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2010年3月31日 (水)

四年くらいまえに関心のあったサイト

□珍奇なイタリアのマジカルユーモアサイト(日本語の入口あり)
かなり面白い不思議系のビジョンが増殖しています。発想が天才的アートです。
http://www.nobodyhere.com/japan/me.here

□大地の気(風水とは大地の鍼灸術)
http://www2s.biglobe.ne.jp/~kokumon/
□ツァラトゥストラ
http://www.ne.jp/asahi/fuse/abraham/west-asia/iran
ササン朝ペルシアには、様々な文化がこの極東の島国にまで辿り着いている。飛鳥にある拝火教の装置としての石物には時空を超えてしまうほどの想いが全身へよぎった。
http://tonoguchi.web.infoseek.co.jp/iran/zoroastr.htm 

□秦氏の謎と十字架
http://plaza.rakuten.co.jp/newzea/8007

□飛鳥アルバム
http://www.lint.ne.jp/~nomoto/
明日香 大和路の祀り、神社、仏像、自然、街角の風景写真などが色鮮やか。
□『板東千年王国』(この国のかたちほど世界を象徴するものはない)
http://www.ne.jp/asahi/hon/bando-1000/index.htm
□世界のお金の歴史
http://www.77bank.co.jp/museum/okane/index.htm
http://translate.google.co.jp/translate?hl=ja&langpair=en%7Cja&u=http://www.lulu.com/content/165077

□宇宙天気の最新情報をお知らせするページです。
http://swnews.nict.go.jp/swnews.html
□太陽黒点を毎日観測
http://sohowww.nascom.nasa.gov/data/realtime-images.html
(どんな映画やテレビよりも、凄いことが起き続けている)
□我々の太陽系は変化している
http://www.asyura2.com/0403/jisin11/msg/200.html
□ガイヤアセンション
http://homepage3.nifty.com/gaia-as/

(自分の携帯から検索できるように関心あるサイトを載せました)

四年といえば「卒業」でんな。そろそろ入学シーズンやし。

黄金の月をみながら、月見酒♪

Bluemoon2010

2010年3月30日 (火)

全国のお花見スポット

函館市
五稜郭公園見頃時期:4月下旬~5月中旬
松前公園(松前郡)│二十間道路桜並木(日高郡)

青森県
弘前公園(鷹揚園)見頃時期:4月下旬~5月上旬
東北のお花見スポット
千秋公園(秋田県)│盛岡城跡公園(岩手県)│烏帽子山公園(山形県)│青葉山公園(宮城県)│鶴ヶ城公園(福島県)

東京都
新宿御苑見頃時期:3月下旬~4月中旬
関東のお花見スポット
桜山公園(群馬県)│太平山県立自然公園(栃木県)│静峰ふるさと公園(茨城県)│長瀞(埼玉県)│茂原公園(千葉県)│衣笠山公園(神奈川県)

新潟県
高田公園見頃時期:4月上旬~中旬
北陸・甲信越のお花見スポット
兼六園(石川県)│高岡古城公園(富山県)│足羽川・足羽山公園(福井県)│高遠城址公園(長野県)│大法師公園(山梨県)

愛知県
岡崎公園見頃時期:3月下旬~4月中旬
東海のお花見スポット
霞間ヶ渓(岐阜県)│宮川堤公園(三重県)│日本平(静岡県)

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京都府
嵐山見頃時期:3月下旬~4月中旬
近畿のお花見スポット
豊公園(滋賀県)│万博記念公園(大阪府)│姫路城(兵庫県)│吉野山(奈良県)│根来寺(和歌山県)

島根県
松江城山公園見頃時期:4月上旬
中国・四国のお花見スポット
久松公園(鳥取県)│津山城(岡山県)│千光寺公園(広島県)│常盤公園(山口県)│西部公園(徳島県)│亀鶴公園(香川県)│松山城(愛媛県)│鏡野公園(高知県)

鹿児島県
忠元公園見頃時期:3月下旬~4月上旬
九州・沖縄のお花見スポット
西公園(福岡県)│小城公園(佐賀県)│大村公園(長崎県)│市房ダム湖畔(熊本県)│岡城跡(大分県)│母智丘公園(宮崎県)│名護中央公園(沖縄県)

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全国のお花見スポットガイド
http://travel.jp.msn.com/special/hanami2010/

お花見の季節

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江戸時代に「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」と本居宣長は詠み、桜が「もののあはれ」などと基調とする日本人の精神具体的な例えとみていた。
明治時代に「武士道とは日本の象徴たる桜の花のようなもの」と新渡戸稲造『武士道』では記している。

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桜もうじき満開 櫻 桜 サクラ ♪
周辺を散歩して、花見の場所を確保です。
今年はいつになく桜の開花が早くきてしまったよう♪
画像は昨年の阪神花見の模様であります。
都内では一週遅れくらいかな。

2010年3月29日 (月)

サクラと日本人

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歴史は眠らない サクラと日本人 <全4回>作家C.W.ニコル

桜を入り口に日本的な情緒とその変遷を4回にわたり伝える。
桜は古くから日本人の営みと深く結び付いてきた。「花と言えば桜」といわれるようになったのは平安時代。嵯峨天皇によって花宴が始まり、宮中紫宸殿の左近の桜が植えられたのもこの時代。そして桜の美を確立したのが「古今和歌集」の登場。四季の移り変わりに美を感じる日本的情緒を、文学として初めて表した「古今和歌集」は、桜を特別なものとして取り上げた。桜が散る姿に人の世のはかなさをなぞらえた歌が多く収められ、日本人の桜への思いを決定づけたのだ。平安時代の「花と言えば桜」になっていく過程をたどり、日本人が桜に込めた思いを探る。
NHK教育放送 3月30日より毎週火曜日 22:25-22:50
再放送(火曜日)5:35-6:00
NHK教育番組 http://cgi4.nhk.or.jp/hensei/program/

2010年3月28日 (日)

太陽の塔「黄金の顔」の目が40年ぶり点灯

万博40周年、太陽の塔の目が点灯
http://www.youtube.com/watch?v=OjQaky3c4PA
http://www.youtube.com/watch?v=y7UYUjQy6OM
Suntauwer

太陽の塔の上部にある「黄金の顔」目が万博40周年を記念して点灯された。
大阪万博のシンボルとなり開催時以来40年ぶりに、毎晩日没から午後11時まで続けられる。
投光器には発光ダイオードLEDを導入。
点灯式では塔の壁面にレーザー光線で「1970大阪万博」などの文字が映し出されて、
打ち上げ花火が夜空を彩った演出がされた。

「魂が入って、塔がよみがえった気がする。明るい気持ちになりますね」
太陽の塔は芸術家の岡本太郎さん(1911~96)の作品で、万博開催中は点灯していたが、経費面の理由などでその後は点灯していなかった。

写真一覧 http://mainichi.jp/select/wadai/graph/20100327/?inb=yt
http://www.youtube.com/watch?v=k-_9mMQd-I8
芸術は爆発だ!!  人間はシステムやソフトの奴隷になってはいけない。

Suntuwer

2010年3月27日 (土)

渦巻き正しい方向はどれか?

Uzumki Uzumkirem

北半球から南北半球にいったことのある人なら、渦巻きの方向の違いは見ているはずです。地軸が逆な場所へいっているので当然なのですが、頭ではわかっていても感動する体験なんですね。いままで見たことない方向性は、きっと南北半球から北半球へ来た人もおなじように不思議なものだと思います。

答えは簡単。水面所か毎日の流すトイレで見ることができます。

2010年3月26日 (金)

世界は 左巻きか 右巻きか

「森羅万象」が分かれ出て多様に七変化して現れる
カタカムナでは人のもつ本性として「サヌキ」と「アワ」と分類された。
「サヌキ」は直進的、攻撃的、能動的、論理的であり、
「アワ」は総合的、受容的、受動的、感性的といった特徴がある。
サヌキとアワが組み合わさるといい動きが出て、上下関係や主従関係ではないのがポイント。
この世的サヌキ性とあの世的アワ性の理性と感性。
陰と陽、色と空、見える世界と見えない世界、お金とエネルギー、理性と感性の両者でとらえること。
見方が片方に偏ると「気」がととえられなくなってしまう。
カ---目に見えないが森羅万象の背後に、「隠れ身」として感じられる「脅威的はチカラ」
タ---大もとから分けられて独立的になる基底思念
カ---同上
ム---目に見えない「潜象界」
ナ---多様性、変化性が現れる七変化、七周期という思念 

◎「カタカムナ」は目に見えないが、森羅万象の背後に、「隠れ身」として感じられる、
「脅威的はチカラ」から、「森羅万象」が分かれ出て、多様に(七変化、七周期)変化して現れること。
素粒子には宇宙から、右に渦を巻きながら落ちてくるものと、左に渦を巻きながら落ちてくるものがある。
渦巻きは世界各地の古代文明に残る文様で、古代ケルト人は泉から水を汲む時に瓶を回した。渦巻きを起こして水質が確実に良くなる、宇宙からの「気」「磁波」エネルギーを取り入れた。

  Katakanamu       Katakana

【カタカナム文字】も渦巻状に描かれていたという。

ヨモ(四方)のタカミを結ぶトコロは、イヤシロチにて、ミソギに良し
ヨモのヒクミを結ぶトコロは、ケカレチにて、ミソギに不良(ふさ)はず
 
タカミ(隆身)とは、地形の高い凸状、すなわち山や丘陵、森林などの高頂部である。このタカミが同じ方向に重なり合って見えるとき、後ろを振り返れば、また同じようにタカミが重なり合って見えることが多い。つまり、上から見るとタカミが一直線上に並んでいるのである。これを「高位線」と呼ぶ。
ヒクミ(低身)とは、地形の低い凹状、すなわち山の鞍部や谷、森林では高さの低い部分をいう。このヒクミもタカミと同じように一直線上に並ぶ事が多い。これを「低位線」という。
 高位線と高位線を結ぶ交差地帯がイヤシロチとなる。イヤシロチとは生命力を弥(いよいよ)盛んにしてくれる土地。
低位線と低位線を結ぶ交差地帯がケカレチで、元気をなくしてしまう気(け)の枯れた土地を意味する。
イヤシロチには古い神社が多く、ケカレチに墓場が多いらしい。
またイヤシロチはマイナスイオンが多く存在する場所でもある。

「謎のカタカムナ文明」阿基米得より

もし漢字が発明されなかったら/にほんごばん
http://wiki.chakuriki.net/index.php/%E3%82%82%E3%81%97%E6%BC%A2%E5%AD%97%E3%81%8C%E7%99%BA%E6%98%8E%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%82%89/%E3%81%AB%E3%81%BB%E3%82%93%E3%81%94%E3%81%B0%E3%82%93

サヌキとアワは四国の「讃岐」と「阿波」とか千葉の「佐貫」と「安房」など、各地の地名の組み合わせにも出現しています。カタカムナの世界から、現代社会をみつめると一方に偏ったものと映って見える。

東の国と西国

坂東は「東(あずま)の国」という。それは「西国」という場合のように漠然とした東方の国々という 意味ではなく、政治的・社会的な一まとまりの世界であった。

東征した景行記のヤマトタケルは相模国の足柄の坂下でアズマの国 と名づけたとある。『常陸国風土記』にも、古は足柄の岳坂より東の諸県のすべてを「我姫(あずま) の国」 といったとある。景行紀のヤマトタケルは場所を上野国の西の碓日坂とし、山の東の諸国を アズマの国と号したとある。

坂東太郎--利根川の東側の聖地、二荒山には古来から出雲神の大己貴命・妃神の田心姫命・ 御子神の味鋤高彦根神の三神を祭る。二荒山の二荒山神社とどちらが古来からの本社かと議論の ある宇都宮市内の二荒山神社の祭神も、大物主命・事代主命を相殿に豊城入彦命を主神とする。

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紀国には別に紀ノ川の河口に名草戸畔なる者がいて、神武東征の折りに殺されたと記紀にある。 国造荒河刀辧は 種々の系譜や系図を照合してみると大名草比古命とほぼ同世代にあたるから、国造の地位は荒河刀辧 の系から大名草比古命の系の子孫に移ったと見なすことができる。

『板東千年王国』 http://www.ne.jp/asahi/hon/bando-1000/index.htm

インターネットでは歴史のサイトが面白いのだれど、『板東千年王国』は抜群ですよ。日本という処に生まれてきたのは、奇跡的な確立だと感動してしまいます。過去に学ぶのは、あらゆる危機はいい機会のイントロダクションになる可能性があり、一度だけの現実の舞台を素晴らしく生きることのヒントが満載でありんす。

2010年3月25日 (木)

実物大ガンダムふたたび大地に立つ 静岡にて誕生記念

Gundaum 

ガンダムのプラモデルが今年で30周年を迎えるのを記念して、装いも新たにガンプラの故郷で大地に立つ。
ビームサーベルを装備した実物大ガンダムがガンプラの誕生日7月24日静岡市にいよいよ登場する。
高さ18メートルの実物大ガンダムは、アニメ放映30周年を記念して昨年夏、東京・お台場デビューして、国内最大のプラモデル産地である静岡市が招致。初代ガンプラの発売日にちなんで、7月24日からJR東静岡駅前葵区で開かれるイベント「模型の世界首都 静岡ホビーフェア」に合わせて移設される。
バンダイは「RG(リアルグレード)1/1ガンダムゾーン」を出展。実物大ガンダムは「ガンプラ REAL GRADE 1/1 RX-78-2ガンダム」としてゾーンの中央に設置。右手には新たにビームサービルを装備。夜間には光り輝くなど、新趣向のライトアップも予定しているということで楽しみだ。

東京・お台場デビュー実物大ガンダム
http://www.youtube.com/watch?v=eM6nUX57gCg

木村 威夫(きむら たけお、1918年4月1日 - 2010年3月21日)

日本の美術監督、映画監督。東京都恵比寿出身。日本映画美術監督協会顧問、日本映像美術協議会JVA賞審査委員長、日活芸術学院学院長、東京工芸大学芸術学部客員教授、京都造形芸術大学映画学科准教授。

十代の頃より、舞台美術監督伊藤熹朔に師事。1941年、日活に入社。しかし、翌年に日活は新興キネマ、大都映画と合併して大映となる。『海の呼ぶ声』(1945年 / 伊賀山正徳監督、封切は終戦後)で美術監督に昇進。1954年、映画制作を再開した日活へ移籍する。

1963年、『悪太郎』をきっかけに鈴木清順監督作品の美術を担当し、「清順美学」と呼ばれるその作風の創造に大きく貢献している。1966年には、清順を中心とする脚本家グループ「具流八郎」を大和屋竺、田中陽造、曾根中生、岡田裕、山口清一郎、榛谷泰明とともに結成。

日活がロマンポルノ製作へと転じた後、1972年にフリーとなり、以降は林海象など若手監督の作品にも積極的に参加している。

1991年、『式部物語』が第14回モントリオール世界映画祭で最優秀美術貢献賞を受賞。

映画監督として
2004年には、自身初の監督作品となる短編映画『夢幻彷徨(さすらい)』を公開。2008年には長編映画『夢のまにまに』を公開し、これが長編映画監督デビューとしては世界最高齢(90歳)であるとして、ギネス・ワールド・レコーズに登録された。

さらに、2008年8月には長編第2作目『黄金花』の撮影が行われた。プロデューサーに林海象と高橋伴明が参加。出演に原田芳雄、松坂慶子、松原智恵子、絵沢萌子、三條美紀、長門裕之、川津祐介、野呂圭介、麿赤児らが参加。現役の映画監督として、新藤兼人に次ぐ高齢である。

■美術監督■
海を呼ぶ声

警察日記
続警察日記
乳母車
陽のあたる坂道
赤い波止場
霧笛が俺を呼んでいる
紅の拳銃
都会の空の非常線
上を向いて歩こう
渡り鳥故郷へ帰る
悪太郎
関東無宿
花と怒濤
夕陽の丘
肉体の門
俺たちの血が許さない
春婦伝
落葉の炎
悪太郎伝 悪い星の下でも
三匹の野良犬
怪盗X 首のない男
刺青一代
河内カルメン
東京流れ者
蒸発旅日記
けんかえれじい
みな殺しの拳銃
樺太1945年夏 氷雪の門
シベリア超特急
オペレッタ狸御殿
人のセックスを笑うな

■ 監督作品■
夢幻彷徨
馬頭琴夜想曲
夢のまにまに (「こぶ広場」改題)
黄金花

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

Batoukin

馬頭琴夜想曲 公式サイト
http://www.airplanelabel.com/batokin/
馬頭琴夜想曲 予告編
http://www.youtube.com/watch?v=X327s9JwEKc

馬頭琴夜想曲 初日舞台挨拶 木村威夫 モーニング版
http://www.youtube.com/watch?v=LsaBMgqjr0c

映画「ツィゴイネルワイゼン」美術監督 木村威夫氏死去

木村威夫さん追悼

 「ツィゴイネルワイゼン」「海と毒薬」など映画美術監督として230本を超える作品を手がけ、90歳で監督業にも手を広げた木村威夫(きむら・たけお)さんが、21日午前5時46分、間質性肺炎のため東京都内の病院で死去した。91歳だった。葬儀は近親者で行う。後日お別れの会を開く予定。

 1941年に日活多摩川撮影所に入社。初期の代表作に「雁」(豊田四郎監督)や「警察日記」(久松静児監督)がある。日活アクション全盛期に、現実と虚構が交じる独特の世界観を美術の面から支えた。

 特に鈴木清順、熊井啓の両監督との仕事が高く評価された。鈴木監督とは「肉体の門」「けんかえれじい」「東京流れ者」「ツィゴイネルワイゼン」など、代表作の大半を担当、幻想的なイメージを作りあげた。熊井作品では「忍ぶ川」「海と毒薬」などでリアリズムを強く押し出した。90年に「式部物語」がモントリオール世界映画祭で最優秀芸術貢献賞を受けた。
 2008年、90歳で初の長編「夢のまにまに」を、翌年に「黄金花」を発表。創作意欲は最後まで衰えなかった。
 91年に山路ふみ子文化賞、06年度の毎日芸術賞特別賞を受賞。06年から日活芸術学院の学院長も務めていた。
2010年3月25日

木村威夫さんは90歳で「夢のまにまに」で長編監督デビューされた。
老人ホームを舞台に、人生の黄金期を迎えた人々の群像劇を描き出した「黄金花(か)-秘すれば花、死すれば蝶(ちよう)」で話題を呼んでいたばかりでした。

かつて学生のときに映画技作教場の皆様とは、クラス教場を超えて遊んでいただきました。
映画技作 鈴木清順 大和屋竺 鈴木岬一 木村威夫映画美術など個性あふれる講師さんたち。
木村威夫先生さんたちには映画美術の面白さと奥行きを教えていただきました。
心から魂をこめて感謝いたします。

Type3

「黄金花(か)-秘すれば花、死すれば蝶(ちよう)」予告編
http://www.youtube.com/watch?v=t5iZJvee2Iw

幻の花、黄金花を求めて織りなす老人ホーム「浴陽荘」の奇妙で不思議な日々! シネマート新宿、銀座シネパトスにて今秋公開!!原案・脚本・監督 木村威夫出演:原田芳雄, 松坂慶子 長門裕之 川津祐介 三條美紀 松原智恵子 麿 赤兒 野呂圭介 絵沢萠子 飯島大介 牧口元美 中沢青六 真実一路あがた森魚等。甦る名優達のゴールデンタイム!!
Type2

[物語] 老人ホーム「浴陽荘」。そこには植物学者の牧草太郎博士はじめ、物理学者、役者、自称映画女優、バーのママ、板前、質屋、などなど、多くの孤独な老人が身を寄せている。老人達は人生を邂逅し、尽きせぬ想いと死への恐れに打ち震えながら、それぞれが作り上げた物語の登場人物を演じることで嘘とも本当ともつかぬ奇妙で不思議な日々を送っていた。牧博士は人生の大半を植物学の研究に費やし、遊びも、酒も、女も、俗世間の全てを顧みずに生きてきた。そうして迎えた80歳の誕生日、職員の青年と自然薯を掘りに出かける。その折、青年がついた些細な嘘によって小さな泉に辿り着き、黄金色に光り輝く妖しい花を見てしまう。それは、牧博士が長年探し求めていたヒマラヤ聖女の傍らに咲くという不老不死の花「黄金花」であった。その日を境に、植物学に没頭するために、あえて封印したはずの青年時代の記憶の断片が、大きな渦となって押し寄せてくる。留学生ユリアーナへの切ない思いと永遠の別れ、戦後の混乱、植物学への熱情と挫折、混沌と夢幻のなか、易者老人の死に立ち会い、牧老人はその夜誘われるように時の川を遡り人生の最期の旅に出る。浴陽荘で牧博士の植物学に憧れを抱く青年ミツオとヒマラヤの聖地に咲くという「黄金花」をめぐってのささやかな触れ合い、介護士長への密やかな想い、道化師のような老人たちとの生活。そして、新しい命の誕生。虚と実、夢と現実、日常と非日常、生と死、相反するすべてのものを包み込み、傷つき苦しみながらも、生きることへの限りない想いが浮き彫りになってくる植物学者・牧博士の時空を超えた魂の物語=ファンタジー

黄金花 映画公式サイト
http://www.airplanelabel.com/ougonka/

「ふたつの頭を持つ鳥」 

森の真ん中にとてもキレイな湖がありました。
湖の畔に、二つのくちばしと、二つの頭、二つの首、それらが
一つの胴に繋がっている 鳥がすんでいました。どちらの喉からも とても綺麗な声で出て、美しくさえずる事が出来ました。胴体にも美しい尻尾がついていて なかなか愛らしい鳥でした。

この鳥の一の頭が 美味しそうな木の実を見つけました。
それは「神聖な果物」と呼ばれているものでした。ちょっと突付いて食べてみました。
「美味しい!。こんなに美味しい物を口にしたのは初めて!」
これを聞いて 二の頭が言いました。
「私にも食べさせてよ」
「これは きっと 不老長寿の果物だわ。いままで、いろいろなものを
食べたけれど、こんなに美味しい物があったなんて。信じられないわ!」
「ねぇ、ちょっとでいいから 私の分も残して置いてよ。そんなに美味しい
果物を 私も食べたいわ。一口でいいから。お願い!」

すると、一の頭は
「煩いわねぇ、せっかく美味しい物を食べているときに ゴチャゴチャと
煩く言わないでよ! どっちが食べたって同じ事じゃないのよ! 
どうせ同じお腹に入るんだし」 
その果物を全部、自分で食べてしまいました。
同じお腹に入るという冗談半分のこの言葉も二の頭にはジョウダンとは
とれませんでした。

美味しい、「神聖な果物」を食べさせてもらえなかった二の頭は 
これら全てをを深く恨みに思いました。
「絶対に、このことを思い知らせてやる」そう、心に決めました。

湖は何時眺めても綺麗です。青い湖面に白い雲がふんわりと浮いて
それがさざ波で揺れます。あちこちで鳥たちのさえずりも聞こえます。

一の頭が美しい声で
「ホロホロ、ホロホロ」と鳴きました。
いつもなら それに続いて二の頭も
「ホロホロ ホロホロ」と鳴くところですが 復讐を心に誓ってから
一の頭とは口もききません。
ひたすら復讐の機会が来るのをを待っていました。
と、そのとき、二の頭の目に一つの果物が目に入りました。

ようやく、その復讐の機会がやってきたようです。
早速、そばに行って見ました。
それは猛毒を持った小さな果物でした。

二の頭は言いました。
「これを食べようと思うのよ。 お腹は同じだって言ったわね」
一の鳥は吃驚しました。
「駄目よ。これを食べたら 私たちは死んでしまうわ。」
「あら? そうかしら? 貴方は不老長寿の果物を食べたから死なな
いんじゃない?」
そこで、一の頭は あの「神聖な果物」と呼ばれている物を食べた日の
事を思い出しました。 そして恐ろしさに震えました。
「お願いだから それを食べないで!」

しかし、そんな言葉を無視して二の頭は その猛毒を持った果物を
くちばしで突付いてそして食べてしまいました。

やがて、二つの頭を持った鳥は、冷たくなって地面に横たわりました。

この地上には、無数の頭があって色々と考えている。
しかし皆この地球に棲息しなくてはならない。

http://koinu2005.seesaa.net/article/6407891.html
◆分かちがたく結ばれた二羽の鳥が、同じ木に住まっている。一羽は甘い木の実を食べ、もう一羽は友を眺めつつ食べようとしない。
だが、この世界は過去のものではない。この存実は、ぼくが生まれていなかったとき通用していた存実なのだ。この沈黙は遠いものではない。この空虚は無縁のものではない。ぼくがそこでは不可能だった大地は、なおも続いている。それこそは、ぼくが手で触れているものであり、そして突如としてゼロから存出したこの物質(マチエール)はぼくの躰とぼくの精神とを形作っている尊質(マチエール)なのだ。

2010年3月24日 (水)

電子書籍:出版31社が協会設立 研究や情報収集行う

 講談社や新潮社など出版社31社は24日、一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」を設立した。米国で電子書籍ブームの火付け役となったアマゾンの読書専用端末「キンドル」の日本語版の発売が年内にも予想される中、国内の主要出版社が団結して、研究や情報収集を行う。

 協会は、文芸春秋など13社が00年に結成した電子書籍の販売サイト「電子文庫パブリ」を運営する「電子文庫出版社会」を母体に結成。設立総会には各社の社長や担当役員らが出席した。

 代表理事に選出された野間省伸(よしのぶ)・講談社副社長は会見で、(1)著作者の利益、権利の確保(2)読者の利便性(3)紙とデジタルの共存--の三つの理念を挙げた。

 具体的には今後、著作者や印刷所との契約問題▽読者の嗜好(しこう)調査▽電子書籍データのフォーマットの研究▽読書端末やソフトの研究--の四つを主な課題として取り組む。野間代表理事は「日本の読者に合う形で市場を構築していきたい」と語った。
【毎日新聞2010年3月24日】

本を印刷してつくることの根底が問われていることです。
出版する編集の能力も残念なことながら低下しているうちに、
規模が大きくなり過ぎて肥大した印象を、かつて現場にいたものとして思う。
電子書籍データのフォーマットの研究をされたほうがいいです。

お金の要らない社会の実現化

本当にお金の要らない、通貨にも期待しない社会を作る。

木内鶴彦さんの話
それは何かを見返りを受けるものではないわけです。自分の持ってる能力をそこに参加するって事です。お互いがそれをやり合っていけば良いんですね。お米を作る人達はその参加してる人達においしい安全なお米を食べて貰いたいという思いでやっていけば良いわけです。家を建てる人達はそういう人達のために、何か家を残してやりたいとやればと食べるものも回ってくる。お互いに必要なものは必要なように回ってくるという事です。やったりやられたり、やって頂いたりという事です。それでお互いの役割分担というのがちゃんと整ってくるわけですね。
世界的共通なNGO、奉仕活動、ボランティア活動を主体とした動きで広めて、お互いに協力し合いボランティア活動でやってくわけです。やったりやられたり、やって頂いたりという事です。それでお互いの役割分担というのがちゃんと整ってくるわけですね。
そういう制度をやって本当にできるかどうか、実際にやってみたら面白いと思うんです。面倒臭くないから、意外とフィットすると思うんです。あの人お金出さないんだよとか、あの人狡いよねとか差別する事はなくなるんです。あの人はそういう力でやってるんだ、私は私の力でやろう。そうすると夜中まで働いて。人間って夜になると寝るもんですよ。夜中まで煌々と電気付けて仕事してるなんて、何のためにしてるんですか。正直言ってお金のためでしょ。ぶっちゃけた話。何か皆さん綺麗事言ってるけど、みんな金儲けがしたいんですよね。だって、金儲けたらこんだけ豊かになるじゃない。

例えば政府の人達とかね、社長さん達とかお付き合いしてくと超お金持ちです。だけど何が足りないかというと、心が足りないんですね、侘しいんです。その人達はもの凄い質素なんですよ、だけど、おねだりの人達がいっぱい多いんですよね。自分で稼いだのでNGO活動すれば良いじゃないかと思った時に、やっぱり金の価値ってのは違うんだなと。人間の心の問題だな。金がいくらあったって、やる事がなかったらつまらないでしょ人生。金がなくたって、やる事があると楽しいです。金なくてももの凄い楽しいですよ。
それぞれ自分の生きる喜びを見つけたらもっと面白くなります。ですから先ず自分に問い掛けて、1度でいいから自分を信用してみるという事です。そして自分の能力を思い切り褒めてみてください。
やってみなけりゃわからないじゃないですかねえ。やれるかやれないじゃなくて、やるやらないかでしょうね。やる気になれば、やれるんです。そういう力はちゃんとあるんです。何かそういうもの一つ見つけて欲しいと思います。

NGO グリーンガイア発足。
①統括プロジェクトが事務局を兼ねる他、新たなプロジェクトの支援を行ない、②グランドファミリープロジェクトはお金の要らない社会をつくるための仕組みづくりとコミュニティ(里)づくりを行ない、③農業プロジェクトは農作物の収穫と販売を行います。既に1600坪+30坪の農地(借地)を確保し、現在30坪で農作業が行なわれ、1600坪については本格的な農作業が始まります。genkiup.net/ngoannai.pdf

木内鶴彦さんのお話(ダイジェスト)
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2010年3月23日 (火)

