りて、卓の下と思われるあたりを掘り始める。)
第二の男 どうも暗いな。
第一の男 おれが火縄を振っているから、お前ひとりで掘れ。
(第一の男は火縄をふり第二の男は土を掘る。)
第二の男 占めた。鍬の先にがちりと中(あた)った。
第一の男 これ、静(しずか)にしろ。
第二の男 おまえも手をかして呉れ。
(二人は土の中より一つの瓶を重そうに引き上げる。寝室の扉をあけて、中二は窺っている。)
第一の男 なかなか重いな。
第二の男 なにしろ三千両(テール)以上の金が這入(はい)っているのだからな。
第一の男 さあ、めいめいに担ぎ出そう。
(二人は瓶の中の金貨と銀貨をつかみ出して、用意の麻袋に詰めている。それを見すまして中二は跳り出づ。)
中二 この泥坊……。
(中二は第一の男の襟髪をつかんで引き倒せば、第二の男は袋をかついで逃げようとするを、中二は探りながら追いかけて引き戻す。その間に第一の男も袋をかついで逃げようとするを、中二は又ひき戻す、三人暗闇。そのはずみに、足を踏みはずして瓶の穴に落ちるもあり、片寄せたる卓や榻につまずいてがらがらと倒すもある。この物音に、李も寝まき姿にて寝室より出づ。)
李中行 これ、どうした、どうした。
中二 お父さん。賊です……。泥坊です……。
李中行 なに、泥坊だ……。(引返して寝室より銅鑼(どら)を持ち来りて、叫ぶ。)泥坊だ……。泥坊だ……。(銅鑼を打つ。)
(この声を聞きつけて、柳も寝室より窺い出で、おなじく声を揃えて叫ぶ。)
柳 どろぼうだ……。泥坊だ……。みんな来てください。
李中行 どろぼうだ……。泥坊だ……。(むやみに銅鑼を打ちつづける。)
(形勢非なりと見て、第二の男は袋を投げ捨て、窓より表へ飛び出して、下のかたへ逃げ去る。第一の男は逃げ場をうしない、隠し持ったるピストルを取り出して、つづけて二発撃つ。その一発は中二の脇腹に中りて倒れる。男は落ちたる金袋を拾いて逃げようとする時、あやまって瓶の穴に落ちて転ぶ。李は銅鑼を柳に渡し、探り寄って男を押えつける。)
李中行 さあ、泥坊をおさえたぞ。
(中二も這い寄って男をおさえる。男は跳ね起きようとするを二人は必死となって捻じ付ける。柳もむやみに銅鑼を打つ。)
李中行 (叫ぶ。)泥坊だ、泥坊だ……。誰か来てくれ。
柳 (叫ぶ。)どろぼうだ……。泥坊だ……。
(下のかたより高田圭吉、シャツ一枚にてズボンの裾をまくり上げ、跣足(せんそく)にて走り出づ。雨の音。銅鑼の音。夫婦の叫ぶ声。)
高田 泥坊はこっちですか。銅鑼やピストルの音が聞えたようだが……。
李中行 ここですよ、ここですよ。
(高田は窓の破れたるを見て、そこより内へ飛び込む。このとき男はようよう跳ねかえして逃げかかり、出逢いがしらに高田に突きあたる。二人は無言にて格闘。高田は遂に男を組み伏せる。)
高田 早く燈火(あかり)をみせて下さい。
(李はすぐに寝室へ引返してゆく。柳もつづいて入る。男は跳ね返そうとするを、高田はおさえている。中二は倒れたままで唸っている。やがて李は蝋燭をとぼして出づ。)
李中行 つかまえましたか。
高田 つかまえました。早く縄を下さい。
(李は土間の隅から縄を持ち来り、高田に手伝いて男を縛りあげる。下のかたより會徳を先に、近所の男三人出づ。)
會徳 (窓から覗く。)もし、泥坊が這入ったかな。
李中行 むむ、この通りだ。
(會徳等も窓から飛び込む。柳もランプをとぼして出で、室内は明るくなる。)
會徳 どろばうは這奴ひとりか。
李中行 もう一人いたらしいが、先へ逃げてしまったのだ。
高田 此頃はここらへも馬賊が入り込んで来たというから、こいつ等もその同類かも知れませんよ。
柳 (中二をみつけて叫ぶ。)もし、おまえさん。中二が倒れていますよ。
李中行 なに、中二が……。
(人々も中二に眼をあつめる。)
男甲 なるほど、中二さんが倒れている。
男乙 もしや怪我でもしたのではないか。
男丙 なんだか苦しそうに唸っているようだぞ。
李中行 (中二をかかえ起す。)これ、どうした、どうした。
中二 (唸る。)むむ、ピストルで……。
高田 え、ピストルで……。(これも進みよって抱えあげる。)して、どこを撃たれたんです。
中二 脇腹を……。
高田 それはいけない。(會徳等に。)誰か早く町へ行って、医者を呼んで来てくれませんか。僕の工場のすぐ傍に病院がありますから……。いや、君達じゃあ判らないかも知れない。僕が行って来よう。
(高田は立ちかかれば、中二はズボンをつかむ。)
中二 まあ、待ってくれ給え……。待ってください。僕は……私はもう助からないかも知れない。
高田 なに、ピストルの弾(たま)の一つぐらい……気の弱いことを云っちゃいけない。大丈夫……大丈夫だ。
中二 それにしても……ちょっと待って……。実は私は……傷害保険を付けています。三千円……。
高田 傷害保険……三千円……。
中二 親父はまだ知りますまいが、その保険の受取人は親父の名前になっているのです。万一わたしがこのまま死んでしまった暁には……あなたが万事の手続きをして……その三千円をうけ取って……おやじの手へ渡して遣ってください。お願いです。
高田 判りました、判りました。承知しました。
中二 それから貯蓄銀行に……わたしは二百円ほどの金を預けてあります。それも一緒に受取って遣って下さい。(云いかけて弱る。)
高田 (耳に口をよせて。)承知しました。保険が三千円、貯蓄銀行の預金が二百円……。もうそれぎりですか。
中二 それぎりです、それぎりです。……どうぞ宜しく願います。願います……。(云いかけていよいよ弱る。)
高田 これ、しっかりして、しっかりして……。
李中行 これ、中二……中二……。
柳 (泣く。)しっかりしてお呉れよ。
(この隙をみて、第一の男は縛られたるままに突然立上って逃げようとするを、會徳等が走りかかって押え付ける。)
會徳 こいつ、油断のならない奴だ。
男甲 早く警察へ引渡して仕舞おうではないか。
男乙丙 それがいい、それが好い。
高田 途中で逃がさないように気をつけて下さいよ。
會徳 なに、こっちは四人だから大丈夫だ。さあ、行け、行け。
(會徳は男の縄を取り、甲乙丙も付き添いて、入口の扉をあけて下の方へ去る。中二は父と母とに抱かれながら瞑目する。)
高田 (のぞく。)もういけませんか。
柳 いけないようですよ。
高田 (呼ぶ。)中二君……中二君……。(嘆息しながら頭を掉(ふ)る。)ああ、もういけない。残念だなあ。
李中行 娘が死んで、まだ半月経つか経たないのに、せがれが又こんなことになるとは……。私はよっぽど祟られているのだ。(気がついたように。)もし、高田さん。中二は保険を付けていたそうですね。
高田 こういう事になるのを予期していたわけでも無いでしょうが、中二君はなぜか傷害保険を付けていたそうで、その保険額は三千円だと云うことです。
李中行 三千円……。
高田 ほかに二百円の貯蓄があるそうです。
李中行 そうすると、両方あわせて三千二百円か。
柳 娘が死んだときに貰ったのも三千二百円だったね。
李中行 (叫ぶ。)そうだ、そうだ。今度もやっぱり四千両だ、四千両だ……。
高田 (唸るように。)むむ、四千両……。第二の犠牲だ。
李中行 妹が四千両……。兄が四千両……。八千両でとうとう子供ふたりの命を売ってしまったのだ。ああ、何ということだ。
(李は自分のあたまを掻きむしりながら、狂うように室内をあるき廻ると土間に落ちたるピストルにつまずき、拾い取ってランプの灯に照らして見る。)
高田 (のぞく。)ピストルですね。今の馬賊が落して行ったんでしょう。(李の手より受取って見る。)連発銃で、まだ弾(たま)が篭めてあるらしい。これは証拠物だから保管して置かなければなりません。(卓の上に置く。)
(柳は中二の死骸をかかえて泣いている。ランプのひかり薄暗くなる。土間の隅に三足の青蛙あらわれて、青き光を放つ。李はそれを見つけて又もや狂うように叫ぶ。)
李中行 (指さしながら。)あ、又来た、又来た……。
高田 え。(みかえる。)おお、蝦蟆だ、蝦蟆だ。
李中行 ゆうべ捨てて来たのに、又いつの間にか帰って来て、今度は中二の命を取ったのか。(罵る。)畜生……畜生……。貴様のおかげで、大事の息子も娘もみんな殺されてしまったのだ。金なんぞは要らないから返してやるぞ。(そこらに落ちたる金貨や銀貨をつかんで、青蛙に叩き付ける。)さあ、息子をかえせ、娘を返せ。
(李は哮(たけ)り狂って、手あたり次第に金貨や銀貨をなげ付け、更に卓の上のピストルを把れば、高田は見かねて支える。)
高田 まあ、お待ちなさい。
柳 (おなじく支える。)そんなことをして、又どんな祟りがあるかも知れないから、およしなさいよ。
李中行 ええ、祟るならどんなにでも祟ってみろ、もう斯(こ)うなったら息子のかたきだ、娘のかたきだ。畜生、唯は置くものか。
(李はピストルを把って進もうとするを、高田と柳は支える。李は振放そうと争うはずみに、ピストルの曳金は外れて、我手でわが胸を撃ちて倒れかかる。)
高田 (李をかかえながら。)もし、どうしました……。どうしました。
柳 お前さん……。どうしたのよ。
(李は二人に介抱されながら土間に倒れて、持っているピストルを取落す。ランプは明るくなりて、青蛙は光の消えたるままに残っている。薄く雨の音。入口の扉を叩く音。高田は気がついて見返る。)
高田 あ、誰か又来たようだ。
(高田は行きかかれば、柳は恐るるように引き留めて、行くなというに、高田はすこしく躊躇する。再び扉をたたく音。高田は又行きかかるを、柳は又ひき留める。暫時の沈黙。三たび扉を叩く音。)
高田 だれか村の人が来たんでしょう。それとも警察の人か。(柳を押退けて。)なに、大丈夫。怖いことはありませんよ。
(高田は思い切って行きかかれば、柳は土間に落ちたるピストルを拾い取って渡す。高田はピストルを手に持ちて扉をあけると、第一幕の旅の男、小さい革の箱をかかえ、片手に竹笠を持ちて入り来る。)
柳 (すかし見て。)あ、おまえさんは……。あの人だ、あの人だ……。
旅の男 はい、十五夜の晩に来た旅の者です。
高田 では、青蛙神の蝦蟆を持ち歩いている人か。
旅の男 そうです。(土間の青蛙に眼をつける。)おお、やっぱりここにいましたか。私はこれを探しに来たのです。(男は土間にひざまずいて呪文を唱え、やがて箱の蓋を開けば、青蛙は跳って箱に入る。男は箱をかかえて立つ。)
旅の男 これで私も安心しました。どなたも御免ください。(男は瓢然として表へ出てゆく。高田と柳は魅せられたように無言にて見送る。)
李中行 青蛙神……青蛙神……。
(李は唸りながら起きようとして又倒れる。高田と柳は心づいて介抱する。雨の音。)

――完結――

(「舞台」昭和六年七月号~八月号掲載/未上演)

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底本:「伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集」学研M文庫、学習研究社
     2002(平成14)年3月29日初版発行

初出:「舞台」    1931(昭和6)年7月~8月号

青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/

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2009年1月23日 (金)

フレデリック・マリヤット 『人狼』 あらすじ

小帆船の船乗りとして働くクランツは、その奇妙な生い立ちを友へ語る。

彼の一家はトランシルヴァニアの農奴の下働きであった。 
或る日、領主が彼の母に目をつけて誘惑する。
二人が寝床を共にしているところへ、クランツの父は踏み込みこんだ。
領主と妻を殺害した父は子を連れ、魔物が出るというハルツ山の奥深くに逃れた。

それから数年、雪深い山中の厳しい暮していたのある時、小屋の外から狼の鳴声がきこえる。狼を追って狩りに出かけた父は山中で見失うのだった。
そこで行き倒れになりかけている父娘をみつけて家に連れ帰る。
やがてその娘と恋仲になった父は、彼女の父に申し出て結婚をするのだ。
山の霊に夫婦の誓いを立てるという、奇妙な祈りを娘の父が望んだ。
違和感を持ったが、結婚を認めさせるために娘の父の言うとおりにした。

それから暫くしてクランツの兄と妹が死んでしまう。
そして妻が狼の化身だった、そのこと知った父は妻を撃ち殺す。
狼の父から夫婦の誓いを破ったからには、山の呪いを受ける宣言される。
妻を横取りされた父の苦しみ、狼を殺さなくては生きていけなかった雪山。
これらの因果応報の中で父は死んでゆくのだった。

そして今友の前で、船乗りをしているクランツにも呪いが降りかかる。

Frederick Marryat (10 lipca 1792 – 9 śyrpńo 1848) - pisoř angelski, autor nowel i powjeśći uo tymatyce maryńistyčnyj i awanturńičyj. Bydůnc uoficerym floty brytyjskij uśiuowou přećiwstawjać śe procederowi přimusowygo poboru do marynarki wojynnyj, publikujůnc brošura "Zalecyńo suužůnce zńyśyńu uobecnygo systymu přimusowygo wćelańo do floty". Swoje morske dośwjadčyńo wykořistou w půźńijšej twůrčośći. Wzorujůncy śe na uopowjadańach Charlesa Dickynsa, dźiś uwažany za jydnygo s pjůńyrůw powjeśći maryńistyčnyj.

