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2009年12月27日 (日)

未来を予測するコンピューターが記録した童話 3

 仕事がはねてから、こっそり遠出するのが、いつしか日課のようになっていた。ガラスの切子を裏から見るような、にぶく輝く波を背に青い光の底にひろがる海底牧場の上を、あるいは無数のブイに支えられた大気観測所のわきを、あるいは火山のようにたえまなく気泡を吹上げている。工場のその泡をくぐり、寮の門限がゆるすかぎりのところまで、地上人の生活の跡を求めて、水中スクーターを走らせるのだった。

 しかし、その限られた時間内では、まだ海面上に頭を出すほどの台地にまではたどりつけなかった。その範囲内には、すでに陸地は無かったのである。

 ある日少年は、音楽の教師をつかまえて、思いきって聞いてみた。陸の音楽は、実は耳だけで聞く音の芸術などではなく、やはり皮膚で感じとれる、風のようなものではなかったのだろうか? 教師は強く首をふって否定した。
 -風は、単なる空気の移動であって、振動ではないからね。
 -でも、風にのって歌が流れてくるという表現があるじゃありませんか。
 -水は音楽をはこぶが、水は音楽ではない…‥空気に工業用原料以上の意味をあたえるのは、いけない神秘主義の影響だよ。

 だが彼は、たしかに風に工業用原料以上のものを聞いたのだ。教師の言うことにだって、間違いはありうる。少年は、風が音楽であるかないか、もう一度自分で、たしかめてみなければならないと決心した。

 しばらくして、三日つづきの連休があった。その休みを利用して、友人と一緒に遺跡めぐりの遊覧船に乗りこんだ。この高速船は、わずか半日足らずで、昔『東京』と言われた巨大な陸上人の遺跡まで運んで行ってくれる。設備のととのったキャンプもあるし、珍らしい記念品の売店もあるし、また世界的に有名な、陸凄動物の動物園までがあって、なかなか面白い遊び場になっている。とりわけ、幾つもの小さな箱が重なり雪た、いかつい廃墟の、迷路のような通路や隙間を、小魚どもを追いちらしながら探険してあるくのは、軽い興奮さえさそうスリルに満ちた遊びである。また、街の上から見下ろすと、網目のようにひろがった、道路という不思議なものもある。歩行のための、屋根のないトンネルとでも言えばいいのだろうか。地上人は、地面から離れることが出来ず、平面しか利用できなかったので、そんな仕掛も必要だったのだろう。なんという無駄な空間の浪費‥‥ユーモラスではあるが、考えてみると、なかなか感動をさそう風景でもある。先人たちの、地面という壁との苦闘の跡……重力から、すこしでも身をかるくするための努力と工夫…‥そこでは、空気を入れたプラスチックの小箱でさえ、上から下に落ちたのだ…地面の分割、奪いあい…‥そのあいだを、人々は細い両足で地面をおしやりながら、体をはこび移動させた‥…乾燥、風、水さえ雨とよばれるばらばらの粒になって、上から下に降った、空虚な空間……

 だが、少年には、そんな物珍らしさに熱中したりする余裕ほなかった。鑑賞や好奇心は、無邪気な友人たちにまかせ、彼は計画どおり、一人でこっそり、さらに奥地に向って泳いで行ったのである。
ここから西北の方角に、まる一日も泳ぎつづければ、地理で習った、あの陸の名残りにたどりつけるはずだ。しだいに陽がかたむき、波は一日のうちで、一番美しく輝きだすころだったが、あたりの風景ほ進むにつれて、ますます単調に黒ずんでくる。新しく海に加えられたこの地帯には、まだ死の影が、ものかげにひそみただよっているようであった。

 振向くと、遺跡『東京』の上に、望遠函の照明が、発光魚のように浮かんで見えている。急に恐ろしくなって、引返そうかと思ったが、気特に反して、足は反対の方角に水を蹴っているのだった。

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