鏡地獄

鏡地獄

牧野信一

     一

「この一年半ほどのあひだ……」
 せめても彼は、時をそれほどの間に限りたかつた。別段何の思慮もなく、何となく切ツ端詰つた頭から、ふつとそんな言葉が滑り出たのであるが、そして如何程藤井に追求されたにしろ、何の続ける言葉も見当らなかつたのではあるが、思はずさう云つた時に漠然と――せめても時を、それほどの間に――そんなことを思つたのである。一年半、といふのは、父の死以来といふほどの代りに用ひたいらしかつた、誇張好きの彼にして見ると。
「…………」
 藤井は、困つたといふ風な気色を示した。次の言葉を待つまでもなく藤井には、彼の意図は解り切つてゐたから、
 どうせ、また法螺まぢりの愚痴か! ――斯う思ふと、舌でも打つて顔を反向(そむ)けたかつたが、この時の彼の語調が如何にも科白めいてゐたのに擽られて、思はず藤井は朗らかな苦笑を浮べて、
「相当、苦労したかね、はじめてだらう。」と、噴き出したいのを我慢して訊ね返した。――まつたく藤井は、噴き出したかつた。彼が、そんな言葉を事更らしく、感慨あり気に用ひたのも藤井は、可笑しかつたが、それよりも、厭に物々しく、見るからに愚鈍な顔を歪めて、唸つたりなどした身柄に添はぬ彼の勿体ぶつた様子が、藤井にとつては先づ噴飯に価したのである。
「え?」
「冗談ぢやない。」と彼は、無下に打ち消した。そして彼は、あゝ、と、当人はそのつもりかも知れないが、傍の者にはさつぱり憂鬱らしくも、倦怠らしくも見えない梟のやうな溜息を洩した。
「それやアさうと……」
「その話は、また明日にでもして貰はうか。」
 彼は、さう云つて、気分家らしく軽く眼を閉ぢて、直ぐにまた洞ろに開いた。
「もう間もなく一週間になりさうだぜ。」
「だがね、僕近頃、相当酒を楽しんでゐるんだよ。だから、せめて斯うやつてゐる間だけは僕の……」
 彼は、出鱈目を云つてゐるのに気づいて言葉を呑み込んでしまつた。
「君の気分になんて、つき合つてゐたひにはいつ迄たつたつて埒が明きさうもないぜ。」
 藤井は、人の好い笑ひを浮べた。――「昼間は、殆んど眠つてばかりゐるんだし……」
「君だつて、どうせ帰つたつて用はないんだらう?」
「冗談ぢやない――と、君の言葉を借りるぜ、僕アこの頃相当忙しいんだよ、二年前とは雲泥の差さ、……勘当が許されたひには、これでも一ツ端の長男だからね。」と藤井は、親切に彼の心を鞭撻するやうに云つた。藤井は、彼の同郷ヲダハラ村の一人の彼の友達なのだつた。藤井は、ヲダハラの彼の母から破産に近い彼の財産に就いて、いろいろ彼の意見を正す為に、わざわざ頼まれて出かけて来たのであつた。
「手紙の返事も君は、碌々出さないさうぢやないか?」
「うむ――。だけど僕の手紙嫌ひは何も今に始まつたことぢやないからね。」などと彼は、言葉を濁して、不平さうに口を突らせたりした。
「そんなことは何も責めやアしないがね……」と藤井は、常識に達してゐる大人らしく一笑に附して「ともかく、その銀行の方が――」
「藤井!」と、彼は云つた。「僕ア――今、そんなことに耳を傾けちやア居られないんだ、――僕ア……、僕ア……」
「呑気だね!」
 その時、隅の方でぼんやりしてゐた彼の細君は、
「チエツ!」と舌を鳴らした。彼には、聞えなかつたが、藤井は同感した。
「嫌ひなんだよ、僕アさういふ面白くない話は……」
「誰だつて好きぢやないが――」
「どうなつたつて、関はないと思へば、聞かないだつて済むだらう。」
「ぢや、それア、明日にでも仕様よ、――酒興を妨げては悪いからね。」
「中学の頃の話でも仕様か――」
「う、うん――君、何も東京に住ふ必要はないぢやないか。無駄ぢやないか? マザーもさう云つてゐたぜ。」
「さう云つてゐたか?」と彼は、酷く驚いたといふ風に眼を輝かせた。
「尤もさ――馬鹿だなア!」
「…………」
 別段に彼は、逃げるといふ程の積極性もなかつたが、破産に関する話よりは、興味が動いた。彼は、盗賊の心になつて、母の家の前を、爪立つて通らなければならなかつた。……さつきから、彼は、秘かに――消えかゝりさうになる心が、時々それに触れる毎に、怪し気な光りを放つては消え、放つては消えて来たのであつた。
 盗賊と称ふ形容は、無稽に過ぎるかも知れないが、それは何気なく云ふ藤井ではあつたが、それに依つてヲタハラの母の話に触れて、ヂロリと猜疑の聴耳を立てる彼の心は目的を定めて、姿を窶して日夜目的の家の周囲を探偵してゐる仕事準備中の泥棒のそれに比べるより他に、比較するものはなかつた。――あゝ到々俺は、泥棒になつてしまつたのか……さつきから藤井に、遠回しに取ツちめられて、感傷的な酔ひに走つて来た彼の鈍い頭は、その時、そんなに馬鹿/\しいことをほんとうに感じて、厭な気がした。
「今までは、俺はだらしがなかつたが、もう凝ツとしては居られない。いよいよ俺は、俺のライフ・オークに取り掛るんだ。三十年間俺は、秘かに準備して来たんだ――もう、そろそろと取りかゝつても好い時機に到達して……その俺は、いよいよ……」
 彼は、ついこの間の晩、真面目さうな顔をして細君に向つて、突然そんな途方もない高言を吐いた。周子は、あまり珍らしい気がしたので一寸夫の顔を眺めて見ると、彼は飽くまでも六ヶ敷気な表情を保つて、
「うむ!」などと、肚に力を込めたり、仰山に拳固で胸を叩いたりしてゐた。――彼が、嘗て何とかといふ文芸同人雑誌の一員であつた頃、五六年も前の事なのだが、今と同じく無感想だつた彼は、一度もその欄に筆を執つたことはなかつたが、その六号感想欄には、毎月それに類する亢奮の言葉が、多くの同人達の筆に依つて花々しく羅列されてゐた。
「大きく……力のこもつた……。どうせ俺は、田舎育ちの野暮な人間である……」
「…………」
 何を云つてゐるのか、と周子は思つた。好く酒飲みの友達などと彼が、好い気になつて喋舌つてゐるところを、この頃狭い家にばかり住んでゐる為に、厭でも見聞させられるのであるが――やれ、彼奴は田舎ツペ、だとか野暮臭い奴だなア! とか、田舎者の癖に生意気だ! とか、誰のことか解らないが、そこに居ない人の噂に違ひない、そんなことを喋舌ツて卑し気な笑ひを浮べたことがあつたが、そして彼女は、一層夫に軽蔑の念を起したことがあつたが、今更、彼の独言にそんなことを聞いても、反つて肚立しい思ひがするばかりであつた。――気の毒な気さへした。
「どうしたの? 務めでもするつもりなの?」
「何をするか、解らない。」と彼は、重々しく呟いだ。――「素晴しく大きな希望に炎えてゐるんだ。俺も一人の人間として生れて来た以上は……、うむ、あまり馬鹿にして貰ひたくないものだ。」
「いつ、あたしが、あなたを馬鹿にしましたよ……ひがみ!」
「それが嫌ひなんだよう。」と彼は、叫んだ。さう云つた彼の声は、従令どんな種類のものであらうと「素晴しく大きな希望に炎えてゐる」人の声ではなかつた。
「見てゐろ!」と彼は、云つた。
「ちつとも怖くはない。」
「手前えんとこの奴等は……」
 見てゐろ! と、彼が云つたのは、たつたそれだけの意味だつた。漠然とした大きな希望に炎ゆるのは快い――折角の夢が直ぐに斯んなところで浅猿しく崩れた。
 今までなら彼女は、自分の家の悪罵に会ふと立所に噛みついて来たのであつたが、次第にマンネリズムに陥つた今では、何と彼が悪態をつかうとも、平気になつてしまつた。――「あなたが、いくら口惜しがつて、暴れ込んだつて、家(うち)のお父さんの方が余ツ程強いからね。賢太郎だつて、あなたよりは力があるから……」
 暴れ込むぞ! などと彼が云つた時には、彼女はそんなに云つた。
「何だ、あんな爺! 俺よりもずツと脊が低いぢやないか!」
「でも強いのよ、――五人力なんですつて。」
 彼女の父は、以前に酒乱の癖があつたさうだ。山梨県の百姓の子で、青年の頃出京して長い間運送店の丁稚を務め、後に無頼漢の群に投じたのである。酒乱の酷い頃は連夜、吾家に帰つて乱暴を働き、その頃小さな運送店を経営してゐたのであるが、店の者などは蒼くなつて逃げ出したさうだ。そして或る夜などは、家人が警察に願つたさうだつた。警官が取り圧へに来たら、その巡査の背中をどやして気絶させたといふことを、彼は聞いた。
 ヲダハラの「清親」との争闘以来彼は、自分の腕力に自信を失ふてゐたので、そんなことを聞くと竦然とした。
「見てゐろ!」などと叫んでも周子の前より他に彼は、云へなかつた。
「そんな実際的な話ぢやないんだよ――もう少し上等な理想を云はうとしてゐるんだ。」
 彼は、さういふより外はなかつた。周子の想像以上に彼は、腕力に憧れを持つてゐた。
「お前などは眼中にないんだよ。――人類の一員として、或る自信を俺はもつてゐる。相当の自信はあるんだア!」などと云ひながら彼は、拳を固めてぬツと前に突き出したりした。
「随分、あなたの腕は細いわね。」
「嘲ける者は、嘲けろ!」
 彼は、眼を瞑つて呟いだ。――野蛮な焦燥を静める――そんな気がした。そして「理想的な希望」とか、「大きな力」とか、何でも思想的に花々しく、勇敢なことを思はうとした。何の目的がなくても、故意にさういふ空想に走ると、変な力を感ぜられるものだ――そんな気がした。五六年前の同人雑誌の連中が、それは彼のやうな口先きのことゝは違つてゐたのだらうが、それに類する大きな亢奮をしてゐたが、そんな気に故意に浸つて見るだけでも奇妙な呑気さが感ぜられる――彼は、自分は漸く今になつて彼等の域に達したのか――などと思つて、一寸空虚な力を感じたりした。
(あゝ、それが、また自惚れだつた……力だ! などと思つたのは……何といふ馬鹿/\しい自分だらう! 吾家に忍び込まうとする泥棒の気焔だつたのか! あゝ!)
「吾家(うち)も、他家(よそ)も――そんな区別が……」
「――なるほどね。いつの間にかすつかり一ツ端の酒飲みらしくなつたね……見たところ、いかにも酔、陶然のかたちだよ、一寸羨しいな!」
 藤井は、後の云ふことが、聞くのも面倒だつたので、さう云つて、風にゆられてゐる如く上体をゆるがせてゐる彼の姿を、凝ツと眺めた。
 その時彼は、突然大きな声を挙げて笑ひ出し、藤井と周子を茫然とさせた。――親が自分の家に入つた泥棒を捕へて見たら、それは自分の子であつた……さういふ諺見たいな話があつたと思ふんだが、さつぱり面白い諺ぢやないが、誰だつたか? 自分の知合の者で、それを実行した奴があつて、いつだつたか、大いに笑つたことがあつたが、えゝと? あれは誰だつたかね? ――彼は、さつきからそんなことを思つてゐたのだが、突然今、気がついたのである。――(何アんだ、この男か、あまり眼の前にゐたので、そして厭に大人振つた口ばかり利いてゐるので、すつかり見失つてゐた、――うん、さうだ/\。)
「藤井、藤井! おい、君!」と彼は、ひとりで可笑さうにクツクツと笑ひながら、
「君は、ハヽヽ、ずつと前、ハヽヽ、自分の家に、ハヽヽ、泥棒に入つたことがあつたつけね、ハヽヽ。」と、大変なことでも発見したやうに笑つた。
 藤井は、赤い顔をしてうつ向いた。藤井は、放蕩の揚句家を追はれてゐた頃、実際にそんなことを行つた経験があつた。――今になつて、そんなことを云はれたつて藤井は、大して恥しくもないし、別段可笑しいこともなかつた。
「そして、ハヽヽ、あの、ハヽヽ、あの時、君は、ハヽヽ、捕へられたのだつたかね、ハヽヽ。」
「おひ、止して呉れよ、そんな話は――」
 藤井は、迷惑さうに顔を顰めた。
「だからさア……」
 彼は、甘ツたるい声を出して、ねちねちと笑つた。すつかり朗らかな酔漢に変つて、家庭などに何の蟠りも持つてゐない不良大学生のやうだつた。――「お止しよう、今更、常識家振つて、六ヶ敷い顔なんてするのは。」
 以前のやうに二人で他合もない話をし合つて、面白く遊ばうぢやないか――彼は、斯う云ひたい位だつた。不図彼は、藤井のそんな失敗談に気づいてから、一倍彼が懐しくなつてゐたのである。
 そんな心境は、もう抜けてゐる――とか、あの頃に比べて、この頃は――とか、そのやうに望ましいあらゆる比較級の言葉は、成長力を知らない彼の心境にとつては、決して通用しない他山の宝石であつた。彼の心は、常に一色の音しか持たない単調な笛に過ぎなかつた。その印には、一年も遇はないで出遇つた友達は、それまではどんなに親しい仲であつても、屹度もう相手の方が何となく進歩してゐて、前のやうに熱心に語り合へなくなつてゐることばかりだつた。だから彼には、旧友などといふものがなかつた。彼の友達は、大抵半歳か一年で変つて行つた。
 二年前だつたら藤井も彼と一処になつて、そんな馬鹿な話でも、彼と同じ程度に笑へたものだつた。
「明日あたり僕は、帰らなければならないんだがな!」
「嘘々!」
 彼は、甘えでもするやうに云つた。
「愚図/\してゐると、また勘当されるかも知れない。」
「勘当されたら、また先のやうに俺の処へ来てゐれば好いぢやないか。」
「御免/\、君には、もうそれ位ひの予猶だつてありやアしないぜ――なるべく家から金を取らないやうにし給へよ。」
「でも、今年一杯位ひなら大丈夫だらう。」と彼は、事の他熱心な眼を挙げて藤井の返事を待つたりした。
「さア……」
 藤井は、にや/\と笑つてゐた。
「ケチ臭い顔をするない! チヨツ、面白くねえ、しみツたれ! 折角ひとが愉快にならうとすれば、直ぐに厭な思ひをさせやアがる、何でエ! それが如何したといふんだ!」
 彼は、そんなことを云つた。自分が、ケチ臭くて、しみツたれで、小心翼々で、面白くなくて堪らなかつたのである。
「おい、憤るなよ――」と、藤井は云つた。
「第一俺は、ヲダハラだなんていふ名前からして気に喰はない! あの村の奴等の面で、落つきのある野郎が一人でもあるか?」
 大分、親爺に似てゐるな、やつぱり親と子は不思議なものだ! などと、彼は思つた。――吾家の親爺の顔も落着きはなかつたなア! それでも俺よりは、ずつと大面だつたが……)
「おい藤井、君も何となくヲダハラ面になつて来たぞ、――気をつけろ、気をつけろ! ……生温い潮風に吹かれるからか知ら?」
「俺だつて何も……」と藤井は、云ひかけてつまらなさうに笑つてしまつた。――「あまり大きな声をするなよ、往来から見通しぢやないか。」
「あゝ――」と彼は、また傍の者には決して憂鬱らしくは見えない溜息のやうな嘆声を、わけもなく吐いて、暮れかゝつて行く外の景色を眺めた。木立の多い東京郊外の夏であつた。夕陽に映えてゐた木々が、見る間に黒く棄てられて行つた。彼のこの家は、森蔭に立ち並んでゐる一筋の長尾の角で、何の目かくしもなければ、門や塀は無論のこと、椽側に簾ひとつ掛つてゐなかつた。露路みたいなもので、あまり人通りはないが、それでも椽側の二間前は往来道に違ひなかつた。滅多に訪れる者などはなかつたが、稀に東京(この辺では、市内へ行くことを東京へ行く、といふところであつた。)あたりから遊びに来た者は、それとなくその辺をジロジロと見廻して、彼が夕餉の膳に誘ふと、赧くなつて慌てて逃げ帰る者もあつた。そして、二度とは来なかつた。――無理もなかつた。路傍の、往来から見通しの家などで、加けに大変行儀の悪い男を相手に酒などを飲むのは、誰だつて閉口だ、彼だつて、こんな男(自分のこと)と、出来得るならば対坐したくはない――時には彼は、そんなことを思つた。彼は、まつたく行儀が悪かつた。痩せてゐる癖に、非常な暑がりやで、堪へ性がなく、始終どたどたと脚を投げ出したり、裾をまくつたり、水泳するやうな格構で転がつたり、腕をまくつたり、肌抜ぎになつたり、酒興中と雖も少し暑さが厳しいと、終ひには胡坐なのだか、立膝なのだか、しやがんでゐるのだか判別し憎い格構になつたり、時には和製の食膳であるにも関はらず椅子の上から手を延すことなども珍らしくはなかつた。――生家にゐる時分、彼の父はそんなことには一切頓着ない人だつたが、それでも彼が海から帰つて来て、褌ひとつで食膳に向つたりすると、時には困惑の情を露にして、おい、出掛けよう! などとお蝶の家へ誘つたりした、着物を着ろと命ずることの代りに――。
 往来から見ゆる、といふことに彼は、決して坦々としてゐられるのではなかつたが、長い間の習慣で何としても行儀は改められなかつた。
「東京にでも行つて住ふことになつたら、どうするんだらう。」
 母は、好くさう云つた。――ケチな家には住まないから……などと彼は、うそぶいた。
 周子から、肌扱ぎになつてゐるところを巡査に見つかると罰金をとられる、といふ話を聞いて以来、こゝで彼は、肌抜ぎだけは辛棒したが、暑くなるに伴れ、檻にでも入れられたやうな苦しみだつた。――彼は、海辺が恋しかつた。
「××の家も、もう人手に渡つてしまつたんだつてさ。」
 裸のまゝで海へ出かけ、その儘帰れて、近所といへば二三軒の、それこそ年中裸で仕事してゐる彼と親しかつた漁夫の家だけで――そんな海辺の家を彼は、思ひ出して悲し気に憧れの眼を輝かせた。
「あれなどは、君さへもう少し確りしてゐれば、たしかに残せた筈なんだがな。」
 藤井は、さう云つて、何とかといふ村会議員のことを悪党だと云つた。
「酷い奴だなア!」と、彼も云つた。
「こんな処で、愚図/\云つてゐたつて仕様がないよ、だから君、思ひ切つて……」
「でも帰つたところで、反つて……」
「第一マザーひとりで気の毒じやないか。」
「…………」
 俺が帰れば一層気の毒だ――彼は、もう少しでさういふところだつた。……大体自分は、積極的な自己紹介を求められる場合に、何とか答へる己れの言葉に真実性や力を感じた験しはないんだが、そして何か話してゐる間は、何だか嘘ばかり口走つてゐるやうな寂莫を覚ゆるのが常なのだが、せめて、嘘だ! と自ら云ふ心の反面に、何らかの皮肉が潜んでゐたり、意外な自信がかくれてゐたり、案外真正直な性質が眼をむいてゐたり、でもすれば多少は救はれるんだが、自分のは、その種の人々の外形を模倣したゞけで、心の反省があり振つたり、嘘つきがつたり、細心振つたりするだけのことで、大切な反面の凡てが無である、都の花やかさに憧れて遥々と出かけて来た気の利かない田舎の青年が、本性を忘れて一ツ端の歳人気取りになつてツベコベする類ひのものである、その種の変な青年達が稍ともすれば、自ら得々として「自己嫌悪に陥つた。」などと云ふことを吹聴する気風が嘗て一部に流行したが、忽ち自分もそれに感染して、臆面もなく己れの痴愚を吹聴するのであつた、ほんとうの自分の胸には、常に消えかゝつた一抹の白い煙が、どんよりと漂ふてゐるばかりである、人は夫々生れながらに一個の鏡を持つて来てゐる筈だ、自分の持つて来た鏡は、正当な使用に堪へぬ剥げた鏡であつた、僻地の理髪店にあるやうな凸凹な鏡であつた、自分では、写したつもりでゐても、写つた物象は悉く歪んでゐるのだ、自分の姿さへ満足には写らない、更に云ふ、凸凹な鏡である、泣いた顔が笑つたやうに写る、頭の形が、尖つたり、潰れたりする、眠がびつこになつて動く毎に、釣りあがつたり、丸くなつたりする、鷲のやうな鼻になつたかと思ふと、忽ちピエロのそれのやうになる、狼の口のやうに耳まで裂けたかと見ると、オカメの口のやうに小さくなる……実際そんな鏡に、暫くの間姿を写してゐると、何方(どつち)がほんとの自分であるか解らなくなつてしまふ時がある……。
 以上のやうなことを彼は、もつと/\長たらしく呟き初めた。自分の責任に依る話であるにも関らず、「家」のことになると直ぐに話頭を転じてしまふ彼の心が、藤井には一寸了解し憎くかつた。小胆なのだな! と思はずには居られなかつた。
「もう少し、はつきり云へよ。比喩は御免だぜ!」
「いや、ヲダハラの△△床の鏡は……」
「厭にヲダハラばかり軽蔑するね。」
「……銀行の奴等にさう云つてくれ。利息ぐらひ何でえ!」と、彼は云つた。語尾が「でえ」といふやうになると彼は、もう駄目だつた。誇大妄想に等しい酔漢に変つてゐるのである。――此奴、社会主義の仲間にでもなつたのかしら、いつの間にか! あれの下ツ端は、皆な気の小さい貧乏人ばかりださうだが――ふと藤井は、そんな気がした。
「幾らだア! 幾らだア!」
「……おい、止せよ、外を通る人が変な顔をしてゐるぜ。」
「俺ア、泥棒だアぞう!」
 さつき彼は、変に心細い気持に陥つて、如何に自分が情けない存在であるかといふことを知らせる為に、鏡の比喩などを、当つぽうに用ひたのであるが、折角の言葉に藤井がさつぱり耳を傾けなかつたのが気に入らなかつた。彼は、そんな原始的な比喩に得意を感じたのである。……「何だつて、はじめての苦労だらう、だつて! ヘツ、止して貰ひたいね。苦労たア、どんな塊りだア! いくつでも持つて来やアがれ、皆な喰ってしまふぞう……親爺が死んで、長男即ち吾輩が、だね、あまり無能だからか、そりや無能は困るだらう、困るには困るが、無能だつて余外なお世話だ、今更無能を悟つて、誰が驚く! 苦労たア、何だ!」
 彼は、そんな似而非ヒロイズムを呟きながら、がくんがくんと玩具のやうに首を動かせた。何だか眼瞼が熱くなつて来る気がした。
「困ツたなア!」
 藤井は、さう云ひながら彼の細君の方を顧みて「やつぱり僕ぢやいけなかつたですね……石原さんに来て貰つた方が好かつたんだがな――」と云つた。
「誰だつて同じよ。」
 周子は、煩さゝうに突ツ放した。
「毎晩、こんなに飲むんですか?」
「毎――晩!」と周子は、力を込めて、うつ向いた。バンのンが曇りを帯びてゐた。
「心馬悪道に馳せ、放逸にして禁制し難し……どうだ藤井! 景気の好いお経だらう……心猿跳るを罷めず、意馬馳するを休まず――五欲の樹に遊び、暫くも住せず……あゝ。」
「…………」
「俺ア……」
 藤井は、また彼が調子づいてどんな野蛮なことでも云ひ出すか解らない、それにしてもさつきからの雑言は如何だ! 一本皮肉を云つて圧えてやらう、と思つて、
「簾をかゝげて、何とか――なんて、君はいつかハガキの終ひに書いて寄したが、簾なんて何処にも掛つてはゐないね。」と、笑ひながら側を向いた。
「……ありア、だつて君――詩だもの。」と彼は、不平顔でテレ臭さうに弁解した。
 藤井は、更ににや/\と笑ひながら、
「斯うやつて、毎晩、酒を飲みながら君は、詩を考へてゐるの?」と訊ねた。
「……うむ。」と、彼はおごそかに点頭いた。

鏡地獄

     二

 芝・高輪から彼が、此処に移つて来たのは晩春の頃だつた。――東京に来てから二度目の家であつた下谷の寓居を、突然引き払つて芝に移つたのは、前の年の暮だつた。
「随分、引ツ越し好きだね――折角、東京に来たといふのに、さつぱり落着かないぢやないか。」などと知合の者に問はれると、
「どうも、せめて居場所でも変らないと……その、気分が――ね。」
 そんな風に彼は、余裕あり気に答へた。彼は、気分も何もなかつた。引ツ越しは、嫌ひなのである。
 暮の、三十日だつた。午頃、いつものやうに彼は、二階の寝床の中で天井を眺めてゐると、階下に何かドタドタと聞き慣れない物音がした。
(おや――今時分になつて、煤掃きでも始めたのかな!)
 普通の家らしいことをするのが、出京以来特に、妙に気が引けてゐた彼は、そんなに思つて苦笑した。――(たしか賢太郎が泊つてゐたな? 姉の夫は、さつぱり兄らしいことを振舞つたことはなし、そればかりでなく周子にも、一日だつて主人らしい行ひをしたことはなし……)
 何と彼等は頼りない感じだらう――そんなことを思つてゐると彼は、わけもなく可笑しくなつたりした。
「どうしたんだ?」
「賢太郎は、そりやアもう好く働くわよ、これ、あらかたひとりで……」
 周子は、さう云つて、だらしなくからげて転がつてゐる夜具の包みなどを指差した。賢太郎は、シヤツ一枚になつてセツセツと、もう一つの包みを拵へてゐた。
「どうするんだ、質屋にでも持つて行くのか?」と、彼は訊ねた。
「何を空とぼけてゐるのさア! あなたも少しはお手伝ひなさいよう、日が暮れてしまふと大変だから――」
 うきうきとして周子は、さう云つた。引ツ越しなのである。芝・高輪の周子の両親、兄弟達の住んでゐる家へ同居する為に、相当彼が好んで住んでゐるこの家を今、彼女等は、畳まうとしてゐるのだ。
「厭だなア」と、彼は嘆じた。包みの上に腰を降して、煙草を喫した。いつも光りが軒先きにさへぎられて、この部屋は昼日中でも幻灯ほどの明るさだつた。こゝで蠢いてゐる自分達の姿を彼は、水族館の魚類に例へたり、軒先に限られて、狭く青ずんでゐる空を覗いて、水の表面を見あげた魚のつもりになつたり……いろいろ彼は、そんな風に甘く、寂しく、楽しい夢を貪つては、この頃は、そつと生きて来たつもりであつた。――もう、あの夢もお終ひか! 彼は、そんな気がした。
「だから、昨夜あれほど念をおしたぢやアないの? ……さツさツとして下さいよ。」
「さうだつたかね……」
 彼は、酷く退儀に、心細く呟いだ。さう聞いて見れば前の晩、彼女達を相手に、そんな話をしたやうな気もした。
「姉さん!」
 忙しく立ち働きながら賢太郎は、女のやうにやさしい声で、周子を呼びかけたりした。――「うちの二階は、そりやア素的よ。日あたりが好くつて、加けに新しいでせう!」
「さうね、この頃はうちも随分綺麗になつたでせう。」
「そりやア、もう! 僕、カーテンをつくつたよ、自分で刺繍して……それをね、窓にかけると、とても好いぜ、天気の好い日なんて部屋中がバラ色になつて――」
「ほう! でも折角のところを兄さんに占領されちやツては、あんたに気の毒だわね?」
「僕は、また階下(した)の六畳を素的に拵へるから好いさ……」
「賢ちやん見たいな人がゐると、随分好いわねえ!」
「さア、こん度は二階だ/\。」
 賢太郎は、勇ましい声を挙げながら梯子投を駆けあがつた。
「そんなに突然行つても差支へないのか?」
 彼は、未だふくれツ面をしてゐた。彼女の家では、未だ何も知らないのである。たゞ彼等の英一が二三日前から預けられてゐたゞけだつた。
「そんなこと関やしないわよ。」
 彼は、観念して、帽子もかぶらずに外へ出かけた。こゝに来てから、家のことでいろいろ厄介になつた二三町先きの友達の家へ、息を切つて駆け込んだ。
 いろいろ家族の人達に礼を云ふつもりだつたが、彼は、友達の顔を見ると同時に、たゞ「引ツ越し……」と、だけしか云へなかつた。
「君が!」
「弱つちやツた。何でも僕が、昨夜、酔ツ払つて、賛成したらしいんだね。今、起きて見たらもうあらかた片附いてゐるのさ、あゝ、困ツた/\――芝・高輪の女房の家なんだがね、その行先きといふのは――。行かないうちから解つてゐるんだ、チヨツ! チヨツ! あゝ、――」
「…………」
「そもそも、その女房の家の……。……アツと、失敬、そんなことを云ひに来たわけぢやないんだよ、チヨツ、逆上(のぼせ)てゐやアがる、兎に角、斯う急ぢや、どうすることも出来ないんだ、あゝ、何といふ落つきのないことだらう、僕の村のローカル・カラー? いや、失敬、ぢや、さよならア!」
 彼が、また慌てゝ引き返して来ると友達の処へ行つてから急に彼は、当り前の引ツ越しする者らしい働き手の心になつてゐた。)、もう荷物は全部、一台の貨物自動車に楽々と積み込まれてゐた。
「さア働くぞ、さア、さア。」
 彼は、さう云つて羽織を脱いだりした。
「狡いわね、お終ひになつたところに帰つて来て……」
 賢太郎は、人の好い笑ひを浮べて、女のやうに彼を睨めた。
 彼は、慌てゝ二階へ駆け上つたり、何にも残つてゐない押入を開けたり閉めたりした。……「自分で片附けなければ、困るんだよ、いろいろ。」
 そして彼は、舌を鳴らしながら、夢のやうにガランとしてしまつた部屋の中を歩き廻つて、清々とした。――ひとりで、この儘此処に残らうかな! そんなことを思つた。
「小さいトランクがあつたらう、そして風呂敷に包んだラツパがあつたらう、鍵の掛つてゐる箱があつたらうそれから……」
 彼は、自動車に飛びついて、風呂敷包みや、古ぼけたトランクを取り降したりした。
「これは俺が、持つて行くんだ、自分で持つて行くんだ。」
「ふざけるのは止して下さいよ、折角積んだものを――。何さ。そんなガラクタ!」
 彼は、むきになつて、歯ぎしりして女の頬つペたを抓つたりした。
「べら棒奴!」などと、彼は不平さうに云つた。――「玩具になんぞされて堪るものか。」
 賢太郎は、困つた顔をして階下に降りて行つた。一体周子の、弟や妹たちは十代の子供ではあるが、他人の物も自分の物も見境ひのない性質だつた。彼が留守だと、その机の抽出をあけて書簡箋にいたづら書きをしたり、悪意ではないんだが、他人から借りた物は返し忘れて紛失させたりして平気だつた。
「冗談ぢやない!」と周子は云つた。そして、彼の言葉に卑屈な針が潜んでゐるやうに感じた彼女は、
「ケチ!」と、附け加へた。
 彼は、故意に、なかのものがこわれやアしないか、といふやうに疑り深い眼を輝かせて、蔭にかくれて秘かに蓋をあけて見たりした。――実は彼自身、今まで押入れの隅に放り込んだまゝ、すつかり忘れてゐたのだつたが、斯んな場合に強ひてゞも、そんな真似がして見たかつたのである。自分にだつて「秘蔵の物」「他人の手に触れられたくないもの」「いくら斯んなに蕪雑な生活をしてゐたつて、これ程の予猶もあるんだ。」――見得で、そのやうな意気を示し、これが意地悪るのつもりで、さつき起きてから彼女等に出し抜かれて応へやうもない鬱憤の代りに過ぎなかつたのである。
「何んなものであらうと自分のものには、夫々自分の息が通つてゐるんだからね、困るんだ、矢鱈にされては――。物品を、ぞんざいに取り扱ふ奴は、皆な碌でなしだ。」
 彼は、さう云つて周子の胸を衝いた。周子は、答へずに、
「遅くなるツてエば!」と、焦れた。
「先へ行つたら好いぢやないか。俺は、未だいろいろ用もあるんだ。」
 彼はそんなことを云ひながら、悠々と風呂敷をはらつて、学生時分に独りで、海辺の家で日毎吹奏したことのあるコルネツトを、久し振りに口にあてゝ、音は発せずに、仔細に具合を験べるやうな手つきをした。
「触つたらう? こゝのところが、どうも湿つてゐる。」
「触れと云つたつて、触りませんよ。そんなもの、馬鹿/\しい!」
「俺は、子供の時分から、何か知ら座右に独りだけで愛惜する物品がないと、寂しかつたんだ――、今でも、勿論さうなんだが――」
「この頃、何だか、酔はない時でも酔つ払ひ見たいだ!」
「対照の物は、常に変つてゐた、或る時は何、或る時は何といふやうに、だが、その心持は常に……」
 彼は、ぶつぶつ云ひながらラツパをまたもとの通りに丁寧に包んだり、トランクを引き寄せて、塵を吹いたりした。――みんな、彼が何時かヲダハラから、今の通りに芝居沁みた考へで、持つて来たゞけで、つい今まで手も触れずにゐた、現在の彼にとつては毛程の興味もない過去のセンチメンタルな「秘蔵品」なのである。――周子の前では開かなかつたが、その中には、ミス・Fから貰つたオペラ・グラスとか、同人雑誌に「凸面鏡」などといふ題名の失恋小説を書いた頃、参考の為に集めた十二三枚の小さな凸面鏡と凹面鏡や、やはりその頃、生家の物置に忍んで昔のツヾラの中から探し出した価打のない古銭とか、玩具の顕微鏡とか、昔の望遠鏡とか、父が昔アメリカから持ち帰つたおそろしく旧式なピストルで、今ではもうすつかり錆びついてゐて決して使用には堪へぬものとか、同じく父の二三個のマドロス・パイプとか、子供の時母の箪笥から拾ひ出したのが、小箱に入つてその儘残つてゐた数個の玉虫とか、蓋の裏側にミス・Fの写真が貼りつけてあるゼンマイの切れた懐中時計とか、二十年も前に父のアメリカの友達から貰つたのだが、今でもネジを巻くと微かに鳴るオルゴール・ボツクスとか、父が蹴球仕合で獲得した、あまり名の知られてゐないアメリカ何とか大学の銅製カツプとか――、以上十二種の他、未だ之れに類する五六種の愚劣な廃物が蔵つてあつた。古くからそのトランクには、そんなものが詰まつてゐたのだ。大火の時誰が、これをさげ出したのだらう? ――彼は、そんなことを思ひながらこの頃一切コレクシヨン嫌ひに陥つてゐる心を、目醒してやらう。といふ程のたはれ気で、重たい思ひを忍んで持ち出して来たのであつたが、汽車を降りる時には、もう少しで置き忘れて来るところであつた。
「ほんとうに、自分で持つて行くの?」
「さうも行かないかなア?」
 思はず彼は、さう云つて笑ひ出してしまつた。彼は、冷汗を覚えてゐた。――「屑屋にでも売つてしまへよ。」
「暇がありませんよ。」と、なだめるやうに周子は云つた。