Twůrčość
The Naval Officer, or Scenes in the Life and Adventures of Frank Mildmay (1829)
The King's Own (1830)
Newton Forster or, the Merchant Service (1832)
Peter Simple (1834)
Jacob Faithful (1834)
The Pacha of Many Tales (1835)
Mr Midshipman Easy (1836)
Japhet, in Search of a Father (1836)
The Pirate (nowela)(1836)
The Three Cutters (1836)
Snarleyyow, or the Dog Fiend (1837)
Rattling the Reefer (s Edwardem Howardem) (1838)
"Uokrynt widmo" (The Phantom Ship) (1839)
Diary in America (1839)
Olla Podrida (1840)
Poor Jack (1840)
Masterman Ready, or the Wreck in the Pacific (1841)
Joseph Rushbrook, or the Poacher (1841)
Percival Keene (1842)
Monsieur Violet (1843)
Settlers in Canada (1844)
The Mission, or Scenes in Africa (1845)
The Privateersman, or One Hundred Years Ago (1846)
The Children of the New Forest (1847)
The Little Savage (wydano po śmjerći autora, 1848)
Valerie (nowela, wydano po śmjerći autora, 1848)
Zdrzůdło "http://szl.wikipedia.org/wiki/Frederick_Marryat"

Frederick Marryat - Wikipedia, the free encyclopedia

2009年1月22日 (木)

人狼  第一幕

人狼  ――Were-Wolf――
岡本綺堂

 登場人物
田原弥三郎
弥三郎の妻おいよ
弥三郎の妹お妙
猟師 源五郎
ホルトガルの宣教師 モウロ
モウロの弟子 正吉
村の男 善助
小坊主 昭全
村の娘 おあさ、おつぎ

第一幕

          一

 桃山時代の末期、慶長初年の頃。秋も暮れかかる九月なかばの午後。
 九州、肥前国。島原半島に近き山村。田原弥三郎の家。藁葺(わらぶき)屋根の二重家体(にじゅうやたい)にて、正面の上のかたに仏壇、その下に板戸の押入れあり。つづいて奥へ出入りの古びたる障子。下のかたは折りまわして古びたる壁、低き竹窓。前は竹縁にて、切株の踏み段あり。下のかたの好(よ)きところに炉を切りて土瓶をかけ、傍らに粗朶籠(そだかご)などあり。庭には秋草など咲きて、上のかたには大竹薮あり。下のかたには低き丸太の柱を立て、型ばかりの木戸あり。木戸の外には石の井戸ありて、やや赤らみたる柿の大樹あり。うしろは田畑を隔てて高き山々、恰もこの村を圧するが如くに近くみゆ。

(弥三郎の妹お妙、十七八歳。村の娘おあさ、おつぎと共に針仕事の稽古をしている。百姓善助、五十余歳、鍬を持ちて縁に腰をかけている。砧(きぬた)の音きこゆ。)
善助 みんな好く精が出るな。なんと云っても、女は針仕事が大事だ。こう遣って精を出していれば、どこへでも立派にお嫁さんに行かれるぞ。はははははは。
(弥三郎の女房おいよ、二十七八歳、色白くして品よき女、奥の障子をあけて出づ。)
おいよ 善助さん。あさ夕はめっきり冷えて来ましたな。
善助 いくら九州はあたたかいと云っても、九月の声を聞くと秋風が身にしみて来る。どこかで砧を打つ声が聞えたり、この娘たちが冬物を縫っているのを見たりすると、冬がもう眼の前へ押寄せて来たように思われますよ。
おいよ まったく冬はもう眼の前……。(娘等をみかえる。)それでも皆んなが精を出すので、親御さん達は仕合せです。
善助 それもお前が気をつけて、よく仕込んで呉れるからのことで、近所でも皆んな喜んでいます。時に旦那どのは、まだ山から戻られませんかな。
おいよ いつもの通り、朝から出て行きましたが、此頃はちっとも猟がないので、それからそれへと獲物をあさって、あまり深入りをせねばよいがと案じています。
善助 その獲物がないというのも、例の狼めがここらを荒らすせいではないかな。
おあさ ほんに此頃はここらへ悪い狼が出るので、日が暮れると滅多に外へは出られません。
おつぎ あしかけ三月のあいだに、この村中で七人も咬まれたとはまったく怖ろしいことですな。
お妙 兄さんも早くその狼を退治したいと云っていますが、なかなか姿をみせないのでどうすることも出来ないそうです。
善助 今までここらにそんな怖ろしい狼が出るという話は、ついぞ聞いたこともなかったが、山伝いに何処からか悪い狼が入り込んで来たと見える。初めは新仏(しんぼとけ)の墓をあらして、死骸をほり出して喰っていたが、それがだんだんに増長して、此頃は往来の人間にまで飛びかかるようになって来たので、村中は大騒ぎで、このあいだから二度も狼狩りを遣ってみたが、どうしても見付からない。もう立去ったのかと思って安心していると、また出て来る。現に一昨日(おととい)の晩も長福寺の小坊主が檀家から帰る途中で飛び付かれた。
おあさ それでも運よく無事に逃げ負(おう)せたそうですな。
善助 むむ。あの小僧はふだんから悪戯者(いたずらもの)だけに、持っている松明(たいまつ)を叩きつけて、一生懸命に逃げ出してあぶない所を助かったそうだ。
おつぎ 小僧さんの話では、その狼はなんだか人間のような姿をしていたと云うではありませんか。
善助 (笑う。)はは、子供のいうことが当てになるものか。暗いなかから不意に飛び出して来たのと、こっちが慌てているのとで、そんな風にも見えたのだろう。狼が人間のような姿をしていては大変だ。
おあさ 姿ばかりでなく、顔までが真白な女のように見えたとか云いますが……。
善助 狼の顔が女にみえた……。(又笑う。)それはいよいよ大変だ。勿論、狼にも雌雄(めすおす)はあるが、いくら雌でも女のような顔はしていないだろう。こう云うときには色々の噂が立つものだ。はははははは。
(おいよは終始無言で聴いている。)
お妙 いつかはあの山に天狗が出ると云って、大騒ぎをしたことがありましたな。
おつぎ それから山男が出て来て、子どもを攫(さら)って行ったこともありました。
善助 むむ。天狗の出たこともある、山男の出たこともある。なにしろ斯(こ)ういう山国(やまぐに)には不思議なことが絶えないので困る。いや、飛んだ長話でお邪魔をしました。(立上る。)
おいよ もうお帰りですか。
善助 狼の出ないうちに早く帰りましょう。
おあさ (おつぎと顔をみあわせて。)もう狼が出ますかえ。
善助 なに、狼の出るのは大抵夜更けだというから、日の暮れないうちは大丈夫だ、大丈夫だ。(おいよに。)では、御免なさい。
(善助は会釈して下のかたへ去る。)
おあさ わたし達もそろそろ帰ろうではありませんか。
おつぎ もう片付けて帰りましょう。
おいよ ふだんと違って此頃は、帰りが遅いと内でも案じるであろうから、日の暮れぬうちに早くお帰りなさい。
二人 あい、あい。
(おあさとおつぎは仕立物を早々に片付ける。)
二人 では、あした又お稽古にまいります。(おいよとお妙に会釈して縁を降りる。)
お妙 気をつけておいでなさい。
おいよ 狼の噂の絶えぬあいだは、決して夜歩きをなさるなよ。
二人 あい、あい。
(おあさとおつぎは足早に下のかたへ去る。お妙は後を見送る。)
お妙 此頃は寄れば障れば狼の噂ばかりで、ほんとうに忌(いや)なことですな。兄さんも狼のありかを探して、山の奥まで踏み込んだのではありますまいか。
おいよ そんなことかも知れません。今こそ狩人になっているが、おれも昔は武家の禄(ろく)を食(は)んだ者、今度の狼はどうでも我手で仕留めねばならぬと、日頃から云い暮らしていられたから、きょうも山奥へ踏み込んで……。(向うを見る。)当途(あてど)も無しに峰や谷間(たにあい)を駈けまわって、木の根や岩角にでも蹉(つまず)くか、谷川へでも滑り落ちるか、飛んだ怪我でもしなさらねばよいが……。ここへ来てから足かけ八年、毎日の山かせぎには馴れていても、やっぱり戻るまでは案じられます。
(お妙は仕立物を片付ける。時の鐘。木の葉さびしく散る。)
おいよ (空をみる。)秋の日は短い。きょうももう暮れるか。
(鐘の声つづけて聞(きこ)ゆ。)
お妙 (おなじく空を見る。)日が暮れると、なんだか怖ろしいようです。
おいよ お前は日が暮れるのがそんなに怖ろしく思われますか。
お妙 悪い狼が出るというので……。
おいよ 悪い狼が出るというので……。(ため息をついて。)日が暮れると、わたしもまったく怖ろしい。いや、夜ばかりではない。昼間でも狼の噂を聞くと、わたしは身の毛が悚立(よだ)つような……。(身をふるわせる。)わたしは狼に取憑(とりつ)かれたのかも知れない。
お妙 (ぎょっとして。)え。
おいよ (気をかえて、無理に笑う。)ほほ、おまえは相変らず気が弱い。こんなことを云っているうちに、あの人ももう戻られるであろう。どれ、今のうちに炉の火を焚きつけて置きましょうか。おまえは夕御飯の仕度をして下さい。
お妙 あい、あい。
(薄く風の音。おいよは炉に粗朶(そだ)をくべる。お妙は仕立物を押入れに片付けて、奥に入る。下のかたより長福寺の小坊主昭全、十四五歳。足音をぬすんで忍び出で、木戸の外より内を窺いいる。おいよはやがて心づきて見かえる。)
おいよ そこにいるのは……。
(昭全は返答に躊躇していると、おいよは立って縁さきに出づ。)
おいよ おまえは長福寺のお小僧さんではないか。何でそこらに立っているのです。
昭全 (急に思案して。)実はこの……。(柿の木を指さす。)柿の実を取りに来ました。どうぞ堪忍してください。
おいよ 柿の実ならば、おまえのお寺にも沢山に生(な)っているではないか。(疑うようにじっと見て。)ほんとうに柿の実をぬすみに来たのですか。
昭全 どうも済まぬことをしました。堪忍して下さい。
(云いすてて、昭全は逃るように下のかたへ立去る。おいよは猶(なお)もじっとその跡を見送る。風の音。向うより田原弥三郎、三十四五歳、以前は武士なれど、今は浪人して猟師となっている姿、大小を横えて火縄銃をかつぎ、小鳥二三羽をさげて出づ。)
おいよ おお、戻られましたか。きょうはどうでござりました。
弥三郎 いや、相変らずの不首尾で、山又山を一日かけ廻っても、狼の足あとさえも見付からない。(持ったる小鳥を指さして苦笑いする。)から手で戻るのも忌々しいので、帰りがけにこんな物を二三羽……。人に見られても恥かしいくらいだ。
おいよ それでも何かの獲物があれば結構でござります。幸いに天気は好うござりましたが、山風はなかなか冷えたでござりましょう。早く炉のそばへおいでなされませ。
(砧の音。おいよは桶を持ちて井戸ばたへ水を汲みに出る。弥三郎は縁に腰をかけて、藁の脛巾(はばき)を解き、草鞋(わらじ)をぬぐ。奥よりお妙出づ。)
お妙 お帰りなされませ。
(お妙は先(ま)ず草鞋を片付け、更においよが汲んで来りし桶を受取りて、弥三郎の足を洗わせる。)
弥三郎 稽古の娘たちは帰ったか。
お妙 先刻(さっき)もう帰りました。
弥三郎 あの娘たちも狼の噂に怯えていると見えるな。それも無理のないことだ。
(この話のうちに、弥三郎は足を洗い終りて、炉のまえに坐る。炉の火は次第に燃えあがる。お妙は井戸ばたへ水を捨てに行き、おいよは茶碗に湯をついで弥三郎にすすめる。)
おいよ すぐに御飯をあがりますか。
弥三郎 いや、待ってくれ。おれは又すぐに出なければならないのだ。
おいよ どこへお出でなさる……。
弥三郎 今そこで村の八蔵に出逢ったら、庄屋殿の宅に寄合があるから、直ぐに来てくれというのだ。
おいよ では又、狼狩の相談でござりますか。
弥三郎 (うなずく。)むむ、その相談だ。このあいだから二度までも狼狩を催したが、遂にその姿を見付けることが出来ない。と云って、このままに捨てて置いては、村方一同の難儀になるので、もう一度何とか相談して、今度こそはどうでもその狼めを退治しようと云うのだ。この村に狩人渡世をしている者は、おれのほかに三人あるが、そのなかでもおれは浪人、以前は武士であるというので、こういう時には大将分に押立てられて、何かの采配を振らねばならない。まったく一匹の獣(けもの)のために、諸人が難儀するというのは残念なことだ。なんとか工夫して退治したいと思うのだが……。
おいよ どなたも色々の御心配、お察し申します。
弥三郎 ところで、ここに又ひとつの評議がある。出没自在の狼を人間の力で退治することは覚束ない。いっそ神の力を借りようというのだ。
おいよ 神の力を借りるとは……。どうするのでござります。
弥三郎 おまえも知っている通り、ホルトガルの伴天連(バテレン)が長崎から天草へ渡り、天草から又ここらへ渡って来て、このあいだから切支丹の教えを弘めている。その教えがよいか悪いか、おれにはまだ本当に呑み込めないが、ここらでも信仰している者が随分あるらしい。その信者たちの発議で、切支丹の伴天連をたのみ、狼退治の祈祷をして貰おうというのだ。
おいよ 切支丹の教えの尊いことも、その伴天連のありがたいことも、かねて聴いていましたが……。(考えて。)おまえもそれに同意なさるのでござりますか。
弥三郎 さあ、同意というでもないが、押切って反対もしない積りだ。神の力を頼むものは頼むがよい。人間の力をたのむ者は頼むがよい。どちらにしても、その狼を退治して、諸人の難儀を救うことが出来れば好いのだ。併(しか)しおれは武士の果で、今も狩人を商売にしているのだから、弓や鉄砲で働くのほかはあるまいよ。なにしろ、どんな相談があるか、これから直ぐに行ってみよう。(お妙に。)これ、履物を出してくれ。
お妙 はい。
(お妙は奥に入る。おいよは押入れをあけて袖無し羽織を取出し、弥三郎に着せる。お妙は藁草履を持ち来りて踏み段に直せば、弥三郎は草履を穿いて出る。風の音。)
弥三郎 山ふところは暮れるが早い。もう薄暗くなって来た。おれには構わずに、みんな夕飯を食ってしまえ。
(弥三郎は下のかたへ去る。おいよは門口まで送って出て、あとを見送る。風の音。舞台は次第に薄暗くなる。おいよはやがて引返して内に入る。)
おいよ ほんにもう薄暗くなった。あかりをつけて、早く裏口の戸締りをしましょう。
お妙 まったく此頃は戸締りが大切です。
(おいよにお妙も付添いて奥に入る。風の音。下のかたより以前の昭全が源五郎を案内して出づ。源五郎は二十二三歳の猟師にて、火縄銃を持つ。昭全は家内を指して何か囁けば、源五郎は半信半疑の体(てい)にて考えている。)
源五郎 (小声で。)おまえは確に見たか。
(昭全うなずく。)
源五郎 (また疑うように。)併しこれはよく考えてみなければならない。して、和尚様は何と云われた。
昭全 (小声で。)和尚様は嘘だと云うのだ。
源五郎 むむ。誰でも嘘だと云うだろう。おれにしても本当とは思われないからな。
(源五郎は内をのぞきながら又考えている時、奥よりお妙は行燈(あんどん)をとぼして出づ。)
お妙 誰かそこにいるような。(表をすかし見る。)
源五郎 おお、お妙さん……。(小声で。)おれだ、おれだ。ちょいと来てくれ。
(お妙は源五郎を見つけて、奥をみかえりながら縁を降りる。)
お妙 なにか用ですかえ。
源五郎 むむ。ここでは話が出来ない。まあ、そこまで来てくれ。
(源五郎と昭全は先に立ちてゆく。お妙は再び奥をみかえりながら、そっと出て行く。風の音。奥よりおいよ出づ。)
おいよ 源五郎がよび出しに来て、お妙さんは出て行ったらしい。丁度幸い、今のうちに……。(決心して。)そうだ、今のうちに……。
(おいよは身繕いする。風の音。行燈の火消える。)
おいよ (暗い中で。)おお、あかりが消えた。

