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2009年12月 5日 (土)

小オキキリムイが自ら歌った謡

小オキキリムイが自ら歌った謡
      「クツニサ クトンクトン」

クツニサ クトンクトン
ある日に水源の方へ遊びに
出かけたら,水源に一人の小男が
胡桃(くるみ)の木の簗(やな)をたてるため杭を打つのに
腰を曲げ曲げしている.
私を見ると,いう事には,
「誰だ? 私の甥よ,私に手伝ってお呉れ.」
という.見ると,胡桃の簗
なものだから,胡桃の水,濁った水
が流れて来て鮭どもが
上って来ると胡桃の水が嫌なので
泣きながら帰ってゆく.私は腹が立ったので
小男の持っている杭を打つ槌を
引ったくり小男の腰の央を
私がたたく音がポンと響いた.小男の
腰の央を折ってしまって殺してしまい
地獄へ踏み落してやった.彼の胡桃の杭を
揺り動かして見ると六つの地獄の
彼方まで届いている様だ.
それから,私は腰の力,からだ中の力を
出して,その杭を根本から
折ってしまい,地獄へ踏み落してしまった.
水源から清い風,清い水が
流れて来て,泣きながら帰って行った.
鮭どもは清い風,清い水に
気を恢復して,大さわぎ大笑いして遊び
ながら,パチャパチャと
上って来た.私はそれを見て,安心をし
流れに沿うて帰って来た.と
  小さいオキキリムイが物語った.

小オキキリムイが自ら歌った謡 「この砂赤い赤い」

〔この砂赤い赤い〕
ある日に流れをさかのぼって遊びに
出かけたら,悪魔の子に出会った.
いつでも悪魔の子は様子が美しい
顔が美しい.黒い衣を着けて
胡桃(くるみ)の小弓に胡桃の小矢を持っていて
私を見ると,ニコニコして
いうことには,
「小オキキリムイ,遊ぼう.
さあこれから,魚の根を絶やして見せよう.」
と言って,胡桃の小弓に胡桃の小矢を
番(つが)え水源の方へ矢を射放すと,
水源から胡桃の水,濁った水が
流れ出し,鮭どもが上って来ると
胡桃の水が厭なので泣きながら
引き返して流れて行く.悪魔の子は
それをニコニコしている.
私はそれを見て腹が立ったので
私の持っていた,銀の小弓に銀の小矢を
番え水源へ矢を射はなすと
水源から銀の水,清い水が
流れ出し,泣きながら流れて行った
鮭どもは清い水に元気を恢復し
大笑いをして遊びさわいで
パチャパチャ川を上って行った.
すると,悪魔の子は,持前の癇癪(かんしゃく)を
顔に表して,
「本当にお前そんな事をするなら,鹿の根を
絶やして見せよう.」と云って,
胡桃の小弓に胡桃の小矢を番え
大空を射ると,山の木原から
胡桃の風,つむじ風が吹いて来て
山の木原から,牡鹿の群は別に
牝鹿の群はまた別に,風に吹き上げられ
ずーっと天空へきれいにならんで上って行く.
悪魔の子はニコニコしている.
それを見た私はかっと癪にさわったので
銀の小弓に銀の小矢を
番えて,鹿の群のあとへ矢を射放すと,
天上から,銀の風,清い風が
吹き降り,牡鹿の群は
別に,牝鹿の群はまた別に,
山の木原の上へ吹き下された.
すると,悪魔の子は
持前の癇癪を顔に現し,
「生意気な,本当に
お前そんな事をするなら,力競べをやろう.」
と云いながら上衣を脱いだ.
私も薄衣一枚になって
組み付いた.彼も私に組み付いた.それからは
互に下にしたり上にしあったり相撲をとったが,
大へんに悪魔の子が力のある事には
驚いた.けれども,とうとう,ある時間に,
私は腰の力,からだの力を
みんな出して,悪魔の子を
肩の上まで引っ担ぎ,
山の岩の上へ彼を打ちつけた音が
がんと響いた.殺してしまって地獄へ
踏み落したあとはしんと静まり返った.
それが済んで,私は流れに沿って帰って来ると,
川の中では鮭どもが笑う声
遊ぶ声がかまびすしくのぼって来るのが
パチャパチャきこえる.山の木原では,
牡鹿ども,牝鹿どもが笑う声
遊ぶ声がそこら一ぱいになって
そこにここに物を
食べている.私はそれを見て
安心をし,私の家へ
帰って来た.
  と,小さいオキキリムイが物語った.

(1) kinatantuka……蒲の束.蒲は編んで筵の様な敷物にするのですが,よく乾いているのをそのまま編むといけませんから,少し湿してからつかいます.この話にあるのも,そのために女が川へ持って行くのでしょう.
(2) i-okapushpa.人は死んでしまった親や親類などの名を言ったり,その事をふだん話したりする事を i-okapushpa と言って大へん嫌います.また,人のかくしていた事をそばからほじり出して,みんなに言ったり,その人の聞きにくい様なその人の前の行為などを口に出したりする事をも i-okapushpa と言います.
(3) nimakitara……牙の剥き出している.これは犬の事.山のけものたちは,人が猟に行くと犬を連れて行きますが,その犬に歯をむき出してかかられるのが一ばん恐いので,犬にこんな名をつけて恐がっています.

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知里幸惠編訳「アイヌ神謡集」郷土研究社
   1923(大正12)年8月10日発行

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