2010年3月22日 (月)

鏡地獄

     三

「七草過ぎなければ、とても出来ないんですツて! あたし今も建具屋を二三軒きいて来たんですけれど、皆な同じなのよ、困つたわね、辛棒出来る?」
 周子は、気の毒さうに云つた。建具が一つも入つてゐない部屋なのである。この六畳一間だけの二階だつた、彼の今度の芝・高輪の書斎は――。加けに一方が椽側で、他の二方には夫々一間宛の窓があいてゐた。椽側の敷居には、雨戸代りの硝子戸が入つてゐたが建てかけて三年も放つて置いた家で、その間には地震があつたし、隙間だらけだつた。硝子戸と天井との間には、小さな板戸が入るやうになつてゐるのだが、板戸は入つてゐないので、幕が張つてあつた。西の窓にも北側の窓にも幕がピンで止めてあつた。その幕には、賢太郎の手で、得体の知れない模様が描きかけてあつたり、縫取りが仕かけてあつたりした。――風があたる度に、三方の幕が帆のやうに脹れたり凹んだりした。これでも賢太郎が懸命になつて、壁に雑誌から切り取つた名画を貼つたり、徳利のやうな花瓶に水仙を活けて、床の間に飾つたりしたのである。
「困るはね!」と、あたりを見回して、更に周子は云つた。
「いゝよ、いゝよ、関はないよ。」
 彼は、さう云つて行火の上に頬を載せた。行火といふものにあたつたのは、この冬が彼は初めてだつた。こゝに来て以来彼は、午後の二時頃寝床を逼ひ出て、それから夜おそくまで斯うして、この部屋に丸くなつてゐた、ドテラを二枚も重ね着して。――また、バカに寒い日ばかりが続く正月であつた。
 天気が好いと彼は、三方の幕をはらつて、丸くなつた儘外の景色を眺めた。――南側は、西国回りの旅人が初めに詣でる大きな仏閣の、厨房に面してゐた。北側の窓は、腰高だつたから、坐つてゐると青空と、眼近かの火見櫓が見ゆるだけだつた。そこには、いつでも黒い外套を着た見張り番が、案山子のやうに立つてゐた。彼は、時々筒形の遠眼鏡(とうめがね)をトランクから取り出して、射撃をする時のやうに一方の眼を閉ぢて、見張番の姿を眺めた。ものゝ好くない、加けに昔の眼鏡だつたから、肉眼で見るよりも反つてボツとした。いくらか対照物が大きくは見へたが、線が悉く青地に滲んでゐた。如何程視度を調節しても無駄だつた、それでも彼は熱心にそんなものを弄んだ。はつきり見へるよりも反つて興味があるんだ、などゝ呟いだ。西側の窓は、キリスト教会堂の裏に接してゐて、朝からオルガンの練習の音が聞えた。それが時々俗曲を奏でた。仏閣からは、御詠歌の合唱が聞えた。
 少しでも風が出たり、曇つたりして来ると直ぐに彼は、立ち上つて三方の幕を降してしまつた。
「これぢや勉強が出来ないでせう。」
「いや、そんなことは心配しないでもいゝさ。」
 彼は、さういふより他はなかつた。勿論、この寒さに、この吹きツさらしの二階などに籠つてゐることは、どんなに彼が「アブノルマルの興味」を主張すべく努めても、第一寒くてやり切れないのだが、まア仕方が無いとあきらめたのである。
 階下は、割合に広かつた。尤も、この二階と、下の二間は古い母屋にくツつけて、三年も前に建てかけたのであるが、その儘で完成させなかつたのである。母屋の方だつて、地震に遇つた儘何の手入れも施してなかつたから、唐紙は動かず、壁は悉くひゞ割れてゐた。彼が、周子と結婚した当座、半年ばかり二人だけで母屋の方に住んだ。さうだ、三年ぢやない、建増しをしかけたのはその時分のことだつたから。――英一は、もう四歳になつてゐる。
 その頃、この家が彼の「名儀」のものであるといふことを彼は、たしか周子から聞いて、名儀とは何か? と思つたことがあつた。
「抵当なんですツて!」
「へえ、シホらしいね。だが俺の名儀だなんて怪(おか)しいぢやないか?」
「さうね。」
 彼は、こういふことに就いても相当の思慮があるんだといふ風に云つた。「石原が金を持つて来たのは、ぢや、それだな? 三千円――此方が欲しいや。」
「ほんとにね。」
 間もなく彼女の一家が、大崎からこゝへ移つて来た。彼は、彼女の母と(何でも彼女の母が彼のことを、ケチだ! と云つたり、威張つてゐる! と称したり、彼の母のことを、息子に対して冷淡だ! などと彼を煽てるやうに云つたり、一度位ひ来るのが当り前ぢやないか! と批難したり、彼の父が、一度訪れた時、大変景気の好さゝうな法螺を吹いて、泊りはしなかつたのに「さんざツぱら酒を飲んで」、帰る時に小供に小使ひ一つ与へなかつた、「田舎の人は、やつぱり呑気だねえ、お前エらお父ツちやんは、屹度永生きをするだらうよウ、お前エは幸福(しあはせ)だよウ。」などと云つて、遠回しな厭味を述べたり――)、醜い云ひ争ひをして、ヲダハラへ移つてしまつた。ヲダハラではまた彼は、自分の両親と醜い云ひ争ひをして、間もなく伊豆の方へ逃げ伸び、山蔭の、畑の見張り番でも住みさうな茅屋に一年も住んだ。
 父が死んでから間もなく、彼が東京・牛込に間借りをしてゐた頃、周子の母が来て、
「ほんとうに、親類ほど頼みにならないものはない、家(うち)のお父さんはお人好しだから仕方がない、あゝ、厭だ/\。」などと云つて帰つたので、どうしたんだらう? と、彼は周子に訊ねた。
「憾んでゐるはよう! うちのお母さんが――」
「貴様も好く似てゐるな、下品な云ひ回し方が!」と、彼は怒つた。
「高輪の家が競売になるんですツてさ!」
 周子も憾むやうに云つた。
「フヽン!」
 住ふところが無くなつては、そりやアさぞ困るだらうな! と、彼は思ひもしたが顔色には現さなかつた。
「訴へられたんですツてさ! その訴へ人は、タキノ・シン……」と、彼女は、彼の名前を云ひかけて、笑つた。
「へえ!」――「好い気味だア」と、彼は云つた。何となく彼は、かツとして続けて憎態なことを二三言云つたが、何だか彼は怪(おか)しかつた。――可笑しくもあつた。
 彼が、その次にヲダハラに帰つた時母が、
「原田(周子の実家の姓)の代理の川崎といふ人から、お前に宛てゝお金が来てゐる。」と云つて、二百円渡した。――彼と母とが極端に仲の悪い頃だつた。
 さういふ種類の書きつけは、見ても彼にはわけが解らないので手も触れなかつたが、母の説明に依ると、高輪の家が競売になつて、第何番目かの抵当保持者である彼に、返済された金なのださうだつた。
「あそこまで、そんなことになつてゐたのかね!」
「どうだか、僕だつて知らなかつた。」
「だつて名前が……」と、母は、変に静かな調子で変な笑ひを浮べた。
「僕の名前なんて、どうせ普段から滅茶苦茶なんぢやありませんか――好い面の皮だア長男だなんて!」
 彼は、如何にも迷惑さうに不平を洩して、世俗的な常識に長けてゐる者らしく眉を顰めたりした。
「そんなことを云ふものぢやない。」と、母も云つて顔を曇らせた。その色艶のあまり好くない、だが眼立つほどの皺もなく、そして干からびてはゐない容貌を見ると彼は、極めて非常識な反感をそゝられた。――そして彼は、また死んだ父の顔を徒らに想ひ描いたりしながら、何といふわけもなくバカ/\しい気がして――(フツフツフツ……。馬鹿な連中ばかしが、好くも斯うそろつたものだ!)などと思つたりした。
「いくら僕が、仕様のない人間だからと云つたつて、ですね。」
 彼は、胸を拡げて開き直つた。(何か、ひどく尤もらしい文句がないかな? 何か? 何か? ――)――「それほど仕様のないことなんて考へて見れば、別段何もありやアしないや。普通の息子なんだ、自分で自分のことを仕様のない人間だ! と、自分に思はせるやうにしたのは……」
「お黙り!」
「…………」
「一体お前は何のつもりなの? 如何いふ了見なの? ――幾つになるまで親を瞞すつもりなの?」
「瞞す?」
「やれ、学校の研究科へ通つてゐるの、新聞社に務めてゐるの……大うそつき奴!」
「……」――何アんだ、そんなことか! と彼は思つた。「えゝ、えゝ、どうせ大うそつきですよう、だ。」
 斯んな馬鹿気た争ひをしてゐるよりも彼は、思はぬところで、飛んだ儲け物をしたので、上の空でその金の使ひ道を考へてゐた。――(面白い/\。俺の名前が、俺の知らない間に役に立つてゐるなんて、一寸不思議な気がするぢやないか。それにしても親父が死んで以来、こんなウマイことに四度も出遇つてゐるぢやないか、ひよツとすると俺の知らない間にも斯ういふ儲けがあつたのかも知れないぞ? まアいゝや、そこで…… チエツ、バカ気てゐらア、これツぽツちの金で、想像をたくましくするなんて――)
 彼は、父が死んで以来、例へば金に就いて考へるにしても、その額面が急に大きくなつてることが可笑しかつた。
「如何いふ了見なの?」
「了見ツて?」――彼は、今母と何か云ひ争ひをしかけてゐたのを忘れてゐた。
「お前は、一体何なんだい?」と、母は努めて落着いて訊きたゞした。
「煩いなア! 私は、私ですよ。」
「幾つだい、年は?」
「親の癖に、子の年を知らないの?」
「知らないよ。」
「二十九歳。」
 彼は、さう云つて悠々と煙りを吹いた。
「そして何なの?」
「幾度同じことを聞くんですね! 僕は、何でもありませんよ、――人間だよ、二十九歳の――」
 彼は、庭に眼を放つて、ピーピーと口笛を吹いた。そして火鉢の傍に投げ出してあつた金を、徐ろに懐中に容れた。――(お蝶にやつてしまはう。)さう思つて彼は、清々としたかと思ふと、直ぐまた斯んなことを考へた。(お蝶の奴、益々俺を尊敬するだらうな、何と云ふだらう、お光を呼んで、二人でお辞儀をするだらうな、ホツホツホウ。)――彼は、他人から感謝の礼などされたことがなかつたから斯んな空想が殊の他物珍らしかつた。――(突然なんだから一層彼女等は喜ぶだらう。よしツ、そこで一番! お光が大きくなつたら、一番俺が妾にしてやらう、と、斯う見るからに信頼されさうな重味のある声を出して見ようかな?)
 彼は、口笛を止めて変な咳払ひをした。母はそれに一層反感を持つたらしく、
「それでも、人間のつもりか。」と、口惜し気に呟いた。
「…………?」
 いつもならこんな場合に、極めて図太い度量を持つて、馬耳東風に聞き流すか、或ひは易々と相手を嘲笑ひ反すのが常だつたが、ふつと今彼も、母の詰問を自分に浴せて見た。――だが、これだけはまさか疑ふわけにもゆかない――ほんとに彼は、そんなことを思つた。――(たゞ、私は、あなたのやうにそれであることに、一抹の誇りも持たない者なのです。)
 さつきから彼は、自分の名前が、自分の知らない間に活動する? などといふことを、酷く濁つた頭で「不思議」に考へてゐたのであつた。夢で、自分の姿を見るやうに、気付かずにゐたところを写された写真を見るやうに、「考ふるが故に吾在り」の吾は、何も考へてゐない存在で、多少でも考ふるが故の吾は、別にその辺の隅にでもかくれてゐるやうに、彼は、ぼんやり、極めて単純なことを、「不思議」に、非科学的に想つてゐたのだ。
「名前」が活動するんだから一層怪(おか)しい……彼は、すれ違つた汽車の中に、厭に取り済して乗つてゐる自分を、チラリと見るやうな想ひに打たれたりした。
「ピー、ピー、ピー。」
 斯うやつて、犬でも呼ぶやうに口笛を鳴してゐると、今にもその辺の蔭から、
「何だい、何の用だい、僕アお前などに呼ばれる用はない筈なんだがなア。」などと云ひながら、迷惑さうに自分の「名前」が出て来さうな気がした。
「やア、S・タキノ!」
 斯う云つて彼は、その傍に寄つて行つた。
「君は、誰だい?」と、「名前」が云つた。
「S・タキノさ。――だが、そんなことは如何だつて好いぢやないか、名前位ひのこと。」
「好いけれどさ、他の名前を呼ばれゝば俺は、返事はしないからね。S・タキノでなければ――どうも、その生れて来て以来の習慣でね――H・タキノと云へば、やつぱりあの親父……」
「解つてゐるよ、馬鹿/\しい――。シンの奴、シンの奴! 斯う云つて何時か親父が、おそろしく怒つたことがあつたつけな。」
「うむ、あつた/\。」と、云つて「名前」は気色を雲らせた。
「あの時は、俺は、随分面白かつたよ、シンの奴、すつかり参つたね。」と、彼は、相手を嘲弄した。
「僕ア、面白いどころぢやなかつたぜ、冗談ぢやない、身が縮む思ひがしたよ。」
「フツフツフ、意久地のない奴だな。僕は、また、親父がカンカンに怒つてさ、シン、シン、シン、シン――と、斯う怒鳴るのを聞いてゐると、何だか、それは名前ぢやなくつて、景気好く釘でも叩き込む音のやうな気がして、胸の透(す)く思ひがしたぜ。」
「笑ひごとぢやないよ、俺ア随分痛かつたからな!」
「名前」は、斯う云つて今更のやうにそれを思ひ出したらしく、頭をさすつた。
 彼の父が、玄関を入ると怒鳴つた。
「シンの奴は居るか?」
 その勢ひがあまりすさまじかつたので、彼の母は、居ない――と、かくした。彼は、奥の書斎で机に噛りついて、詩を書いてゐた。
「何処へ行きアがつたんだ?」
「さア。」
「畜生奴! 帰つて来やアがつたら――」
 それらの言葉が手に取るやうに彼に聞えた。
「どうなすツたの?」
「赤ツ恥をかいちやツた。」と、叫んで、少し落着いてから父は、次のやうなことを説明した。
 山本の家(近所の父の友人)へ行くと、娘の咲子が、化物のやうな画の描いてある表紙で、「十五人」とか「十七人」とかといふ変な名前の薄ツペらな雑誌見たいなものを持つて来て、
「シンちやんの散文詩が出てゐるわよ、おぢさん。」と云つた。
「ほう!」
「こんなのよ、こゝの処だけ一寸読んで御覧なさい――ホツホツホ、さんざんね、おぢさん!」
 咲子は、「父の章」といふ個所を指差して、彼の父に渡した。
「滅茶苦茶に俺の悪口を書いてゐやアがるんだ、畜生奴! もう俺ア、彼奴とは一生口を利かないぞ、カツ!」と、父は母に向ツて怒号した。
「詩ですつて?」
「田舎芸者を妾にもつて、女房にヤキモチを嫉かれてゐる間抜け爺――そんなやうなことが、一杯書いてあった。……元来、貴様が馬鹿だからだア、件の前も関はず、云ひたい放題なことを云やアがつて。」
「自分が、行ひさへ……」
「何だつて、行ひだつて? もう一遍云つて見やアがれ、ぶん殴るぞう。――何を云やアがる、手前は何だ、手前は何だ、手前エこそ俺の顔に……」
 父の激亢の声が、何だか彼には、笑つてゐるものゝやうに聞えた。
「叱ツ!」
「手前エこそ今に、息子の碌でもない詩に書かれないやうに要心しやアがれツ!」
「声が大きい。」
 彼には、父の云ふ意味が好く解らなかつた。
「手前エには、な、何だらう、倅の前かなんかでなければ大ツ平に俺のヤキモチを嫉くことも出来ねえんだらう、ヘツ! 俺アこれでも世界中を渡り歩いて来た人間だア!」
 偉いよ! と、彼は父に悪意を持つて呟いだ。彼は、母に味方してゐたからである。――父の声は、益々高まつた。
「俺のことは、関はないよ、勝手にしろ!」
 勝手にしたら好いぢやないか――と、彼も呟いだ。
「それよりも手前エの息子のことを気をつけろ! 息子に聞かれないやうに要心しろ! 恥知らず奴、皆な恥知らずだ、加けに彼奴は、シンの奴は、ぬすツと見たいな野郎だ、面からして気に喰はねえやア! ――どうせ、手前が生んだガキだ、俺ア知らねえよ。」
 彼は、ぬすツとのやうに呼吸を忍ばせて、窓から抜け出した。そして山本の家へ駆け込んだ。
「跣で――どうしたの?」
 小屋から出て来た咲子は、彼の赧い顔を見てなじつた。――草花を庭に植えてゐたところだ、といふやうなことを云つてから彼は、
「どうして×××なんかを、持つてゐたの!」
 と、雑誌のことを訊ねた。
「買つたのよ、この間――東京で。」
「さう、――ぢや、さよなら。」と、云つて彼は直ぐに引き返した。派手好みな、嬌慢な咲子の美しい姿が、もう彼の手のとゞかないところで、古い夢のやうに煙つてゐた。
「随分、ひどい人ね――」と、うしろから咲子が浴せかけた。彼は、体が空中に吹き飛んだやうにテレた。たゞ、彼女の声を、甘く胸に感じて、一層身が粉になつた。――咲子のことを、カン子といふ名前に変へて彼は、その「散文詩」の中で、咲子が若し読んだならば酷い幻滅を感じるに違ひない程に書いてゐた。咲子と彼とは、彼が未だ周子と結婚しない頃、親同志の婚約があつた。「この金持の娘は、金に卑しい。」などとも彼は書いた。彼女は、金持の一人娘だつた。
「自らそれを得意としてゐる哀れな娘」などとも彼は書いてゐた。
 外から、そつと窺つて見ると、未だ父と母との間では、盛んに彼の名前が活躍してゐた。……――「まつたく俺は、あの時、父や母の間で交されてゐる、シン! シン! が、さ。暫く聞いてゐるうちに自分とは思へなくなつてしまつたよ――戸袋の蔭に、ぴつたりと雨蛙のやうに体を圧しつけて、彼等の悲痛な争ひを聞いてゐると、まつたく馬鹿/\しくなつたね――たしかに俺は、蛙だつたよ、あの時、シンとかといふ彼奴等の息子は、悪い野郎だな――と、蛙である俺は、あきれて呟いだのさ。」
「お前は、そりや呑気だつたらうよ、さぞ面白かつたらうね。」
「面白くはないさ、そんなありふれた騒ぎなんて……」と、彼は、退屈さうなセヽラ笑ひを浮べた。
 これは、彼の先程からのあやふやな自問自答である。相手は、あの「名前」である。
「だが、君。」と、彼は感傷的な声で相手を呼びかけた。――「阿母とは仲良くして呉れね、特別に親孝行なんて仕なくつても好いが、普通の息子らしくさ……それだけのことも俺には出来さうもないんだ。」
「お前は、何かにこだはつてゐるんだな、倫理的な立場で――」
「――憎んではゐないさ。親だもの、たしかに母親だもの、――父親ツてエのは、これで疑へば疑へないこともないが、母親だけは疑へないぜ。周子が、子供を生んだ時、親父が沁々と云つたぜ――母親には、自分の子供を疑ふ余地がなからうな、たしかに自分の子だからね――だつてさ、馬鹿だね。……俺、あの時、一寸厭な想像をして、思はず親父の Bawdy appearance を覗いたぜ。」
「馬鹿だなア、お前こそ――」
「そんな話は止さう。ともかく阿母のことは頼むぜ。」
「よし/\、俺が引きうけた。」
「名前」は、斯う云つて見得を切つた。――。
「安心しろよ、何だい、べそ/\するない、ぬすツとらしくもない。」
「阿母だつて、寂しいだらう、親父にはさんざ憂日を見せられ、そして俺が、俺が……俺は、阿母は好きなんだ。顔だつて、心だつて随分俺は、阿母に似てゐるぢやないか!」
「よし/\もういゝ/\、お前は、名前のない人間なんだから愚痴を滾す必要はないんだよ。」
「それでも、いゝか? ほんとうに。何かにつけて不便なことがありやしないかね。」と、彼は絶へ入りさうな声で念をおした。
「そんなことは、俺たちの狭い世界だけの話だ、お前は独りでさつさと歩いて行つて関はないよ。」
「いよう! 君は、随分、度量が拡いんだね。――いや、有り難う、ぢや、失敬するぜ。」
「うむ。」
「ぢや、さよなら。」
「早く行けよ。」
「今、行くよ――握手しようか。」
「そんなことは御免だ。さつさと行つてくれ、少し焦れツたくなつて来た。」
「俺、何だか行くのは厭になつた、急に。」
「女のやうな奴だな。」
「厭だ/\、俺ひとりぢや、やつぱり寂しいや、せめて君が……」
「それぢや何ンにもなりやアしない……」
「何ンにもならなくなつても好いから、行つてくれ、一処に。ひとりぢや厭だ、厭なんだ、さつきから云つてゐたことは、ありやアみんなカラ元気なんだ、あゝ……」
 ――しやア/\と、洞ろな眼つきで口笛を吹いてゐた彼の眼から、ぽた/\と涙が滾れ出た。……しまつた! と、彼は気づいたが、面白いやうにハラ/\と涙が滾れ落ちた。
「…………」
 ふツと気づくと眼の前に居る母の眼にも、涙の珠が光つてゐた。まだ、彼は、母のそれをキレイに、感じなかつた。そして彼は、自分で自分を「邪魔」にした。

鏡地獄

     四

 雪が降つてゐた。
 彼は、隙間のないやうに無数の鋲で、三方の幕をしつかりと圧えた。――静かな午後だつた。賢太郎が拵えかけたカーテンは、短かゝつたので、悉く白い布に取り換えたのである。
 風がなかつたから、湿つた布は凝ツと、この変梃な部屋を取り囲んでゐた。彼は、行火に噛りついて、トランクの中から取り出した金製の古いカツプで、チビチビとウヰスキイを舐めてゐた。
 ――「それぢや、原田では、この先き如何するんだらう、家(うち)がなくなつては?」
 いつか彼の母は、この家に就いて一寸斯んな心配を洩したことがあつた。
「どうするのかね……」
「割合に大家内ぢやあるし――」
「原田の親父は、この頃何ンにも仕事がないんださうですぜ。」
「まア、気の毒な――」
 あまり気の毒らしくもなく、彼の母は苦笑を洩した。その後彼が、この家に就いて周子に訊ねて見ると彼女は、
「うちのお父さんが、また買ひ戻したんですツてさ。だから今度は、あたし達は相当の家賃を払はなければならないでせうね、うちのお母さんが、時々あたしにそれとなく云ふわよ。」などと云つた。原田は、この頃一文の収入もないといふ話だつた。
「毎日あんなに忙しさうに出歩いてゐるのに、一体何をしてゐるのさ。」
 決して訊ねたくはなかつたが彼は、彼女に、軽蔑的な笑ひを見せて訊ねたりした。
「人が好いから駄目なのよ、うちのお父さんは――」と、彼女は云つた。
「未だ半月しか経たないんだから、金はあるだらう、あの?」と、彼は云つた。引ツ越しの時前の借家の敷金を三百何十円か、彼女は彼に断りなく領してゐることを、彼は知らん振りをしてゐたが、忘れてゐたわけではなかつた。
「ホツホツホ。」と、彼女はわざとらしい下品な笑ひを浮べて「随分、あなたは細いのね。――もう三十円ぽつちしかありやアしないわよ。」と云つて、何に使つた、何に使つたなどといふことを立所に証明した。
「俺ア、知らねえよ。」
「でもいゝわね。この頃は手紙を出さなくつてもヲダハラから、お金が来るからね。」
 彼が、原田の家へ同居してゐることを彼の母はあまり喜んでゐなかつた。彼は、ずつと前に此処に居た頃は、その種の母の不快を察して、それも一つの理由で帰郷したのであるが、今度は、母が明らさまな不機嫌を示さないだけ、彼は、反つてこれ位ひの意地悪るを母にしてやることが、辛くもなかつた。
「お前は、随分親孝行だねえ、感心だよう! ほんとうなら今ぢやお前がヲダハラの主人なんだから、阿母さんの口なんて出させないのが当り前なのに、斯うして書生時分と同じ暮しをしてゐるなんて! ハヽヽヽ、おとなしいんだね、つまり。蔭弁慶……」などと周子の母は、巻煙草などを喫しながら親味を装ふ笑ひを浮べた。と彼は、ワザとこの老婆の言葉に乗せられたやうに、心中の不快は圧し隠して、放蕩児のやうな不平顔をして、
「ほんとうに、バカ/\しいや。」などと呟いた。そして、反つて相手の似非親切に研究の眼を放つた。すると老婆は、益々愉快がつて、
「確りしなよ。油断してはゐられないよ。」
 さう云つて暗に彼に「親不孝」を強いた。
「まつたくだね。」
 こんなに彼は、変な落つきを示して、相手の醜い感情を一層醜くしてやれ! などと計つたりした。
「阿母さんの前に出れア、碌々口も利けないツてエんだから仕末に終へないな、この子はよう、ほんとうに――」
「ほんとよ、お母さん。」と、周子も傍から口添へした。彼は、何となく好い気持だつた。
「間に入つて一番辛いのは、お前だけだのう。」と、老婆は娘に云つた。――「阿母さん任せにして置いたら、後で一番可愛想なのは英一だぜ。」
「どうしたら好いだらうね、お母さん。」
「うちのお父さんも、それを心配してゐるんだよ。」
「あたし、ヂリヂリしてしまふわ。」
「無理もないさ。好くタキノと相談して御覧よ。余計なお世話だなんて思はれるとつまらないからツて、お父さんも。」
「さうよ/\。直ぐにうちのお父さんを悪者呼ばはりをするんだからね。」
「バカだね。うちのお父さんも――。そりアさうと、ヲダハラの阿母さんは髪を切つたかね?」
 老婆は、知つてはゐるんだが、知らん振りをして、彼の、割合にそれに就いては潔癖らしい道徳的な反抗を煽てる為に、済して娘に訊ねたりした。
「いゝえ。」と、娘は、白々しい残酷感を胸に秘めて、首を振つた。
「へえ!」と、老婆は、仰天するやうに眼を視張つた。そして、拙い言葉で今更のやうに女の貞操に就いて、娘を諫めたりした。そして自分が、どんなに不行跡な夫と永く暮して来たにも関はらず、貞操観念は如何に律義なものであつたか、といふ事などを附け加へた。――彼女達は、彼の母の不徳を稍ともすれば吹聴したがつた。それで、哀れな自慰を貪つてゐるらしかつた。
 彼は、この家に同居するやうになつてから自分が今迄母に対して抱いてゐた「道徳的な反抗」が、ウマク影をひそめて行く気がして寧ろ清々とした。今迄、自分がひとりで焦立ツてゐた卑俗な感情を、この家の卑俗な連中が悉く奪つて呉れた――そんな気もした。それで自分の心は、別投デカダンにも走らず、あきらめといふ程の云へばエゴにも陥らず、別段改まつた人世観をつくることもなく――彼は、そんなことを思つて、気附かずにたゞ己れの愚鈍に安住しようとした。
(母上よ、安んじ給へ。)
 彼は、斯う祈つた。――彼の頭は、使用に堪へない剥げた鏡だつた。あの、昔の望遠鏡のやうに曇つてゐた。彼は、自分の頭を例へるにも、こんな道具に引き較べるより他に仕様のない己れの無智が可笑しかつた。
「でも、寂しいだらうね。」
「そんなこともないだらう……」
「さうかね、クツクツク……」
 老婆は、欠けた歯を露はにして笑つてゐた、娘と共々に。そして彼の方に向つて、話頭を転ずる為に、
「だけど、ちつたアお前だつてかせがなければ……、そんなことも考へてゐるの?」などゝ訊ねた。
「とても駄目だ。」と彼は云つた。
「嘘なのよ、お母さん。」と、傍から賢太郎が可愛らしい声で口を出した。「兄さんは、時々雑誌やなんかに童話を書いて、お金を儲けてゐるのよ。」
「ほう! 童話ツて何だい。」
「お伽噺のことよ――だから、この頃毎晩出かけて、屹度酔つて帰つて来るぢやないの! あれ、みんな自分で取るお金なのよ。」
「ほう、偉いんだね。――ぢや、ヲダハラからはいくらも貰つてゐるわけぢやないんだね、遠慮深いんだね、感心だねえ!」
「あたしなんて、病院へ行くんだつて遠慮してゐる程なのよ。」と、娘は云つた。彼女は、婦人科病院に通つてゐた。老婆は、忽ちカツとして彼を何か罵つた。
 階下の仲間入りをして、母上よ、安んじ給へ! などゝ祈つてゐることも彼は、面白かつたが、一時間も辛棒してゐると、反つて不純な己れを見るやうな浅猿しさに辟易して、ほうほうの態で二階へ逼ひあがつた。そして、この寒さも厭はず、この村社の急拵への神楽殿にも似た部屋に、幕を引き回らせて、筒抜けたやうな顔をして閑ぢ籠つてゐた。
「郵便」と、云つて賢太郎が幕の間から、彼が一目見れば解る母の書状を投げ込んで行つた。
 近頃気分が勝れない、といふやうなことが長々と書いてあつた。その一節に彼は、次のやうな個所を読んだ。
「……御身は近頃著述に耽り居る由過日村山氏より聞き及び母は嬉しく安堵いたし候、酒を慎しみたるものと思ひ候、父上なき後の痛き心を風流の道に向けらるゝも亦一策ならん、務めの余暇にはひたすら文章に親しむやう祈り居り候、如何なるものを執筆せしや、母は日々徒然に暮し居り候故著書一本寄贈されたく御承知の如く震後書店の出入なければ何卒至急御送り下され度候、孰れ閲読の後は改めて母の感想を申し述ぶべく到来を待ち居り候、御身は英文学士なればその昔母の愛詠せるおるずおるすにも似たる歌もあらんなどと徒らに楽しき空想を回らせ居り候……」
 母は、W. Wordsworth の古い翻訳詩の愛詠家だつた。日本では、馬琴を最も愛読した。母の実家は、昔、その父や祖父の頃から村一番の蔵書家だつた。そして、娘は母一人だつたが、二人の兄弟は並つた読書家だつた。その反対であるタキノ家や彼を、常々母は軽蔑した。彼は、いつか母からいろいろ文学に関する質問をうけて一つの返答も出来なかつた。――では、お前は一体何を主に研究してゐるんだ? と訊ねられて、彼は思はず顔を赧くした。籍を置いてゐた私立大学の文学部で、彼は英文科に属してゐることに気付いて
「英文学!」と、喉のあたりで蚊のやうに細く呟いだことがあつた。傍で聞いてゐた父が、
「へえ! お前は文学なのか? 俺ア、また理財科だとばかり思つてゐたんだ。ハツハツハ……」と笑つた。
「私は、文科の方が好いと思ふ。」
 母は、きつぱりとさう云つた。
「そりやア、好きなものなら――」と、父は云つた。
 彼は、たゞ楽をする目的でそれを選んでゐた。好きか? 嫌ひか? そんな区別も彼は知らなかつた。母が軽蔑した彼の父でさへ、彼よりは遥かに英文学に通じてゐたらしかつた、彼には父の少しばかりの蔵書である英文学書すら読めもせず、読まうともしなかつた。
 誰が読むといふわけでもなく、彼の家にも古くからの習慣で、月々村の書店からいくらかの雑誌が入つてゐたが、そのうちの通俗的でないものだけを彼は、伊豆に逃げのびた頃から、巧く母に断つて、書店から直接彼宛に郵送させた。東京に住む現在でも、それ等は附箋がついて回つて来た。彼は、母にいろいろの書物を呈供することを約したこともあつた、近頃の書物は、お前に選定して貰つた方が好いだらう、と母が云つたので――。
 村山氏といふのは、あまり彼の家と仲の善くない近所の会社員だつた。
 村山氏が、自分の何を読んだのだらう――と、彼は思つた。そして彼は、自分が今迄に書いたいくつかの小説の題名や内容を回想して、案外呑気な笑ひを浮べた。――たゞ村山氏が何んな気持で、彼のことを母に通じたか? が、解る気がした。ずつと前父をモデルにした小品文を父に発見されて激怒を買つたことがあるが、そして酷く困惑したことがあるが、この頃ではそれ位ひのことで困惑する程の余猶もなし、若し母が読んで「腹を切つて死んでしまへ!」――母は、好くさういふことを云ふ人である――と、云つたら、
「自殺は嫌ひだ――眠つてゐるところでもを闇打ちにしてくれ!」位ひの図々しさは用意してゐるんだが、勿論読まれたくはない。
 村山氏といふ人は、他人の不祥事や秘密を発いてセヽラ笑ふことが好きな人である。内容には触れずに、好い加減な皮肉で、彼の母を悦ばせたのであらう! 村山氏を、憎む気にもなれなかつたが、愚かなお調子者の非文学的な彼の小説のつまり彼である主人公が、ペラペラと吾家の不祥事を吹聴したり、親の秘密を発いたりする文章を書き綴つてゐる浅猿しさを、彼は自ら嘆いた。そして、何も知らない母が気の毒であつた。彼は、想像力に欠けた己れの仕事が憾めしかつた。また、下らない奴に邪魔される迷惑も感じた。
「翻訳をして、母に送らう。」
 彼は、母の手紙を読み終ると同時に、思はず斯んなことを呟いだ。一寸以前の彼であつたら、ワザと意地悪る気な笑ひを浮べて、――斯んな刺激も必要だ! とか、不徳の罰だ! とか、と安ツぽく露悪的に呟くに違ひなかつたが(現に彼は、さういふ小説を書いてゐる。)、そんな感情は巧い具合に、この家の一種彼にも通ずる卑俗な連中が、あゝいふ態度で彼の心を拭つたやうなものだつた。この家の連中が暗に彼に要求することの、反対の結果が彼の胸に拡がつてゐたから――。一体彼には、さういふ癖があつた。例へば自分の前に来て、誰かの悪口を吐く人になど出遇ふと、一応はウンウンと云つて聞いてはゐるが、そして時には自分も一処になつて喋舌ることもあるが、いつの間にか、そこで悪口を云はれてゐる向方の人が、反つて懐しく、好きになつて来るやうな場合があつた。
「さうだ、これはたしかに巧い思ひつきだつた。」と、彼は思はず口に出して独言した。
 古い浪漫的な幾つかの英詩を探し出して、耽念にこれを翻訳して、そして厚い紙に綺麗に清書して。何枚かを丁寧に立派にとぢて、恭々しく母に捧げよう……これやア、案外仕事としても面白いかも知れないぞ――などと、彼は呟いた。
(先づ、おるずおるす――か?)
 彼は、母から英文学士と称ばれたことが、奇妙に嬉しかつたのである。そして彼は、一躍厳格な学究の徒になつた気がして、衒学的に眉を顰めて、幕の間から暫く外景を覗いたりした。――花やかに、大片の雪が降つてゐた。火の見塔が、雪にぼかされて煙突のやうにぬツと突き立つてゐた。勿論、見張りしてゐるに違ひないのだが、見張り番の姿は見えなかつた。顔つきばかりで、彼の心は無暗に白いばかりだつた。たゞ、今漠然と心を躍らせた形のない力が、形あり気に、ハラハラと顔や胸に雪のやうに暖く、冷たく、こんこんと降りしきつて間もなく五体までも、埋り、溶けてしまふやうに恍惚とした。――さつきからのウヰスキーがさせる業なのであらう、冷たく、暖かく、雪が、雪景色が、冷たく快かつた。――無い智識を振りしぼつて、努めて翻訳などをしないでも、三つや四つ位ひは立所に叙情的な詩が作れさうだ――ふと、そんな気もしたが、永遠に詞想からとり残されたカラの頭が、幕の間から雪景色を眺めてゐるだけのことに気附いて、彼はテレ臭い苦笑を浮べて、幕をとぢてしまつた。――そして、翻訳に心を反した。だが、二ツ三ツうろ覚えのウオーズオースやテニソンでは、折角翻訳しても、母だつて見覚えがあるかも知れない、「英文学士」の称号を取り上げられてしまふかも知れない、――それじや、何もならないし、語学力は中学の頃と何の変りもないし、
「折角の計画も、駄目かな。」と、思つて彼は、行火の上に首垂れた。――いや、いや、そんなことぢや仕方がない、間もなく自分の生活は、大変惨めなものになつて到底斯んな種類の仕事に耽つてゐる余猶はなくなるに違ひない――彼は、珍らしくそんな要心深い考へを起したりして、努めて心を明るくさせた。――(今夜から、早速取り掛らう、まさか字引の引き方を忘れてもゐないだらうからな。)
 彼は、なみなみと注いだウヰスキイのカツプを一息に飲み干した。――そして、またトランクの中から、ボロ/\になつてゐる英詩集を取り出して、断れ/\に歌つた。
 「She was a Phantom of delight
  When first she gleam'd upon my sight;
  A lovely apparition, sent
  To be a moment's ornament;
  Her eyes as stars of twilight fair;
  Like Twilight's, too, her dusky hair;
  But all things else......」とか、「何だか、はつきり解らないぞ、この、おるずおるすは!」と、云つて、また、別の処を開いて――「Who is the happy warrior? Who is he―Whom every man in arms should wish to be?」などゝ叫んで「こいつも、解らねえ、チヨツ!」と舌を打つたり「ぢや、こんどはテニソンだ。」と云つて、ひよろ/\と立ちあがつて、
 「Ring out, wild bells, to the wild sky,
  The flying cloud, the frosty light:
  The year is dying in the night;
  Ring out Wild bells, and let him die.」
 ――「これやア、好いなア!」と、感嘆して「Wild(ワイルド) bell(ベル) は、好いなア!」などと悦びの眼を輝やかせた。この英文学士は、かの有名な、“In Memorium”をこの時初めて眼にしたのである。そして彼は、更に声を大にして、
  Ring(リング) out(アウト) the(ゼー) old(オールド), ring(リング) in(イン) the(ゼー) new(ニユー),
  Ring(リング) happy(ハツピイ) bells(ベルス) across(アクロツス) the(ザア) snow(スノウ):
  The(ゼー) year(イヤア) is(イズ) going(ゴーイング), let(レツト) him(ヒム) go(ゴー);」と、のろい怪し気な発音で切りに歌つた。――「Let him go ――彼ヲシテ、行カシメヨ、か!」
 それから彼は母へ宛てゝ手紙の返事を書いた。母の手紙が、彼と争ひをした後のものゝやうではないと同じく、彼の手紙も亦白々しい親情に充ちてゐた。