――暗転――

          二

 おなじ村の川端。よきところに柳の大樹二三本ありて、岸には芦の花が夕闇に白く咲きみだれている。正面は川を隔てて山々みゆ。
(水の音。下のかたより源五郎とお妙、あとより昭全も出づ。)
源五郎 今もいう通りのわけで、一昨日の晩、昭全さんに飛び付いたのは、確におまえの姉さんだと云うのだ。
お妙 内の姉さんが狼のようになって、往来の人に飛び付くなぞと……。そんな事のあろう筈がないので……。(考える。)わたしにはどうしても本当とは思われませんよ。
源五郎 あんまり途方もないことで、おれにも本当とは思われないが……。それでもこの小僧さんは確に本当だというのだ。
昭全 (進みよる。)本当だ、本当だ。たしかに本当だ。わたしは松明の火で確に見たのだ。狼は火を恐れると云うことを聞いているので、わたしは松明をたたき付けて、一生懸命に逃げたのだ。
お妙 その狼の顔が内の姉さんに見えましたか。
昭全 わたしが何で嘘をつくものか。顔も姿もおまえの家(うち)の姉さんに相違なかったのだ。
お妙 まあ。
(お妙はやはり不思議そうに考えている。)
源五郎 (おなじく惑うように。)そうは云っても、自分の眼で確な証拠を見届けないうちは、おれも迂闊(うかつ)に手を出すことは出来ない。万一それが間違いであったら、取返しの付かないことになる。なにしろ弥三郎どのと相談の上でなければならないが、亭主にむかってお前の女房が狼らしいとは、なんぼ何でも云い出しにくい。お前からそっと兄さんに話してみては呉れまいかな。
昭全 まだ疑がっているのか。わたしはこの二つの眼で見たというのに……。
源五郎 お前ひとりが見たというのでは、まだ本当の証拠にはならないのだ。(お妙に。)おまえにも何か思い当るようなことは無いかな。
お妙 さあ。(又かんがえる。)そう云えば、このあいだの朝、姉さんが表の井戸端で……。血の付いたような着物の袖を……。
源五郎 血の付いたような着物の袖を……。井戸ばたで洗っていたのか。
昭全 それ、それが証拠だ。おまえの姉さんは夜なかに家(うち)を抜け出して、往来の人を喰い殺しに行くのだ。それ見ろ。狼だ、狼だ。
源五郎 まあ、まあ、静(しずか)にしろ。狐や狸が人間に化けるとは、昔からもよく云うことだが、狼が人間に化けて人の女房になり済ましているとは珍しいことだ。兄さんに聞いてみたら、又何か思い当ることがないとも云えないから、是非おまえから話して貰いたい。それがいよいよ狼と決まったら、いくら自分の女房でも兄さんも打っちゃっては置くまい。おれも加勢して……。(鉄砲をみせる。)これで一撃ちにして仕舞わなければならないのだ。
お妙 (身をふるわせる。)ああ、怖ろしい。なんと云うことだろう。わたしは夢のように思われてならない。
源五郎 まったく夢のようだが、今のおまえの話を聞くと、だんだんに疑念が募るばかりだ。
昭全 お前がいつまでもぐずぐずしていると、大事のお妙さんまでも狼に喰われてしまうぞ。
お妙 (源五郎と顔を見合せる。)あれ、あんなことを……。
源五郎 この小僧め。余計なおしゃべりをすると、承知しないぞ。(鉄砲をふりあげる。)
お妙 (遮る。)まあ、子供を相手にしないで……。
源五郎 こんな奴が方々へ行って触れ散らすので、おれが皆んなに戯(からか)われるのだ。貴様こそ狼に喰われてしまえ。
昭全 (頭をおさえて。)やれ、怖ろしい。南無あみ陀仏、なむ阿弥陀仏。
源五郎 (俄(にわか)に上のかたを見る。)や、あっちから来たのはお前さんの兄さんらしいぞ。
お妙 ほんに兄さん……。
源五郎 おれ達はまあ隠れるとしよう。(昭全に。)おまえも早く来い、来い。
(源五郎は昭全を促して、下のかたの芦のなかに隠れる。水の音。薄月の影。上のかたより弥三郎出づ。お妙はどうしようかと躊躇しているうちに、弥三郎は妹をみつける。)
弥三郎 おお、お妙か。今頃どこへ行く。おれを迎いに来たのか。
お妙 いえ、あの……。村はずれまで買い物に行くのです。
弥三郎 まだ日暮れだから狼も出まいが、気をつけて行けよ。
お妙 はい。(行きかけて立戻る。)あの、兄さん……。
弥三郎 なんだ。
お妙 あの……。(云いかけて躊躇する。)
弥三郎 なにか用か。
お妙 (云い出しかねて。)あの……。おまえも気をつけてお出でなさい。
弥三郎 はは、おれは大丈夫だ。(刀の柄を叩く。)何が出て来ても、これで真二つ……。おれはその狼の出るのを待っているのだ。村ではいよいよ切支丹の伴天連をたのんで、有難い祈りをして貰うことに決まったが、さっきも云う通り、祈祷は祈祷、おれは俺だ。おれは鉄砲かこの刀で、見ごとに狼を退治してみせるのだ。
お妙 (探るように。)狼のありかは判りましたか。
弥三郎 わかれば直ぐに退治に行くが……。そのありかが知れないので困るのだ。きょうは一度も源五郎に逢わなかったが、あいつも屹(きっ)と狼のありかを探しているに相違ない。おれも今夜は鉄砲を持ち出して、夜通し村中を見廻ってあるく積りだ。みんなが無暗に切支丹を有難がっているのを聞くと、おれは何だか腹が立って来た。どうしてもあの狼をおれたちの手で仕留めて、切支丹の坊主が偉いか、おれ達が偉いか、この腕をみせて遣らなければならないのだ。
お妙 兄さんの気性としては無理もないことですが、せいては事を仕損じます。よくその正体を見とどけた上で……。
弥三郎 なに、正体を見とどけろと……。
お妙 若(も)しも間違えて、人でも殺すようなことがあっては大変ですから……。
弥三郎 (笑う。)馬鹿をいえ。いくら慌てても、人間と獣とを間違える程のおれでは無いぞ。さあ、暗くならないうちに、早く行って来い。
(弥三郎は向うへ行きかかる。お妙は又よび返そうとして躊躇しているうちに、弥三郎は去る。芦のあいだより源五郎出づ。)
源五郎 兄さんは見つけ次第に、狼を退治する気だな。
お妙 それだから迂闊なことは云われず……。ああ、どうしたら好かろうか。
源五郎 今も聴いていれば、村では切支丹の伴天連をたのんで、祈祷をして貰うことになったそうだが、異国の坊主なぞに何が出来るものか。おれは不断から切支丹は大嫌いだ。兄さんのいう通り、こうなったら意地づくでも、おれたちの手で退治しなければならない。それに付けてもさっきの一件を、よく兄さんに話してくれ。
お妙 どうしても話さなければなるまいか。
源五郎 (じれる。)お前はおれがこれ程に云うのを肯いてくれないのか。
お妙 (慌てて。)いえ、そう云うわけではないけれど……。
源五郎 そんなら早く話してくれ。いいか。
お妙 (仕方無しに。)あい。
(芦のあいだより昭全あわただしく飛んで出づ。)
昭全 それ、何か来た……。何か来た……。(源五郎のうしろへ隠れる。)
源五郎 え。何か来た……。
(源五郎はお妙を囲いながら、下のかたを屹(きっ)と透し見る。)
源五郎 なんにも居ないではないか。こいつめ、おれ達を嚇(おど)かしたな。
昭全 いいえ、どこかで芦の葉のがさがさ云う音がきこえた。
源五郎 芦の葉のがさ付くのは珍らしくない。大かた風の音だろう。はは、臆病な奴だ。なにしろ、いつまでもここにいても仕様がない。さあ、お妙さんはおれが途中まで送って遣ろう。
昭全 わたしを置去りにして、お妙さんだけを送って遣るのか。おまえも随分親切だな。
源五郎 ええ、やかましい。お前なぞは勝手に帰れ、帰れ。
昭全 おれが手柄をさせて遣ろうというのに、仇(かたき)にすることがあるものか。貴様こそ狼に喰われてしまえ。
源五郎 なんだ。
昭全 いや、これはおまえの口真似だ。
(昭全は笑いながら、下のかたへ足早に立去る。)
お妙 まったくあんな小僧が色々なことを云い触らすので、わたし達のことも大抵世間へ知れてしまったような。
源五郎 狼の一件が片付いたら、いっそ兄さんに打明けて、表向きの夫婦にして貰おうではないか。
お妙 そうなれば嬉しいけれど……。
源五郎 いつまでも世間に気兼ねをしているのは詰まらないことだ。
(二人は睦まじく語らいながら、向うへ去る。水の音。下のかたの芦をかきわけて、おいよ忍び出で、二人のあとを見送る。)
おいよ まあ、見付けられないで好かった。こうなったらもう一刻も猶予は出来ない。
(おいよはそこらの小石を拾いて袂に入れる。そのあいだに、下のかたよりホルトガルの宣教師モウロ、四十余歳、旧教の僧服をつけ、頚に十字架かけて出で来り、柳の木かげに身をよせて窺いいると、おいよはやがて合掌して川へ飛び込もうとする。モウロは駆け寄って抱きとめる。)
モウロ お待ちなさい。あなた、どうしますか。
おいよ (身を藻掻(もが)く。)放して下さい、放してください。
モウロ あなたは身を投げますか。いけません、いけません。
おいよ いいえ、放して……。殺して……。
(おいよは振放して飛び込もうとするを、モウロは又ひき戻せば、力余っておいよは地に倒れる。)
モウロ 殺すことはなりません。神さまのお指図です。
(モウロは両手を拡げて、おいよを遮る。おいよは相手が異国人なることを覚って、倒れながらにその顔をみあげる。薄月の影。水の音。)

