未来を予測するコンピューターが記録した童話 1
一人の少年がいた。
少年は、海底油田の見習工だった。あるとき、油田所属の電波塔の修理の手伝いをしながら、なにかのはずみで、空中服をつけずに、海面におどり出るるということがあって以来、その不思議な感覚を忘れられなくなってしまった。しかしこういうことは、健康管理のうえからも厳禁されていたことだ。見つかれば罰をうけなければならない。
少年は誰にも言わず、こっそり自分だけの秘密にしておかなければならなかった。
だが、風がが皮膚から何かをうばっていく、あの不安な感じが忘れられず、さそわれるように、街をはなれて、遠くに泳ぎだすことが多くなった。
行く先は、きまって昔陸地だったといわれる、高台だった。そういう場所では、潮が満ち干する時刻、とくべつ流れの早い水の帯や渦ができて、海底の泥がまきあがり、縞になったり、動く岩の形になったり、靄の壁になったりする。
少年はそれを見て、地上の雲のことを想像した。むろん今だって、空には雲があるし、理科の時間には、フィルムで実物を見せてもらったこともある。だが、現在の雲は単調だ。昔、まだ大きな陸地が地球を覆っていた時代、その複雑な地形は、雲の形にも無数の変化をあたえたものだという。空一面に、そんな、夢のような物のかたちが浮んでいるなんて、昔の地上人たちは、一体どんな気持でそれを見ていたのだろう?
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