鏡地獄

     五

 初めは、さうしなかつたが、いつの間にか彼は、階下の連中と同じ夕餉の膳に向ふようになつた。そして、機嫌の好さゝうなことばかりを喋舌りながら夜、深更まで晩酌を続けて、翌朝、子供達の間に、子供達と同じやうにモグラのやうに転ろがつてゐる自分を見出すのであつた。
 ヲダハラの母に敵意を持つてゐるといふ心持を仄めかせたり、金銭の話をしたりすると、周子の母が相合(さうごう)を崩してニヤニヤするのでそんなことで彼は卑賤な愉悦を感じて、恰も七面鳥のやうに呑気な倨傲を示した。
「うむ、俺はもうヲダハラなんかに帰らないんだ。面白くもない!」
「お前は、吾家にゐる時分はそんなにお酒なんか飲まなかつたんだつてね!」
 さう彼女が云ふのは、彼女と違つて、彼の母は悴に大変冷淡だからそんな処でお酒など飲んだつて「お前のやうな気性の者が」落着ける筈はあるまい、それに引換へ自分はこのやうに親切だから定めしこの家の酒宴は楽しみであらう! ――それ程の意味で、若し彼が、その意味に気附かないでゐると、彼女はそれだけのことを明らかに附け加へるのであつた。彼女は、機嫌の好い時には稍ともすれば相手を喜ばす為めに「お前のやうな気性の者」といふ言葉を使ふのが癖であるが、機嫌の悪い時には、この同じ言葉を悪い意味に通用させて、蔭で他人のことをそしるのであつた。また彼女は、自ら「私は、斯ういふ人間だから。」といふ言葉を、自讚の意味に用ひて、自分の話を続ける癖があつた。――彼は、この重宝な言葉が夥しく嫌ひであつた。迷惑を感ずるのが常だつた。だから彼は、いつでも彼女のその自讚の言葉を耳にする時は、「如何いふ人間なのか此方は知らないよ、云はゞ、まア、あまり好い人間だとは思つてはゐないだけのことだが――」といふやうに、此方も概念的な冷淡さに片附けておくのみであつた。……彼が、そんな思ひに耽つてゐる時、丁度彼女は、
「そりやア、もう私は……」
 そりやア、もう私は? とは? ……と、この仲々彼女などには敗けてゐないつもりの鸚鵡のやうな婿の胸に繰り反させて、
「そりやア、もう私は、斯ういふ人間だから――」と云つた。「他人の事となると……」などと云ひながら、膳の上の食物を指でつまんで、具合の悪い入歯でニヤグ/\と噛んでゐた。
「ほんとうに、子供達に対しては親切だなア……羨しいやうだよ。」
 そんな風に彼が雷同すると、多少の嘲笑が含まれてゐても、それには気づかず、自分の讚められることだけには案外素直で、子供らしい彼女は、身をもつて点頭くのであつた。
「お前なんて、貧棒こそしなかつたらうが、相当これで人知れぬ苦労が多かつたらうからな!」と云つて、また彼の母を遠回しに批難するのであつた。と、ウマク彼女の穽に陥つて他合もなく彼は、胸がグツとするのであつたが、我慢して「さうとも/\、貧棒はしなかつたとは云ふものゝ、何も贅沢をしてゐた訳ぢやなしさ……賢太郎なんかの方が、反つて幸福だよ。」
 彼も体全体で点頭いたりするのであつた。この相手に、おもねる為に彼はさう云つたのであるが、云つて見ればこれも偽りではないやうに思へた。
 彼女は、他合もなく悦んだ。――「まつたく私ア、子供には心配をかけたことはないからな、気苦労だけは――」
 どんな範囲で彼女が、さう云ふのか解らなかつたが、彼の知つてゐる二三の実際的のことで見れば、この彼女の言葉は彼れには嘘としか思へなかつた。周子と一つ違ひの姉の賢子は、行衛不明だつた。父親のない赤児を伴れて暫く帰つてゐたが、母親に僅かばかりの所持金を費消されてしまつて、と急に母親は彼女を冷遇し始めて、いつか賢子から彼が聞いたのであるが、妻子があつたつて何だつて関はないから成るべく金のありさうな男を引ツ掛けろ! とか、カフエーの女給になれ! とか、と、この母に似てずんぐりした姿の醜ひ賢子に命ずるのだといふ話だつた。そして到々「死ぬなら死んでしまへ。」と云つて追ひ出したのださうだ。賢子は、赤児を置いて出掛けた限り戻らなかつた。
 面を見るのも厭だ! などと云ひながら母親は、赤児をぞんざいに世話をしてゐた。彼女は、飯よりも菓子が好きで、それがなくなると急に不機嫌になつて、赤児の頬ツペたを抓つたりするといふ話だつた。優しい賢太郎が、大変困つて、電報配達になつてついこの間まで彼女を養つてゐたさうである。
「お前なんか、いくら働きがないと云つたつて未だ/\安心ぢやないか、家の親爺なんか……」と彼女が、調子づいて何か云はうとすると、
「お母さん。」と、傍から賢太郎が、たしなめた。
「僕だつて、子供ぢやないんだからなア。」
「さうとも/\、立派なお父さんぢやアないかよう。」
 斯んな風に彼女を、悦ばせて彼は、悠々としてゐたかと思ふと、急に山羊のやうに哀れな声を振り絞つて、自分には実際的には何の働きもないし、徒らに齢ばかり重ねて、この先き一体どうなることやら、自分のやうな人間が一朝にして貧乏人になつてしまつたら、それこそ水に浮んだ徳利も同様だ――。
「あゝ!」などと女々しい溜息を衝いて、忽ち彼女の顔から、にやにやを奪つて、その心を白くさせてやつたりした。さういふことを云ふと彼女は、見事に早変りをして、娘を売物にしてゐる悪婆のやうに冷淡になるのであつた。そして若し、彼がこの時後架にでも立たうものなら、狭い家だから聞えるのである、そこで子供等と遊んでゐる彼の四歳になつたばかりの英一を指差して、
「この子は、うちの子供達と違つて、悧口だぞう――、あの顔の大きいこと……」などと憎々しく呟いだ。悧口だぞう! は勿論悪意だつた。
 後架から戻つて来ると彼は、また七面鳥になつて、
「何アに、△△の土地だつて未だ残つてゐるんだ、近いうちにあいつを一番手放しさへすれば……」
 そんな風に、止せばいゝのに思慮ある肚の太い実業家が何事かを決心したやうに唸つたりした。――すると、また彼女も、彼の予期通りに、忽ち笑顔に返つて、
「しつかりおしよう、タキノやア。」と、薄気味の悪い猫なで声を出して――まつたく、斯んな種類の中婆アさんといふものがあるんだな! と、彼を変に感心させて、
「お前さへしつかりしてゐれば、大丈夫だよう、いくつだと思ふのさ、ほんとにお前はよう……ほんとうなら阿母さんは、クヽヽヽヽ。」と彼の悪感をそゝる意味あり気な忍び笑ひをはさんで「クヽヽヽヽ、もう隠居なんぢやないかねえ、クツクツク……、お前は未だカラ子供なんだねえ、なんにもクヨクヨすることなんて、ありやアしないぢやアないかねえ……」
 その声色が、見る見る飴のやうに甘く伸びて行つて、毛虫になつてうねうねと逼ひ寄つて来て、
「ヲダハラの阿母さんは安心だよう……まア、斯んなおとなしい悴をもつて……」
 あゝ、もう堪らないなア! あゝ、厭だ/\! と思つて、彼が身を引く途端、ポンと彼女の営養不良の薪(まき)のやうな手が、彼の肩先をさするやうに叩いて、彼をゾツとさせた。
 彼は、この中婆アさんの歓心を買はうとしてゐる己れの所置に迷つた。
(ヲダハラの阿母さん!)
 彼は、そつと繰り反した。周子の母に、遠回しな厭がらせを浴せられて、今迄自分が母に抱いてゐた反対の心境が拡けたなどと思つたのも、みんな苦し紛れの痴夢で、斯うあくどく残虐な手に攻められると、一瞬間前の余裕あり気な心持などは、鵞毛の如く吹き飛んでしまひ、腑抜けた自分が「ヲダハラの阿母さん。」と、この中婆アさんの間で、夫々彼女等の命ずるまゝに、泣いたり、笑つたり、舌を出したり、出たら目に踊り狂ふ、魂のない操り人形である己れの所置に迷つた。道徳的な潔癖で母に義憤を覚えたのでもないらしい、また感傷が、彼女の幸福を祈つたのでもないらしい……(カツ! 周子の母親に肩を叩かれて、ゾツとする類のものか!)
「…………」
「お前は、なかなか感心だよう。」
 カツ! と、風船玉のやうな己れの頭をはぢいて、彼は――この「悪婆」の面上に唾を吐きかけてやる! やれる境遇か? やる代りに、こゝで己れの母をカツと罵るか? 罵れば、代りにはなりさうもない、心から己れの母を罵つてしまひさうである……何と、この「悪婆」が手を叩いて嬉ぶことであらう、相手が此奴でさへなければ、自分は声を挙げて自分の母を罵れる、そして清々する……いや、鏡に向つて、同じ程度にこの二人を罵つてやりたい、いや、鏡では、自分の馬鹿面が写つて噴き出してしまふだらう。天に向つて演説するか? 星を見れば、斯んな亢奮は、また鷲毛になつて飛散してしまふだらう……(あゝ、俺は、とてもこの眼前の妖婆には敵はない――)
 そつと彼は、にやにやしてゐる「妖婆」の横顔を眺めると、間もなく此奴に酷い幻滅を覚えさせる程のボロが現はれて、と忽ち妖婆は悪鬼となつて、胸を突かれ腕をとられて、子供諸共戸外にほうり出されてしまひさうな危惧を覚えて、――ふと、その危惧が反つて思はぬ安易に変つたり、自分の母からの白々しい通信に滑稽な戦きを持つたりした。――彼は、幼稚な自称科学者が、顕微鏡下に、人畜に害をなす怖るべき病菌を見て、思はず見震ひを感じたのであるが、大人であることゝ、研究家であつたことゝを顧みて、擽つたく身震ひを堪へながら、唖然として、厭々ながら眼鏡を眺いてゐる愚かな見得坊に過ぎなかつた。無能な衒学者に過ぎなかつた。カラクリの眼鏡を覗いてゐる児童に過ぎなかつた。また、何の得も取れない詐欺師にも等しかつた。――まつたく彼は、こゝで厭な顔を現さずに凝つとしてゐることは、如上の形容でも足りぬ程、随分苦しかつたのである。
「なア、タキノや――」
「アツハツハツ――まつたくだなア。」
 いくら程あれば、以前の運送店を取り戻して、あんな働きのない夫などは頼まずに――云々といふ、彼女は、癖になつてゐる愚痴を滾して、夫を批難しはじめてゐた。――母から遠ざかれば、いくらか彼は救かつた。
「それツぽツちのこと、何とでもなるさ。」
 何となく彼は、吻ツとして、ほんとに、それツぽつちならといふ気で、何の成算もなく
「俺がやる/\。」などと、景気好く叫びながら、また呵々と笑つた。――讚同しないと、怖い気もしたのである。
 彼は、斯んな場合に限らず、一寸感情がもつれると、直ぐに己れの姿を見失ふ性質が、幼時からあつた。無神経な物体になつてしまふ病気を持つてゐる。
 斯んな嘘のやうな経験がいくつもあつた。――幼時、発狂してゐた叔父に手を引かれて(彼には、叔父が狂人といふことが好く解らない程の幼時だつた。家人にかくれて叔父が彼を伴れ出したのださうだ。)裏の山へ散歩に出かけた。父の直ぐの弟で、彼が父のやうに慕つてゐた叔父である。細いことは忘れてしまつたが、何でも叔父が、可成り高い崖の上から、下の畑に、俺も飛び降りないか? と誘つたのである。低いやうに見えたので、叔父に続いて、飛んで見ると、案外に高くつて、彼は、脚が地についた刹那は平気だつたが、一寸間をおいた後に率倒した。――二十二三才の頃、父と一処に、初めてミス・Fを訪れた時、父はFの父と用談をしてゐるので、快活なFは彼を、自分の部屋に誘つた。いくらFが、話しかけても彼は、アセるばかりで答へることが出来なかつた。彼女は、おぼつかない日本語を用ひるのであつたが。――彼は、彼女の薄着の下に躍動してゐる鹿のやうに明るい四肢を想像して、自分が彫刻家でないことを後悔した。
 彼が返答に困つてゐると、彼女は、彼の顔を仰山に覗いて、
「うちの鸚鵡よりも、アナタはおとなしい。」
 などと、皮肉でなしに云つた。彼は、赧くなつて立ちあがつた。――彼には、洋風の居室などが、大変珍らしかつたので、不躾けにあたりを見廻した。Fが、一寸部屋から出て行つた時彼は、隣りにも同じ部屋があるので、その方へ進んで行くと、突然、酷く堅くて、冷いものに、イヤといふ程頭を殴られた。――気附いて見ると、壁に塗り込まれてある大きな鏡だつた。傍き見をしながら、歩いて行つたのだらうが、余程酷くテレてゐたものらしい。今、思つても、その時鏡に写つてゐた筈の己れの姿は、どうしても思ひ浮ばない。その晩、家に帰つてから彼は、熱を出した。誰にも見られなかつたから、好かつたが――と呟いで、胸を撫で降ろしてゐる自分が一層堪らなかつた。
 彼のは、物思ひに耽つて眼前のものを忘れるといふ類ひのものでない。
「さうなれば、ほんとうに私は救かるんだがな。」
「救かるなんて! そんなことを云はなくつてもいゝよ/\。」と、彼は、無造作に点頭いて、周子の母を一層気嫌好くさせた。――ブランコに乗つて、半円に達する程の弧を描き、風を切る身に、足の裏から冷い風が滲み込んで来る快くもない勢ひで、五体が硝子管になつてゐるやうな面白さだつた。
 悪事を働いて、茶屋酒を飲んでゐる小人の心持は、斯んなものかも知れないぞ! ――彼はまたそんな風に概念的な馬鹿気た比喩に身を投じて、鈍重な明るさに浸つた。――だが、彼は、そつと左手をふところに忍ばせて、右手では飽くまでも磊落を装ふて、徐ろに酒盃を上げ下げしながら、秘めた手の平をぴつたりと胸に圧しあてゝ、微かな鼓動を窺つて見たりした。と、それは、次第に鋭く凝りかたまつて、そして、見る間に、いくつかの粒に砕けて、小さくさらさらと鳴りながら脆弱の淵に沈んで行くのであつた。
 この小さな、無神経な物体の音は……? と、彼は夢想した。渚の岩蔭に潜んで、波が来ると驚いて窓を閉ぢ、引けばまたこつそりと顔を現してあたりを眺めたり、産れて以来それを続けてゐるにも関はらず一向波に慣れない愚かな「ヤドカリ」が、稍大きな波にさらはれて、アツといふ間もなく岩間から転落して、眼を閉ぢて、ころころと水の底に沈んで行く心細さだつた。
「またやられてしまつたぞ、残念だな。あの岩まで這ひあげるには、また相当の日数がかゝるんだな。あゝ、厭だな……」と、怠惰なヤドカリは呟いだ。――「眼もあけられやアしない……うつかりすると、砂に埋つてしまふぞ。口も利けやしない、息苦しくつて……水の底なんて――。ウヽヽヽヽ。」
「酒々!」と、「ヤドカリ」は叫んだ。
「もう、よしたらどう?」
 周子は、さつきからの彼の困惑を悟つて、珍らしく夫に同情する程の気になつた。
「好いぢやアないかねえ、お酒位ひ……」と、彼女の母は、親切に酌などした。「私は、なんにもやかましいことなんて云やアしないしさア。」
 彼は、何とかして、饒舌な周子の母を黙らせてやりたかつた。
「Hermit-Crab ツて、何だか知つてゐる?」と彼は、突然周子に訊ねた。
「知らないわ。」
 知つてゐると、彼は思ひはしなかつた。自分だつてさつき彼は、Yadokari〔寄居虫〕n. the Hermit Crab と、和製英語見たいな言葉を和英字引で引いたのである。
「何さ?」
「いや、知らなければ好いんだがね――俺も、一寸忘れたんだよ、えゝと?」などと彼は、空々しく呟きながら物思ひに耽る表情を保つた。好いあんばいに彼女の母は、黙つてしまつた。そればかりでなく彼は、二三日前から切りにヤドカリの痴夢に耽つて来た阿呆らしさを、こんな風に喋舌ることで払つてしまひたかつた。若しこれを和語で云つたならば彼女等ですら、そのあまりに露はな意味あり気を悟つて苦笑するに違ひない、などと彼は、怖れたのである。――彼は、二階で、和英字引を引いたり、Hermit といふ名詞をワザと英文の字引で引いて、“one who retires from society and lives in solitude or in the desert.”などと口吟んだり、また「やどかり――蟹の類。古名、カミナ。今転ジテ、ガウナ。海岸に生ズ、大サ寸ニ足ラズ、頭ハ蝦ニ似テ、螯(はさみ)ハ蟹ニ似タリ、腹ハ少シ長クシテ、蜘蛛ノ如ク、脚ニ爪アリ、空ナル螺ノ殻ヲ借リテ其中ニ縮ミ入ル、海辺ノ人ハ其肉ヲ食フ。俗ニオバケ。」と、わが大槻文学博士が著書「言海」に述べてゐるところを開いて、面白さうに読んだりしたのである。
「どうしたのよ?」
「…………」
 斯んな時彼は、うつかりすると、盃を鼻に突きあてたり、襖を忘れて次の間に入らうとして、襖に頭を打たれたりするのであつた。
「阿父さんの一周忌は――」と、周子の母が云ひだした。またか! と、彼は舌を打つた。それは三月の初旬だから、未だ遠いのであるにも関はらず、彼女は、それに事寄せて彼の母を話材にしたがつた。
 彼は、周子の方に向つて、前の続きを喋舌らうと努めたが、何の材料もなし、自分達のことを話材にすれば直ぐに、その母が口を出すし、うつかり「煩いツ!」などと癇癪を起せば、それこそ如何(どん)な酷い目に遇ふか? 想つたゞけでも竦然とするし、
「うん/\、僕は、前の日にでもなつて行けば好いんだらう――どうせ。」などと受け流しながら、酷く焦々とした。――何でも好いから、何か別の話材に逃げなければ堪らない、と思案した。――(なぶり殺しにされてしまひさうだ。)
 彼の口調が、棄鉢な風で、そして不平さうに口を尖らせてゐるのを、彼女は、自分が煩さがられてゐることも気付かず、彼が遠方の自分の母に向つて反抗してゐるものと思ひ違へて――にやりとして、狐となつて彼を諫めたりするのであつた。
「何を云つてゐるのさア、お前は、よう! 前の日にでもなつてだなんて……フツフツフ、そんな呑気なことで如何なるものかね、ゑゝ! 当主なんだぜ、お前は、さア!」
「……御免だ。」
「そりやア、向ふぢや何もお前を無理に呼び寄せようとはしないだらうがさ、ヲダハラの阿母さんだつて……」
 ――どうしても阿母を罵しらせるつもりなんだな、この俺に……斯う俺が思ふのは、決して邪推ぢやない、邪推なもんか、この狐婆ア奴、どつこい、そんな手に乗つて堪るものか、チヨツ!
「あゝ、厭だア!」と、彼は、顔を顰めて溜息を衝いた。
「だが、可愛想になア、お前も。お前は、これで規丁面なたちなんだものねえ。」
 ――ばかされたやうな顔をして、あべこべにばかしてやらうかね、何の斯んな婆ア狐ぐらひ……阿母さんの悪口なんて云ふもんぢやないよ、なんて諫めるめたいんだな、心では快哉を叫びながら――などと彼は、敗ン気な邪推を回らせたが、何としてもばかし返す手段として、自分の母を選ぶわけには行かなかつた。と、云つて彼には、他の方法は一つも見出せなかつた。――全く彼は、この婆アさんに心まで見透され、操られ、打ちのめされてしまつたのである。いくら口惜しがつても無駄だつた。笑ふことも憤ることも出来ない穴の中に封じ込まれて行くばかりだつた。――彼は、口惜しさのあまりギユツと唇を噛んだ。
「そりやア、お前としては随分口惜しいだらうがね、お前は、仲々辛棒強いから口にこそ出さないが、私は、ほんとうに察するよ。お前の心を、さア。」
「鬼だ!」
「うん/\、我慢をし/\、私はもう……」
 ――憤慨の情を露はに出来たゞけでも彼は、いくらか救かつた。彼は、肚立しさのあまり滅茶滅茶に、この眼の前の「狐婆ア」に向つて、胸のうちで、思ひつく限りの野蛮な罵倒を叫んだ。――(畜生奴、鬼だ! と云つたのは手前のことを云つてやつたんだぞ、この鬼婆ア! 営養不良の化物婆ア……淫売宿の業慾婆ア! ぬすツとの尻おし! くたばつてしまへ! 夫婦共謀の大詐欺師! 烏の生れ損ひ! 食ひしん棒!)
 彼は、そんな風に、如何(どん)な下等の人間でも口にしさうもない幾つかの雑言を繰り反してゐるうちに、このうちの何れでも好いから、一つはつきり相手に悟れるやうに叫んで見たいな――などと思つてゐるうちに、ふと名案が浮んだやうに、ポンと膝を叩いた。
 彼は、横を向いて、
「Devil-Fish!」と、叫んだ。周子の母を罵つたのである。
「え?」と、周子は、一刻前からの続きで邪気なく問ひ返した。無智な彼女の母は、娘がさういふ話(English)に興味を持つてゐるらしいのを悦んで、
「お前達の話は、何だか私には解らない。」などと微笑みながら娘の顔を眺めてゐた。
「Devil-Fish! Devil-Fish!」
 彼は、ふざけるやうに叫んで、すつと胸のすく気がした。――(烏賊が墨を吐いて、敵の眼を眩ませるんだが、自分の墨で自分が眩まないやうに気をつけろよ。)――「ウーツ、怖ろしく酔つ払つて来たぞう。」
「お酒はね、酔ひさへすれば薬だよう、この頃お前は、随分気持よさゝうに酔ふぢやアないか。ヲダハラに帰つた時などゝ如何なのさ?」
「Devil-Fish ツてえのはね、お前知つてゐる?」
「さア!」と、周子は、考へるやうに首をまげたりした。
「どれ、ひとつ余興でも見せてやらうかな、……Devil-Fish ぢやア、困つてしまふな、いや、お前なんて、烏賊の泳ぐところを見たことがあるかね。」
 彼は、気嫌の好い酔つ払ひらしくそんなことを云つた。
「ないわ。」
 彼も、烏賊の泳ぐところなどは見たこともなかつたが、
「斯んな風な格構でね。」などと云ひながら、上体を傾けて、スイスイと頭を突きあげたり、ブルブルツと、幽霊のやうに手や脚を震はせたり、うねうねと体を伸縮させたりした。
 周子も、その母も、肚を抱えて笑つた。そして彼は、この運動の合間に、掛声のやうに見せかけて、鬱憤の洩し時は、こゝぞと云はんばかりに力を込めて、
「Devil-Fish!」と、叫んだ。
「アツハツハツハツハ。」
「デビル・フヰツシユツて、烏賊のことなの?」と、周子が訊ねた。彼女は、自分の母の前で彼が気嫌の好いのを悦んでゐた。
「……何しろデビル・フヰツシユぢや食へないんださうだ。」
 彼女は、彼がもう酔ひ過ぎてわけの解らぬことを云ひ初めた、と思つた。
 これは、嘗て彼が、父から説明を聞いた英語であつた。ある種の紅毛人は、章魚、烏賊、鮟鱇などの魚類を、俗に「悪魔の魚(デビル・フヰツシユ)」と称して、食膳にのぼすことを厭ふといふ話だつた。――彼は、周子の母を鮟鱇に例へ、己れを或る種の紅毛人になぞらへて見たりしたのであつた。
「うちの阿母は?」と、彼は、思はず呟いで、同じやうな不味(まず)さを覚えた。その時彼は、周子とその母の眼が、不気味に光つたのを感じてヒヤリとした。……(鮟鱇と烏賊の相違位ひのものかね、フ……)
 彼は、間の抜けた笑ひを浮べた。……(俺も、俺も……)
「ぢや、ひとつ今度は、章魚踊りをやつて見ようか。」
 周子の母が、何か云ひかけようとした時彼は、斯う云つて、厭々ながらひよろ/\と立ちあがつた。
「キヤツ、キヤツ、キヤツ――タキノは、仲々隅には置けない通人だよう。普段は、あんまり口数も利かないけれど、酔ふとまア何て面白い子だらう。」
 そんなことを云ひながら周子の母は、火鉢に凭りかゝつて、指先きで何か膳の上のものをつまんだり、チビチビと盃を舐めたりしてゐた。
「いくらか痩せてゐるだけで、やつぱり斯うやつて見ると、阿父さんにそつくりだわね、ねえ、お母さん。」
 周子は、母親に凭り添つて、母に甘へる笑ひを浮べながら彼を見あげてゐた。
 彼等は、夜毎、このアバラ屋で、彼様に花やかな長夜の宴を張るやうになつた。

2010年3月21日 (日)