――幕――

人狼  第二幕

          一

 第一幕とおなじ宵。
 村はずれの一つ家。久しく空家となりいたれば、家内はすべて荒廃したりと知るべく、家内の大部分は土間にて、正面に古びたる板戸の出入口あり。左右の壁は頽(くずお)れ、下のかたの竹窓もくずれて、窓には紅葉しかかりたる蔦がからみて垂れたり。土間には炉を切りて、上のかたには破れ障子を閉めたる一間あり。正面の壁には聖母マリアの額をかけ、その前の小さき棚には金属製のマリアの立像を祭りてあり。よき所に手作りとおぼしき粗木(あらぎ)の床几のごとき腰かけ二脚と、おなじく方形のテーブル様の物あり。下のかたの壁には小さき棚、それに多少の食器のたぐいを列べ、棚の下に水を入れたる手桶、束ねたる枯枝などあり。家の外には立木ありて、あき草高くおい茂り、うしろには山々みゆ。薄月の夜。
(正吉、十五六歳の少年、テーブルの上に蝋燭をとぼし、聖書を読んでいる。外には虫の声きこゆ。下のかたより秋草をかきわけて、宣教師モウロはおいよの手をひいて出づ。)
モウロ (おいよに。)わたくしの家です。お這入(はい)りなさい。
(モウロは入口の戸を叩く。正吉はすぐに床几を立って戸をあければ、モウロは進み入る。おいよもおずおずと付いて入る。)
モウロ (正吉に。)お客あります。火をお焚きなさい。
正吉 はい。
(正吉は無言でおいよに会釈し、枯枝を炉にくべる。おいよは立っている。)
モウロ (床几を指さして。)おかけなさい。ここの家(うち)にはあの子供とわたくしと二人ぎりで、ほかには誰も居りません。あなた、遠慮することはありません。
(おいよは丁寧に会釈して、テーブルの前に腰をかける。モウロも向き合いて腰をかける。)
モウロ (笑ましげに。)わたくしはあなたを識っています。このあいだ庄屋さんの家(うち)で、わたくしが説教をしました。その時に、あなたは庭の大きい木のかげに立って、遠くから聴いていました。違いますか。
おいよ はい。おっしゃる通りでござります。
モウロ わたくしの説教、わかりましたか。
(おいよは無言で俯向(うつむ)いている。)
モウロ (いよいよ打解けて。)そこで、あなたは今夜なぜ自分から死のうとしましたか。
(おいよは矢はり黙っている。)
モウロ そのわけを話してください。(正吉を指さす。)あの子供は長崎の百姓の息子で、父もない、母もない……孤児(みなしご)ですから、わたくしが一緒に連れてあるいて育てているのです。つまりはわたくしの子供も同じことですから、決して遠慮はありません。なんでも正直に話してください。
(おいよは矢はり俯向いている。正吉は火を焚きつけて、湯を沸かす支度にかかる。)
モウロ (重ねて。)あなたは運の悪い人ですか。それとも罪のある人ですか。(おいよの顔をじっと見て。)あなたは何かの罪を犯しましたか。先日も申した通り、罪のあるものは……。(聖母を指さす。)神様の前で懺悔をしなければなりません。
おいよ はい。
モウロ さあ。お話しなさい。(立って、頚にかけたる十字架をわが額にかざす。)神様は聴いておいでになります。わたくしも聴きます。
おいよ は、はい。
(おいよは床几を離れて土間にひざまずき、一種の恐怖に打たれるように身を顫(ふる)わせる。)
モウロ これからあなたがどんな話をなされても、わたくしは決して他人には洩らしません。それは神様の前で誓います。どんな秘密でも、どんな怖ろしいことでも、包み隠さずにお話しなさい。あなたは何かの罪を犯した覚えがありますか。
おいよ はい。(又もや身をふるわせる。)わたくしは……口へ出すのも怖ろしいような大罪を犯しているのでござります。
モウロ (しずかに。)どんなことですか。
おいよ わたくしは人を殺しました。
モウロ 人を殺しましたか。
おいよ (いよいよ声を顫わせる。)はい。人を殺しました。人の生血を啜(すす)りました……。人の肉を喰いました……。わたくしは人間ではござりません。獣でござります。狼でござります。(泣く。)
モウロ あなたは人を殺して……。狼のように、その血を啜りましたか。その肉を喰いましたか。
おいよ はい。一人(ひとり)ならず、七人までも喰い殺しました。わたくしには獣のたましいが乗憑(のりうつ)っているのでござります。こうして女の姿はして居りますが、わたくしの心は怖ろしい狼になって仕舞ったのでござります。(堪えざるように泣き頽(くず)れる。)
(モウロは進み寄って、おいよを抱き起す。正吉も立寄れば、モウロは近寄るなと眼で知らせる。)
モウロ これは大事の懺悔です。こころを落付けてよくお話しなさい。あなたはどうして狼のような心になりましたか。
おいよ それには先ずわたくしの身の上からお話し申さなければなりません。わたくしの夫は田原弥三郎と申しまして、以前は秋月家に仕えた侍でござりましたが、八年以前に仔細あって浪人いたしまして、お妙という妹と妻のわたくしと……。まだ申上げませんでしたが、わたくしの名はいよと申します。
(モウロはうなずきながら、おいよを抱き起して元の床几にかけさせ、自分も元の席に戻る。)
モウロ わかりました。あなたの名はおいよさん。そのあなたと、あなたの夫と、その妹と……。三人の家族ですな。
おいよ はい。夫は浪人の身となりましたので、その後は夫婦兄妹(きょうだい)三人がここに引籠りまして、夫は狩人、わたくしは近所の娘子供に手習や針仕事などを教えまして、何事もなく月日を送って居りますうちに……。まあ、なんという因果でござりましょう。わたくしに不図おそろしい魔がさしまして……。(云いかけて、又泣き入る。)
モウロ まあ、お待ちなさい。正吉さん。水を洩って来てください。
(正吉は棚より金属製のコップを取り、それに桶の水を汲み入れて持ち来れば、モウロはポケットより紙につつみたる粉薬をとり出す。)
モウロ あなた、弱ってはいけません。ここによい薬があります。さあ、これを飲んで、すこし休息して、それからゆっくりお話しなさい。
(モウロはおいよを勦りて、薬を飲ませる。)
おいよ ありがとうござります。いえ、もう弱りは致しません、泣きは致しません。わたくしも一生懸命でござります。(涙を拭いて。)もし、そのあとをお聴きください。忘れもしない此の七月二日の晩でござりました。わたくしが夜なかにふと眼をさましますと、表でわたくしの名を呼ぶような声がきこえます。不思議に思って窓をあけて見ますと、暗い表に人らしいものの忍んでいる様子もござりません。(その当時のありさまを思い出したように、眼を輝かしてあたりを見廻す。)よく聞くと、それは人の声ではなく、狼……狼の声でござりました。
モウロ 狼……。あなたはその声を聞いたばかりで、その姿を見ませんでしたか。
おいよ 姿はみえません、暗いなかで唯きこえるのは声ばかり……。それを聞いているうちに……。その時わたくしに魔がさしたのか、獣のたましいが乗憑(のりうつ)ったのか、自分でも夢のように雨戸をあけて、ふらふらと表へ出ました。(立ちあがる。)どこかで狼の声がつづけて聞えます。それがわたくしを呼ぶように聞えるので……。
(おいよはふらふらと表へ出て行こうとするを、モウロと正吉は遮りながら押戻して腰をかけさせる。)
モウロ まあ、落付かなければいけません。それからあなたは何(ど)うしました。
おいよ もう其時には……。わたくしの心は狼のようになっていたのでござります。あても無しに往来へ迷って出て、近所の墓場へまいりまして……。きのう埋めたばかりの新仏(しんぼとけ)の……。その新仏の墓をほりかえして……。もうそのあとは申上げられません。
(おいよはテーブルの上に泣き伏す。モウロと正吉は黙祷す。暫時の間。)
おいよ (息をついて。)何事も半分は夢のようで、自分でもはっきりと覚えてはいないのでござりますが……。兎も角もそれから家(うち)へ帰りまして、誰にも覚られずに済みました。
モウロ それから後にも、その狼の声が聞えるのですか。
おいよ 毎晩きこえます。その後は夜が更けると、必ずわたくしを呼ぶように聞えます。呼び出されてはならない、誘い出されてはならないと、一生懸命に耳を塞いだり、眼を瞑(と)じたり、口のうちで観音さまや阿弥陀仏様を念じたりして、色々に防いでいたのでござりますが、三日目に一度、五日目に一度は、どうしても防ぎ切れなくなりまして、糸に引かれるようにうかうかと表へ出て、相変らず墓荒しを致して居りますうちに……。(次第に亢奮して。)盂蘭盆(うらぼん)の[#「盂蘭盆(うらぼん)の」は底本では「孟蘭盆(うらぼん)の」]月の明るい晩、三人づれの若い女が笑いながら来るのに出逢いました。それを見ると、わたくしは……。いきなりに飛びかかって……。
(おいよはいよいよ亢奮して又立ちあがり、傍に立っている正吉の腕をつかんで引寄せようとするを、モウロは立寄って引き分ける。)
モウロ その三人は皆あなたに殺されましたか。
おいよ いえ、わたくしが一人(ひとり)に飛びかかると、ほかの二人(ふたり)はおどろいて逃げてしまいました。あとで聞きますと、その三人は盆踊の戻り道でわたくしに殺されたのはおぎんと云う今年(ことし)十六の娘……。しかも毎日わたくしのところへ針仕事の稽古に来る娘でござりました。情ないと云いましょうか、浅ましいと申しましょうか。それが因果の始まりで……。(又泣く。)
モウロ (嘆息して。)その狼の噂はわたくしも聞いていましたが……。では、二三日前の晩に、寺の小僧に飛びかかったと云うのも、矢張りあなたでしたか。
おいよ 唯今も申す通り、何事も自分がするのか、人がさせるのか、半分は夢のようで、確にはおぼえて居りませんが、あの小僧さんには松明(たいまつ)を投げ付けられたようでござりました。(涙をぬぐう。)伴天連様。今のわたくしは人間であるのか、獣になったのか、我身でわが身が判りません。兎もかくも昼間は人なみの人間で、道理も人情も一通りはわきまえて居りながら、夜になると忽ち狼のこころに変って、人の肉を喰い、人の血を啜る……。こんな浅ましい因果な人間は、とても此世に生きてはいられないのでござります。どう考えても、死ぬより外はござりません。
モウロ (悼ましげに。)あなたの苦しみは察しられます。死のうとするのも無理はありません。昼は人間で、夜は狼になる――そういう不思議な人間は欧羅巴(ヨーロッパ)にもあります。それは日本の狐つきと同じように、狼が人間に憑くのだと云い伝えられて居りますが、所詮は悪魔が人間に乗り移って、さまざまの禍(わざわい)をさせるに相違ないのです。あなたにもその悪魔が憑いたのです。(形をあらためて。)しかし決して恐れることはありません、悲しむこともありません。悪魔に憑かれた人間が救われた例(ためし)は沢山あります。あなたも神さまにお祈りなさい。一心に神様にお縋りなさい。われわれの神様はかならず悪魔を遠ざけて、あなたを救って下さります。
おいよ あの、わたくしのような者でも……。(モウロの前にひざまづく。)ほんとうに救われましょうか。
モウロ 救われます。
おいよ (モウロの裾に縋る。)きっと救われましょうか。
モウロ (断乎として。)救われます。我々の神様をお信じなさい。あなたは必ず救われます。
おいよ ありがとうござります。(思わず手をあわせる。)
モウロ そこで、あなたの夫――田原さんと云いましたな。その人も妹さんもあなたの秘密を少しも知らないのですか。
おいよ 知りません。誰も存じないようでござります。いっそ夫に打明けて、なんとか相談を致そうかと存じましたが……。いかに夫婦のあいだでも、こればかりは思い切って打明けることも出来ず、わたくし一人で苦しんでいるのでござります。
モウロ 御もっともです。わたくしも決して他人には洩らしませんから、御安心なさい。(考える。)あなたはここに長くいることが出来ますか。
おいよ (これも考えて。)さあ、今晩は断りなしに出ましたので……。
モウロ (うなずく。)そうです、そうです。あなたの帰りがおくれると、家(うち)の人達が心配しましょう。今夜は早くお帰りなさい。あなたには教えたいことが色々ありますが……。又来てくれますか。
おいよ お救い下さると仰(おっ)しゃるならば、わたくしは必ず伺います。
モウロ では、明日(あした)来てください。あしたの午過ぎに……。
おいよ かしこまりました。
(モウロはマリアの像をささげて来て、テーブルの上に置く。)
モウロ これは尊いマリア様のお姿です。今夜はこれをあなたに貸してあげますから、若し狼の声がきこえたらば、一心にお祈りなさい。判りましたか。サンタ、マリアと呼んで祈るのです。
おいよ (低い声で。)サンタ、マリア……。
モウロ そうです、そうです。(十字架をかざして。)サンタ、マリア。
正吉 サンタ、マリア。
おいよ (ひざまずいて。)サンタ、マリア。
(三人は合掌す。虫の声。外には月のひかり明るくなる。)

