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2009年11月30日 (月)

ル・クレジオ講演「フィクションという探求」

J.-M.G. Le Clezio (Prix Nobel de litterature 2008)
ノーベル文学賞受賞作家 ル・クレジオによる講演会が開催された。
2009年11月29日(日)15:00開演 東京大学文学部本郷キャンパスにて

20091021135309

ル・クレジオ:Une quete nommee fiction レジュメ

1)小説は不完全な形式、ユゴーやデュマの作品は削れる部分があるが、詩は完全な形式でどこも削れない。ミショー、ランボー、ロートレアモンへのオマージュ。

2)かつてニースには50余りの映画館があり若い頃シネフィルだった。自分の世代の作家が書く小説には「映画の手法」が刷りこまれている。それは心理を外部へと表出するいわば現象学的手法である。

3)自分はフランス語への愛にあふれている。そこには「フランス帝国主義」は関与していない。フランコフォンというタームは好まない。他のすべての言語を尊重する。さまざまな外国語の作品がフランス語に翻訳される事態にフランス語の開かれた位置が示されている…。

 講演は少し遅れて15時15分ごろから。まずは日本の印象について語った後、育った土地ニースとの矛盾した関係について。地中海世界について語るということは、純粋性への追求ではなく文化の混交についてへのもの。古代ギリシャ、ローマ、ゲルマン、アラブ、イスラーム、トルコ、イギリスなどさまざまな文化の混ざり合ったものとしての地中海文化。同じような文化圏はインド洋にもカリブ海にも日本海にもある。
 次に二重帰属と殖民地のことについて。ル・クレジオの家族は、モーリシャリスで繁栄を誇ったル・クレジオ一族から追放された移民であり、ニースでは彼の家は「閉じ込められた泡」のなかで暮らしていた。面白い表現だ。ル・クレジオ一家が行ったモロッコ旅行でのバスでの一コマやアルジェリア戦争後の病院の撤退の2つが記憶に残る物語だった。モーリシャリスに残ったル・クレジオ一族はその国の独立により世界に離散する。これを彼は「幸運なディアスポラ」と呼んでいた。
 「書くことは断定することではなく、自分への問いかけ」というのが興味深い。ウォーレ・ショインカの作家の仕事への言及「治療薬を提供するかわりに頭痛を提供する」の引用、「作家は解決をもたらさないが、頭痛のタネを持ち出す」「悪の迷宮を解決できる鍵を持っていない」「作家は道徳家ではない、書く以外の仕事はしない」おもしろいな。道徳、教訓を垂れるのが文学ではない。「自分の記憶、他人の記憶をよみがえさせ、幻想を現出させる」それが作家の仕事だ。
 文学形式については省略。
 「野菜の美しさ」という言葉がいい。戦争や歴史や大事件を語ることではなく、日々の生活や料理のレシピについて語るということを集約した言葉。「地上的生存の小さなエピソード」とも。
 「作家は意識的に書いていない、無意識に書いている。明確な計画があって書いているわけではない」一人の作家の別の作品も同世代の別の作家の作品も違う時代の作家の作品も、すべて断続はなく、連続しているという話。「すべての作家は一冊の共通の本を書いているのだ」
 アンリ・ミショーやロートレ・アモン、ランボー。小説に詩情をどうこめるかに気をつけている。「ときには断念することもある」
 最後の議題は、映画、日本映画の「雨月物語」について。最初に出会った芸術映画だと。その映画が実存主義や現象学とあいまって、外部を描く表現に影響を与えたとのこと。茅ヶ崎館の怪談。
 最後に質問に答えて終わり。おじさんが発した2012年への質問は意図的に翻訳者が割愛。難しいことを書くためだけに難しく書くビザンツ主義的文体は避けようという、地中海的表現でしめくくる。終わったのは17時過ぎになった。

■実に興味深いル・クレジオ氏による講演内容である。教室は満員で入れない人たちのほうが多かったので、法文2号館2階2番大教室のモニターにて同時中継されていた。文芸誌「すばる」などで特集がくまれることを期待する。


■『来るべきロートレアモン』 ル・クレジオ(朝日出版社)
この原始的な作品は唯一無比のものである。文学の中にこれと比べ得るものは何一つ
ない。もろもろの類似を求める為には、非常に遠いところ、他処の世界に探しに行かねばならない。例えば口承文藝のカオスとか、イメージがまだ書き言葉によって定着されていない歌の野獣めいた波動とかの中に。悪魔払い、呪詛、罵詈、祈りのなかに。
http://www002.upp.so-net.ne.jp/koinunomadoromi/NewFiles/bookmenu.html より

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