鏡地獄

     六

 三月上旬、彼の父の一周忌の法事が、ヲダハラの彼の母の家で、さゝやかに営まれた。遅くも二日位ひ前には帰る筈だつた施主即ち彼は、当日の午頃になつて、のこのこと招かれた客のやうに気取つて、妻子を随へて戻つて来た。別段彼は、母に意地悪るをする為とか、不快を抱いてゐたからとか、そんなわけで遅れたわけではなかつた。わけもなく無精な日を送つてゐたばかりである。 二三日前彼は、この日を忘れないやうに注意された母の手紙を貰つてゐた。それと一処に、高輪の彼が同居してゐる原田の主人に宛てゝ、差出し人が彼の名前で、ヲダハラから招待状が配達されてゐた。彼は、偶然それを原田の玄関で配達者から受け取つた時、母の手蹟で、れいれいと書かれてゐる書状の裏の自分の名前を見て、母に済まなく思つたり、いつかのやうに怪しく自分の存在を疑ふやうな妄想に走つたりした。――勿論、原田では誰も来なかつた。反つて、彼が出発する時には周子の母は、好く彼に意味の解らない厭味見たいなことを云つたりした位ひだつた。 もう、少数の招ばれた客達は、大抵席に就いてゐた。彼は、父の居る時分吾家の種々な招待会を見たが、何(ど)の点から見ても斯んなに貧しく佗しいのに接した験しはなかつた。彼は、次第に怖ろしい谷に滑り込んで行く自分の佗しい影を見る気がした。 母が、彼の代りに末席に控へて、客のとりなしをしてゐた。――彼は、止むなく母に代つて座に就き、黙つて一つお辞儀した。 彼が、小説「父の百ヶ日前後」のうちに書いた岡村の叔父もゐた。叔父は、彼の方に眼を向けないで隣席の客と書画の話をしてゐた。彼は、自分が小説に書いたといふことで、とんだところに自惚れみたいな心があつて、叔父に妙な親しみを感じたり、人知れず冷汗を浮べたり、「若し、今夜、百ヶ日の時みたいな騒動が持ちあがつたつて、今度こそは敗けないぞ。」などと、運動競技のスタートに立つた時のやうに胸を踊らせたりした。葉山老医も居た。日本画家の田村も居た。また彼が、二度目の苦しい小説「悪の同意語」で、岡村の叔父のやうに強い人に書いたり、周子が口惜し紛れに彼に向つて「お前の阿母は何だツ、間男、間男!」と叫んだ当の志村仙介も居た。「清親」と、彼は嘗て書いたが、それは彼が苦し紛れに岡村の叔父と志村との印象を、ごつちやにする為めにその一つの名前を併用してしまつたのである。叔父と志村との間に、もう一人「清親」と称ふ得体の知れぬ人間が「居ない」とは彼れは思へなかつた。彼は、小説でない場合でも自分のことを平気で「彼」と称び慣れてゐた、殊にそれらの小説を書いて以来、歪んだその狭い世界と自分の生活との区別もつかなくなつてゐた。彼は、往々他人に向つて自分のことを「彼奴」と吹聴する癖が出来てゐた。「君は、さつきから彼奴/\ツて、酷く悪口を云ふが一体それは誰のことなんだい?」と、相手の者から迷惑さうに問ひ返されて、酔払ひの彼は、思はずハツとして言葉を濁らせることが屡々あつた。せめてそれより他に能が無いのである。その癖彼は、決して「彼奴」を客観視出来なかつた。出来る位ならば彼の小説だつて、多少は小説らしい巧さが出る筈だつた、縦令「彼奴」が、如何(どん)なに馬鹿であらうと、無智であらうと、法螺吹きであらうと、取得のない酔払ひであらうと、多くの愚と悪の同意語で形容すべき人間であらうとも――。彼は、小説家としてのあらゆる才能に欠けてゐた。無理に、己れに、肩書を要求される場合に出遇つたならば、彼は徹夜をして、何か、突飛な名称を考案しなければなるまい。「周子の母が、俺を厭がらせる道具か、あれと、これが!」 そんな心持で、あまり出来のよくない木像でも見物する程の無責任な眼で、軽く志村の横顔を眺めたり、母を振り返つたりすると彼は、可笑しく心が平静になつた。「どうも、何ですな、……今日の法事は大変貧弱で、恐縮で御座いますな、親父は、どうもお客をすることがあの通り好きだつたので、その、仲々、何で御坐いましたが、いや、その私も、大変好きなんですがね、どうも、斯う……」 何かお世辞を云はなければならないと気附いて彼は、急にそんなことを喋舌り出したが、久しく使用しなかつた為か、改つた叮嚀な言葉使ひをすつかり忘れてゐて、直ぐに行き詰り、困つて、仕方がなく出来るだけ大人らしく構へて、「ハツハツハ……」と、笑つた。「何を云つてゐるんだね、お前は。失礼な。」 と、傍から母がたしなめた。――「どうも、これは口不調法で。」「何ですか、この頃は、務めの傍ら著述などに耽つてゐるさうですが。まア、何をやつてゐるか私も未だ見ないんで御坐いますが。でも、まア、そんな方に心が向けば、いくらか落つきも出て来るだらうと……」 母が、安堵の微笑を湛へて葉山氏の問ひに答へてゐるのを開いて彼は、一寸坐を退いた。 その晩、帰るといふ志村を彼は無理に引き止めた。「留守ばかりしてゐるんで、いろ/\厄介を掛けてゐるね。」 彼は、盃をさしながら言つた。志村が、何となく自分に一目置いてゐるらしい様子が彼は、愉快だつた。夜になつてから清友亭のお園が来た。お園を見ると彼は、急に故郷に帰つたらしい懐しさを覚えて、そして、そこに居る父に不平でも訴へに行く、たつた二年も前の時日が、昨日のことのやうに蘇り、「お園さんのところへ行かうか――どうも、デビル・フヰツシユばかりで面白くねえ。」と云つて、彼女を呆然とさせた。 ……「迎へに行く振りをしてやつて来たのさ、今まで阿母を相手に飲んでゐたんだが堪らなくなつてしまつてさア。然し何だね、斯んな場合に僕が若し、所謂だね、善良な青年だつたら阿父さん、やり切れないでせう。」 斯んなことを云つて彼は、父を参らせた。「何アに俺ア、善良な青年の方が好いよ。親のだらしのないところに附け込むやうな奴に会つては敵はないからね、キタナラしい気がするぢやないか。」と、父も敗けずに笑つた。「そんなことを云ふと、また詩を書くぜ。」 もう時効に掛つてゐるので安心して彼は、そんなことを云つた。「御免だア!」と、父は、大口を開けて叫んだ。「怒つたね、あれぢや。」「お前に面と向つて怒りはしなかつたらう、阿母に、だつたぜ。」「どうして僕に、直接……」「――止せ、止せ。……おい、お蝶、シンの奴がまた遊びに来たから、トン子ちやんでも呼んで騒がうぢやないか。」「ひよつとすると今晩あたりは、また阿母がやつて来るかも知れないよ。」「えツ!」「さうしたらね、お蝶さん、僕は、急に態度を変へて阿父さんと喧嘩を始めるかも知れないからね、そのつもりでゐておくれ。」 斯う云つて卑し気に口を歪めた時彼は、ふつと母が堪らなく慕しくなつた。そして彼は「まさかね、それほど僕も不良青年でもないさ。」と、静かに附け加へて、お蝶を白けさせたり、父の顔を曇らせたりした。「君は、この頃酒を止めたといふ話ぢやないか、それとも相変らずかね。」と、退屈さうに云つたのは志村だつた。「酒位ひ何でえ! 止めようと、止めまいと、俺ア、そんなこと……」「俺ア、酒の為に命をとられたつて平気なんだ。死んだあとで一人でも泣く奴があるかと思ふよりも、彼奴が死んで清々と好いと思はれた方が余ツ程面白いや。」 よく父は、そんなことを云つた。「僕ア、さうぢやないな。僕は、別段酒飲みぢやないが、若しもつと年をとつてから、酒を止めないと危いよ、と云はれゝば直ぐに止めますね。」と彼は、父の健康を慮つて云つたことがある。「今ツから酒飲みのつもりになんてなられて堪るかよ。」 ……「清々と好いや!」と、彼は叫んだ。「お酒は慎んだ方が好いよ。」と、お園と話してゐた母が振り返つて云つた。「鬚があるのか?」と、彼は志村を指差した。志村は、たゞ笑つてゐた。「東京も面白くないし、また此方にでも舞ひ戻らうかな、だが戻つたところで――か。旅行は一辺もしたことはなし、だから未だ好きだか嫌ひだか解らないし……」 そろ/\危くなつて来たぞ、と彼は気付いて、ふらふらと立ちあがり、父の位牌の前に進んで、帰つてから、二度目の線香をあげた。

鏡地獄

     七

 朔日(ついたち)と十五日と、毎月、夫々の日の朝には、彼の家では「蔭膳」と称する特別の膳部がひとつ、仰々しく床の間に向けて供へられた。そして、それが下げられてから、彼ひとりがその膳を前にして、しよんぼりと朝の食事を執らせられるのがその頃の定めであつた。――彼が、写真でしか見知らなかつた外国に居る父の「蔭膳」なのである。その冷たくなつた定り切つた貧しい料理を食ふのが、ひとつは妙に薄気味悪くて、往々彼は、厭だと云つて、祖父母や母に憤られた。
「頂くんだ。」
 祖父は、斯う云つて彼を叱つた。――写真で見る父などを彼は、それ程慕ひはしなかつた。――嘘のやうな気がしてゐた。
 彼は、ふと、今自分が盃を上げ下げしてゐる膳に気づいて、そんな思ひ出に走つた。定紋のついた、脚の高い、黒塗りの、四角な小さな膳だつた。
「斯んなお膳が、未だあつたの?」
 隅々の塗りの剥げてゐるところを触りながら何気なく彼は、母に訊ねた。
「どうしたんだか、それは残つてゐたんだよ――もう使へないね。」
「えゝ――。これ、蔭膳のお膳ぢやないの?」
 蔭膳といふのは、遠方へ行つてゐる吾家の同人の健康を祈る印なのだ――と、いふ意味の説明を彼は、新しく母から聞いた。
 いつかお蝶の家で父と飲み合つてゐた時彼は、その蔭膳を食はされるのが随分迷惑だつたといふ話を父にしたことがあつた。
「馬鹿爺(ぢんぢ)いだなア!」
 父は、自分の父のことをそんな風に称んでセヽラ笑つた。
「どつちが馬鹿だか!」
 彼も、眼の前の自分の父のことをそんな風にセヽラ笑つた。――「ちやんとそれにはオミキが一本ついてゐたぜ。」
「貴様もやがて蔭膳でもあげられないやうに気をつけろよう……碌なもんぢやない。」
「何がさ?」
「あいつ等がさ……」
「あいつ等ツて誰れさ、おぢいさんのこと?」
「……フツ、つまらない。」
 ――母は、昔の語には興味を持つてゐた。彼は、今話を成るべく古い方へ持つて行くことに努めてゐた。前の晩彼は、危くなる心を鎮めて、百ヶ日の時のやうな不始末もなく済んだので、今、ホツとしてゐた。自分さへ心を鎮めてゐれば、今の吾家には何の風波もないわけか――さう思ふと彼は、こんな心を鎮める位ひのことは何でもない気がした。
 周子は、隣りの部屋で二郎や従妹達と子供のやうに話してゐた。――彼は、周子の心になつて、この母とこの悴が話してゐる光景を想像すると、他合もない気遅れを感じた。……(何しろ彼奴には、あんな事を知られてゐるんだからな、何んな気持で俺達を見てゐることやら?)さう思つても彼は、こゝで周子に何の憤懣も覚えなかつた。――母は、彼も周子も、母のそんな事は何も知らない気で、飽くまでも母らしい威厳を保つてゐるのだ。百ヶ日の頃には、父の突然の死を悲しむあまり彼が狂酒に耽つてゐたのだ、といふ風に母は思つてゐるのだ。
 彼は、周子を感ずると一層母と親しい口が利きたかつた。
 斯うやつて彼は、「蔭謄」を前にしてチビチビ飲んでゐると、いつの間にか自分の心は子供の頃と同じやぅに白々しくなり、写真でしか見知らない若い父が、嘘のやうに頭に浮ぶばかりであつた。二十年程の父との共同生活は、短い夢のやうに消えてしまつた。
「阿父さんが早く帰つて来れば好い、なんて思ふことがあるかね。」
 時々、そんなことを聞かされると彼は、子供の癖に酷くテレて、
「どうだか知らないや。」と、叫んで逃げ出すのが常だつた。
「そんなものなんだらうな、子供なんて。」
 祖父は、さう云つて彼を可愛がつた。
 祖父が死んでから間もなく父が帰つて来たのだが彼は、少しも父になつかず、本心からそんなつもりでもないんだが、
「あんな人は知らないよ。」などと云つて、到々父を怒らせたといふ話だつた。
 今、彼は、それと同じ言葉を放つても、そんなに不自然でもない気がした。
「阿父さんが帰つて来るまでは、これは続けるんだよ。厭だ、なんて勿体ないことを云ふものぢやない。」と、祖父から命ぜられて、何時帰るか解らない者の為に何時までもこれを食はされるのぢや堪らない――などと彼は思ひながら、情けない気がしたのである。だが、その度毎に、ぼんやりと「無何有の境」に居る父の姿が、止り止めもなく静かに空想された。情けなく明るい幻であつた。
 ……さう、想はせることが「お蔭膳」の有り難味なんだ、といふ祖父の説明を聞いても彼は、さつぱり有り難くなかつた。ボソボソと、大豆の混つた飯を噛みながら、一層不気味に海の遥か彼方の街を余儀なく想像させられることは、頼りなく物悲しかつたが、一脈の甘さに浸つて、己れを忘れる術になつたには違ひなかつた。
「ぼんやりしてゐないで、早く頂くんだ。」
 想ひ描けない空想に、己れの身を煙りに化へてまでも、何らかの形を拵へようとする彼の想ひは、徒らに渺として、瀲と連り、古き言葉に摸して云ふならば、恰も寂滅無為の地に迷ひ込む思ひに他ならなかつた。
 彼は、盃を下に置いて、仰山に坐り直して眼を瞑つたりした。――(今の心は、まさしく幼時のそれと一歩の相違もないらしい。あの頃だつて、別段父の現実の姿を待つ程の心はなかつたぢやないか……おや、おや、また今日は、例の蔭膳の日か、お祖父さんとお祖母さんの姿が見へないやうだが、何処へ行つたのかな、畑の見廻りにでも行つたのかな、まア、好いや煩くなくつて、そのうちに早く飯を済せてしまはうや、だが相変らずのお膳で飽き/\したね、喰つた振りでもして置かうかな……ヘンリーが帰るなんてことは考へたこともない、写真で見たところ仲々活溌らしい格構だな、この間の写真で見ると、五六人の級友達と肩を組んだりしてゐるぢやないか、女も混つてゐるな、あちらではあんなに大きくなつても、あんな女の友達が学校にあるんだつてね、何だか羨しいな……阿父さんツて一体何なんだらう、俺にもあんな阿父さんとやらがあるのかね、手紙と玩具を送つて呉れる時は嬉しいが、面とぶつかつたら何だか変だらうな、やつぱり手紙のやうに優しい声を出すのだらうか、そんなものが阿父さんと云ふのか、何だかほんとゝは思へないや、それに阿父さんの癖に学校の生徒だなんて、何だかみつともないな……)
「もう、これからは務めをしくじらないようにしておくれよ。」と、母が云つた。
「……」――(お蔭膳のオミキか!)
「阿父さんが居る時分とは違ふんだからね。」
「……さう。」――(えゝと、俺は何処に務めてゐる筈になつてゐたんだつけ? 新聞社? 雑誌社? △△会社の無収入の重役? 学校? 学校だつたつけな、ハヽヽ、親父のことは笑へないや、俺だつてもう英一の親父だつたね、ハヽヽ。)
「ハヽヽ、どうも貧棒で弱つちやつたな。未だ当分お金は貰へますかね。」
「少し位いのことなら出来るだらうが、無駄費ひぢや困るよ。」
「どうして、どうして無駄どころか。」と、彼は、厭に快活に調子づいた。「研究ですからなア。」
「そんならまア仕方がないけれどさア。」
「それアもう僕だつて――」――(阿母の奴、奇妙にやさしいな、ハヽヽ、気の毒だな、こんな悪い悴で、だが、自分は如何だ、仕方のないやさしさなんだらう、フツ。嘘つき、罰かも知れないよ、こんな悴が居るのも。……一寸、一本悸(おど)かしてやらうかな。)――「だけど勉強なら何も東京にばかり居る必要もない気がするんで、当分吾家に帰らうかなんて、思つてもゐるんだが?」
「また!」と、母は眼を視張つた。
(どうだ、驚いたらう、――大丈夫だよ、お金さへ呉れゝば帰りアしないよ、面白くもない、……志村の泥棒!)――。
「また、と云つたつて、阿父さんが亡いと思へば、さう阿母さんにばかり心配かけては僕としても済まない気がするんですもの、ちつたア……」
「直ぐにお前は、嶮しい眼つきをするのが癖になつたね、お酒を飲むと、東京などで、外で遊んだりするのは、お止めよ、危いぜ。」
「えゝ。」と、彼は、辛うじて胸を撫でおろした。
「間違ひを起さないようにね、いくら困つたつて好いから卑しいことはしないやうにしてお呉れ。貧ハ士ノ常ナリといふ諺を教へてやつたことがあるだらう。」
「…………」
 彼は、点頭いた。もう彼は、悪い呟きごとは云へなかつた。自分が、卑しいことばかりしてゐるやうな不甲斐なさにガンと胸を打たれた。先のことを思へば、一層暗い穴に入つて行く心細さだつた。――「僕……大丈夫です、士、さうだ、士です、士です。」
 彼は、悲しいやうな、嬉しいやうな塊りが喉につかへて来る息苦しさを感じた。悲しさは、己れの愚かに卑しい行動である。母の言葉が、それを奇妙に嬉しく包んで呉れたのである。――(御免なさい、御免なさい、私のほんとうの阿母さん、たつた一人の阿母さん、阿母さんが何をしたつて私は、関ひま……せん、とは、未だ云へない、感傷は許して貰はう、不貞くされは胸に畳まう、だが、この神経的な不快感は、ぢやどうすれば好いんだ……えゝツ、面倒臭い、酔つてしまへ、酔つてしまへ、神経的も、感傷的も、卑しさも、そして士もへつたくれもあつたものぢやない、どうせ俺アぬすツとだア、アツハツハ……)
「ハヽヽヽ、士ですからね、私は。何時、官を退いて野(や)に帰るかも知れませんよ、ハヽヽヽ、帰る、帰る、帰る……例へば、ですよ。」
「それア、勿論、それ位ひの……」
「ハヽヽヽ、何と僕は見あげた心をもつてゐるでせう、ハヽヽ、願クバ骸骨ヲ乞ヒ卒伍ニ帰セン、でしたかね。」
「口ぢや何とでも云へるよ。」
 母は、彼の調子に乗せられて、笑ひながら、明るく叱つた。斯んな調子は、母は好きなのである。斯んな言葉は、彼が幼時母から授かつたのである。母は、その幼時その父から多くの漢文を講義されたさうである。――母は、彼が斯ういふ態度をすると、タキノ家に対して淡い勝利を感ずるのであつた。実際の彼は、そのやうな母の血を少しも享けてはゐなかつた。
 母は、その兄達と共にタキノ家の者、就中彼の父を「腰抜け」と呼んだことがあるが、そして彼の父を怒らせたのであるが、父以上のそれである彼は、その時内心父に味方しながらも怒つた父を可笑しく思つた。母の兄は、七十幾歳だつたかのその母(彼の祖母)に向つて、蔭で彼のことを、
「やつぱり、飲んだくれのH・タキノの子だからお話にはならない。」とか「あんな堕落書生に出入りされては迷怒だ。」とか「阿母がしつかりしてゐるから、若しかしたら彼奴だけはタキノ風にはなるまいと思つてゐたんだが、あれぢやHよりも仕末が悪い。私立大学で落第するとは、あきれた野郎だ。」とか、「その叔父は、大礼服を着た写真を親類中に配布して、常々、親類中に俺の話相手になる程の人間が一人も居ないと云つて嘆いたさうだ。」そんなことを云つて、その祖母は、長く彼と一緒に暮したことがあるので、どつちかと云へば孫のひいきで、
「それでも貴様は口惜しいとは思はないのか!」と、少しも口惜しがらない彼を、焦れツたがつた。彼の父なら、多少は口惜しがつて「俺は、フロツク・コートだつて着たことはない。あんなものは坊主が着るもんだ。」位ひのことを云ふだけ彼より増だつた。彼は、嘗て屡々この祖母の金を盗んで、故郷の村で遊蕩を試みたことがあつた。彼の父も、若い頃その父が大変頑迷だつたので屡々業を煮やして、この彼の祖母から金を借りて、秘かに村の茶屋で遊蕩に耽つたといふ話である。
 隣室に周子が居るので、彼と母の間ではいつものやうに原田の噂は出なかつた。彼は、少しはやつてやり度く思つた位ひだつた。
「僕は、たしかに阿母さんの影響を多く享けてゐる気がしますよ、この頃時々ひとりで考へて見るんだが。」
 彼は、そんなよそよそしいことを臆面もなく呟いで母におもねつた。……そして、また野蛮な憤懣は、言語とうらはらに悉く心の呟きに代へた。――(ひとりで思ふね。あんまり俺はタキノ風であることをさ。……帰るといふ素振りをすると、それとなく顔色を変へるから、がつかりするよ。――若し、こゝんところに志村の畜生が来やアがつたら、何とか文句をつけて、ぶん殴つてやるから見てゐるが好い。もう敗けるもんか。)
「一度(ひとた)び、東京へ出ずれば、ですね――僕、さう、おめおめと帰つて来やしませんから安心して下さいよ。」
「お前は、仲々強くなつたから、私は安心してゐる。」
「さうとも/\。」――(フツフツフ、あべこべに煽てられてしまひさうだぞ。)
 それでも彼は、ばかに好い機嫌に酔つてしまつた。……「帰る時には――ですね、僕は、その、楯に乗つて帰りますよ。」
(だが、斯んな法螺を吹いて好いかしら、来月あたりは、もう高輪の家をほうり出されるかも知れないぞ、あゝ、怖しい/\、行きどころが無くなるなんて!)
「うん。」と、母は、点頭いた。彼は、益々調子づいて、
「楯に乗るといふことは、目出度い話なんですよ、その話を、阿母さんは知つてゐる、スパルタのさ。」
「好く知らない。」と、母は、一寸薄気味悪るさうに首を振つた。――彼は、簡単に、多少の出たら目を含めた古代スパルタの歴史を説明してから、
「即ち、生きて帰るな、花々しく戦場の露となれ、生きて帰れば、汝の母は泣くぞよ――といふわけなのさ――その、楯に乗りて云々といふ一言がですなア! ハヽヽ、どうです、偉いでせう、僕は――」などと、彼は、何の辻棲も合はぬ、夢にもないことをペラペラとまくしたてた。
「日本にだつて、そんな語はいくらもあるよ、そんなスパルタなんぞでなくつたつて。」
 母は、楠正行の母にでもなつた気で、他合もなく恍惚として――彼を、悲しませた。
 ともかく、この夜の彼等は、異様に朗らかな二人の母と子であつた。
(お蔭膳のオミキか!)と、また彼は、これが新しい口癖になつたかのやうに呟いだ。――たゞ、惨めなことには彼の心は、子供の頃のそれのやうに容易く「寂滅無為の地」に遊べなかつたのである。腕を挙げ、脚を蹴り、水を吹きして身を踊らせるのであつたが、たゞ見たところでは弱々しく邪魔にもなりさうもなく漂ふてゐる多くの水藻が、執拗に四肢にからまりついて、決して自由な運動が出来ないのである。岸から傍観してゐる人は、一体彼奴は、あんなところで何を愚図/\してゐるんだらう――と、訝かるに違ひあるまい――彼は、そんなに、山蔭の小さな水溜りで水浴びをしてゐる光景を想つたりした。
 ……(もう少し酔つて来ると危いぞ、どんな失敗をしないとも限らないぞ――。……折角のところで阿母と、飛んだ争ひをしてしまつては、何んにもならないからな……第一、東京へ帰つてからの暮しが出来なくなる……あつちには、あつちで、あの怖るべき周子の母が、裕福になつて帰るべき自分を、空腹を抱へて待つてゐるのだ。母だつて、自分が今まで斯うして、例の鬱屈とやらを――、ツマラナイ、馬鹿なことだが――卑怯に我慢してゐればこそ、此方に秘密を――へツ、かくさないでも好いのに、が、まアそれも好いさ――悟られまいとして、やさしくもする、気味の悪い手紙も寄す……凡て、自分が知らん顔をしてゐればこそである。これで若し自分が、いつか周子から浴せられたやうな雑言を、一寸でも洩したならば、もうお終ひだ。ぢや、どうとでも勝手にしたら好いだらう――と、斯う突ツ放されたら、俺には訴へどころがないんだ。親爺は、ゐないし――か! 周子の阿母にでも訴へるのか! そして俺は、どうする、みすみす阿母に棄てられて、どうなる、……阿母だつて、悲しいだらう、俺だつて、悲しからうさ、これでも。――阿母だけは、お前の世話にならないでも好いやうにして置く――と、常々アメリカ勘定の親父は、俺に云つて、アメリカ勘定嫌ひの俺の顔を顰めさせたが……成る程なア! 親父が死んだら、屹度俺が彼女に反抗心を起すだらうといふ懸念があつたんだな! 大丈夫だよ、ヘンリー阿父さん、あなたのお蔭で私は、金が無一物になつてしまつたんだから、うつかり阿母に反抗心なんて現はせやしないよ、ハヽヽ、うまくいつてゐやアがらア、ヘンリーさんの計画が、失敗に終らなかつたのは、これ位ひのものかね。だが、阿母の方だつて、もうそろそろ欠乏らしいぜ……でも、好いよ、――安心し給へ、ヘンリー……と、斯う彼に呼びかけたいものだな。あなたの何時かの言葉を一寸拝借して見る――「俺の真似をされては困るぜ、シン! 貴様には、阿母を責める資格はないんだよ。」
「そんなことは解つてゐるよ。」
「縦令、阿母にどんな落度があらうとも――だぜ。」
「変なことばかり云ふなア、阿父さんは。どうしたのよう。」
「お前が阿母に逆らへば、何と云つたつて俺ア阿母の味方だぜ、ハヽヽヽ。」
「ハヽヽヽ、羨しいや、お蝶が嫉妬(やきもち)をやきはしないの?」
「好い気なもんだなア、俺は、さア!」
「まつたくだね、――変な女! お蝶だよ、阿母さんぢやないよ。」
「馬鹿ア、そんなことはどうでも好いよ。自分は、どうでえ!」
「ハヽヽ、周子かね。」
「ハヽヽ、周子さんと、トン子さんかね。」
「ハヽヽ、困つたね。」
「英一は、いくつだ。」
「三つさ。」
「ぢや俺が、丁度貴様と別れて外国へ行つた年だな!」
「あゝ、僕も行きたい、僕も行きたい!」――(忘れやアしないよ、阿父さん、阿母は、屹度大切にしますよ、ハヽヽヽ――)
「阿母さん! 僕は、今までだつて別段贅沢をしたわけぢやないが、この先きだつて……、ホラ、よく岡村のおばアさんが云つたこと、あの……その、人間は――だね。」と、彼は、ゴクリと酒を飲んで「人間は、その――乞食と泥棒さへ……」と、云ひかけた時、胸が怪しく震へた。「……さへ、しなければ――さへ、しなければ、でしたかね? フヽヽヽ!」
「さうとも。」
「……さへ、しなければ、何の人に恥ずるところはない、ボロを纏はうとも、でしたな。」
「乞食と泥棒と、そして――」と、母は、一寸と気恥し気に笑つた。「親不孝と――」
「あゝ、さう、さうその三つでしたね。」
 それだけかな? などと思ひながら彼は、荒唐無稽の幼稚な例へ話を笑ふやうに、笑つたが、喉を落ちて行く酒の雫に、雨だれのやうに冷く胸を打たれた。……「味噌と醤油と米と、そして薪さへあれば――とも云つたね、岡村のおばアさんがさア?」
「戦争の時の話だらう。」と、一寸母は煩ささうに云つた。
「さうぢやないよ、普段でも、だよ。それだけあれば不自由はない――とかさ。」
「そんなことを知つてゐながらお前は、どうさ?」と、母は苦笑した。
「直ぐさう云つてしまつてはお終ひだよ。僕は、何もそんなおばアさんの言葉に感心して居るわけぢやあるまいし、寧ろ、軽――」と云ひかけて彼は、「蔑」を呑み込んだ。
「いゝよ。」と、母は益々煩ささうに享け流した。すると彼は、もつと、これに類する退窟な話を持ち出して母の欠伸を誘つてやりたくなつて、
「あの、マーク・アントニーといふローマの大将ですね、あの人は手に負へない贅沢な放蕩家だつたが、何かの行軍の時にですね、食糧が欠乏してバタバタと兵士が斃れた、ウン、その時、彼は、ですね、俺も腹が滅つたから、これを飲む! と叫んで、道傍の濁つた水を飲み、それも尽きた時には、馬の尿(いばり)を飲んで、そして無事に行軍を終へた。」
「まア、キタナラしい、そんな話は止めておくれよ。」と母は顔を顰めた。「お酒を飲みながら何のことさ――。武士は食はねど――の方がキレイで好い。」
 いつの間にか彼は、「正行の母」のやうに恍惚として、「アントニー」に想ひを馳せ、ひたすら痩躯矮小の身を嘆いた。
「ところで俺には、デビル・フィツシュさへ苦手か!」
「えゝ?」
「いや――その僕は、そんなに小さい時分には食べ物の好き嫌ひが多かつた?」
「生魚は、何にも喰べなかつたよ。だから今もつてそんなに痩せてゐるのさ。痩つぽちに限つて、口先きばかり大きなことを云ひ、心は針目度のやうだと云ふがね。」
 母方の者は、皆な肥つてゐた。
「ハツハツハ――。おい、皆な此方に来ないか。」と、彼は隣室の子供達を呼んだ。酔つて来るのが自分ながらはつきり解るので彼は、不安になり、子供達が居れば母に悪いことを云ふ筈がない、とこれで予防したつもりだつた。周子も二郎も入つて来た。
 それから彼は、どんな風に酔つ払つたか殆ど覚へてゐない。子供達に接して、一途に吻つとして、異様に朗らかになつた。翌日、一同の者の話とうろ覚えを総合して見ると、大体に気嫌の好い、愉快な、当り前の酔漢であつたらしい、殊に子供達から、絶大な賞讚を博されたことでも解る。――彼は、二つばかりうろ覚えのお伽噺をして聞かせた。その種が尽きると、星の話をした。これも少し熱心に追求されると直ぐに困つて、次にはお神楽の真似をした。軍歌や唱歌を吟じた。その辺までは母も、一処になつて気嫌が好かつたのであるが、だんだんに種が尽きると終ひに彼は「烏賊泳ぎ」や「章魚踊り」を演じて子供達を笑ひ過ごさせ、母の顔を曇らせた。「烏賊泳ぎ」は、さうでもなかつたが「章魚踊り」を母は、何か通俗な遊蕩的の余興と思つたらしかつた。その上彼は、
「そんなら今度は、狐に化されるところを演つて見よう。」などと云つて、膳の上を片づけ、それを両手でたてにさゝげ、
「狐に化されると、こんなものがほんとの鏡に見へるんだぜ、いゝかへ……」――「斯うやつて飲んでゐるこの酒が、実は馬の小便でさ。」
 彼は、片手で盃を干し「あゝ、うめえ、うめえ……コリヤ/\ツと。」――「俺が斯んなに女にもてたのは始めてだぞ。まさか夢ぢやアあるまいな。どれ/\、どんな顔をしてみるか一寸鏡を見てやらう。」
 そんなことを云ひながら彼は、気取つた顔をして凝ツと「鏡」を覗き込んだ。
「子供の前で、何です。」
 突然、母が叫んだ。
「いや、諸君。」と、彼は子供達に向つて云つた。「若し誰かゞ狐に化されたならば、だね。そいつの背中か頭を力一杯殴つてやると気がつくさうだよ、――斯(か)う。」と云つて彼は、ポカリと自分の頭を殴り、急に夢から醒めてキヨロ/\とあたりを見廻す動作を巧みに演じた。
「冗談にも程がある、第一縁儀が悪いよ、塗物に顔を写すと気狂ひになるツ!」
 母は、ぶつ/\云ひながら彼の手からお膳を取りあげてしまつたさうである。それから彼は、この失敗を取り返して更に子供達を悦ばせる為に、クロール泳ぎの型や呼吸の仕方を説明したり、兵隊の真似をしたりして、到々過激な運動の結果ゲロを吐いて椽側にのめつてしまひ――「ウー、苦しい、ウー、苦しい、死にさうだよう!」と、腸を絞つて息も絶へ/\に唸つた。
「ゲロを吐く位ひならお酒なんて飲むな、この腰抜け奴!」――「まア、何といふだらしのない格構だらう、あきれたお調子者だ。」
 母は、そんなことを云つたが、もう何と罵られようが何のうけ答へもなく、たゞスースーと云つてゐるばかりな浅猿しい悴の姿を、悲し気に視守るより他はなかつた。
 それから一同の者が、彼の手足をとつて軽々と寝床に担ぎ込んだのである。

