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2009年2月26日 (木)

トマソン

トマソン、もしくは超芸術トマソン(ちょうげいじゅつとまそん)とは、赤瀬川原平らの発見による芸術上の概念。不動産に付属・保存されている無用の長物。創作意図の存在しない、視る側による芸術作品。

[] トマソンの語源
トマソンの語源は、東京読売巨人軍元選手ゲーリー・トマソンに由来する。 トマソン選手は、元大リーガーとして移籍後1年目はそこそこの活躍を見せたものの、2年目は全くの不発でありながら四番打者の位置に据えられ続けた。その、空振りを見せるために四番に据えられ続けているかの様な姿が、ちょうど「不動産に付属してあたかも芸術のように美しく保存された無用の長物」という超芸術の概念にぴったりであったため名称として採用された。固有名詞が名称として採用された理由は、それまでの言葉では説明しがたい新しい概念を持つものだったため、むしろしがらみの無い個人名を必要としたと思われる。新しく発見された病名など学術的用語に個人名を付けるのに似ている。

Tomakaidan

[] 超芸術トマソンの発見と命名
1972年、赤瀬川原平、南伸坊、松田哲夫が四谷の祥平館脇の道を歩いている時に上り下りする形態と機能はきちんと保存されながら上った先には特に出入り口のあるわけでもない階段を発見した。

翌年、赤瀬川原平が、江古田の駅でベニヤ板で塞いである使われなくなった出札口(切符売り場の窓口)に気付いた。そのベニヤ板が、長年の銭の出し入れでくぼんだ石の表面にあわせて必要以上に律儀に、微妙な曲線に切断されていたのである。

また、南伸坊が、お茶の水の三楽病院で、きわめて堂々とした造りでありながら出入り口だけがきっちりとセメントでふさがれた通用門を発見し報告をした。

これらは「四谷の純粋階段」「江古田の無用窓口」「お茶の水の無用門」と名付けられ、これらに共通する概念として浮上した《芸術のように実社会にまるで役に立たないのに芸術のように大事に保存されあたかも美しく展示されているかのようなたたずまいを持っている、それでありながら作品と思って造った者すら居ない点で芸術よりも芸術らしい存在=「超芸術」》の例として認識された。

そしてこれら「超芸術」の中でも不動産に付着するものをひと言で言い表す愛称、通称のようなものはないかということで「トマソン」という名前が与えられた。この名前は当時、読売ジャイアンツに助っ人として4番打者の位置に居ながら、大リーグの三振を見せるために保存されていると言われていたゲーリー・トマソン選手にちなんだ名前である。名前が決まったのは赤瀬川が講師をしていた美学校「考現学教室」の生徒の議論の中からであった。なおトマソン選手の三振の記録は132でこれはレジー・スミスに抜かれるまでセリーグ・ワースト記録であったが途中で退団した82年にはそれを上回るペースであった。

この概念が赤瀬川の連載のあった白夜書房の雑誌『写真時代』で1982年に発表され、「考現学教室」の生徒たちの「探査」活動や赤瀬川自身の採集による「物件」の写真が赤瀬川の筆で発表され読者からの物件の報告を誌上で発表解説するという形がとられると一つのブームとなり一挙に「トマソン」の概念が広まった。『写真時代』の連載は途中で単行本『超芸術トマソン』(白夜書房刊)にまとめられた。白夜書房の単行本は連載途中であったので連載の最後の方は収められておらず、のちに筑摩文庫から文庫版で出る時に全てが収められた。なお赤瀬川の連載は同じく末井昭編集長の雑誌「ウィークエンドスーパー」の連載「自宅でできるルポルタージュ」が雑誌名変更とともにいつのまにか「超芸術トマソン」に代わったものである。

Tomason 20041117

[] 影響
トマソンは、一時期ちょっとしたブームとなり、美術や前衛芸術に関心のある学生・若者などに大きな影響を与えた。またトマソンの定義を知らない者の間にまでトマソンという言葉が浸透したという点でも一種の社会現象と言えるかもしれない。

また「超芸術トマソン」単行本の表紙の写真に現れる、谷町という地上げ再開発によって消えた港区の町をめぐるエピソードは、理論としてはトマソンの概念には関係の無い話であるが、トマソンがそのような町を愛する視点と関係しているという基調を示していて、トマソンのブームの盛り上がりにも深い影響を与えたと言わざるをえないであろう。

また、このような大規模な地上げ再開発が、誰の目をも驚かすもっとも盛んなバブル経済時代の反映も背景としてあった。

1983年にトマソン観測センターによる「悶える町並み」という展覧会が新宿のギャラリー612で開かれ、赤瀬川原平の絵画や物件の写真が展示された。

その後出版社東京堂後援による東京での「トマソンバスツアー」や赤瀬川原平によるレクチャーが所々で開かれ、またNHKや11PMなどのTV番組で取り上げられ、単行本「超芸術トマソン」が出版されひとつのブームのピークを迎えた。

しかし当の赤瀬川やその生徒によるトマソン観測センターは、ブームの盛り上がりによってかえって疲弊してしまい、次第に活動は下火となってゆく。

そのころ藤森照信らの建築探偵(古い市井の建物の観察・分析・コレクション)、林丈二のマンホールその他路上のもろもろの蒐集、南伸坊のハリガミ採集分析、一木努の建築破片収集などの路上にまつわるコレクションの活動とブッキングされて、筑摩書房から路上観察学入門という本が出版され、それに合わせて1986年、学士会館で路上観察学会の発足式と称したイベントが開催され、記者会見などを行なった。企画したのは筑摩書房の現専務取締役松田哲夫である。