          二

 同じく村はずれの草原。一面に芒(すすき)その他のあき草が伸びている。正面には山々見ゆ。薄月のひかり。虫の声。
(上のかたより正吉とおいよ出づ。)
おいよ 道はよく判っていますから、もうここらでお帰りください。
正吉 道は判っておいででも、途中で又どんなことがあるかも知れないから、家(うち)の近所まで送りとどけてあげろと伴天連(バテレン)様のお指図でござります。
おいよ ほんに有難い伴天連様……。ああいうお方のおそばに付いていられるのは、お前のお仕合せでござりますな。
正吉 まったく仕合せでござります。それもみな神様のお救いであると、有難く思って居ります。
おいよ わたくしもそのお救いを受けることが出来ればよいが……。
正吉 疑うことはありません。神さまは屹とあなたをお救い下さります。明日(あした)はお出でになりますか。
おいよ 明日ばかりでなく、これからは毎日でも暇をみまして、有難い教えをうけたまわりに参りますから、何分よろしく願います。
正吉 是非おいで下さい。お待ち申して居ります。(行きかけて空をみる。)おお、月がまた薄暗くなりました。
おいよ (空をみる。)このごろの癖で、夜はときどきに曇ります。
正吉 今夜はまだ狼の声はきこえませんか。
おいよ (耳を傾けて。)いえ、聞えません。まだ宵でござりますから……。
(薄く風の音。月はいよいよ暗くなる。下のかたより芒をかきわけて田原弥三郎は火縄銃を持ちて出で、おいよ等に行き逢いて透し見る。おいよは顔を隠すようにして、摺れちがいながら花道のかたへ行く。上のかたより猟師源五郎も火縄銃を持ち、おいよ等のあとを見送りながら出づ。弥三郎も花道をみかえりながら上のかたへ行きかかりて、思わず源五郎に突き当り、二人はおどろいて透し見る。)
弥三郎 おお、源五郎か。
(その声を聞きて、おいよは逃げるように向うへ走り去る。正吉は訳もわからずに、つづいて急ぎゆく。風の音。虫の声。)

――幕――

人狼  第三幕

          一

 第二幕とおなじ夜。第一幕の田原弥三郎の家。よき所に行燈(あんどん)をとぼしてあり。庭の上のかたに筵(むしろ)を敷き、お妙は砧の盤にむかいて白布を打っている。薄月のひかり。砧の音。下のかたより猟師五平と寅蔵、いずれも火縄銃を持ちて出づ。
五平 弥三郎どんは内かな。
お妙 (みかえる。)おお、皆さん。兄さんはさっきもう出ました。
五平 ゆう飯を食ってから少し饒舌(しゃべ)っていたので遅くなったが、兄さんは今夜どっちの方角へ行かれたろうな。
お妙 今夜は夜通しで、村中を見廻ると云っていましたが……。
寅蔵 源五郎は見えなかったかな。
お妙 (すこし躊躇して。)いいえ。
五平 今夜は弥三郎どんと相談して、手分けをして出ようかと思ったのだが、こうなったら思い思いに行くとしよう。
寅蔵 むむ。手柄は仕勝ちで、狼を見つけたが最後、ただ一発で仕留めるのだ。
五平 そう巧く行けばいいが、なにしろ相手が姿をみせないので困る。(懐より笛を出す。)誰でも狼を見つけた者は、この呼子を吹いて合図をすることになっているのだから、笛の音を聞いたら駈け集まるのだ。
寅蔵 では、その積りで出かけよう。
(二人は行きかかる。)
お妙 あ、もし、おまえさん達は、そこらで家(うち)の姉さんに逢いませんでしたか。
五平 姉さんは家にいないのか。
お妙 夕方に出たぎりで、いまだに帰って来ないので、どうしたのかと案じているのです。
寅蔵 それはおかしいな。まさかに狼に出逢ったのでもあるまいが……。
お妙 それでも何だか案じられてなりません。
五平 ここのおかみさんが夜歩きをするのは珍しいことだな。
寅蔵 なにしろそこらで逢ったならば、早く帰るように云いましょうよ。
お妙 お頼み申します。
二人 あい、あい。
(五平と寅蔵は下のかたへ去る。)
お妙 (ひとり言。)ほんに姉さんはどうしたのか。
(お妙は砧を打ちつづけている。やがて向うよりおいよと正吉が足早に出づ。)
おいよ (わが家を指さして。)あれがわたくしの家でござります。
正吉 では、もうこれでお別れ申しましょう。
おいよ 御苦労でござりました。伴天連(バテレン)様にもどうぞ宜しく仰しゃって下さい。
正吉 かしこまりました。では、明日……。
おいよ はい。かならず伺います。
(正吉は会釈して、引返して去る。おいよは門口に来りて内をうかがい、木戸をあけて入る。)
お妙 おお、姉さん……。(砧をやめて立寄る。)あんまり帰りが遅いので、どうなされたかと案じていました。
おいよ 大方そうであろうと思って、随分急いで来たのですが、それでも遅くなって済みませんでした。して、兄さんは……。
お妙 さっき支度をして出られました。
おいよ さっき支度をして……。
お妙 五平さんと寅蔵さんも唯(た)った今、誘いに来ました。
おいよ 今夜も総出で狼狩か。それでは暁方まで帰られまい。
お妙 (やや気味悪るそうに、おいよの様子を窺いながら。)姉さん、お夕飯は……。
おいよ お前もまだですか。
お妙 お帰りがあまり遅いので、わたしはお先へ喫(た)べてしまいました。
おいよ (うなずく。)わたしはもう喫べたくもないが……。
お妙 心持でも悪いのですか。
おいよ いいえ。別に……。(考えて。)まあ、兎もかくも一杯たべましょうか。
(おいよは奥に入る。お妙はやはり気味悪るそうに見送りて半信半疑の体(てい)、そっと抜き足をして奥をうかがい、再び庭に降りて砧を打ち始めたるが又すぐに打ちやめ、片手に槌を持ちたるまま又もやそっと縁にあがりて、奥を窺おうとする時、出逢いがしらに障子をあけておいよ出づ。)
お妙 (はっとして後へさがる。)もうお済みになりましたか。
おいよ どうも喫べる気がないので止めました。
お妙 では、やはり何処か悪いのでは……。(おいよの顔を見て。)なんだか顔の色もよくないような。夜風に吹かれて、冷えたのではありませんか。
おいよ 此頃は逢う人ごとに顔の色が悪いと云われるが……。自分では別にどこが悪いとも思いません。冷えると云えばお前こそ、いつまでも庭に出ていて、冷えると悪い。もうだんだんに夜が更けます。好い加減にして内へ這入ったら何(ど)うです。
お妙 はい。
おいよ 今もいう通り、兄さんはどうで暁方までは帰られまいから、おまえは構わずに、もう先へお寝(やす)みなさい。
お妙 はい。(躊躇している。)
おいよ (笑う。)それとも待っている人でもありますか。
お妙 (あわてて。)いえ、そんなわけではありませんが……。では、もうそろそろ片付けましょう。
(お妙は庭に降りて、砧を片付けにかかる。)
おいよ いえ、そうして置いてください。お前のような若い人とは違って、わたしはまだ寝るには早い。代って少し打ちましょう。(庭に降りて空を仰ぐ。虫の声。)おお、月がまた明るくなった。
お妙 (おなじく空をみる。)宵には時々曇りましたが、よい月になりました。
おいよ よその砧の音(おと)ももう止んだような。
お妙 この頃は狼の噂で、どこでも早く寝てしまうようです。
おいよ (耳を傾ける。)砧の音も止んで、唯きこえるのは虫の声ばかり……。ほかには何んにも聞えるものも無い。(又もや耳を傾ける。)おまえには何か聞えますか。
お妙 (耳をかたむけて。)いいえ、虫の声のほかには……。
おいよ なんにも聞えませんか。
お妙 はい。
(二人はしばらく無言。梟の声きこゆ。)
お妙 あれ、梟が……。
おいよ え。(又もや耳をかたむけて。)ほんに梟が鳴く……。さびしい晩です。(気をかえて。)さあ、おやすみなさい。おまえには早く起きて貰わなければなりません。あしたの朝も、兄さんの帰る前に火を焚きつけて、お湯を沸かすようにして置いて下さい。
お妙 はい、はい。では、お先へ臥(ふ)せります。
おいよ おやすみなさい。
(お妙は会釈して、やはり気味悪るそうにおいよを見返りながら奥に入る。時の鐘。おいよは木戸口へゆきて、しっかりと錠をかける。)
おいよ 今夜は思いのほかに早く更けた。
(おいよは何かの声が聞えるかと耳を澄ましながら、引返して筵の上に坐る。梟の声。)
おいよ (おびえたように見返る。)いや、いや、あれはやっぱり梟の声……。ほかには何んにも聞えない。聞えない。
(おいよは砧の盤にむかいて打ち始める。月また薄暗くなる。おいよはやがて屹と耳をかたむけて、表を見かえる。)
おいよ あ、聞える……。(再び耳を傾けて。)きこえる、聞える……。(槌を置いて立ちかかる。)おお、今夜も聞える……。あれは梟ではない、確にいつもの……狼……狼の声……。(いよいよおびえて。)おお、おお、だんだんに近くなって来る……。(木戸口へ行きて表を窺う。)おお、来た、来た。又わたしを呼び出しに来たのか。(両手で耳をおさえる。)さあ、今が大事の場合……。今夜こそは伴天連さまの教えにしたがって……。神さまのお力に縋って……。
(おいよは慌てて縁にかけ上り、懐中より彼のマリアの像を取出して、行燈の火に照らして見る。)
おいよ (マリアの像を押頂く。)サンタ、マリア……。サンタ、マリア……。(やがて又、表をみかえる。)ええ、まだ聞える。まだ聞える。(今度は無言にて、像を押頂きながら念ず。)まだ聞える……。やっぱり聞える……。わたしの信心が足らないのか。伴天連の教えが詐(いつわ)りか。ええ、聞えないでくれ、聞えないでくれ。ええ、もうどうしたら好いか。(像を置いて、両手で耳をおさえながら俯伏(うつぶ)す。)ええ、これでも聞える……。
(おいよは再びマリアの像を取りながら、物に引かるるように縁を降りる。)
おいよ ええ、今夜もやっぱり……。いや、行ってはならない。出てはならない。これほどにサンタ、マリアを念じても……。神様は救って下さらないのか。わたしの罪が深いのか。(持ったる像を地に投げ捨て、砧の前へゆきて槌を取る。)ええ、執念ぶかい狼め。鬼め、悪魔め、畜生め。啼くな。啼くな呼んでくれるな。
(おいよは眼にみえぬ物を追い払おうとするように槌をふりまわし、髪もみだれて姿もしどけなく、筵の上に狂い倒れる。奥よりお妙出づ。)
お妙 (みまわして驚く。)あれ、姉さん……。(縁をかけ降りる。)もし、どうしました。もし、姉さん……。
(おいよは答えも無しに倒れている。お妙は不安そうに、あたりを見かえる。)
お妙 さっきから聞いていれば、姉さんは独りで物に狂っているような……。私の耳には何んにも聞えないが、姉さんには何が聞えるのか。もし、姉さん。どうしたのです。
(お妙は気味悪るそうに近寄って、おいよをかかえ起そうとすれば、それを振払うように、おいよは屹と起き直りて、二人の顔と顔とが向き合う。その物すごき形相に、お妙はぎょっとして飛び退く。)
お妙 あれえ。
(お妙は逃げんとすれど、身が竦(すく)みて容易に動き得ず。おいよは両手を地につきて、餌を狙う狼のようにお妙をじっと睨む。)
お妙 (声をふるわせる。)もし、姉さん。わたしです、お妙です……。なんだか俄(にわか)に様子が変って……。おまえは一体どうしたのです。もし、姉さん……。
(おいよは答えず、低く唸りながらお妙の方へ這うようにじりじりと進み寄る。)
お妙 それでは宵に聞いた通り、お前には怖ろしい狼が乗り憑ったのか。よもやと思っていたが、やっぱり本当であったのか。それにしても妹のわたしを……。もし、お願いです。助けてください。
(お妙はようよう立ち上りて、表のかたへ逃げ出そうとすれど、木戸には錠をかけているので直ぐには開かず。そのあいだに、おいよは眼を嗔(みは)らせて、今にも飛びかかりそうに詰めよる。お妙は途方にくれ、引返して上のかたにそろそろと逃げ行けば、おいよはそれを付け廻すように、下のかたより上のかたへ向って又じりじりと詰め寄る。)
お妙 (必死になって叫ぶ。)もし、誰か来て下さい。助けてください。姉さんが狼に……。誰か早く来て下さい。助けてください。
(お妙は救いを呼びながら、有合う砧の槌や布を打付けて縁に逃げ上れば、おいよもひらりと飛び上る。お妙はうろたえて又もや庭に飛び降りれば、おいよも続いて飛び降りる。)
お妙 姉さん、姉さん、助けて下さい。堪忍してください。この通りです。拝みます。
(お妙は手をあわせながら、起きつ転(まろ)びつ逃げまわりて、上のかたの竹薮へ逃げ込めば、おいよもあとを追って飛び込む。月また薄暗く、竹薮のざわざわと揺れる音。薮のうちにて、お妙が「あれえ、あれえ」と叫ぶ声。その悲鳴のやみたる頃、下のかたより第一幕の百姓善助出づ。)
善助 ここの家(うち)で助けてくれと云う声がきこえたようだが……。何事が起ったのか。(内にむかって呼ぶ。)もし、誰もいないのかな。もし、もし……。
(善助は木戸をゆすぶっている。上のかたの竹薮よりお妙は髪をふり乱し、どこやらを咬まれし体(てい)にて、よろめきながら逃げ出で、庭先にてばったり倒れる。)
善助 (外より声をかける。)これ、お妙さん。どうしたのだ。
(お妙は無言にて上のかたを指さす。やがて竹薮よりおいよは口のまわりに血を染めて出で来り、月明りに善助を見てじっと睨めば、善助はわっと驚き、一目散に下のかたへ逃げ去る。お妙は這い起きんとして、又倒れたるままに息絶ゆ。おいよは縁にひらりと飛び上りて、倒れたるお妙を見おろすように窺う。月のひかり、風の音。)