鏡地獄

     八

「あゝ、海が恋しい、海が恋しい。」
 彼は、毎日のやうにこんなことを呟きながら東京郊外の陋屋で碌々とその日その日を送つてゐた。医家に厳禁されたこと位ひは生来不摂生な彼であつたから別段に意ともしないのであるが、酒も今では殆んど飲めなくなつてゐた。――春、原田の家を逃げ出し、どうしても未だヲダハラの母の家へ帰る決心はつかずに、来(く)る二日前までは名前も知らなかつた此の郊外に偶然引き移つてから、もう夏になつてしまつた。――下谷から移る時にはあんなに好く働いた賢太郎も、高輪を引きあげる時には、奥でハーモニカを吹奏してゐるばかりなので彼が独りで荷拵へをしなければならなかつた。彼は、彼の所謂、何らかの「人間的な刺激」幼稚な俗臭を欲する幼稚な男であつたから、寧ろ同所に引き止まることを主張したのであるが(如何(どう)して引き上げなければならなかつたかの経緯は省略するが。)返つて周子が己の家を嫌ひ始めたことも、幾つかのうちの一つの理由であつた。
 この頃の彼は、蝉の空殻のやうであつた。酒も飲めず吾家の晩酌は倦々もした。街に出掛ける元気もなく、ヲダハラを想つても、原田のことを想つても、瞬間だけで悉く嘘のやうに消えてしまつた。たゞ、この一年半ばかりの間の……と、云ふ程のこともないのであるが、己れの痴態が、時々呆然と眺める眼の前の木々の間や、直ぐその先きには海でもありさうな白昼の白い路に、ヒヨロ/\と写るばかりであつた。普、或る国に不思議な刑罰があつた、天井も床も四方の壁も凡て凸凹な鏡で張り詰めた小さな正立方体の部屋が重刑者を投ずる牢で、其処には昼夜の別なく怖ろしく明るい一つの灯火が点じてあつた。凸凹な鏡に歪んだ己れの姿が、鏡は鏡を反映して無数に映る。この牢に投ぜられたものは大概三日目には白痴になつてしまふのである――そんな即席のお伽噺を彼は、いつか子供に聞かせて、その先はまた出たら目に、こゝに投ぜられた一人の青年が如何してこの牢を破つたか? などといふことを、「破る」あたりから厭々ながら冒険小説風に話したりしたこともあつたが、その空想の牢獄を更に細かく構想したりすることもあつた。
 或る日彼は、あの昔の錆びて使用に堪へないピストルを懐ろにして「呑気な自殺者の気分」を味ふ為めに、秘かに林間を逍遥したが、毛程もそんな気分は味はへずに、テレて勝手に赧い顔をして直ぐに引き返した。――またアメリカのFに出す手紙の文案を二日も三日も考へて、断念したり、静岡のお蝶を訪れて大遊蕩を試みようなどと思ひ、秘かにその資金の画策を回らせたり、アメリカ行の夢に耽つたり、時には小説家を装つて、家人を退け、近所に間借りを求めて、物々しく机の前に端坐して、顔を顰めたり、した。
 前の森では、夜になると梟がポーポーと鳴いた。あまり英一が騒がしく暴れると、彼は、ありふれた親父らしく眼をむいて、
「ゴロスケにやつてしまふぞ。」などと、さう云つても一向平気な英一を悸したりした。彼の故郷では梟のことを俗にゴロスケと称び、魔法使ひの異名に用ひた。幼時彼も往々家人から、さう云つて悸されたが、
「ゴロスケとなら一所に住んでも好いよ。」と、云つて祖父を口惜しがらせた。
「ゴロスケつて何さ、田舎言葉は止めて下さいよう。」などと、周子は云つた。彼女は、もうそろそろとほとぼりが醒めて自家との往復を始めてゐた。時々賢太郎も、草花などを持つて訪れて来た。賢太郎は、相変らず吾家でごろ/\してゐるらしいが、外出の時は私立大学の制服などを着てゐた。
 また、或る日彼は、郷里の区裁判所からの書留郵便に接して、刑事に踏み込まれでもしたやうに胸を戦かされた。
 土地家屋競売の通知書だつた。彼の「海岸の家」は、高輪の原田の家の代りに抵当になつてゐて、高輪が残り、これが失はれたのである。
「俺の親父が斯んなことをする筈がない、チヨツ、チヨツ、……あゝ、もう海の傍にも住むことは出来ないのか。」
「何さ、自分の方で訴へて置いて……」
 周子は、洒々としてゐた。彼は、憤る張り合もなかつた。――間もなく、伝来の屋敷あとの土地や、少しばかり残つてゐた蜜柑山の競売通知書も配達された。
「あゝ、これは親父の土産か!」
 彼は、さう云つて苦笑を洩した。「ハヽヽヽ、面白くない話だなア。」
「うちのお父さんに頼みなさいよ、何とかなるわよ。」
「何とかすることは巧いだらうよ――ぢや、頼まうかね。」と、彼は、弱々しく呟いだ。
 母からも手紙が来た。彼女は、未だそんなことは知らないらしかつた。そして、彼の著述の催促などをして寄した。秋になつたら、御身の新居を訪れ傍々、芝居見物の為に上京したいからその節はよろしく案内を頼む――そんな文面もあつた。
「秋になつたら――か!」と、彼は繰り返して、母の来遊の日を変に楽しく待ち遠しがつたりした。
 また、当方を顧慮することなく、ひたすら勉学にいそしみ余暇あらば風流に心を向け給はれかし、とか、御身の為に蔭膳を供へ始めたり、尚また震後頓に涌水鈍りたる旧井戸を埋め、吉日を選び、新たにこの借地の泉水の傍に掘抜き井戸を造るべく井戸清に命じたれば、御身帰郷の節には前もつて通知あらば、新しき水に冷菓冷酒を貯へ置くべし――などと報じてあつた。
(十四・八)

初出:「中央公論」中央公論社 1925(大正14)年9月1日発行
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底本:「牧野信一全集第二巻」筑摩書房
2002(平成14)年3月24日初版第一刷

牧野 信一 :青空文庫 
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person183.html

2010年3月20日 (土)

牧野 信一(まきの しんいち1896年11月12日 - 1936年3月24日)

神奈川県足柄下郡小田原町で、旧小田原藩士の家に生まれ育つ。神奈川県立第二中学校から早稲田大学高等予科を経て、1919年、早稲田大学英文科卒業。
同人誌『十三人』に発表した短篇小説『爪』が、島崎藤村に認められて文壇へでる。
私小説から出発して昭和初期に特異なギリシア趣味の幻想小説に新境地を開いた。

主な著作
『爪』 http://hello.ap.teacup.com/applet/koinu/20090324/archive
『父を売る子』
『ゼーロン』 http://hello.ap.teacup.com/applet/koinu/20091231/archive
『西瓜喰ふ人』
『鬼涙村』 http://hello.ap.teacup.com/applet/koinu/20090530/archive
『吊籠と月光と』
『村のストア派』http://hello.ap.teacup.com/applet/koinu/20090331/archive

牧野 信一:作家別作品リスト(青空文庫)
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■日本幻想文学全集15 牧野信一 種村季弘編 [国書刊行会]

繰舟で往く家 http://smakino.sakura.ne.jp/kurihune.html
風媒結婚  http://www.aozora.gr.jp/cards/000183/files/45360_29429.html
夜の奇蹟  http://smakino.sakura.ne.jp/yorunokiseki.html
痴酔記  http://www.aozora.gr.jp/cards/000183/files/45323_37469.html
吊篭と月光と
淡雪 http://smakino.sakura.ne.jp/awayuki.html
月あかり  http://smakino.sakura.ne.jp/tsukiakari.html
鬼涙村  http://www.aozora.gr.jp/cards/000183/files/1890_19617.html
風流旅行  http://smakino.sakura.ne.jp/huryuryoko.html
バラルダ物語  http://www.aozora.gr.jp/cards/000183/files/45223_29425.html
ピュグマリオンふたたび(種村季弘)

坂口安吾の「風博士」を大絶賛して、新進作家として世に出るきっかけを作った。
井伏鱒二、青山二郎、小林秀雄、河上徹太郎らと交流があり、
雑誌『文科』を創刊して、新進作家の発表の場を作った。

「風博士」牧野信一

 厭世の偏奇境(ベロナ)から発酵したとてつもないおしやべり(アストラカン)です、これを読んで憤らうつたつて憤れる筈もありますまいし、笑ふには少々馬鹿/\し過ぎて、さて何としたものかと首をかしげさせられながら、だんだん読んで行くと重たい笑素に襲はれます。この笑素は化学読本で御存じのあの酸素中の一原素の謂です。決してペーソスなんていふしやれたものではなくて、それはとても悠長なトアパイロン見たいな、出来損ひのアミーバ見たいな奇怪なデタラメさ加減なのですが、さうかと思ふと洒落たアカデミアンで、読んでゆくうちに何だか得体の知れない信用を覚えさせられて来るのです。
 そんな感じの小説を読みました。二三日前に、この頃読んだ小説のうちで傑れたものといふ質問をうけた時、私は何うしたことだつたか何時にも小説を読まなかつたことに気づき、慌てゝ傍らの一冊の雑誌をとりあげたところ、そんなやうな不思議な風みたいな作品を発見しました。風と云へばその中には斯んな個所があります。「諸君、偉大なる博士は風となつたのである。果して風となつたか? 然り、風となつたのである。何となればその姿が消え失せたではないか、姿見えざるは之即ち風である乎? 然り、之即ち風である。何となれば姿が見えないではない乎。これ風以外の何物でもあり得ない。風である。然り風である。風である風である。」
「諸君、彼は余の憎むべき論敵である。単なる論敵であるか? 否否否。千辺否。」
「かりに諸君、聡明なること世界地図の如き諸君よ、諸君は学識深遠なる蛸の存在を認容することが出来るであらうか? 否否否。万辺否。」
 私は、フアウスタスの演説でも傍聴してゐる見たいな面白さを覚えました。奇体な飄逸味と溢るゝばかりの熱情を持つた化物のやうな弁士ではありませんか。
「風博士」といふ題の短篇です。作者の名は坂口安吾です。私にははぢめての、これ以外には未知の人ですが、この作者は今後も屹度愉快な――わかりにくい作品を発表して屡々私に首をかしげさせるだらうと思ひました。云ひおくれましたが、その、変な、傑れた小説といふのは『青い馬』と称ふ同人雑誌に載つてゐます。

「文藝春秋 第九巻第七号」巻末折込みの「別冊文壇ユウモア」
1931(昭和6)年7月1日発行 

坂口 安吾(1906年10月20日 - 1955年2月17日)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9D%82%E5%8F%A3%E5%AE%89%E5%90%BE
「風博士」坂口 安吾 http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42616_21000.html

2010年3月19日 (金)

近代能楽集より 『葵上』『卒塔婆小町』

公演日程 2010年4月6日(火)~5月9日(日)
作 三島由紀夫 演出・美術 美輪明宏
三島由紀夫と美輪明宏の美学が織り成す、美しい日本語の物語。
これぞまさしく究極の華麗な耽美的エンターテイメント!
美しく、妖しく、はかなく、悲しい幻想の世界を、美輪演出ならではのスペクタクルに、ロマンティックに、ダイナミックに、そしてドラマティックに展開!そして、美輪明宏の完璧な技巧・演技術により、『葵上』では生霊を、『卒塔婆小町』では百歳の老婆から絶世の美女を演じ分けます。
また、『葵上』の若林光(光源氏)役及び『卒塔婆小町』では深草の少将の転生・詩人役の日本を代表するタイプの異なる絶世の美男子の二役を、木村彰吾が演じ分けます。甘いマスクと長身の豊かな体格、透き通るような純朴な眼差し、そして何よりもその感性・存在感が美輪明宏演出により、これまで以上に引き立つことでしょう。

Miwa

<美と醜><若と老>などを<正負の法則>に基づく2作品。恋する女の魂の悲しく恐ろしい物語『葵上』、美しすぎるがゆえにあまりにも悲哀に満ちた定めを負わねばならない、時空を超えた無償の愛の物語『卒塔婆小町』。
「近代能楽集」はあらゆるジャンルを超えて物語の面白さを描いている。
古典をこてんこてんに現代劇として蘇えらせた奇跡的な傑作。

会場 ル テアトル銀座 by PARCO
東京公演主催 テレビ朝日・TBSラジオ
企画制作 (株)パルコ  制作協力 (株)オフィスミワ
http://www.parco-play.com/web/play/sotobakomachi/

出演
<葵上> 六条康子=美輪明宏 若林 光=木村彰吾
<卒塔婆小町> 老婆(小町)=美輪明宏 詩人=木村彰吾
岩田知幸・江上真悟・倉持一裕・高橋弘幸・小林永幸・俵広樹・大橋てつじ・藤馬ゆうや・志野隆夫・橋本 望・高山光乗 /
城月美穂・高森ゆり子・小林香織・丸山昌子・多彩しゅん・迫水由季・越田樹麗・松木里絵・苫野美生

<原作者 三島由紀夫>
(1925~1970)東京生まれ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編「仮面の告白」を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、1954年「潮騒」(新潮社文学賞)、1956年「金閣寺」(読売文学賞)、1965年「サド侯爵夫人」(芸術祭賞)等。1970年11月25日、「豊饒の海」第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。

2010年3月18日 (木)

ヒューマノイドロボット

Cb2

JSTは子供の体の大きさで、全身に柔軟な関節51カ所の可動部分に空気アクチュエータを使用という柔らかな皮膚を持つ。これまでにないシリコン製皮膚の下にある約200個の高感度触覚センサで全身の触覚を実現した機能を備えたヒューマノイドロボット「Child-robot with Biomimetic Body (CB2)」を開発した。

http://www.youtube.com/watch?v=CyIHzCsbA_w

アンドロイドのバリエーション
http://www.youtube.com/watch?v=nBiyy_e_6U4&NR=1

Robots at war
http://www.youtube.com/watch?v=TAxi38FE8xo

2010年3月17日 (水)

筋骨格型ヒューマノイド小次郎

東京大学情報システム工学室のロボ研究所で生まれた筋骨格型ヒューマノイド。
Gizmodoでは「ポケモンの小次郎」と呼んでますが、超高効率の人工筋肉&腱は佐々木小次郎でしょう。
初代プレステのコントローラとかUIで助けてあげなくても基本的動作はこなせます。

【筋骨格型ヒューマノイド小次郎の動画はこちら】
http://www.gizmodo.jp/2010/03/post_6857.html
老人的スピードはさておき、筋肉組織がが凄い進化しています。脊椎はじめ人間の筋肉・骨格・腱・靱帯を模して作ったシステムは柔軟なんです。モーション範囲60度でホンダAsimoより26度も余裕で上回ってます。従来のヒューマノイドロボットより軽量。人間とインタラクトする頃にはもっとフレンドリーなデザインかも。

Kojirorobotsystem

金は如何に世界の歴史を作ったのか

太陽黒点を毎日観測できるページです。
http://sohowww.nascom.nasa.gov/data/realtime-images.html
どんな映画やテレビよりも、凄いことが起き続けている。

【我々の太陽系は変化している】
惑星の磁場と光度も変化してきている。太陽系の惑星は見かけの光度がかなり変化している。例えば金星は明らかに明るさを増しているのがわかるだろう。木星などは強力に充電されているようで、木星の衛星イオとの間には実際に目視できるイオン化された放射チューブが形成されいるのが観察できる。
http://www.asyura2.com/0403/jisin11/msg/200.html

手元の金をじっと見つめてみよう。もしかすると、その金は古代エジプトのファラオの時代に遡るかもしれない。またはアレクサンダー大王が、アケメネス・ペルシャ帝国の首都、ペルセポリスを陥れた時の証人かもしれない。
ペルシャは世界の金を独占していた。あれほどローマが執拗にペルシャに攻め込もうとしていた事実が証明している。しかしその一部は、ギリシャ時代に中国へ流出した。それが再びササン朝の時代にペルシャに戻ってきたという構図とは何を意味するのか。
お金の世界
http://www.77bank.co.jp/museum/okane/index.htm
お金の秘密
http://d.hatena.ne.jp/rainbowring-abe/20050908

πの部屋  http://www1.coralnet.or.jp/kusuto/PI/
誰でも知ってる円周率(π)には音楽が隠されていたのです。ご存じだったでしょうか?
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/haselic/pi/pai.htm

僕のみた秩序 http://www.dfnt.net
エッセイ日記と写真イラストが楽しいWEB「僕のみた秩序」があった。
僕秩は子供にも優しいバカ(横線)サイトです と、トップページに記されている。

2010年3月16日 (火)

心霊殺人事件8

          ★

 それから五時間後。すでに吉田八十松は仙七殺しの犯人として逮捕され留置場にはいっていた。
 九太夫は自分の旅館のロビーで糸子と辰男を前にコーヒーをすすりながら、気持よげに自慢話しをしていたのである。
「あなた方は四人そろってなぜ父がビルマの孫をよぶことを思いたったか、その本当のコンタンが知りたいと云ってましたね。すくなくとも実演のはじまるまでは、それがあなた方の最大の関心事であったはずです。ところがね。殺人事件が起ると、これをバッタリ忘れてしまった。無理からぬことさ。当の本人が殺されてしまえばそのコンタンも殺されたも同然で、もはや問題ではなくなったわけだ。私とても同じこと、そのことは、今朝糸子サンから荷物の話をきくまでフッツリ思いだしたことがなかったわけだ。ところが糸子サンの報告をきいてピンときましたね。たぶんビルマの孫の秘密がそのへんにあるんじゃないかとね。それから考えてみた。するといろいろのことがみんなそれに結びつけるとスッキリと説明がつくのですよ。まず第一に、後閑サンはいつも土曜の夕方にきて月曜の朝東京へ戻るのに、今度に限って木曜の夕方にきて金、土と外出もしないということですね。土、日ときまった心霊術の実演会を待つのに木曜から来ている必要はありませんや。いかにハリキッたにしても、子供でもそんなことはやりッこありません。つまり荷物を待つためだ。吉田八十松宛にくる荷物だから八十松に知られぬうちに処分したい。それで待ちに待ってたのですよ。第二には、八十松の荷物は駅止めでついています。しかるに他の一個は宅送で後閑仙七方吉田八十松、発送人も八十松です。同一人の送ったものが一ツは宅送、一ツは駅止め、これが変だ。その謎をキレイに解いてくれるのが糸子サンの報告です。それはオレの荷物だと叫んで後閑サンが凄い見幕で走ってきたと云いますし、八十松は荷物を受け取ったとき、何の荷だろうとフシギがっていたというではありませんか。フシギがるわけですよ。自分の荷物じゃないんだものね」
「それじゃア父の荷物なんですね」
「むろんですとも、つまりこの荷物を大和から熱海へ送りこむのがビルマの孫の秘密だったわけです、この大荷物を怪しまれずに熱海へ到着させるにはどうすればよいか、熱海駅でよりも大和からの発送が問題なんです。大和から大荷物を送ると怪しまれる理由があったのですから。そこで考えたのは、怪しまれずに大荷物を動かす方法。これがビルマの孫の秘密なのです。心霊術師は出張ごとに大荷物を動かすのが普通なのですから、しかも大和には吉田八十松という評判の心霊術師がいます。このことを知るに及んで後閑サンは大喜びしたのでしょうね。そこでさっそく心霊術師を呼び寄せるべき理由をあれこれと考えて、まず戦死したはずの長男が幽霊になって出てきたと云いふらしたのです。幽霊といろいろの話をしたが孫の名と女の名と、住所だけききもらした。そこで心霊術師にたのんで霊のお告げを示してもらう必要があると云って、ついに心霊術師をよびよせる段どりまで漕ぎつけたわけです。大和の吉田八十松と手紙で往復して日取りも定まった。そこで後閑サンは大和へ急行して例の大荷物を造り、大和の吉田八十松より熱海の吉田八十松宛に発送したわけです。吉田八十松の大荷物ならあの地方では誰に怪しまれる心配もありません。宅送ですから駅止めよりもおくれて、ずッと前にだしたのが土曜の午(ひる)ごろ、吉田八十松が熱海へ来てから着いてしまった。これは失敗でした。しかし荷物はとにかく到着し、凄い見幕で八十松を怒りつけて荷物をまきあげ奥の部屋へ運びこんだのですから、ビルマの孫の一件はそれで役がすんだわけです。ですから、ビルマの孫の一件の方を後廻しにして、実験会の方を先にやるようなノンビリした気持になったわけで、ビルマの一件に重大な意味があるなら何をおいてもビルマのお告げの方を先にすべきではありませんか。そのお告げを後廻しにしたというのは、もうその一件が役割を果してしまったからですよ。後閑サンは至極ノンビリしてしまって、実験会のたのしみの方を先にした始末ですが、そこに容易ならぬ大敵が生れていたことを知らずにいたのですね」
「八十松がなぜ父を殺したんですか」
 辰男が熱心にきいた。
「それはね。吉田八十松は品性下劣な人物なんだね。彼は後閑サンに凄い見幕で怒られて荷物をまきあげられてから、いろいろ考えてみたのだろう。自分が送った荷物でないのは確かだし宅送という方法からみても自宅の者が送った荷物とも思われない。また自宅の者が送る理由もないのだね。すると確かにあの荷物は後閑氏のものだ。しかも後閑氏は自分の名で送らずに、吉田八十松から吉田八十松宛に送っている。そこには深いシサイがあるはずだ。悪智恵のはたらく奴だからおおよその見当はついたんだね。すくなくとも本人の名では送れない何物かだ。心霊術師は人に怪しまれずに大道具を発送できるから、そこを狙ってのカラクリだ。その内容は天下に高名な高利貸しの秘密の荷物であるから素姓のよからぬもので高価なものに相違ない。かくも苦心して送り届けている以上、よほど重大な何かが詰めこまれているに相違ない。こう断定したのだろうね。彼は奥へ運ばれた荷物がまだ開けられずそのままになっているのを見届けたから、これをまきあげようと考えたのだ。その方法は簡単だ。後閑サンを殺してしまえばよろしいのだ。かほどの秘密の品だから多くの人が荷物のことを知っているはずはない。表向きは立派に吉田八十松から吉田八十松へ送った荷物なのだから、後閑サンを殺してしまえば、あとは簡単だ。明日の実験に用いるための道具がはいっているのだが、もうその用がなくなったからと持ちだして、駅から送りだしてしまえばすむのさ。そこでこの日の実験はもっぱら後閑サンを殺すための都合だけで道具立てをしたのだね。下へジュウタンを二重にしいた。跫音(あしおと)を殺すためだ。彼の持参のレコードのうち最も音の高いユーモレスクの曲を選んだり、鉄丸とガラガラを仕掛けたり、後閑サンにレコード係りをたのんだりね。殺しの準備は満点だ。奴めは自由に歩きまわることができるし、後閑サンの近くに来ていながら鉄丸とガラガラを中央へんへ落して自分の位置をごまかすことが完全にできるのだから後閑サンも助からない。ガラガラが鳴りだす。レコードの音を目当てに後閑サンの後へまわり、気配によって充分に狙い定めて一突きに刺し殺した。八十松だけはガラガラが長く鳴りつづくことを知ってるのだから狙い定めて仕事を果すだけの落着きもあったわけだね。死体のかたわらへサヤを落して、あとは手なれた暗闇の曲芸をやればよかったのだ。かほどの八十松もこの成功になれてか、糸子サンと女中を襲って殴られたり、また例の荷物を発送するのを急いだりして、怪しまれるようなへマをやってしまった。このへマがなければ奴はつかまらなかったね。身替りにつかまるのは辰男君だったかも知れないよ。危いところさ。私も一時は辰男君以外に犯人はないように思ったことがあるほどなんだから」
「で、荷物の内容は何だったんです」
「さ、それなんだよ。終戦の前後に後閑サンは大和にいたらしいね」
「ええ、京都奈良が焼け残っていましたからあちらで商売していました」
「大和で盗みだした支那の古仏だそうだ。誰かが支那から持ち帰った逸品でね、支那でも国宝中の国宝というべき絶品だそうだよ。それがね。頭や、首輪や腕輪や目やオッパイや足輪なぞに古今無類の宝石をはめこんでいて、時価何十億か見当もつかないものだそうだ。等身大六尺ぐらいの仏像だったんだよ」
 九太夫はホッと溜息をもらしたが、糸子サンはカラカラ笑って、
「仏像を盗みだすなんて、父にしては出来すぎてるわね。呆れたインチキ詩人だ!」
 と云って、舌をだした。

「別冊小説新潮 第八巻第一四号(創作二十二人集)」 1954(昭和29)年10月15日発行
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坂口 安吾  Sakaguchi, Ango
1906-10-20  新潟市西大畑町に生まれる。幼稚園の頃より不登校になり、餓鬼大将として悪戯のかぎりを尽くす。1926(大正15)年、求道への憧れが強まり、東洋大学印度哲学科に入学するも、過酷な修行の末、悟りを放棄する。1930(昭和5)年、友人らと同人雑誌「言葉」を創刊、翌年6月に発表した「風博士」を牧野信一に絶賛され、文壇の注目を浴びる。その後、「紫大納言」(1939年)などの佳作を発表する一方、世評的には不遇の時代が続いたが、1946(昭和21)年、戦後の本質を鋭く把握洞察した「堕落論」、「白痴」の発表により、一躍人気作家として表舞台に躍り出る。戦後世相を反映した小説やエッセイ、探偵小説、歴史研究など、多彩な執筆活動を展開する一方、国税局と争ったり、競輪の不正事件を告発したりと、実生活でも世間の注目を浴び続けた。1955(昭和30)年2月17日、脳溢血により急死。享年48歳。小説の代表作は「紫大納言」「真珠」「白痴」「桜の森の満開の下」「夜長姫と耳男」など。エッセイ代表作は「FARCEに就て」「文学のふるさと」「日本文化私観」「堕落論」「教祖の文学」など。

心霊殺人事件7

           ★

 九太夫はねられぬままに犯人は誰かということについて考えてみた。
 あの暗闇ではみんなが殺しに行くことができる。そして殺すことができる。しかし奇術師として考えてみても、殺してから元の位置へ誰にもさとられずに、ぶつかったり、さわったりせずに戻ってくることが難物だ。人と人にはさまれた位置の者が特に困難である。奇術師の立場からでも相当に難物だ。ところが電燈がついたとき、一同元の位置にいたのであるから、人と人にはさまれた位置の者、特に九太夫その人の両側は犯人の容疑から取り除いてもよろしいようだ。実際問題として不可能に思われるのである。その両側は岸井と勝美であった。
 両端の茂手木とミドリ、糸子と辰男は元の位置へ戻るのが割合楽だ。しかしミドリは離れすぎている。そして辰男の前面へ戻ってこなければならぬ。前面へ戻るのと後へ戻るのでは割がちがう。後の方はいい加減のところで間に合わせて折を見てなんとでもすることができる。前方の人々は後に目があるわけではない。おまけにミドリは着物であった。ミドリの位置からではむしろ前方の隅をまわると仕事は楽なのだが、心霊術とは何物か、その正体を知らないものが術の行われている前方をまわることができるはずはない。これも容疑者から消してよかろう。
 結局、茂手木と糸子と辰男である。糸子はしょッちゅう出入していた。電燈を消したのも、つけたのも、事件発覚後電話をかけに部屋をでた唯一の人物も糸子であった。糸子は八頭身ぐらいの立派な身体で、相当に腕力もありそうだから、ツカも通れと短剣を刺しこむことが必ずしも不可能とは云えない。電燈を消して戻ってくるとき隠しておいた短剣を持ちこむこともできたはずだ。電燈をつけに出たとき、電話をかけに出たとき証拠の品を隠すこともできる機会にめぐまれている唯一の人物なのである。糸子の位置が殺して戻るに最も有利で、一同の後へ戻ればよいのだから、そしてその間に人の介在が皆無なのだから、彼女の場合戻り道でしくじる危険は全くなしと断じてよい。有力な容疑者だが、動機が稀薄だ。
 茂手木も被害者への最短距離だから、往復の不自由は他に比較して甚だしく少い。岸井と二人だけで応接室にいた間に短剣を盗みとるチャンスも有り得たろう。彼は戦地に於て人殺しを常習にした怪物だから、あの好条件にめぐまれて仙七を一突きに刺し殺すのは久万ぶりの悦楽ぐらいにしか感じなかったかも知れないのである。動機はこれも稀薄だが、性格的に人殺し的なのだから、これは有力な容疑者である。
 辰男は動機の上から最大の容疑者である。なるほど殺さなくとも自然に自分の物になる財産だということは一応筋が通っているが、正しい筋の裏側にはそれと同量の逆が含まれているのが当然である。殺さなければ財産を失う怖れというものは一ツや二ツの原因理由に限られているものではなくて無数の理由によって生じうることが可能なのだから、かえって一応筋が通っているだけ言い訳にならないと云えるのである。
 ただそのような怖れの生じる理由が実在したかということが問題だ。辰男も糸子も同様後列であるから糸子についで、往復に危険の少い位置である。とにかく後列は前列よりも甚だしく有利で、おまけに後列は二人だけで隣りがないのだからなおさらだ。最短距離の茂手木よりも辰男の方が往復に有利と見てよい。辰男の位置の場合、遠距離ということは苦にならないのである。暗幕に沿って歩けばよいのだ。
 こうしてみると、動機の上でも位置からでも辰男が最有力の容疑であるが、糸子の嘲りに対してジダンダふみ駈けまわって必死にこらえていたあの有様はどう解釈すべきだろうか。再び人殺しを犯す苦を必死にこらえていたのか。
 むしろあのジダンダはとうてい殺人のできない弱気な小心な性格を現しているのではなかろうか。九太夫はあのジダンダになんとなく好意をいだいているのだ。この結論はだせなかった。
 さて、その翌朝だ。オハヨー、奇術師サンと云って糸子がやってきた。
「ゆうべはウンザリして逃げたんですか」
「イエ、とんでもない。むしろあなたの一族にはじめて好意をもったのですよ。あなた方四人の兄妹にね」
 糸子は素直にうなずいた。
「私もオジサンが好きになったわ。以心伝心ね。タデ食う虫も好き好きかな。勝美姉さんたらあんな人殺しが好きになるんだもの。私はね、今日は重大な報告に来たんです。吉田八十松ッてイヤらしいわね。ゆうべ私の寝室へ忍びこんできてね、私が蹴とばしてやったら、女中部屋へ行ったんです。その騒ぎ声に一メートルの先生が目をさましてね。彼氏フンゼンとふるいたつと凄い力でしょう。腕の太さだったらお相撲ぐらいあるんですからね。八十松をノックアウトしちゃッて小気味よかったわよ。なんしろストレートパンチがオナカから下の方だけにしか命中しないんですから心霊術の先生もたまらないわよ」
「生命に別状はなかったわけですね」
「それはもう熟練してるから。宿屋の番頭は酔っ払いを適当に殴る限度を心得るのが重大な職業技術の一ツなんですッてね。ええと、重大な報告というのは、それじゃアなかったんですけど、女中のミネチャンがね、そんなことがあったんで思いだしたらしいんですが、どうもね、あの開けずの荷物が変なんですよ。あの荷物だけ直接ウチへ送りこまれたらしいんですね。ミネチャンから知らせを聞いて八十松クンが荷を受けとった時にね、どうも変だな、なんの荷物だろうと云ってとてもフシギがってたんですって。ともかく開けてみようてんでミネチャンに庖丁を持ってこさして今や開けようというところへ父が血相変えて出て来たんですってね。待て! それはオレのだ! と云って凄い見幕で怒鳴ったんですッてさ。怒っても凄い見幕を人に見せるような素直な父じゃアないんですよ。もっと陰険な父なんです。ところがその時はもの凄い見幕で怒ってね、庖丁をとりあげて投げすてたそうです。八十松クンはその見幕におどろきながらも、ですがこれは私名宛の荷物なんですからと答えると、誰の名宛でもその荷物は私の荷物だと父はキッパリ断定して人をよんで奥の部屋へ運ばせてしまったのだそうです」
「それは奇妙ですね」
「奇妙でしょう。もっと奇妙なことがあるんです。今朝八時ごろ八十松クンは車をよんでその荷物だけ駅へ持って行って送りだしたんです。眼がさめると食事もせずにいきなりですよ。例の実演場の方はまだそのままなんです。食事を食べ終えてからポツポツ取り片づけにかかってるんですよ。どうしてみんな出来上ってから一しょに運ばないのかと思ってね、なにかワケがありそうだからオジサンに報告に来たのです」
「それはすばらしい報告かも知れないね。とびきりのね。ウーム。そうか忘れていたね。なぜ後閑仙七氏がビルマの孫をひきとることを思いたったか。その謎だ。待てよ」
 九太夫は思わず相好をくずしたが、
「糸子サン、ちょッと待って下さい。しばらく、考えるから。しかし、いそいで考えるよ。急がなければ追いつけないのでね。その間に糸子サンに警察署へ行ってもらうか。至急その荷物の発送を押さえてくれとね。ワケは考えをまとめた上で話します。間違っているかも知れないが……イヤ、イヤ、必ず当っているはずだ。糸子サン、急いで、急いで」
「ハイ、ハイ」
 糸子は大至急立ち去った。警察でも荷物の発送を暫時止めるだけなら大したことにはならないと見てか、とにかく重大事件の関係物件であるから、九太夫の望み通り荷物の発送を押さえておいてくれたのである。
 そこへ九太夫が警察を訪れて、
「どうやら事件が解決したと思いますよ。すくなくともあの荷物の内容を調べてみればね。ま、お茶を一杯のませて下さい」

