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2009年8月13日 (木)

『機關17 針生一郎特集』 書評

『機關17 針生一郎特集』 機關編集委員会 編

2001年7月21日「朝日新聞」夕刊
「ほん 郷土へ・郷土から」コーナーより

 50年代、60年代の日本の戦後美術・文学界の芸術運動を領導し、現在も世界を視野に変革への実践活動を続ける評論家針生一郎の全軌跡がまとまった。自筆の詳細な34頁に及ぶ年譜は、記録もだが読み物としても面白い。福岡在住の画家菊畑茂久馬との対談が、年譜の行間を補っている。
 針生の足跡を知るには欠かせない本が、福岡で出版されたのは、前衛芸術グループ「九州派」との縁である。地方でと言うべきか、地方だからと言うべきか、をおいても全国的に貴重だ。針生を取り上げると決めたのが91年、対談が98年12月、生まれ落ちる時間の長さが、すごい。

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01年8月27日「読売新聞」夕刊

「機關」17号が批評家の針生一郎を特集している、針生は戦後美術を語るうえで欠かせない批評家であり、九州派など福岡の美術運動にもかかわりが深い。美術の一九六〇年代を検証しようと、これまで毎号一人ずつ美術家を取り上げてきたこの雑誌が批評家を特集するにあたり、最初に針生を選んだのは順当な人選と言えるだろう。
 学生時代、歌詠みの皇国青年だった針生が敗戦による価値観の崩壊を経験し、新たな価値基準を模索する過程で美術に出合った経緯はよく知られている、その意味で、針生は典型的な「戦後」的批評家だということができる。
 七〇年代以降の大衆社会状況を迎えて、戦後思想の有効性が見失われていった中で、針生は「戦後」という思想的課題のアクチュアリティーを現在もなお信じて疑わないかに見える。そのようなある種愚直な姿勢は若い世代の目に時に頑迷な批評家として映るらしいが、その辺りがまた針生の独特の魅力であることも確かだろう。
 その思想的課題とは「戦争中の『滅私奉公』のスローガンにいわれた天皇や国家としての『公』ではなく、むろん商品市場のメカニズムともちがう、民衆の内的規律としての公共性の基準」(「『芸術と人権』の構想」)を探ることであったとおおむね理解してよいようだ。
 そのような針生の目に、六〇年代までの美術運動論の命脈がほとんど絶たれてしまった観のある七〇年代以降の美術はどのように見えていたか。「わたしは1970年以降、主として外国の芸術家の作品に注目して内的な訴えを満たしてきた」(同)という述懐は痛切である。
 海鳥社が版元を引き継いだ11号以来、この雑誌は毎号全編を一作家の特集に充て、福岡市の画家菊畑茂久馬氏と特集作家との対談をメーンの記事に据えてきた。そもそも「六〇年代の検証」というテーマ自体、菊畑氏の提案によるもので、それは「おおきに七〇年・八〇年代の美術が腑に落ちないということを踏まえてのことだった」(今泉省彦「後記」)らしい。
 自分たちがかかわった六〇年代の美術運動とは一体何だったのか。そのような思いは針生と菊畑氏とに共通のものだったのだろう、二人は対談で政治と芸術、戦争画、前衛の行方といった主題をめぐって論じながら、七〇年代のある時期を境にした二つの美術の光景に脈絡を与えようと苦心しているようにも見える。
 むろん六〇年代の総括とそれを踏まえた現在の立場において、二人の間には明らかな相違がある。菊畑氏が美術運動に言わば見切りをつけて、個的な制作の世界に沈潜していったのに対し、針生は依然運動論を手放していない様子だ。「『芸術と人権』の構想」からは針生が七〇年代以降の状況の変化を踏まえた新しく柔軟な運動論の可能性をつかんでいるらしいことが読み取れる。
 評論家高島直之氏の論文は針生の批評の原点に迫っており、新たに書き下ろされた自筆年譜は資料として貴重だ。(人)

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