 これにて黒き幕をおろし、直ぐに再び幕をあける。

          二

 第二幕の一つ家。外には月の光。
(モウロと正吉はテーブルに蝋燭を立て、向い合いて聖書を読んでいる。呼子の笛きこゆ。)
正吉 (顔をあげる。)あ、笛の声がきこえます。
モウロ (おなじく耳を傾ける。)笛の音……。あれは何ですか。
正吉 あれは呼子の笛です。(立ちあがる。)狩人達が狼のすがたを見付けて、その合図に笛を吹いているのかも知れません。
モウロ 狼……。おお、おいよさん……。(不安らしく立上る。)
正吉 おいよさんは確に自分の家(うち)へ帰ったのですが……。(これも不安らしく。)又抜け出したのでしょうか。
(笛の声また聞ゆ。)
正吉 あれ、あれ、笛の声がつづけて聞えます。鳥渡(ちょっと)行って見て来ましょう。
(正吉は表へ出ようとする時、小銃の音きこゆ。二人は顔をみあわせる。)
正吉 鉄砲の音がきこえました。
モウロ おお、鉄砲……。鉄砲の音……。
(二人はいよいよ不安を感じたるが如く、正吉は窓より表を窺う。下のかたの秋草をかき分けておいよ転び出で、窓の外に倒れる。)
正吉 あ、狼……。(窓より覗く。)いえ、人です、人です。人が倒れています。
(正吉はあわてて表へ出てゆく。モウロも続いて出づ。)
正吉 (月あかりに透し見て叫ぶ。)おいよさんです、おいよさんです。
モウロ おお、おいよさん……。兎も角も内へ入れましょう。
(モウロと正吉はおいよをかき上げて、家の内に運び入れ、炉の前へ後ろ向きに横える。)
正吉 鉄砲で撃たれたのでしょうか。
(モウロはおいよを抱きあげて介抱する。)
モウロ あなた、どうしましたか。
正吉 (呼ぶ。)おいよさん……。おいよさん……。
(おいよは答えず。正吉は蝋燭をさし付けてモウロの顔をみれば、モウロは悲しげに頭を掉(ふ)りて、もういけないと云う。そのうちに正吉は地に落ちたるマリアの像を拾いあげて見せる。)
正吉 マリア様の像には血が付いています。おいよさんが持って来たのでしょうか。
(モウロは無言にて、その像を把ってながめている。下のかたより田原弥三郎は銃を持ちて出づ。)
弥三郎 何でもこっちへ来た筈だが……。はてな。(そこらを見まわしている。)
(正吉、こころ付いて窓より声をかける。)
正吉 もし、お前は何を探しているのです。
弥三郎 狼を撃って、確に手堪えがあったのだが……。急所を外れたので、取逃したかな。
(弥三郎はやはり其処らを見まわしている。モウロも窓に出て声をかける。)
モウロ あなたの撃った人はここに居ります。
弥三郎 え、人を撃った……。
(弥三郎はおどろいて家の内へかけ込み、そこに倒れているおいよを見て又おどろく。)
弥三郎 やあ、これはおれの女房だ、女房だ。
モウロ では、あなたは……。田原さんですか。
弥三郎 そうです、そうです。(慌てて呼び活ける。)これ、しっかりしろ。おいよ……おいよ……。ああ、やっぱり急所に中(あた)ったのか。
モウロ お気の毒なことでした。
弥三郎 (おいよの死骸をあらためる。)はて、どうも不思議だ。たしかに狼に見えたのだが……。
モウロ あなたの眼には狼と見えましたか。
弥三郎 あすこの[#「あすこの」は底本では「おすこの」]草原を駈けてゆく姿が、月あかりで確に狼にみえたので、直ぐに火蓋を切りましたが……。(不審そうに考える。)夜目遠目とはいいながら、わたしも多年の商売で、人と獣を見違える筈はない。まして今夜は月が明るいのに、どうしてこんな間違いを仕出来(しでか)したのか。自分でも夢のようで、何がなんだか判らない。
(弥三郎は疑惑に鎖(とざ)されて、空しく溜息をついている。下のかたより源五郎を先に、五平と寅蔵出づ。)
源五郎 合図の呼子がきこえたが……。
五平 鉄砲の音も聞えたぞ。
寅蔵 何でもこっちの方角であった。
弥三郎 (内より呼ぶ。)おい、ここだ、ここだ。
(その声を聞きて、三人はどやどやと内に入る。)
源五郎 狼を見つけたのか。
弥三郎 狼は……この通りだ。
(三人は覗いておどろく。)
源五郎 これはお前の女房ではないか。
五平 むむ。おいよさんだ。おいよさんだ。
寅蔵 お前がおいよさんを撃ったのか。
源五郎 一体どうしてこんな間違いをしたのだ。
弥三郎 それがおれにも判らない、たしかに狼のすがたに見えたから撃ったのだが……。駆けつけて見ると、この始末だ。いくら俺が慌てていても、自分の女房を狼と間違えて撃つと云うことがあるものか。なんだか狐にでも化かされているようだ。
(このあいだに、源五郎は何か思い当るように思案している。)
五平 なるほど弥三郎どんの云う通り、人間と狼を間違える筈は無さそうだ。
寅蔵 併しこのおいよさんが狼に見えたというのが不思議だな。
源五郎 (打消すように。)不思議といえば不思議だが、そんな間違いが無いとも云えない。なにしろ夜のことだからな。
弥三郎 たとい夜でも、この通りの月夜だ。
源五郎 月夜でも何でも、昼とは違う。まして不断とは違って今の場合だ。狼を見付けよう見付けようと燥(あせ)っているので、人間の姿もつい狼のように見えてしまったのだ。
弥三郎 そうだろうか。(疑うように考えている。)
源五郎 (畳みかけて。)そうだ、そうだ。屹とそうだ。まあ考えてみるがいい。お前の女房が狼になって堪るものか。
モウロ (進み出づ。)そうです。この人の云う通りです。あなたはどうかして狼を見付け出そうと思って、こころが急いでいる。それがために眼が狂って、人と狼とを見ちがえたのです。そう云うことは珍しくありません。
弥三郎 それはまあそれとしても……。(源五郎に。)おれの女房が今ごろ何でこんなところを駈け廻っていたのか。その理屈が判らないな。
源五郎 むむ。
(源五郎も少しく返事に詰まると、モウロはマリアの像を見せる。)
モウロ あなたの妻はこれを持って来たのです。これをわたくしの所へ返しに来たのです。
弥三郎 (像を受取って眺める。)これは唯の仏像でもなく、異国の物らしいが……。こんな物を持っているようでは、ここへも来たことがあるのですか。
モウロ はい。来たことがあります。それはわたくしが貸して遣ったのです。
源五郎 では、今夜それを返しに来たところを、おまえが遠目に狼と間違えたのだ。さあ、それですっかり訳がわかった。
五平 そう聞けば、別に不思議もないようだ。
寅蔵 こうなると、おいよさんは飛んだ災難で、気の毒であった。
五平 ふだんから近所でも評判の好い人であったのに、惜しいことをしたな。
寅蔵 まったく惜しいことをしたが、それでも他人の手にかかったのでないから、幾らか諦めもいいと云うものだ。
五平 諦めのいい事もあるまいが、まあ、まあ、そう思って無理に諦めるより外はあるまいよ。
源五郎 おいよさんはあの通りの貞女だから、粗相とわかれば何で亭主を恨むものか。
弥三郎 いや、恨まれても仕方がない。(死骸にむかいて。)これ、堪忍してくれ。夫婦になって足かけ十年、浪人暮らしの苦労をさせた上に、こんなことでお前を殺そうとは思わなかった。いつまで云っても同じことだが、おれは確に狼を撃った積りであったに……。どうしてこんな事になったのか。
源五郎 もうそんなに疑わないがいい。さあ、みんなも手伝って、この死骸を運び出そうではないか。
五平 そうだ、そうだ。
(五平と寅蔵も手伝いて、おいよの死骸をかきあげる。モウロは正吉に指図して、奥の間より毛布を持ち来らせ、死骸をつつむ。)
弥三郎 (嘆息して。)こんな姿をみせたらば、お妙もさぞ驚くだろう。
源五郎 むむ。お妙さんも驚くだろう。ふだんから本当の姉妹(きょうだい)のように仲好しであったからな。
弥三郎 (罵るように。)こんな事になったのも、狼めの仕業だ。畜生、屹とおれが退治して、女房のかたきを取ってみせるぞ。
源五郎 まあ、狼よりも仏が大事だ。早く帰って回向(えこう)をしなさい。
(五平と寅蔵は毛布につつみたる死骸をかきあげ、源五郎も付添いて出てゆく。)
弥三郎 (モウロに。)色々御厄介になりました。いずれ改めてお礼にまいります。
(弥三郎は丁寧に会釈して、力なげに出てゆく。)
モウロ (マリアの像を取る。)悪魔は清いお姿に血を塗りました。
正吉 すぐに洗いましょうか。
モウロ いや。この血の自然に消えるように、我々は祈りを続けなければなりません。今夜は眠らずに……。
正吉 はい。
(モウロは像を押頂きて元の棚に祭り、正吉とテーブルに向い合いて、再び聖書を繙(ひもと)く。月のひかり。梟の声。)

