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2009年12月 7日 (月)

小狼の神が自ら歌った謡 「ホテナオ」

ホテナオ
ある日に退屈なので浜辺へ出て,
遊んでいたら一人の小男が
来ていたから,川下へ下ると
私も川下へ下り,
川上へ来ると私も川上へ行き道をさえぎった.
すると川下へ六回
川上へ六回になった時小男は
持前の癇癪(かんしゃく)を顔に表して言うことには,
「ピイピイ
この小僧め悪い小僧め,そんな事をするなら
この岬の,昔の名と今の名を
言い解いて見ろ」
私は聞いて笑いながらいうこと
には,
「誰がこの岬の昔の名と
今の名を知らないものか!
昔は,尊いえらい神様や人間が居ったから
この岬を神の岬と
言ったものだが,今は時代が衰えたから
御幣の岬とよんでいるのさ!」
云うと,小男の云うことには,
「ピイトン,ピイトン
この小僧め本当にお前はそういうなら
この川の前の名と今の名を
云って見ろ.」
聞くと,私の云うことには,
「誰がこの川の前の名
今の名を知らないものか!
昔,えらかった時代にはこの川を
流れの早い川と云っていたのだが
今は世が衰えているので流れの遅い川と
云っているのさ.」
云うと小男の云うことには,
「ピイトントン,ピイトントン
本当にお前そんな事を云うなら
お互の素性の解き合いをやろう.」
聞いて私の云うことには,
「誰がお前の素性を知らないものか!
大昔,オキキリムイが山へ行って
狩猟小舎を建てた時榛(はしばみ)の木の炉縁(ろぶち)を作ったら
その炉縁が火に当ってからからに乾いてしまった.
オキキリムイが片方を踏むと片一方が
上る,それをオキキリムイが怒って
その炉縁を川へ持って下り
捨ててしまったのだ.
それからその炉縁は流れに沿うて流れていって
海へ出で,彼方(かなた)の海波,此方(こなた)の海波
に打ちつけられる様を神様たちが御覧になって,
敬うべきえらいオキキリムイの手作りの物がその様に
何の役にもたたず迷い流れて海水と共に腐ってしまうのは
勿体(もったい)ない事だから神様たちから
その炉縁は魚にされて,
炉縁魚と
名づけられたのだ.
ところがその炉縁魚は,自分の素性が
わからないので,人にばけてうろついている.
その炉縁魚がお前なのさ.」
云うと,小男は顔色を
変え変え聞いていたが
「ピイトントン,ピイトントン!
お前は,小さい,狼の子なの
さ.」
云い終ると直ぐに海へパチャンと飛び込んだ.
あと見送ると一つの赤い魚が
尾鰭(おびれ)を動かしてずーっと沖へ
行ってしまった.
  と,幼い狼の神様が物語りました.

(1) katken……川ガラス.昔から大そういい鳥として尊ばれる鳥です.

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知里幸惠編訳「アイヌ神謡集」郷土研究社
   1923(大正12)年8月10日発行

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