心霊殺人事件6

          ★

 翌日曜は一同足どめをくらッたまま何事もなくて、月曜に至って後閑邸へ参集を命じられた。午後六時半には日が暮れるから一時間半くりあげて七時から前々日と同じことを実演してみることになったのである。
 各人の後閑邸到着から実演室への着席まで順を追うてやるのだが、ここらへんで便所へ行ッたッけ、お茶が来たッけ、そうだったかなアというアンバイで埒があかない。威勢のよい茂手木はとうとう怒ってしまった。
「オレは勤め人だぜ。熱海へ足どめしてくだらないことをさせて、だいたい警察のやり方がなってやしねえや。最新の科学を利用してテキパキと物的証拠がつかめねえのかやい。銭形平次時代みたいな実演会なぞ今どきやるとは何事だ」
「ま、キミ、我慢して今晩だけつきあってくれたまえ。明日からは自由だから」
 というようなわけ。
 まず見物人が着席する。現場は死体がないだけで、そっくり以前のままである。吉田八十松はこれまた哀れで、仙七とどこでどうして何を喋ってどこを通ってと相手がいないのに相手のぶんまでやらされて、ようやく実演室へたどりつく。つづいて糸子がアタフタかけこんできて、
「間に合ったア! バカバカしい!」
 ヤケを起して、ころげまわっている。いずれも先日同様のもしくは類似の服装であるが、茂手木と岸井は洋服に靴下、吉田八十松も洋服に靴下ばきで九太夫と辰男が足袋である。女もむろん足袋か靴下で、素足の者は一人もいない。
 警官が代って吉田八十松をイスにしばりつけ、いよいよ実演の段取りとなったが、今度は八十松が怒ってしまった。警官たちを睨みまわして、
「あなた方、どうしてそこいらに立ってなさるんです。それじゃア実演ができません。とっとと引きとっていただきたいね」
「警官が立ち合わなくちゃア実演の意味をなさんのでな」
「そんなにたくさんアチコチにいちゃア邪魔で仕様がない」
「この警官たちが皆さんの代りに被害者の方へ歩いたり、その気配をききとめたりする役目なのだから仕方がないよ」
「しかし、あなた、私の方の側にいちゃア、鉄丸を投げたり、ガラガラを投げたり、いろいろなものを上へ投げたり振り廻したりするのだから、それじゃアとうてい実演するわけにいきません」
「それはもッともだ。そっち側の警官は不要なのだから、邪魔にならない隅の方へ、その床の間のあたりへ集まるがよい」
 ようやく準備ができた。被害者の方へ忍んで行くのは辰男、茂手木、糸子の三名の代人だけらしく、三名のうしろのそれぞれの位置に警官がいる。また、岸井、九太夫、勝美のうしろは無人のところを、ここには聴き役の警官が座についている。
 糸子が電燈を消してきた。
「オーウ」
 という八十松の遠吠え。警官の隊長が代りをつとめたらしくポータブルが鳴りだした。それからは先夜そのままである。さすがに八十松の芸は巧妙で、時間の間隔まで間髪の差もなく、舞い廻る品々も同じ場所に同じ動きを示したように思われた。
 こんなことをやってみたって、実はムダにすぎないのだ。心霊術に注意を集中している場合と他の物音に注意を集中している場合とではその差甚大ではないか。甚大すぎる差と云えよう。それですら物音はほとんどききとれなかったのだから、この実演の結果は全員の容疑が一様に深まっただけで、特定の一人の容疑を深めることは完全に失敗に終ったのである。
 特定の一人と云えば、特に茂手木の代人はガラガラが鳴りはじめてから行動を起し、鳴り終る前に行動を終えてなお余裕シャクシャクたるものがあったのだが、かかるガラガラの鳴ることを予期しうるはずもなく(九太夫すら予期しなかった)またその鳴りつづく時間を予知できるはずもない。だからそれを容疑の理由にすることは無理であった。
 実演を終えると辰男は容疑者組をひきとめて、
「一パイやろうじゃありませんか。オヤジのガマ口の中のものを失敬しても、みんなで一パイやるぶんには差支えはありますまい。今夜は当家カイビャク以来の宴会でさア」
 と云っても大したゴチソウはでやしない。そのへんのテンヤ物をとって酒宴をやった。警官に一パイどうぞなぞと誰一人云う者がいない。容疑者ともなれば皆々ムカッ腹をたてるのは当然で、なまじお世辞を使ったばかりにかえって怪しまれては物騒と、知らぬ顔をしている。
 警官たちはなおしばらく現場の方で何かやっていたが、やがて署長が現れて、
「ヤ、皆さん、まことに御苦労さまでした。さぞイヤな思いをなさッたでしょうが、もう今夜限りで足どめは致しません。東京の方は東京へ、大和の吉田さんは大和へ、それぞれ遠慮なくお帰り下さい。現場の幕や道具類は用がありませんから御随意に荷造りして下さい。ただジュウタンだけは血がついておって証拠品ですから暫時警察でお預りいたします」
「ジュウタンとテーブルだけは御当家のものです」
「そうですか。それではなおさら都合がよい。奥に二個荷造りしたままの荷物がありますが、あれは吉田さんお使いにならなかったのですか」
「あれは特定の霊をよびだす時の道具立てでして、実は翌る晩に用いることになっていたのですが、その用がなくなったわけです」
「道具立てがなくちゃア幽霊はでませんかな。心霊術の幽霊はホンモノよりも芝居の幽霊に似ているようですな」
「ま、そんなわけです」
「では、失礼」
 警官一行はチョッピリと心霊術に皮肉をのこして立ち去ったのである。警官にしてみればイマイマしい心霊術めというわけだろう。こんなものがなければ、こんなヤッカイな事件は起りやしなかったのだ。
 商売熱心の九太夫はふと気がついた様子で八十松に向って、
「吉田さんにお願いがあるんですが、心霊術ではさすが日本一と評判の高いあなた、実は私、特定の霊をよぶ方にはあまりめぐりあったことがございませんのでね。ひとつこの機会に、妙な因縁ですがこうして変な風にジッコンを重ねた御縁に、今晩特定の霊をよぶ方の心霊術を見せていただけませんか。もちろん謝礼はいたしますが」
 すると糸子がおどりあがって、手をうってよろこんで、
「すばらしいわね。お父さんの幽霊をだしてちょうだい。犯人をききましょうよ」
 八十松は頭をかいて、
「あの暗闇じゃアお父さまにも犯人は判りますまい。それに私が犯人を知らない限り幽霊も犯人を知らない規定になっておりまして、ま、あなた方には白状しておきますが、さっきの署長の言葉の通り、ホンモノよりも芝居の幽霊に似すぎているんですな。とても伊勢崎さんにお目にかけられるような芸ではありません。それに、こう申しては失礼のようですが、この八名の中に一名の真犯人がいることだけは確かでして、どなたがそれとは分りませんが、私としましても幽霊の術を見せてあげるような気分にはなれませんでな」
「当然。当然。だいたいこんな晩に幽霊をよぶ術をやろうなどとは不謹慎千万だ」
 茂手木が大きな身体をゆすりあげて、怒り声で喚いた。糸子は怒って、
「こんな晩て、どんな晩なのさ。たかがオヤジが殺されたぐらい。セイセイして当分結構な晩じゃないの」
「そうかも知れないわね。私もそう悪い気持じゃないわ」
 とミドリが糸子に加勢した。そして、こうつけ加えて云ったのである。
「私はね。あの心霊術の音楽が真ッ暗闇で鳴りだしたとき、いまピストルか短刀があったら父を殺してやりたいと思ったのよ。そのうちにガラガラが鳴りだす。ええ、畜生め、無念だなアと思ってね。思わず無念の呻き声をたてたのよ」
 何屈託のないノンキな顔だ。九太夫はあきれて、
「ハア。そういう真剣な呻き声もあったんですか」
「そうなんですよ。私の心霊作用が犯人さんにのりうつッてね。つまり私は共犯かな」
「やめとけ!」
 一寸法師が立ち上ってジダンダふんで怒りだした。酒がまわって真ッ赤なホーズキのような顔である。怒りがなかなかとまらぬらしくアチコチ駈けずりまわってはジダンダふんでいる。
 こうして怒りを自制する方法を常用しているのかも知れない。糸子はそれをおもしろがって眺めていたが、
「天下一品の兄貴だよ。とても肩身がひろくッてね。熱海の駅で客ひきしてる一寸法師の妹を知らねえかア。時々タンカをきってやるのさ。私の坊やフレンドにね」
「ヤイ、帰れえ! みんな帰れえ!」
「お前がでてけえ!」
「ヤイ、糸子!」
「なんだい、ジダンダふんだって一メートルじゃアはえないや。クビをくくるにはカモイが高すぎるし、いい身分だなア」
「ウーム!」
 一寸法師は益々真ッ赤になって必死に我慢しているのである。
「ではお先に」
 と九太夫は腰をあげて、急いで戻ったのである。
 もっとも九太夫は決して不愉快だったわけではない。なんとなく憎みきれない一族だ。むしろ好意を感じた方が強かった。どことなく天真ランマンなのである。ヤケのヤンパチの底をついているにしても。

心霊殺人事件5

     ★

 次に各人の証言のうち主なるものを記する前に、当夜の各人の位置について図解を示しておくことにする。

 Aボックス(即ち吉田八十松) B仙七 C茂手木 D岸井 E九太夫 F勝美 Gミドリ H糸子 I辰男
  糸子の証言
 ――この短剣に見覚えがありますか
 ――あります。たしか応接間の飾り棚の中に人形だの船の模型だのガラクタ類と一しょに置き並べてあったものです。西洋の短剣で高価なものではないようです
 ――応接間にはガラクタを並べておくのですか
 ――商売が高利貸ですから差押えで仕方なしにガラクタがふえるんですね。家中どの部屋も床の間の違い棚や飾り棚の中にガラクタだらけなんです
 ――いつなくなったか覚えていますか
 ――そんなことは知りません
 ――皆さんが坐っていた場所はこうでしたね
 ――こうだったと思います
 ――誰かがお父さんの方へ歩く気配に気附きましたか
 ――全然
 ――お父さんの刺された気配は
 ――全然
 ――あなたと兄さんだけが後方に坐っていたのですね
 ――兄は立ってたんですよ。坐れば見えませんから。立ってたから後でよかったんでしょうね

  九太夫の証言
 吉田八十松は名手の名のある人ですが、旅先のことで人をアッと云わせる芸はできない相談だったのですね。それでもわずかな材料を生かして意表をつく苦心を払ったようです。たとえば中央にテーブルをすえ、下にはジュウタン、側面と天井には暗幕をはりめぐらして、いかにもテーブルをあげてみせるぞと云わぬばかり、ジュウタンの下や暗幕の上から側面すべてコードや紐の仕掛け充分の様子にこしらえておいたのです。そのくせ、その仕掛けは何一つほどこしておかなかったのです。これはたぶん見物の者がそれを改めることを予期して裏をかいたのかと思いますが、あるいは被害者からでも私が参観にくることを前もって知らせをうけて意表にでた用意かも知れません。したがってボックスの中からカラクリをやる手法も用いません。ボックスの内から外へ通じる仕掛けは一切ほどこさぬ用心をしていたのです。したがってあの人が行ったのは縄ぬけして前面へでて曲芸をやることだけでした。この曲芸も最初にちょッと意表をつきましたね。かなり巧妙な方法でした。夜光塗料の品物でなしに、まず四ポンドぐらいの鉄丸と音響仕掛けの道具を投げたんですね。鉄丸の落下音も相当なものでしたが音響仕掛けのガラガラガラという怪音には悩まされましたよ。むろんこれには紐がつけてあって、あとでたぐりよせてポケットへなりボックスの中へなり隠しこむのです。こうしてガンとおどかしておいて夜光塗料の品々をあやつりはじめたわけですが、え? ハモニカや笛は吹けなかったはずだと皆さんが仰有ってるんですか。それはあのハモニカや笛は吹ける道理がありません。別のハモニカ別の笛を吹いてるのですよ。口にくわえッ放しにね。夜光塗料のぬってない別の物、ポケットの中の品物です。で、結局私には後閑さんの殺されなすッた音をききわけることができなかったのですが、たぶんあのガラガラの最中ですね。あの音響の最中に皆々悩まされたあげく方々に溜息や呻き声が起りました。たぶんその一ツが被害者の苦悶の呻きではなかったでしょうか。うまく重なったものですよ。偶然です。たぶん犯人は音楽がはじまると同時に行動を起し被害者の後へまわって音楽の発する位置をたよりに狙いをつけていたものと思われますが、たまたまガラガラのチャンスを利用して非常に安全に目的を達することができたのですね。ガラガラがなくたって目的は達せますが、いくぶん危険ですね。苦悶の声や何かで早く判ってしまうでしょう。もっとも電燈をつけるまでには間があるでしょうから、自分の元の位置へ戻る時間に不足はないと思います。しかし呼吸の乱れや何か、隠しきるには一苦労も二苦労もしなければならぬ道理です。犯人の心当りですか。それがとんと分らぬのです。注意はもっぱら心霊術の方に吸いとられておりますし、吉田八十松さんがあれだけ歩きまわっても音のしないように仕掛けたジュウタンですから、忍び足の犯人の気配が分るものではありません。それが判るぐらいなら心霊術の縄ぬけの手品がすぐ判る道理じゃありませんか。見物人には吉田八十松さんが縄ぬけして前の方まで歩いてきて手品の数々をやっているとは気がつかないのですからね。事件発覚後の各人の挙動についてですか。左様ですね。各人一様に茫然たる有様という以外に特別の不審の者はおりませんでしたね。警察へ電話をかけに糸子さんが外へでました。しかし他の者一同はいましめあいました。警官の到着まで外へでた者はありませんでした。誰しも疑られるのはイヤですから、外へ出たいと云った者もおりません。そうこうしているところへ、吉田八十松さんが仕方なく自分で縄をといて出てきました。あの人にしてみれば自分で縄ぬけできるのを人に知られたくないわけですが、様子が判ってみればいつまでもボックスに鎮坐していられなくなったのでしょう。もっとも、殺人どこ吹く風というように、手首をもんでいるばかり、一言も喋りませんでした。ちょッとした変人ですね。心霊術師としては奇術の腕がたしかです。私が見たうちでは一番と申せましょう。夜光塗料をぬった道具類のさばきなぞはあざやかで、ハモニカを口にくわえて吹きながら、他のハモニカとメガホンとラッパの三ツを同時に空中に使いわけたのは一寸(ちょっと)したものです。私ならもっとうまくやってのける自信はありますがね。どうも奇術の話ばかりで恐縮ですが、それしか注意していなかったんですから、どうにも仕方がありません。

  茂手木の証言
 仰有るように、ぼくが被害者に最も近い位置にいたわけなんですが、大変な音響でしたし、奇術にばかり心をとられていたものですから、人の気配も、被害者の刺された気配も、全く気がつきませんでした。え? 犯人の心当りですッて? あの場合、誰だって後閑さんを殺すことができましたよ。あれぐらい人殺しにお誂(あつら)え向きのチャンスはありませんねえ。それはもうあの場に居合わせた全員が容疑者ですよ。全員が犯人でありうるのです。むろんぼくなぞ位置は近いし疑られても仕方がありませんが、ぼくがあの人を殺す理由がないじゃありませんか。問題は結局なぜ殺したか。その理由、動機というものの問題ではありませんかね。え? 勝美にも遺産の四分の一がころがりこむのですか。いえ、一向に存じませんでした。他家へ縁づいた女にまで均等の遺産がねえ。相続なんてえことを考えてみたことがありませんので、そんな新法律は全く知りませんでしたよ。え? ぼくの職業ですか? 土建会社の平社員ですよ。社長の秘書、悪く云えば用心棒ですかね。法律には縁がありません。

  吉田八十松の証言
 あの人が奇術師の伊勢崎九太夫ですか。それじゃアどうも嘘をついてもはじまりません。あの人の名は心霊術の仲間うちでは評判でしてな。こまったお方が現れたものですな。それはもうあの方の仰有る通りで。縄をぬけて前方へでて曲芸をやったわけですな。丸一小鉄をへタにした曲芸を暗闇でやるわけなんです。いえ、あれだけが心霊術ではありません。他にたとえば翌日やるはずになっておった幽霊をだして物をきき物を語らせるというのがむしろ心霊術の主眼ですが。え? その種あかしですか? そればッかりはカンベンして下さい。それを知られてしまえば元も子もなくなるのでしてな。ま、私は私なりに発明した手法などがありましてな。他の業者にもそれを知られてしまえばこんな不都合はありませんでな。え? あの晩のガラガラですか。あれも私の新作でして、ありきたりの手法に満足しなくなった見物衆のドギモをぬくために近ごろ発明いたしました。今回ははじめての依頼者ですから、敵地へのりこむ心得で新作品を一二用意して参ったのですが、それが犯人に利用されるとは思いがけないことでしたな。鉄丸の目方は三ポンド半です。え? 伊勢崎さんは四ポンドぐらいの鉄丸と仰有いましたか。おどろいたお方ですな。何もかも見通しじゃアありませんか。とてもかないません。いえ、犯人が私の方を廻って行ったような気配はありませんですな。左様、私の位置が犯人には判るまいと思われますので、私をすりぬけて行くことは不可能ではありますまいか。もっとも伊勢崎九太夫さんなら、それはできます。私のいる位置などあの方にはタナゴコロをさすようでして、次にどこ、次にはどこへということまで暗闇の中でちゃんとお判りでしたろう。その他の方々には無理でしょうな。へえ、当日、後閑さんと最も多く話を交したのは私だったかも知れませんが、みんな心霊術に関することばかりでして、あの方の身に危険が迫っているようなこと、むろん一言も仰有る道理がありません。なんしろ初対面でしてな。

  辰男の証言
 ――年齢は
 ――三十一年五ヶ月です
 ――お前は父を憎んでいたそうだな
 ――大ざっぱに分類すれば、好きな父ではありませんが、憎むといっては言いすぎじゃアありませんか
 ――何億の財産がころがりこんで、うれしいだろうな
 ――それは悪い気持じゃありませんよ
 ――素直に白状してしまえ。みんな判っているのだ
 ――何が判ってるんです。ぼくが殺したと仰有るのですか。証拠があったら見せて下さい
 ――いまに見せてやる。時にお前はどっちを廻って行ったのだ。糸子のうしろの方だな
 ――ぼくは動きませんよ
 ――ミドリはお前が立ち去る気配に気づいたと言っておるよ
 ――冗談でしょう
 ――糸子も同じように証言をしている。かたわらを通りすぎたのは子供のような感じだったと云ってるぞ
 ――暗闇のことが判るものですか
 ――暗闇だからバレるはずがないと思っているのだ
 ――考えてみて下さい。父を殺さなくッたッて、やがて父が死んだあかつきは財産はぼくの物ではありませんか。わざわざ殺す必要があるものですか
 ――ビルマの孫がくると財産はお前の物ではなくなるのだ
 ――そのための心霊術実験会ではありませんか。伊勢崎さんは絶対にインチキだから心配するなと力をつけて下さっています。この実験会の結果、父のビルマ訪問が不可能になるのを信じていたのですから、父を殺す必要はないのです。だいたいぼくはシガない客ひき番頭ですが、ともかく暮しにこまらない定職があって多少の貯金もあるほどですから、今すぐに父の財産をつぐ必要なぞないのです。老後安穏に暮せるだけで結構で、今のうちはその希望とともに客ひき番頭でノラクラ暮している方がむしろ生きガイやハリがあってたのしい毎日だったんですよ。今すぐ父のあとをつぐというのは、むしろ怖しくて望ましいことではなかったのです
 ――伊勢崎九太夫は吉田八十松の心霊術をほめてるぞ。日本一だと云ってる。ビルマの孫の所や名を言い当てるのは不可能でないとほめちぎっているのだ
 ――ぼくはそんなことは初耳ですよ。伊勢崎さんが心霊術のインチキをあばいて下さるものと確信していたのです
 ――お前の着物に血がついてたぞ
 ――それは父を抱き起したのがぼくですから、血がついても仕方がありません。あの場に居合わせた人々の中で父を抱き起す役割は当然ぼくがひきうける以外に仕方がないではありませんか
 ――お前はバカ力があるんだなア
 ――客ひきですから年中荷物をぶらさげて歩いてるせいでしょう
 ――お前は坐っている人を立ったまま力いっぱい突くことができるんだからなア
 ――それはできるでしょう。やろうと思えばね。しかし、ぼくはやりません。そんな危い橋を渡らなくっても、待ちさえすれば自然にころげこむ財産ですからね
 ――その一ツ文句で云い逃れができるつもりか
 ――真実には多くの言葉は無用ですよ。ぼくがあせって父を殺す必要は毛頭ないのですから、それで言葉はつきてますよ
 ――頑固な奴だ。今日は帰してやるから一晩ゆっくり考えてみるがよい

  谷村警部の補足せる報告。
 兇器は後閑邸応接間の短剣。サヤは死体のかたわらに発見せらる。証拠物件はこの一ツのみ。鑑識の結果、指紋の検出を得ず。
 目下の状況に於ては現場に同席せる全員を容疑者と目する以外に有力なる証言を得ず。位置の関係より、辰男、茂手木、糸子に最も可能性ありとするも、他の四名を不可能と断ずる根拠またなし。以上

心霊殺人事件3

          ★

 奇術は二階の十五畳の座敷。着席して九太夫はおどろいた。
 床の間を残して全部暗幕をおろしているのは当然だが、天井まで暗幕でおおうている。下はジュウタンを二重にしきつめているのである。
 これではどんなカラクリでもできるではないか。天井の暗幕の上からも、ジュウタンの下からもコードやヒモの細工ができる。このように暗幕とジュウタンで完全なトーチカをつくるのはもっぱらその本拠ないし同類の邸内でやる時で、見知らぬ出張先ではこれほどのことはやらない。むしろ、やれないのである。なぜなら本拠や同類の家とちがって、見知らぬ依頼者の家ではいろいろと仕掛けを改められる怖れがあるからだ。
 その代り、このように暗幕のトーチカをつくれば、相当の荒芸がやれる。たとえばユーレイをだすこともできるし、テーブルやピアノなぞを空中へ浮きあがらせることもできる。しかしそれにはそれだけの仕掛けがいるから、改められればバレるのである。
 部屋の中央にまるいテーブルがあった。しかし術者はそのテーブルに坐るのではなく、床の間とならんでボックスがあるのだ。そのボックスは後と左右の三面と上下が板張りになっており、客席に向いた正面だけが暗幕のカーテンになっている。その中にイスがあった。術者はそのイスに坐すのであろう。一般にイスに坐して手足を縛りつけるのが例である。この縄をぬけるのは簡単だ。九太夫は十秒前後でできるのである。まるいテーブルの上にはメガホンやハモニカや人形やラッパや土ビンや茶ワンなぞがのせられていた。
「このジュウタンも吉田八十松さんがわざわざ持ってきたのですか」
 九太夫はフシギに思って辰男にきくと、
「いいえ、このジュウタンは当家のものです。暗幕と箱とイスとテーブルの上の物品とが術師の物です」
「テーブルは?」
「あれも当家の物です」
 テーブルの側面にポータブルがおかれている。それも術師のポータブルであった。術に入る前後に音楽をかけるのである。
 すると中央のテーブルにだけは仕掛けがない。九太夫は術師の姿が見える前にその重さをはかってみた。かなり怪力の九太夫が辛うじて両手で持ち上げる重さであるから、ガタガタうごかすぐらいが関の山であろう。
 仙七と吉田八十松が現れて席についた。するとその後から糸子がアタフタ現れて、
「ワー。間に合った。ちかごろ土曜日が忙しくッてね。あッちこッちの坊やから誘いがかかるし。ヤレ、ヤレ」
 ドッコイショと坐った。見るとすでに吉田八十松はボックスの中のイスにかけ、仙七が手首を縄でいましめ、イスにくくりつけた。足には縄をかけなかった。
「念のため、見においで」
 仙七の言葉に辰男と糸子が立ってたしかめたが、辰男は自分でもう一巻余分にイスにまきつけた。そしてカーテンをおろし、
「あんまりきつい方じゃないが、まアまア」
 と感服しない顔でもどる。すると仙七はすでにちゃんとポータブルを前に坐っていて、
「術の前後に音楽をならす。術者はこの音楽中に徐々に術の状態に入り、また音楽中に徐々に術の状態からさめる習いになっておる。音楽をならす場合を心得てるのは私だけだから、これを私がやる。曲はユーモレスクだ。誰か電燈を消しなさい。タバコを御遠慮を願う」
 そのために灰皿の用意もなかったのだ。タバコを吸ってる者が慌ててタバコの箱で火をすり消したりしているうちに、糸子が立って電燈のスイッチをひねった。仙七がよその座敷や廊下の電燈を消しておいたので一瞬にして真の闇になってしまった。テーブル上の夜光塗料をぬった品物だけが浮いて見える。
「オーウ」
 という遠い山のフクロウのような声がきこえた。はじめて発した吉田八十松の声なのである。するとそれにつづいてポータブルが廻りはじめた。あまりその場にふさわしくないややカン高の音楽であった。
 その音楽が終りの方に近づいた一瞬、九太夫にとっては思いがけないことが起った。テーブルの向う側にドーンと重い何かが落下したからである。テーブルの上のものではない。それはそのまままだ動いたものがないからである。かなりの重みの鉄のタマのようなものらしくドーンと落ちてころがったようだ。つづいて、
「キキキキキ、ガガガガガ、ガンガンガン」
 しッきりなしに不快きわまる大音を発するものがテーブルの向う側を動きまわりはじめた。これもテーブルの上のものではない。目に見えないものだ。何か子供のオモチャのたぐいであろうか。しかしオモチャの金属質の高音をさらに何倍もけたたましくしたようなもので、怪物どもの泣き声とも笑い声とも怒り声ともとれるような醜怪な音響だ。部屋いっぱいにはね狂うように充満して響きたつのだからたまらない。
「ウム」
「ウーン」
 諸方で誰かが呻きを発した。二三人にとどまらない。一人の呻きをきくと、ひきずられて思わずうめかずにはいられなかったのである。
 怪音が三四十秒つづいて終ると、すでに音楽も終っていた。にわかにハモニカが宙にういてプープー鳴りはじめた。人が吹いているのではない。なぜならハモニカは人の頭よりも高いところをクルクル舞い廻っているからである。突然メガホンも宙を舞いはじめた。つづいてラッパが舞い上った。三ツ一しょに目まぐるしくクルクル舞い狂ったあげく、にわかに三ツ同時にテーブルの上へころがり落ちたのである。
 今度は笛が舞い上った。そして物悲しげな笛の音がかすかに宙から起ってきた。しかしそれも人が吹いているのではない。なぜなら笛は木から木へとぶムササビのように右から左へ左から右へ絶え間なくはげしい運動をつづけているからだ。人形が舞い上った。物悲しげな笛の音はなおもかすかに断続している。にわかに二ツが空中高く舞い上って落下した。すでに土ビンと茶ワンが舞い上っている。二ツがカチカチふれあう。はなれる、またふれあう。土ビンが傾いて茶ワンに水をつぎこんでいる。土ビンと茶ワンの上下の距離がはなれたり近づいたり。土ビンと茶ワンが一回転して前へ落ちた。
 人々はカタズをのんで待ちかまえたが、心霊現象はそれで終っていたのである。人々はいまにテーブルが動きだすかと特にそれを待っていた。もっともそのテーブルには夜光塗料がぬってないから、動きだしてもドスンバタンと音をたてるぐらいのものであろう。しかし九太夫がそのテーブルを改めたのを人々は見ているから、特にその期待が大きかったのである。
 しかし、いつまでたっても何事も起らない。また終りの音楽も鳴りださない。とうとうシビレを切らせて、人々の中には身動きをはじめたりセキばらいをする者も現れた。するとボックスの方からも、
「オーウ」
 と例の遠い山のフクロウのような声がきこえてきた。しかし何事もないので、また、
「オーウ」
 と同じ声が起った。音楽をサイソクしているらしいのである。
「どうも、おかしい。どなたか、電燈をつけて下さい」
 九太夫がセカセカした声で叫んだ。誰か立った。電燈がついた。電燈をつけたのは糸子であった。見物席の一同には変りがない。ただ一人、一同に離れ、テーブルの側面にポータブルに対している仙七だけが俯伏している。その背中から真上へ突きでているものがある。短剣のツカだ。短剣はほぼその根本まで胸を突き刺しているのである。仙七はもう動かなかった。一同が抱き起してみると、彼はすでにことぎれていた。

