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2009年12月26日 (土)

未来を予測するコンピューターが記録した童話 2

 むろん少年にとって、地上人そのものほべつに珍らしいものではなかった。博物館の空気室に行けば、いつでも自由に見ることができる。昔のままだったといわれる、家具調度の中で、重力という鎖をひきずりながら、ぎくしゃくした身のこなしで、床にはいつくばっている、みるからに生気のない動物。肺臓という空気ボンベをしょいこんでいるために、いかつく張った、不調和な上半身。ただ普通の姿勢を保つためだけに、椅子などという、奇妙な道具をつかわなければならない、不自由な生物:…とうてい夢などとは緑がありそうもない。芸術科の時間にも、昔の地上芸術が、自分たちのとくらべて、いかに不自由で粗野なものであったかを教わった。
 たとえば、音楽……定義によれば、振動の芸術……すなわち、波長のちがう水の振動で全身の皮膚を包みこむことである。しかし、陸上人の場合は、これが空気の振動だけで構成されていた。
空気の振動は、戟膜という、ちっぽけな特殊器官でだけしか、とらえることができない。しぜん、その音楽も、変化のすくない単調なものであったという……

 博物館の陸棲人を見ていれば、そんな気持もしないではない。だが、そう思うだけで、それが実際どんなものであったかは、想像してみることもできないのだ。もしかすると、そこには、水中から類推するのとはまるでちがった、特別な世界があったのではなかろうか? 変化しやすい、
邪 軽い空気……方物の形をとって乱舞する天の琴……空想にあふれ、万事に現実が欠乏した世界……

 その荒れはてた、苦難にみちた大地の上で、自分たちの祖先が、傷つきながらも、いかに勇敢に戦いぬいたかは、歴史の本にも書いてあることだ。おくれた認識のうえに立ちながらも、彼等はフロンティア・スピリットというものをもっていた。その保守的な心情にもかかわらず、ついには、自分自身の肉体にメスを入れ、水棲人に変身する勇気さえもち合わせていたのである。動機がどうであれ、今日のわれわれをあらしめた、彼等の勇気にだけは、感謝と敬意をはらわねばなるまい。

 だが、あの博物館の陸棲人から、そんな勇気や大胆さなどを、感じることが出来るだろうか?
教師たちは、彼等の下等さを、社会への主体的参加を失ったための退化だという。そうかもしれないとは思うが、しかし、あの中にだって、自分たちには理解のできない、何かが無いとは、断言できないのではあるまいか。まして、フロンティア・スピリットのほかは何もなかったなどというのは。……と、そんなふうに、筋道立てて考えたわけではなかったが、あの風にふかれて以来、少年は、空気の壁の向うで行われていた、過去の世界にひきつけられ、とりつかれてしまっていたのである。地上時代の学間は、形態的には、かなりのところまで究められていた。小学校の教科書でさえ、地上時代のために、かなりのページをさいている。しかしその内面生活に関しては、感覚上のギャップがあるかぎり、やはり類推を一歩も出るものではなかった。とくに、地上病の悪影響 --- それは要するに先天的な神経病の一種にすぎないはずだったが、まだ水中時代の歴史が浅く、社会の運営に試行錯誤的な部分が残っているためか、思想的な伝染力をもっていたのである---の懸念もあって、その部分の研究はあまり激励されていなかった。そのタブーをおかすという誘惑が、よけいに少年の気持ちを強くそそっていたということもあるのだろう。

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