――幕――

(「舞台」昭和六年三月号掲載/昭和六年三月、明治座で初演)

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底本:「伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集」学研M文庫、学習研究社
   2002(平成14)年3月29日初版発行
初出:「舞台」
   1931(昭和6)年3月号

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2009年1月21日 (水)

『アリス展』アートラッシュ企画展Vol.98

2009年1月28日(水)~2月16日(月)

Arisu

=参加作家=
川口喜久雄(シルエット工場)http://neji.com/kikuo/
喜田小夜子(絵画)
小林知子(絵画)
清水真理(球体関節人形)http://kruz.at.infoseek.co.jp/
千葉由笑(日本画・造形) http://maboroshi.secret.jp/yc/top0.html
橘明(球体関節人形)
なりた麻美(デジタルアート)http://www.loftwork.com/user/2482/portfolio/
み~らん(アクセサリー・造形)
妃迦瑠恭子(人形)
Myu(七宝)http://satmb.com/myu/index.html

am11:30~pm8:00(月曜日pm5:00まで)
定休日 火曜日(入場無料)
代官山「アートラッシュ」http://www.artsrush.jp
〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西2-14-10
tel 3770-6786 fax 3770-6786

球体関節人形(きゅうたいかんせつにんぎょう)とは、関節部が球体によって形成されている人形の総称。その特徴から、自在なポーズを取らせることが可能である。その作家として最も有名なのはハンス・ベルメールである。従来からあった球体関節人形をいったん分解してシュルレアリスティックに再構築した彼の作品が日本に紹介され、その美しさと妖しさが衝撃をもって受け入れられた。その影響から日本国内にこの種の人形を造形する作家が急増した。(Wikipedia)

2009年1月20日 (火)

さて、大山崎 ~山口晃展

2008年12月11日(木)~2009年3月8日(日)
アサヒビール大山崎山荘美術館

20081216  081210oyamazakizu

 山口晃(1969年生まれ)は日本の古美術やマンガからインスピレーションを受け、大胆かつ緻密な描写により、過去と未来が交錯するかのような情景を描き出します。「さて、大山崎 ~山口晃展」において、山口は大山崎にゆかりのある千利休や「天下分け目の天王山」として知られる山崎の合戦からの着想を織り交ぜながら、独自の発想に磨きをかけ、茶や戦に関わる新作絵画などを展示します。また、本邦初公開となる山口版の洛中洛外図である「邸内見立 洛中洛外圖(ず)」、大山崎の交通網を山口得意の鳥瞰図スタイルで描く「大山崎交通乃圖(ず)」、山口流の見立てを効かせたドローイングなども出品します。本展は山口にとって、関西初の個展となります。

http://www.asahibeer-oyamazaki.com/tokubetu/syosai22/

  081210teinai2
山口晃 1969年東京生まれ、群馬県桐生市に育つ。96年東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修士課程修了。2007年上野の森美術館での会田誠との二人展「アートで候。 会田誠 山口晃展」、練馬区立美術館(東京)での個展「山口晃展 今度は武者絵だ!」を開催。近年、活動の幅を広げており、公共広告機構マナー広告「江戸しぐさ」、成田国際空港や東京メトロ副都心線「西早稲田駅」のパブリックアート、読売新聞ドナルド・キーン氏著「私と20世紀のクロニクル」の挿絵など幅広い制作活動を展開。現在、五木寛之氏による新聞小説「親鸞」(京都新聞、神戸新聞など全国の主要地方紙にて連載中)の挿画を毎日担当する。

2009年1月18日 (日)

イスラエル支援企業リスト

●Starbucks(スターバックス・コーヒー)
※(株)ザザビー関連
・SAZABY (サザビー)
・Afternoon Tea (アフタヌーン・ティー)
・アニエス b.
●Coca-Cola(コカ・コーラ)
●McDonald's Restaurant(マクドナルド)
●Estee Lauder(エスティ・ローダー)
●Nestle(ネスレ)
●Intel(インテル)
●Microsoft(マイクロソフト)
●IBM(アイ・ビー・エム)
●Disny(ディズニー)
●ダノン(ヨーグルトなど)
※「Danone」を販売しているのは、「カルピス」と「味の素」の合併会社。
・エヴィアン(ミネラル・ウォーター)
●ロレアル(コスメ)
※関連ブランド
・POLO / Ralph Lauren(ポロ/ラルフ・ローレン)
・Giorgio Armani (ジョルジオ・アルマーニ)
●ジョンソン&ジョンソ(医薬品)
●ノキア(携帯電話)

◇主なイスラエル支援企業リスト
http://palestine-heiwa.org/choice/list.html

2009年1月16日 (金)

iPod用のドーム形アクティブスピーカー

日立マクセル「MXSP-D160.BK(マットブラック)」

 日立マクセルは、iPodの音楽再生・充電に対応したドーム形アクティブスピーカー「MXSP-D160.BK(マットブラック)」を2009年1月26日発売する。直径165mmのコンパクトサイズで、AC電源・乾電池の2電源に対応する。価格はオープン。 Ipotsp

 ドーム形の密閉ボディに左右各1.8Wのデジタルアンプを内蔵。強力な磁力のネオジウムマグネットを使用した直径46mmの防磁型フルレンジスピーカーを左右に配置して、コンパクトながらバランスのよいサウンドとした。

 本体上部に「Universal Dock」を備え、iPodに付属するアダプターで、iPod、iPod nano/touch/classic/miniと接続できる。また背面のステレオミニジャックで一般的なオーディオ機器との接続も可能。ACアダプター付属。電池駆動の場合は、単3形乾電池4本(別売)が必要。重さは約435g。

■関連情報 ・日立マクセルのWebサイト http://www.maxell.co.jp/

2009年1月14日 (水)

粟津潔『ピアノ炎上』(演奏:山下洋輔)

 オリジナルの粟津潔作品『ピアノ炎上』は、燃え始めるところから、燃え終わり灰になってしまうまでの作品。1973年に山下洋輔がジャズピアニスト八木正生の依頼で、川崎市生田の粟津潔の自宅庭で燃えるピアノを演奏した。その現場で16ミリフィルムをまわした粟津の作品となった。

粟津潔『ピアノ炎上』(演奏:山下洋輔) (You Tube 16sec.)
http://jp.youtube.com/watch?v=x34cIKPZ-ug

Japanese Jazz Musician Burns Piano
http://jp.youtube.com/watch?v=a7C8I_3HHaQ&feature=related

粟津 潔(1929年2月19日 - )(Wikipedia)
東京都目黒区出身。法政大学専門部中退。絵画・デザイン技法は独学である。背景やフォルムを緻密な線や混沌とした色彩で構成し、一見ファインアートであるかのように見える作風が特徴。油彩作品も多数制作している。

1955年の日本宣伝美術界展(日宣美)で日宣美賞受賞。1960年に建築家の有志を募り『メタボリズム』を結成する。その後武蔵野美術大学商業デザイン学科(現・視覚伝達デザイン学科)助教授に就任、デザイン教育に携わる。1966年に『エンバイラメント』の会を結成、翌年の1967年頃から大阪万国博覧会のテーマ館別構想計画などを練る。その他、国内外問わず国際的なプロジェクトに参加している。1990年に紫綬褒章受章。

[作品]
津山文化センター中庭 1965年
渋谷・天井桟敷館のデザイン(1969年)
ピアノ炎上(1973年)
出演・演奏:山下洋輔
日本文化デザイン会議 諸ポスター作品(1986年)
北陸自動車道ピアパーク壁画 1988年
世界デザイン博覧会 諸ポスター作品(1989年)
第43回アスペン国際デザイン会議 諸ポスター作品(1993年)
大阪万国博覧会
映画『心中天網島』美術監督
つくば万国博覧会・テーマ館アートプロデューサー

ことばを発することのできなかった不自由さの のっぴきならない言葉こそ 自由な言葉たり得るのではあるまいか。Kiyoshi AWAZU
http://www.kiyoshiawazu.com/

2009年1月12日 (月)

タイガー立石 Tiger Tateishi

◆縦横無人にアートの世界をかけめぐった鬼才◆
http://www.city.ichihara.chiba.jp/graph/0110/style_jinbutu.html

Blp

タイガー立石(タイガー たていし、1941年12月20日 - 1998年4月17日)は、日本の画家、漫画家、絵本作家、陶芸家。本名、立石紘一(たていし こういち)、福岡県田川市出身。

筑豊の炭鉱町に出生、少年時代を戦後復興から高度成長期の時代、映画、昭和歌謡など文化の中で過ごした。武蔵野美術短期大学へ進学・上京を期に美術活動開始、最初は本名で活動し、画家中村宏と「観光芸術協会」を結成、わずか2年で解散するも中村ともどもアバンギャルドな作風・活動方針(雑踏の中で自作を掲げて歩く路上歩行展など)で一時代を築いた。

1968年にタイガー立石に改名、漫画家として活動。公私に渡り関わりが深かった赤塚不二夫に影響されたギャグタッチの作品を多く残した。ペンネーム・タイガーの由来は立石が寅年生まれだからで、生涯美術作品にも虎をモチーフにしたものが少なくなかった。

漫画家として活動が軌道に乗った矢先突然漫画家として活動を打ち切り,妻とイタリアへ移住。 「環境を変えることこそが創作意欲を刺激する。ひとところへの安住・現状への満足は拒否」というこのスタンスは立石の生涯最後まで貫かれたモットーであった。なお、立石はイタリア以外の国も含め計13年間ヨーロッパ滞在・活動継続したが、この間イタリアでは、コマ割り絵画(漫画のコマ割だけでなくストーリー性も持ち込んだ)を発表、また美術・商業いずれの分野の建築・デザイン・イラストレーションなど仕事の実績を積んだ。 1982年の帰国の理由は「安住への拒否」であった。

帰国後は絵本を上梓、ペンネームも立石 大河亞(たていし たいがあ)に改名し、更に1990年代に作陶開始、1995年には養老渓谷にアトリエ兼住居を移した。立石従来の作品殆どが絵画・漫画等「平面もの」だったので、立体作品に取り組みたいという意識があったのだろう。立体作品には上・横のいずれの方向からみてもあらゆる違った趣のある作品が多く誕生、もちろん従来からの絵画も充実させ、続々新作を発表。