路上観察はごく一部でブームとなったが、トマソンのように雑誌投稿や生徒と赤瀬川とのやりとりのようなものは無かったので、「運動」的な盛り上がりは存在しなかった。ファンのような人達はおおぜい居たが、「天才達」のやる路上観察を市民レベルで愛好するというような、近代の芸術と同じようなヒエラルキーとして受け入れられたのは皮肉である。一方では超芸術トマソンの「写真時代」での赤瀬川と読者投稿のやり取りからヒントを得たと思われる、宝島社の『VOW』を代表とする俗化されたオモシロ投稿写真というジャンルの起源となった。 こうして路上観察(学会)の定着と交代するようにしてトマソンは消えて行ったのである。

トマソンは、映画などの分野にも影響を与えていて、映画『機動警察パトレイバー the Movie』において、トマソンの一種である「原爆タイプ」があるシーンに登場し、奇妙なリアリティを与えていたという例や、ウィリアム・ギブスンの小説にも「超芸術トマソン」の出てくるものがあると書かれたトマソン選手の項目のある合衆国の野球選手名鑑のサイトも存在している。またトマソンのような要素をデザインとして最初から引用し意図的に織り込んだ建築も散見されるようになったので、今日においてトマソンを探す際にはこの点に留意し確認する必要がある。

[] トマソンの分類
ちくま文庫『トマソン大図鑑』による分類。

無用階段
純粋階段ともいわれる。上って下りるだけの階段。もともとは階段の先に扉などがあったものが多い。設計変更などの原因で、新設当時から無用階段になってしまっていたものも存在する。
無用門
塞がれてしまってもいまだ門としての威厳を保っている門。
ヒサシ
庇。無用庇ともいう。下にあった窓や扉が無くなってしまったにもかかわらず、雨を防いでいる庇のこと。
無用窓
塞がれた窓。塞ぎ方に念が入っているものが美しい。
ヌリカベ
無用門や無用窓と重なる。塞いだ窓や門の跡。コンクリートで塗り込めても完全には隠しきれていない領域。周囲との微妙な差異を楽しむ。
原爆タイプ
平面状のトマソン。建物などの痕跡が、壁にシルエット状に残っている物件。密集して立てられていた建物群の一部が取り壊された場合などに出現する。
高所
物体そのものは正常だが、普段ある場所よりも高いところに存在しているために違和感をもたらす構造物。二階にある取っ手付のドアなど。階段が取り壊された場合に出現することが多いが、内側にクレーンなどが格納されている実用的な扉であり、汎用の扉部品を使ったためにそうなったというものもある。
でべそ
塗り込めた壁からわずかに飛び出た、ドアノブや蛇口などの小さい突起物。
ウヤマ
看板や標識の文字が一部消えているもの。最初の物件が「?はウヤマ/卯山?店」というものだったのでこの名前が付いた。
カステラ
壁面から飛び出した直方体状の部分。出窓の塗りつぶしなどで発生する。また、逆に引っ込んでいる部分は「逆カステラ」と呼ばれる。
アタゴ
道路脇にある意味不明の突起物。車の駐車禁止のため役に立っている可能性もある。トマソン探索初期、赤瀬川らが新橋から愛宕山に向かう途中でこれの第一号を発見したため、アタゴという名前が付けられた。
生き埋め
路上の物件の一部がコンクリートなどで埋められているもの。
地層
地面に断層が形成されたもの。同一箇所を複数回工事したときなどに見られる。
境界
ガードレール、柵、塀など、境界を表示する物件で、意味が即座に理解しがたいもの。
ねじれ
通常、まっすぐ直角に作られている建築物のなかにおいて、微妙なねじれを有する物件。
阿部定
途中で切られた電信柱の跡。命名は阿部定事件より。
もの喰う木
木が、柵やワイヤーなどを飲み込みながら成長している様子。
無用橋
埋め立てられた川に架かる橋など、無用となっている橋。ただし、暗渠化されているケースでは、地下に空洞があるため、自動車などの重量物を通す道は橋梁構造にしておく必要がある。そのため、本格的に無用であるとは言い切れず、「外見的に無駄に見える」というだけの理由による。
純粋タイプ
分類不能で、実用的意味が考えられないもの。空けると壁面の「純粋シャッター」など。
蒸発
看板の退色や、記念碑の一部損壊などで、もともとの意味がわかりにくくなっているもの。

[] 参考文献
赤瀬川原平編 『超芸術トマソン』 筑摩書房、1987年、ISBN 4480021892
赤瀬川原平・南伸坊・藤森照信 共編『路上観察學入門』 筑摩書房、1986年、ISBN 4480853154
赤瀬川原平編 『トマソン大図鑑・無の巻』 筑摩書房、1996年、ISBN 4480032010
赤瀬川原平編 『トマソン大図鑑・空の巻』 筑摩書房、1996年、ISBN 4480032029

[] 関連リンク
美的価値 (「超芸術」の名称について)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%8E%E7%9A%84%E4%BE%A1%E5%80%A4
痕跡器官 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%97%95%E8%B7%A1%E5%99%A8%E5%AE%98

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

トマソン・リンク http://www.st.rim.or.jp/~tokyo/thomalink/

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