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2009年8月15日 (土)

『機關』特集と取り組んで 菊畑茂久馬

『機關17 針生一郎特集』 機關編集委員会 編

2001年8月27日「毎日新聞」夕刊(文化 批評と表現)
菊畑茂久馬氏の論文より

 針生一郎と戦後美術批評――『機關』特集と取り組んで
 美術雑誌『機關』17号が、美術評論家特集の第一弾として、針生一郎を取り上げている。内容は、針生自身が推敲(すいこう)を重ねて書き上げた75年に及ぶ長大な年譜を全文掲載し、それを受けて菊畑が針生との対話で行間を聞き取りながら、さらに年譜を補綴(ほてい)している。冊子の大半を、ひたすら針生の足跡の記録と肉声の聞き取り調査に費やしている。また評論家の高島直之氏が、針生の長い批評活動の経緯を踏まえながら、主要な問題点の解読と、その因って来たる思想の原点を剔出(てきしゅつ)している。
 『機關』は、当初からの編集方針通り、1960年代の同時代史の編纂を進めてきたが、すでに数人の作家特集を終えて、今号から美術評論家特集に移った。いずれも時局的な現場の論議は極力避けて、当時の隠れた足跡や、貴重な証言を記録することにつとめてきた。
 さて、今号の針生特集であるが、戦後美術批評を成らしめている中核は、言うまでもなく「運動論」であるが、その意味で針生一郎は避けて通れない大きな支柱であることは異論のないところであろう。特に50、60年代の日本の戦後美術や文学における芸術運動を領導し続けた業績は突出していて、この事実はつとに広く知られるところである。にも関わらず、針生研究の基礎資料は皆無と言ってよい。今回の特集が、微力でもその一助になるなら、甲斐ありというものである。
 かつて敗戦後の混沌とした芸術状況を出自として、運動論の火種を懐に、幾多のいくさ場を駆けた荒武者の針生だが、今も眼光は鋭く老騏(ろうき)の趣を漂わせている。皇国史観に染まった青年期から、左翼運動の闘士として、政治と芸術の統合を夢見て、アヴァンギャルド芸術論を楯に、リアリズム芸術へ、さらにドキュメンタリー芸術へと突き進んだ革新の苦闘の道のりは、単に美術批評のわくを越えて、戦後を生きた一人の誠実な知識人の歩みとしても、戦後思想史の貴重な収穫であろう。
 福沢一郎、鶴岡政男、岡本太郎、そして、ヨーゼフ・ボイスから、アンゼルム・キーファー、ハンス・ハーケ、ラインハルト・サビエと貫通する針生の重量級の批評の実践は、今日の迎合的なポピュリズムに足を取られた美術批評に、いずれ大きな風穴をあけて底力を発揮してくるはずである。本刷寸前に届いた「芸術と人権」の論文も「抑圧された人々と重なる表現」と、依然として社会的主題を手放そうとしない。今日の風潮からすれば、彼は相当な頑固変人と映るだろうが、梃子(てこ)でも動かぬ人がいるから時代が透けて見える。「ハリューは面白い」と、若者たちが新鮮な感覚で研究を進める日はやがてやって来る。
 ところで、『機關』という雑誌は、当初『形象』と名づけられ、58年に高校の教師を中心とした文学同人誌として始まった。やがて「美術をめぐる思想と評論」という副題がつけられ、9号から『機關』と改名し、徐々に当時の若い先鋭的な画家たちの論陣の拠点となっていった。以後60年安保をはさむ66年の10号まで、当時の沸騰した社会状況に果敢に表現論をスパークさせ「大胆にも突出した部分と、不当に遺棄された部分、すなわち美術のコンヴェンションを出はずれた部分へ、泰然と、かつ過敏にかかわりつづけた」(川仁宏)のである。
 その後10号を最後に、いわゆる万博の70年代を迎えるに及んで長い休刊が続いた。丁度その頃、小冊子でいいから60年代の芸術動向を記録する同時代史誌を作りたいと思っていた。そんな時に、そんなら『機關』の復刊をしてみないかと声がかかった。そこで13年振りに復刊したのが、80年刊の今泉省彦特集である。以後、風倉匠、松澤宥、赤瀬川源平、中村宏、森山安英と続き、今回の針生一郎特集が7冊目である。『形象』1号から数えると43年、復刊して21年、年輪だけは名門である。
 半世紀になんなんとするこの美術雑誌の命脈を支えているのは今泉省彦である。かつて現代思潮社にいた編集のプロの今泉が、すべての労を背負っている。刊行のたびに、たくさんの人達の無償の協力が続いているのは、今泉の人柄に負うところが多い。この場を借りてお礼を申し上げたい。今泉も私もいつの間にか老人になってしまった。この雑誌は誰のものでもないのだから、この辺りで次の人にバトンを渡す時がやって来たと二人共思っている。(きくはた・もくま=画家)

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