1998年、肺がんのため56歳の生涯を閉じた。

[ その他]作品には署名のかわりにペンローズの三角形を描いた。

[主な作品]
『虎の巻』 新思索社、1983年、ISBN 4783510873
『とらのゆめ』 福音館書店<こどものとも傑作集>、1999年、ISBN 4834015807
『昭和素敵大敵』 1990年、田川市美術館収蔵(立石大河亞名義)
『DE CHIRICO』 1996年,陶器製の立体作品。
『アンデスの汽車』 1998年(遺作)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

2009年1月 9日 (金)

氾濫するイメージ―反芸術以後の印刷メディアと美術1960's-70's

2008年11月15日(土)~2009年1月25日(日)
ギャラリーA・B・C

Urawa

1960年代の前衛美術は、現代音楽や舞踏、デザインなど、他のジャンルを横断するように越境し、いわゆる「反芸術」と名付けられました。続く70年代は、素材そのものをそのまま提示する「もの派」や、言語や記号を用いた観念的表現である「コンセプチュアル・アート」などを中心に語られることが多いと言えます。それらの表現は総じて禁欲的で、視覚的なイメージの豊かさからは程遠いものでした。絵画にとって冬の時代であり、「絵画」は即物的な「平面作品」へと素っ気なくその名称を変えたのです。絵画はアート・シーンの前線から後退を余儀なくされ、絵画的イメージが持つ構想力や想像力が喪失したかのような時代でもありました。

しかし時代と切り結び、それを映し出すヴィジュアルなイメージは、衰退したわけでも無くなったわけでもありませんでした。例えば横尾忠則の貼るたびに盗まれたという一連の演劇ポスターや、週刊プレイボーイで連載された『うろつき夜太』(柴田錬三郎著)をはじめとした数々のイラストレーションや本の装丁など。あるいは社会的な事件にもなった赤瀬川原平の「模型千円札」やそれに続いて『朝日ジャーナル』の回収という事態を引き起こした「櫻画報」等々。それらはアングラ演劇や舞踏、さらに安保闘争や学園紛争などの時代状況を濃密に内包しながら、多様なイメージが様々なメディアを通して、あたかも氾濫するかのように盛んに展開されたのです。

本展では、1960年代から70年代にかけてのそのようなヴィジュアル・イメージを上述の二人を含め、粟津潔、中村宏、木村恒久、タイガー立石、つげ義春、宇野亜喜良の作品を通して紹介します。ポスター、書籍(装幀)、雑誌(挿絵)、原画および関連する絵画や版画、オブジェなど、多種多様な多くの作品や資料で構成します。 

出品作家と作品
赤瀬川原平  ―模型千円札・櫻画報/オブジェ・ポスター・原画等
粟津潔    ―メタボリズムから花鳥へ/ポスター・装丁・版画等
宇野亜喜良  ―人間存在と性/ポスター・装丁等
木村恒久   ―ザ・キムラカメラ/フォト・モンタージュ・原画
タイガー立石 ―コマ割り絵画とマンガ/絵画・版画・原画
つげ義春   ―不条理/ねじ式原稿(出力)・版画等
中村宏   ―呪物的絵画/ポスター・装丁・絵画・原画等
横尾忠則  ―大衆的イコンから精神世界へ/ポスター・装丁・絵画・原画等

その他600点以上の作品・資料で構成します。

開館時間 午前10時~午後5時、土・日のみ~午後8時
        (入場は閉館の30分前まで)

休館日 月曜日(1月12日の月曜は開館)、12月27日~2009年1月4日、1月13日

観覧料 一般 500 (400円) 大高生300円(240円) 中小生150円(120円)
      ( )内は20名以上の団体料金
[ リピーター割引]
次回来館時に観覧済みの有料チケットを提示いただくと、団体料金でご覧いただけます。
(本展観覧日から1年、1名様、1回限り有効)

主催 うらわ美術館 、読売新聞東京本社、美術館連絡協議会

協賛  ライオン、清水建設、大日本印刷   

後援  NHKさいたま放送局、エフエム浦和

関連事業
ギャラリー・トーク
12月7日、21日、平成21年1月11日、25日 各日曜日 各回14:00~自由参加。
ロビーにお集まり下さい。(当日の観覧券が必要です)  

うらわ美術館で開催中の「氾濫するイメージ展」は、
http://www.uam.urawa.saitama.jp/tenran.htm
2008年11月15日(土)~2009年1月25日(日)

2009年1月 8日 (木)

「amazonビデオ・オン・デマンド」対応のHDテレビ発売

 パナソニックはamazon(アマゾン)と協業し「amazon・ビデオ・オン・デマンド」に対応したHDテレビやブルーレイディスク関連機器を2009年から導入するという。

Your Video Library機能を使って、購入作品のバーチャル・ライブラリを自動的にキープして、ビエラのテレビ、ブルーレイプレイヤーやネットを通じてパソコンでいつでも見れる。
2009年発売予定のビエラプラズマ HDテレビ3機種(シリーズ)とブルーレイディスクの新製品に導入される。ビエラキャストは現在すでに、YouTube、Picasa Web Album、Bloomberg Newsやお天気チャンネルへのアクセスができる。イーサネット・インターフェイスを内蔵し、外付けボックスやパソコンは不要となっている。

 搭載されている「ビエラキャスト」の拡張でビデオ・オン・デマンドの4万タイトル以上の映画やテレビ番組を、購入して鑑賞することができる。

 
ビデオ・オン・デマンドはH.264コーデックと自動帯域判別機能(300、600、900 もしくは1200kbps)に対応して、映像コンテンツを1.99ドル~3.99ドルでレンタル、もしくは9.99ドル~14.99ドルで購入できる。

2009年1月 7日 (水)

訃報:木村恒久さん80歳=グラフィック・デザイナー

 木村恒久さん80歳(きむら・つねひさ=グラフィック・デザイナー)昨年12月27日、肺がんのため死去。葬儀は近親者で済ませた。後日、しのぶ会を開く予定。自宅は東京都港区高輪1の15の1の1206。喪主は妻史子(ふみこ)さん。

 60年に日本デザインセンターの設立に参加。66年、宇野亜喜良、永井一正、和田誠各氏ら当時気鋭のグラフィック・デザイナーが集まって前年に開催した展覧会「ペルソナ」で毎日産業デザイン賞。複数の写真を切り張りしてつくる「フォト・モンタージュ」で現代社会を鋭く風刺する作品を発表し、79年度の毎日デザイン賞を受賞した。作品集に「キムラカメラ」。

毎日新聞 2009年1月6日 19時33分

■合掌■ 御悔みを申し上げます。

Kimuracamera 19973

木村恒久(Wikipedia)
木村 恒久(きむら つねひさ、1928年 - 2008年12月27日)は日本のグラフィックデザイナー。
東京造形大学客員教授。

大阪市出身。大阪市立工芸学校(現・市立工芸高校)卒。1960年から日本デザインセンターに参加し、後に独立。1979年の『キムラカメラ』刊行の頃からフォト・モンタージュ作品を数多く発表。1979年、毎日デザイン賞受賞。1981年、『ボードリヤール・フォーラム'81』でジャン・ボードリヤールと討論を行った。

[作品集]
1979年 フォト・モンタージュ集『キムラカメラ』
1985年 『フォト・マジック』『ニッポンの"ゑ" 木村恒久VS谷岡ヤスジ』
1997年 CD-ROM『ラスト・モンタージュ』
1999年 モンタージュ集『What?』
2006年 モンタージュ集『ザ・キムラカメラ』

[主な個展]
1990年 ハーバード大学、ベルリン・ボラーエルンスト
1997年 中京大学ギャラリー
1998年 東京造形大学ギャラリー、京都造形芸術大学ギャラリー
1999年 ギンザ・グラフィック・ギャラリー
2000年 川崎市市民ミュージアム

[招待出品]
1996年 ポンピドゥセンター・東京都美術館共催『都市と芸術展』
2001年 日本・カナダ共催『E・12:生きるためのデザイン展』
"http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8%E6%9D%91%E6%81%92%E4%B9%85" より作成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア』

2009年1月 6日 (火)

木と土の気を感じとる

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2009年1月 5日 (月)

ツイてる ツイてる これでいい

いつでも、どんなときでも、何があっても、「ツイてる」「これでいい」
イヤなことがあったとき、「でも大丈夫」。
失敗したときも「大丈夫なんとかなる」常に「大丈夫」を使う。
腹が立っても、体調を悪くしても、どんなときでもそうすると気持ちが楽になります。
心にも体にも良い影響を 与えます。言葉は言われた人だけではなく、言う人にも影響を与えます。

風や星や木々の緑がより美しく思えて感動が深まります。
必要な人や素敵な人と、どんどん出会えるようにもなるでしょう。幸運に恵まれ、やりたいことがとんとん拍子に進んだりするのです。
そして結局は、自分自身の究極の目標である天命に生きることになります。

2009年1月 4日 (日)

理解不能な光の柱

20090102

12月28日にSigulda(ラトビア)で撮影された光の柱
この柱は普通の種類ではないそうで主要な二人の
大気光学の専門家でさえも理解不能で不可解だと言っている。
撮影者の子供は宇宙人がやってきたと叫んだそう。
http://cocorofeel.exblog.jp/  より引用

このSF映画に出るような光の柱 世の中では不思議なことが起こっているようだ。

2009年1月 3日 (土)

牛の日

Photo

午後の動物 

午後の動物

2009年1月 2日 (金)

オーディオドラマ「女歌夢の道行」

NHKFM放送1月3日(土)午後9:00~10:20

◆作:大久保昌一良  演出:保科義久
大正12年(1923年)8月の夕刻。東京・隅田川の船宿で、「百物語会」が開かれようとしている。主宰は怪奇・幻想小説の大家として名声を高めていた泉鏡花(51)。この時、遅れて入ってきた若手作家・芥川龍之介(33)が連れてきたのは、太棹の三味線を手にした盲目の女性。この瞽女の唄が始まると、鏡花たちはたちまち時間を逆流していた……。
亡き母への思慕と、自殺を思い留まらせてくれた<身代わり女性>への感謝と憧れを、生涯にわたり繰り返し書き続けた作家・泉鏡花。彼の諸作品をモチーフに怪奇と幻想の物語世界を描きます。
瞽女が語る「人魚伝説」を鏡花自身の身の上話と重ねあわせる和風ミュージカル仕立てのオーディオドラマである。

◆出演:石川さゆり(瞽女役、唄・三味線)               近藤正臣(泉鏡花役)
                    陣八………石田 太郎
                    女たち……福井 淑恵
                    女たち…大和なでしこ
                    女たち……山咲カンナ
                    男たち……内山 森彦
                    男たち……石見 榮英
                    男たち……小杉 幸彦
                    男たち……三村 晃弘
                    泉鏡太郎…上村 祐翔
------------------------------------------------------------------------

三味線演奏:萱森直子
音楽:樋口康雄
技術:中鉢由希
音響効果:畑奈穂子
※瞽女(ごぜ)については、ご指導いただいた萱森直子さんのホームページをご覧ください。http://www.echigo-gozeuta.com/

◆泉 鏡花(いずみ きょうか、1873年(明治6年)11月4日 - 1939年(昭和14年)9月7日)尾崎紅葉のもとで小説修業をし、『夜行巡査』『外科室』の2作が評価を得て、本格的な作家生活に入った。幽玄華麗な独特の文体と巧緻を尽くした作風は、川端康成、石川淳、三島由紀夫らに影響を与えた。
作家別作品リスト 泉 鏡花  http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person50.html

2009年1月 1日 (木)

謹賀新年 2009

Quatermass

あけましておめでとうございます。

元旦

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羽衣ストーブ館

  • 静岡新聞 2001年5月22日記事
    フランスを中心としてヨーロッパで製造されたアンティークストーブ100点以上はひとりの日本人個人によって南仏を中心に長期コレクションされたものであります。 ◆南仏より海を渡ってやってきたアンティークストーブ100台たちは清水港へ上陸して、東海大学社会教育センターに移築した江戸時代に作られた曲り屋の屋敷のなかに展示された。 ◆鋳物ストーブ100台たちは、その後も数奇な運命をたどることになる。
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22カードの意味

  • _0 愚者
    タロットアルカナの22枚には、世界の変化を表すことが記されています。カードの意味を知るには、図案のもつ表のイメージから解放されることが大切です。

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ペンギンタロットの原画

  • 0の愚者から21の宇宙(世界)まででひとつの話が結ばれる
    兆しを理解して現実なるものを深くたのしく感知する訓練カードです。 タロットを機能させるには慣れ親しむことからはじまります。 まだ目には見えていない物事や潜在的な事柄を導き出す道具でもあります。 各アイコンをクリックすると、21のカードが観れます。