心霊殺人事件2

          ★

 後閑仙七が息子の霊をよんでビルマの孫をつれてくるなぞというのは、どう考えても額面通りには受けとれない。そもそも仙七は長男を特別扱いしていなかった。一寸法師や娘たち同様ヤッカイ者扱いで、それでも大学へは入れてやった。すると召集をうけたから、名誉なことである、わが家の誇りでもある、大いにお国のために働いて下さいと大そう感動ゲキレイしたのはヤッカイ者が一人へって大助かりだという気持からの国家への感謝感激のアラワレであったろうと人々は推察した。他に特別の愛情を示した例はなかったのである。
 そういう次第であるから、そもそも息子の幽霊が仙七に一目会いに現れたなぞというのが大いにマユツバ物で、もしも生き残ってビルマに土着したのが事実とすれば、日本へ帰って仙七の顔を見るのがやりきれないせいだろう。仙七の妻女は二年前に死んだが、そういう時世ではないからと云って葬式もだしてやらなかった。もっとも、勝美、ミドリ、糸子の姉妹三人はそれには至極賛成で、愛情のない葬式なんかださない方がよい、お体裁にナムアミダブツなぞ唱えるのは却って不潔でいやらしいという説であったが、一寸法師の辰男だけが不満不服をもらしたのは母に愛情が強かったせいであろう。母は一寸法師が宿の客ひきをして大荷物をブラさげてよたよたしているのを気の毒がっていた唯一の家族だったからである。
 しかし、とにかく仙七がビルマの孫をひきとると称し、その所在を知るため長男の霊をよぶと称してはるばる大和から吉田八十松という心霊術師をよびよせることになったのは事実であるから、そもそも彼の真のコンタンは何であるか、兄妹そろって先ずもってこう考えたのは当然であろう。
 ところが半年ぐらい前から仙七の様子にいささか変なところがあった。時々陰鬱な顔で放心しているようなことがあったのである。陰鬱なのは今にはじまったことではないが、放心を人に見せるような仙七ではなかった。また時々イライラ、セカセカしているようなことがあった。こういう様子も人に見せた仙七ではなかったのである。
 だから仙七の心に何事か変ったものが生じていたに相違ないが、さればとて戦死した長男への愛情ということは考えられない。彼が長男の幽霊を見た、ビルマの孫をひきとりたいと云いだしたのはずッと後のことで、つまり何事か心に変化の生じたあげくに思いついた口実としか考えられないのである。
 しかし、四人の兄妹が一様にこの心霊術の実験に反対のわけではなかった。糸子は反対どころか、むしろ大いに霊のお告げがあることを望んでいて、
「おもしろいじゃないの。お父さんの本当のコンタンは見当がつかないけど、あの冷血ムザンのケチンボーが何百万をもお金使って本当にビルマへ孫を探しに行くとしたら、おもしろいわ。そのときのケチンボーの顔を見てやりたいな。大いにケシかけて否応なくビルマへ行かせてやりたいと思うわ」
 こういう考えであった。父の金など当てにしなくとも高給のとれるファッションモデルのことだし、まだ若いから屈託がないのだ。
 これに反して深刻なのは一寸法師の辰男だ。彼が兄妹の最年長者でもあり唯一の男でもあるから、当然家をつぐのは自分だときめこんでいる。だから宿屋の番頭をしながらも経済界のことには勉強も注意も怠らず、株屋だの銀行員の客とみれば根掘り葉掘り訊きだして経済界の実相というものを身につけようと努力し、父亡きあと直ちに父の会社の社長におさまっても一ぱし通用できるように常住坐臥怠るところがないのであった。今は宿屋の客ひきだが未来は高利貸し会社の社長と心に堅く思いこんでいるのである。こういう辰男であるから、かりにも孫をひきとるとあれば衝撃は深刻で、
「ビルマに兄さんの子供なんかがあるはずないけど、オヤジがあんなこと云いだすからには、兄さんの奥さんと子供が必要なんだ。だから必ずビルマから兄さんの奥さん子供と称してビルマの田舎女とその子供をつれてくると思うね。どういうコンタンだか、オヤジの商法は一般の商法では見当がつけられないけど、たとえば財産を無智盲昧な異国の女子供名儀に書き変えるような必要があるに相違ないね。だから霊のお告げッて奴を通用させちゃア我々の破滅だね。特にぼくのような一寸法師には深刻だよ。ぜひとも心霊術のインチキをあばかなくッちゃア」
 口中からのべつ泡をふきたてての必死の熱弁であり決意であった。
 勝美とミドリも、父のコンタンは判らぬながらも、とかく兄の未亡人とその子と称するビルマ人に乗りこまれては迷惑だ。たとえ父の道具にすぎない異国人でも、かりにも兄の未亡人とその子とあっては自分たちに都合のよくなるはずはない。心霊術のお告げのインチキはぜひとも見破って無効にすることが何よりなのだ。
 だから辰男らの九太夫にたのむところは絶大で、特に辰男は日どりの確定を伝えがてら九太夫の旅館を訪ねて、
「このたびはとんだお世話に相成ります。実は今朝早朝の銀河で心霊術の先生が到着いたしましてね。相談の結果、兄貴の霊をよぶ方を後廻しにいたしまして、今晩八時半から実験会の方を催します。どうぞ、よろしくお願い致します」
「左様ですか。承知しましたが、場所は?」
「父の邸で」
「それは珍しいことです。同好家の邸内ならとにかく、見知らぬ依頼者の実験に応じる時はたいがい旅館でやるものですが。運びこんだ大道具が大変でしたろう」
「それは大そうな荷物です。丸通便の宅送で相当な大荷物が一ツ。駅どめの荷物ときてはこれに輪をかけた大荷物で、おまけに当人自身が大トランク二ツぶらさげてきました。ただいまこれを開いて人を遠ざけ、自分一人でせっせと会場の準備を致しておりますが、宅送便の方がちょッとおくれて、ヒルすぎに到着いたしましたんで、オヤジと何やらモンチャクを起しておりました。この荷物は今日は使わないようです。これがいわゆる降霊術の七ツ道具かも知れません」
「そのために霊の対面が後廻しになったのですか」
「立ち入ったことは判りませんが、だいぶ父と相談いたしておったようです。父も大そう乗気でして、いつも熱海には土曜の夕方に来て月曜の朝に東京へ戻って、月曜からは東京泊りの習慣ですが、今回に限って木曜の夜こちらへ来て金土と出勤もせずに熱海泊りです。忙しい人間なんですが、よくよくでなくちゃアこんなことはありません。母が死んだ翌日ももう東京へでかけたんですからね。よほどの期待があるんですよ。いえ、何かただならぬコンタンがあるんですよ。さもなくちゃアこんな例外がある道理がありません。ぼくもね、ビルマから変な奴に乗りこまれちゃア先が真ッ暗になッちまうもんですから、旦那だけが頼みの綱で。どうか、まア、よろしくお頼みいたします」
 三拝九拝のていで、くれぐれも頼んで戻ったのである。
 その晩八時に勝美とミドリの車に迎えられて九太夫が後閑仙七の邸へついてみると、応接室には男の先客が二人いた。一人は勝美の良人茂手木文次、他の一人はミドリの良人岸井友信であった。岸井は同じ旅館業であるから組合の会合なぞで顔を合わせて知り合った間柄だが、茂手木の方は東京住いの勤め人であるから初対面だ。しかし一見したとき、ハテ、見た顔だなと思ったのである。
 九太夫は商売柄、注意力、観察力、記憶力なぞが非常によい。ちょッと印象に残った顔は電車に乗り合わせただけの顔でも季節場所なぞと共にその顔を忘れないようなタチである。茂手木を一目見て、これは軍隊で見た顔だと思った。五尺八寸もある大男、ガッシリした骨組、四角のアゴ、鋭い眼。
 やがて九太夫はアリアリ思いだした。支那で見た少尉だ。大学をでたばかりの鬼少尉だ。人斬り少尉だ。便衣隊の容疑者とみると有無を云わさず民家の住人をひッたてて得意の腰の物で首をはねていたという鬼少尉。強盗強姦にかけてはツワモノで、彼は部下に大モテだった。部下は余徳にありつけるからだ。
 九太夫は戦時に奇術師として諸方に慰問旅行をした。そのとき中支の奥の日夜銃声の絶えないところで、この少尉の部隊を慰問した。彼が部下をひきいて討伐にでかける姿を見たのである。そして彼の怖るべき所業の数々をむしろ讃美して語る人々の話をきいたのである。
 当然戦犯として捕えられて然るべき人物だが――と九太夫は考えた。こういう人間に限って急場の行動迅速で、雲を霞と三千里、昨日の敵は今日の友、めったにバカを見ることがないのであろう。
「たしか中支の奥でお目にかかりましたなア。私は奇術の慰問にでかけたんですが、慰問のはじまる前に討伐におでかけでした。その名も高い鬼少尉と承りましたが」
「いえ、とんでもない。ぼくは内地の部隊にゴロゴロしてたんです」
 茂手木はプイとソッポをむいて、つまらないことを云うなとばかり、タバコの煙をプウプウふいた。

心霊殺人事件

坂口安吾

 伊勢崎九太夫はある日二人の麗人から奇妙な依頼をうけた。心霊術の実験に立ち会ってインチキを見破ってくれというのだ。九太夫はいまは旅館の主人だが、もとは奇術師で名の知れた名手であった。奇術師の目から見れば心霊術なぞは幼稚きわまる手品で、暗闇でやるから素人をだましうる程度のタネと仕掛だらけの詐術にすぎないのである。熱海の旅館なぞでもこの心霊術師をよんで実験会をやるのが一時流行したこともあったので、九太夫はその向うをはって「タネも仕掛もある心霊術実験会」と称し、奇術師の立場から術を用いて心霊現象の数々を巧みに実演してみせた。白昼大観衆の眼前で術を行う奇術師から見れば暗闇で怪奇現象を見せるぐらいお茶のこサイサイというものだ。こういう経歴があるから心霊術の詐術を見破ってくれという依頼がきてもフシギはないが、しかし、こういうことを個人的に依頼するその必要が奇妙というものだ。
「御家族に心霊術にお凝りの方でもいらしてお困りというわけですか」
「ま、そうです。父が戦死した息子――私たちの兄さんですが、その霊に会いたいと申しまして、心霊術の結果によってはビルマへ行きかねないのです」
「ビルマで戦死なさったのですね」
「いいえ、戦死せずに生き残ったと父は信じているのです。なぜなら一ヶ月ほど前に兄の幽霊が現れてビルマで土人の女と結婚して子供が二人あるからよろしくたのむと父に申したそうです。マラリヤでこんなに痩せたなぞ申しました由で、たぶん幽霊が現れたとき死んだに相違ないから、孫をひきとりにビルマへ行きたい、それについては兄の霊をよんで土地の名や女の名を知りたいと申すのです」
「そうでしたか。しかし、心霊術はともかくとして、死ぬまぎわに霊魂の作用がはたらく例は往々実際にあるようですね。ですからお兄さんが一ヶ月前まで生きてビルマに土着しておられたのは本当かも知れませんよ」
「そうかも知れません。ですが、いまわのまぎわに知らせにでるぐらいなら、この九年間に手紙の一本ぐらいくれそうなものです。たぶん父の夢ではないかと思うのですが」
「なるほど。あるいは気のせいかも知れませんな。しかし、そういう理由からでしたら、息子の霊に会いたい、土地の名や女の名を知りたい、孫をひきとりたい、このお志はお気の毒じゃアありませんか。お父さまの気のすむように、そッとしておいておあげになっては」
 すると姉らしい方がクスリと笑って、
「世間の人情はそんなものかも知れませんが、私たちの一族ではバカらしいだけなんです。子供たちを生みッ放しでろくにわが子らしいイタワリも見せてくれたことのない父が、ビルマのアイノコの孫に限ってひきとりたいなぞというのが滑稽なんです。イヤガラセなんでしょう。本心なら狂気の沙汰です。それともビルマのアイノコならライオンか山猫なみに育てるにもお金がかからず、気の向くままに放りだすこともできるからとでも考えているのでしょうか。ともかく私たちにとっては不愉快な出来事なんです」
「失礼ですが、お父様と仰有(おっしゃ)る方は?」
「高利貸の後閑仙七です。血も涙もないので名高い父ですが、わが子に対してもそうなんですよ」
「すると千石旅館の番頭の一寸法師の辰さんはあなた方の弟さんですか」
「いいえ、兄さんなんです。あれが次兄で、戦死したのが長男なんです。私たち二人は嫁いでますから働く必要もないのですが、一寸法師の兄はあのように旅館の客ひき番頭ですし、末の妹はファッションモデルをやっております」
 姉が苦笑して語っているあいだ、妹はおもしろそうに微笑しているのである。
 後閑仙七の名をきいて、なるほど、それなら話がわかると九太夫は思った。しかし、奇妙な兄妹たちだなと内心におどろいたのである。何より変ってるのは四人の兄妹の顔立が全然ちがっていることだ。姉の勝美は瓜実顔(うりざねがお)の美人であるが、次女のミドリは丸顔の美人で、目にも鼻にも共通点がない。勝美はオチョボ口でうけ唇だが、ミドリは大口で時々カラカラ笑っている。末のファッションモデルの糸子は先年熱海でミス何々の選があったとき九太夫も見物にでかけて知ってるのだが、これはまたチンのようなクシャ/\した顔で、しかし、妙に色ッぽくて愛くるしい娘なのである。ミス何々の三等ぐらいだったようだ。一寸法師の辰男は西郷隆盛がシカメッツラしているような大きな顔で、首から足までは顔の倍ぐらいしかない。お客のトランクを地面すれすれにブラ下げて歩いてるが、バカ力があるらしく両手に大トランクをいくつもブラ下げて疲れた顔もせずに歩いているのである。
 だいたい他人に対して血も涙もない人間というものは親子の情に限ってすこぶるこまやかなのが一般の例だ。自分の血のツナガリだけが自分の城、安住の地というわけかも知れない。ところが後閑仙七は例外で、巨億の富を握りながら一寸法師の倅(せがれ)に宿屋の客ひき番頭をさせているのだ。
 次女のミドリは岸井という旅館の倅にお嫁入りしているが、先年の熱海の大火で類焼した。そのとき復興の資金を借りにミドリの舅が泣きついたとき、金貸しが商売だからお貸しはするが新築の建物をタンポに利息はこれこれと営業通りの高利を要求して一分一厘もまける様子がないのでケンカ別れとなった始末だ。勝美もミドリも類の少い美人であるから婚家に当り前に暮していられるが、さもなければ肩身がせまくて婚家に居づらいに相違ない。親類のツキアイなぞというものを仙七は生来知らない様子であった。冷血ぶりもここまでくればと仙七の人物を大いに認める者もあるほどだった。
 この仙七が人々に評判をたしかめた上、日本一と名の高い吉田八十松という術師を大和の国からよぶことになった。心霊術には大道具が必要であるから、それをはるばる大和から運ばせて、滞在費謝礼等二万ナニガシの金がかかる。高利がついて戻る金でなければビタ一文出したことのない仙七がビルマからアイノコの孫をよぶため息子の霊をよぶためと称して二万ナニガシのムダをする。場合によってはビルマへ行って孫をひきとってくる。産院で孫のお産をさせるよりも何百何千倍のムダであるが、そのムダをも辞せぬコンタンはそも何事であるか。息子の一寸法師や三人の娘が他人以上にこれをいぶかったのは無理がない。子供たちにビタ一文やらぬためのコンタンではないかなぞと疑りたくなるのも当然だった。
「父からビタ一文だって当てにしている私たちじゃないんですけど、そのコンタンがシャクなんですよ。イヤガラセに心霊術のカラクリをあばいて鼻をあかしてやりたいのです。むろん父が兄の霊に会うという日は父ひとりで私たちが会うことはできないのですが、それだけでは私たち四人の兄妹が納得できませんと申しましてね。他に一日私たち兄妹主催の実験会を開いて父にも出席してもらうことを許可してもらったのです。むろんそのための費用やら余分の滞在費は当方持ちにきまってますが、心霊術師の旅費と大道具の運賃まで半分当方持ちという高利の条件でしてね。父との商談ですからそれぐらいは覚悟の上で、父の鼻をあかしてやるためならそれぐらいの金はだしてあげようと私や妹の主人たちも大へん乗気なのです。先生への謝礼も充分に致すつもりですから、ぜひぜひ出席願って心霊術のカラクリをあばいていただきたいのです」
「左様ですか。それでお話は判りました。私も心霊術の実験にはだいぶひやかしがてらでかけまして、あの奇術師の奴が来てるんじゃア今日の実験は中止だなぞときらわれるようになったものですが、大和の吉田八十松には幸いまだ顔を見知られておりません。日本一かどうかは存じませんが大そう評判の術師ですね。よろしゅうございます。お言葉のように私が出むきましてカラクリをあばき、また直後に私が同じことをしてお目にかけますが、さとられると吉田八十松が実演を致しませんから奇術師の伊勢崎九太夫が来てるなぞということは気配にもおだしにならぬように。心霊術に凝ってる誰それというように、よいカゲンに仰有っておいて下さいまし」
 こうして九太夫も当日出席することに話がきまったのである。九太夫にしてみれば心霊術のカラクリを見破ることにはもう興が失せかけていたのであるが、ほかならぬ後閑仙七一族の血と金にからんだ一幕であってみれば改めて興はシンシンだ。眼前の姉妹にしても天性の美貌となにがしの気品、虫も殺さぬような優雅な風であるけれども、その性根の程はどんなものだか。勝美の言葉は落ちつきがあって物静かではあるが、語られている内容は甚だ異常で非人情なものではないか。その心を人の形に現せば一寸法師の客ひき番頭のような姿に化するのかも知れない。
「失礼ですが、皆さんは一ツ腹の御兄妹でいらッしゃいますか」
「一ツ腹に見えないのですか」
「四人の方々それぞれお顔に似たところがございませんのでね」
「よくよく似てないらしいですね。皆さんがそのように仰有るのですよ。ですが一ツ腹の兄妹なんです。似てないのは顔だけじゃありません。心も性格も全然別々なんですよ。至って仲も良くないのです。四人に一ツ共通なのは父を憎んでいることだけです」
 姉がまだ言い終らぬうちから、妹はカラカラと小気味よげに笑いつづけた。九太夫も小さい時からの奇術師商売、日本はおろか海の外まで廻り歩いて、ちょッとのことでは物おじしないタチであったが、この姉妹には少々ビックリさせられた。心霊術のカラクリ同様、人間の心のカラクリも概ねタカの知れたものであるが、後閑仙七一族の心ばかりは人間なみでは計りきれないような感じをうけた。心霊術の実演よりも後閑一族の心のモツレを目にする方がどれぐらいまたとない観物(みもの)だか知れない。多年きたえた奇術師の眼力でとくと観察してみようと思ったのである。

2010年3月15日 (月)

時間の単位

◆ 1ミリ秒(1/1000秒,10 ̄3秒) 一般的なカメラの最短露出時間。イエバエの1回の羽ばたきは3ミリ秒,ミツバチなら5ミリ秒。月が周りを回る周期は,軌道がわずかずつ広がっているため,1年に2ミリ秒ずつ長くなっている。

◆ 1/10秒  目が1回瞬く時間。「瞬く間に」という表現が意味するところとは裏腹に,結構な長さだ。人間の耳も,この程度の時間差がたいと直接音とこだまの違いを聞き分けられない。探査機ボイジャー1号は1/10秒で2kmずつ太陽から離れている。この間にだハチドリは7回羽ばたく。

◆ 1分  新生児の脳は1分に1~2mgずつ成長し,トガリネズミの心臓は1000回拍動する。英語を話す人は平均して150語しゃべり,250語を読む。太陽から発した光は約8分で地球に達する。火星が地球に最接近している場合,火星表面で反射した太陽光は約5分で地球に届く。

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◆ 1時間  細胞はおよそ1時間ごとに2つに分裂して増殖していく。イエローストーン国立公園にあるオールドフェイスフル間欠泉は平均して1時間16分ごとに噴き上げる。太陽系で最も遠い惑星,冥王星からの光は,5時間20分で地球に届く。

◆ 1日  人間にとっておそらく最も自然な時間単位。地球が1回自転するのにかかる時間。自転周期を正確に測ると23時間56分4.1秒だが,月の引力などの影響によって少しずつ遅くなっている。人間の心臓は1日に10万回拍動し,肺は約1万1000リットルの空気を吸い込む。シロナガスクジラの赤ちゃんは体重を90kgほど増す。

◆ 1年  地球が太陽の周りを1周するとともに,自転軸の周りを365.24回スピンする。温暖化によって平均海水面が1~2.5mm上昇し,北米大陸はヨーロッパ大陸から約3cm遠ざかる。太陽系に最も近い恒星はケンタウルス座のプロクシマ(アリファケンタウリ3連星の1つ)で,その光が地球に届くには4.3年かかるが,これは海洋表層の海流が地球を1周する時間4とほぼ同じだ。

◆ 1世紀  月は地球から3.8m遠ざかる。標準的なCDやCD-ROMはこの間に劣化し,読み取り不能になるだろう。最新技術に基ずく記録式CDなら,200年以上もつかもしれない。私たち現代人でも100歳まで生きられる確率はそれほど大きくはないが,ゾウガメの寿命は177年だ。

◆ 100万年  光速で巡航する宇宙船で旅しても,アンドロメダ銀河との中間点にも達しない(同星雲は地球から230万光年離れている)。恒星の中で最も大きく重い星は,太陽の数百万倍の明るさで輝く青色超巨星だが,この種の星は約100万年で燃え尽きる。

◆ 10億年  地球の誕生から,海ができ,生命が生まれ,二酸化炭素が多かった当初の大気が酸素に富むものに変わるまでに,およそ10億年かかった。この間に太陽は銀河中心の周りを4週した。宇宙の年齢が120億~140億年だから,10億年を越えるような時間単位はめづたに使われない。しかし宇宙論によると,今から100兆年後に最後の星が死んだ後も,最後のブラックホールが蒸発して消え去る(今から10の100乗年後)まで,宇宙膨張は続くと考えられる。未来は,これまでの過去とは比べ物にならないほどはるか遠くまで広がっている。

無明の衝動と枷

avidyaというサンスクリット語は「無明」を意味する。
非永遠なるもの変化するものに執着すると、我々は実在を見失い苦しむことになる。
この無知が私という主体と、我々の経験という客体を混乱させる原因である。

人間の存在は「物質身体的」「知性心理的」「霊性魂的」という、三つの領域でのバランスのとれた発達が統合と実存的充足をもたらします。心が対象とする粗大な対象からより、精妙な対象に心が向うように変容させてゆく。
「この宇宙のあらゆる原子、分子、物質、心、即ちあらゆるものがこのマクロコズミックの波動の中に浮かんでいます。心が粗大な重荷から解放されている人は、容易にコズミックな波動の中に浮かぶことができます」
ブッダは教えのいう「もし向こう岸にわたりたいとおもうならば、あなたの心のボートの荷物を減らしなさい」

自分が行動しているように見えて、過去の行いの反作用の蓄積によって駆り立てられて、失敗や苦悩や喜びを経験している。反作用の潜在力からの解放のためには、果実に対する願いの放棄、実行の際の虚栄心の放棄、すべての活動は全宇宙の『私』のなせることだと観念化する。

対象への執着による貪欲や怒りなどの煩悩が、悟りに向って進むことを妨げると考えます。
「比丘たちよ、聖なる真理としての苦の消滅とはこれである。すなわち、その渇愛を残ることなく離れて滅し、捨て、捨離し、解脱し、執着のないことである」(『原始仏典 ブッダのことば』)

煩悩の原因であるこの世の対象への執着・愛着を捨てること、貪欲や性欲、怒りを捨てることが実践的な課題となった。

人の進歩を妨げる六つの衝動。
怒り 貪欲 己惚れ 妬み 熱望 愛着
衝動は生まれつき人の心にそなわっているものですが、枷[かせ]は生まれてから後で心に染み込んできたもので無くすることが可能です。
八つの枷は心の中で闘って粉々にくだいてしまいなさい。
怖れ 恥かしさ 憎しみ 疑い 高い出自 優越劣等感 虚栄心 陰口

自我の奥に大宇宙の心の魂にあたるものがあり、天地万物の純粋意識が形質力の影響で展開している。
束縛されている人は、その獄中の人を解放できない。いったん獄中から解放されて、他の人を獄中から出すことができる。人間の進歩は不完全から完全への運動にほかならない。心の対象が何であれ、心はその対象に転化するのは自然の習い。最高の対象にするならば、最高実体の形をとり一体となれる。

2010年3月14日 (日)

「インドの小咄」

 クリシュナとアルジュナは常に従兄弟同士以上に友人であった。
クリシュナは妹のスバドラーとアルジュナの結婚の手筈を整えた。バララーマが戦でカウラヴァ家の側につくと決めた時、クリシュナは自らの意思でアルジュナの近くについて彼を守る事を決心した。
クリシュナはアルジュナの御者となり、カルナの集中攻撃から逃れるために一時的に僅かに地面の中へ戦車を駆ったり、友を守るために彼の体内の強力で危険な天の武器を使い果たすなど、戦の様々な局面でアルジュナを守った。

クリシュナはアルジュナに言った:
   親愛なる私たちの食べ物は三つからなる
      これらの特徴をよくききなさい

   活力 エネルギー 精力 健康 喜びを促し
美味しい 淡白 しっかりして中身のある 心地よいもの
      これらは純粋さに必要なものだ

        情熱をうながす食べ物
苦味 酸味 塩辛い 激辛 刺激物 乾いて焼かれたもの
    これらは痛み 深い悲しみ 病気を生み出す

  古い 味のない 腐敗して悪臭を放つもの 食べ残し
           汚れたもの
       これらは惰性に必要なものだ

自分の親族や、数十年前彼に弓の扱いを教えた師のドローナチャリヤの前に並ぶアルジュナの心は重くなった。王国の為に親族を殺す事は有益なことなのか彼は悩んだ。アルジュナは戦の始まる直前の重要な時期に心が躊躇っているため、クリシュナを頼った。クリシュナは自分が本当は何者かを明かし、彼の雷の様で、恐ろしく、形容しがたい調和した姿「ヴィラート・スヴァループ」を明かした。そしてアルジュナの義務は正義の為に、犠牲、結果、報酬の心配なしに戦う事であると述べた。

http://www.youtube.com/v/ksOLqEBJXTc&hl=ja_JP&fs=1

  道徳的義務を遂行することはなによりも優先する
  人生における精神的なそして肉体的な仕事である
  
  最高位の神格、彼の人格の中の、絶対的ブラフマンを認め
  貴方の義務と貴方の「ダルマ」を果たせ
  
  多くの友人や知り合いの死に苦しんではならない
  彼らは既に罪と悪事の加担により死んでいる
  肉体の死は彼らの病んだ魂をより純粋な平和な世界へ開放するだろう

  そして正義の為にそのような酷い条件と試練を闘うことは
  アルジュナへ大いなる平和と邪悪、正義と不実、堕落への
  神の勝利としての一生の使命を果たすだろう

インド神話において、アルジュナ(arjuna)は叙事詩マハーバーラタに登場する英雄である。 その名は「純粋な行為の実行者」を意味していた。クリシュナにまつわる物語は数多い。幼児期や青春期の恋愛物語の主人公、英雄の導き手としてなどその立場は多種多様だが、根幹部分の設定は変わらない。インドでのクリシュナ人気は、非ヒンドゥー教の様々な逸話を吸収したことが大きい。(Wikipedia)

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「ダルマ」さんは転がすものでも、転んでしまうものではありません。

「ダルマ」は果たすためにあるもの。

心を笊の目にしてしまいますと、水のごとくザーっとすり抜けてしまいます。

「犠牲」「結果」「報酬」の心配なしに行うことが大切なこと。

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私は時代から時代へ出現する

Avatarはサンスクリット語では「地上に降りた神の化身」である。

Avatāraとは不死の存在、究極に至上な存在の肉体の現れである。「低下、転落、降下」を意味して、目的の為に死のある者への意図的な転落を示している。正義(ダルマ)が衰え悪が栄えた時に、神はいつでも特別な姿をとるといわれる。
「善を護るため、悪を滅ぼすため、正義を確立するため、私は時代から時代へ出現する。」
(『バガヴァッド・ギーター』、4章8節)

Avatars

Avatāraが生命と人類の進化を表すという現代的解釈がある。
マツヤは水に棲む生命、クールマは次の段階の水陸両棲、第三の動物、猪のヴァラーハは陸の生命を表し、人獅子のナラシンハは人類の発展の開始、矮人のヴァーマナがこの不完全な発達を象徴している。
そして森に住む賢者パラシュラーマが人類の基本的な発展の完了を意味して、ラーマ王が人の国を治める能力の兆しとなるといものである。64分野の科学と芸術の専門家であったクリシュナは人の文化的な関心の進歩を示している。

2010年3月13日 (土)

長久命の長助

寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ 海砂利水魚の 水行末 雲来末 風来末 食う寝る処に住む処 やぶら小路の藪柑子 パイポパイポ パイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助

「じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところやぶらこうじのやぶこうじぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーのちょうきゅうめいのちょうすけ」

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五劫の擦り切れ

天女が水浴びをするとき、泉にある岩の表面が微かに擦り減って繰り返して無くなるまで「一劫」とされる。その期間は40億年てある。五劫は5回擦り切れ永久に近いほど長い時間を意味する。
天女が三千年に一回、須弥山に下りて羽衣で一振りして、須弥山がなくなるまでが「一劫」ともいう。

天の神々が住むという「須弥山」は海上に出ている部分は正方形の山で、北面は黄金 東面は白銀 南面は瑠璃るり、西面は玻璃はりで出来ている。 須弥山 を七つの方形の山脈で各々黄金の山が囲む 。外周の鉄囲山は「金」「銀」などの宝石の山。金剛山ともいわれる。

2010年3月12日 (金)

庭の犬

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早口言葉はアートの感覚かも

「ア」「エ」「イ」「オ」「ウ」なんて、演劇していたころは発音していましたっけね。早口言葉がアートの感覚かもと、路上で発して思いました。

生麦生米生卵♪
東京都特許許可局♪
農商務省特許局♪
日本銀行国庫局♪
隣の客はよく柿食う客だ♪
坊主が屏風に上手に坊主の絵を書いた♪
青巻紙赤巻紙黄巻紙♪
赤パジャマ 青パジャマ 黄パジャマ♪
お綾や母親にお謝り♪
新春シャンソン・ショー ♪
お客が柿むきゃ飛脚が柿食う 飛脚が柿むきゃお客が柿食う♪
やしの実をししが食い ひしの実をひひが食う♪
この高竹がきに 高竹立てかけたのは 高竹立てかけたかったから 高竹立てかけたのです♪
向こうの竹垣になぜ竹立てかけた 竹立てかけたかったから竹立てかけた♪
引きにくい釘 抜きにくい釘 引き抜きにくい釘♪
すももも桃も桃のうち すももも桃、桃も桃、桃にもいろいろある♪
おまえのがま口は からがま口だ♪
裏庭には二羽 庭には二羽 ニワトリがいる♪
ブタがブタをぶったのでぶたれたブタがぶったブタをぶったブタ!!♪
無気味なぶ男だがぶりをぶら下げてブルドッグにかぶりつかれた♪
プディングに穴があいたとぷりぷり怒るプリンス♪
ブスバスガイドバスガス爆発♪
ジャズ歌手、シャンソン歌手♪
カエルぴょこぴょこ、三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ♪
にゃんこ、子にゃんこ、孫にゃんこ、ひ孫にゃんこ♪
月々に月見る月の多けれど 月見る月のこの月の月♪
瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し 売り売り帰る瓜売りの声♪
さくら咲く桜の山の桜花 咲く桜あり散る桜あり♪
わたしは五条のごぼうを五条ごぼうと呼ぶごぼう売りじゃ♪ 
わたしは八幡(やわた)の田どじょう畦(あぜ)どじょうを田どじょう畦どじょうというどじょう売りじゃ♪
ままごとしたままままよとごまかすままっ子♪
春分の日と秋分の日の翌日は新聞は休刊♪
この子なかなかカタカナ書けなかったな、泣かなかったかな?
おやおや?八百屋の親か芋屋の親か♪
工業高校の交響楽団 公共施設で興業♪

♪♪♪工夫のないラップが危ない世界の音響効果♪♪♪言語の伝達基礎はリズムでした。

2010年3月11日 (木)

「大きな黄金色の羊は美しい」 

昔むかし中国では羊はまだたくさん飼われていなく珍しい動物であった。
羊の大好きな王様が、珍しい羊がいると聞けばどんなところへでも見に行った。
そして王様の一行は西へ西へ西へと旅を続けたという。
家来たちも王様もお腹がすいて歩けなくなり、旅に連れて来た羊を食べた。
 
羊+食=養  【羊の肉は栄養満点。それを食べれば体が養われると言う意味】

 その夜の王様は、大きな黄金色をした羊の夢を見た。
 羊+大=美  【大きな黄金色の羊は美しい】

王様はついに羊の群れを見つけて、見張りをしていた家来が王様にその様子を告げた。

 君+羊=群  【羊が丸くまとまっている様子。君は、「まとまる」の意】
こうして羊は、はるか西の国から中国へと続々と入ってくるようになった。

昔の中国で羊は食用にされたほか、神様の供え物としても使われた。「羊」の字を含む漢字には「おいしい」「形が美しい」「めでたい」などいい意味に使われることが多い

 「達」は道をすらすらと歩く羊から。
 「躾」は身についた礼儀・作法は誰が見ても「美しい」と感じられることから。
 「善」には争いを好まない、おだやかな羊の性質。
 「群」争いを好まず、おだやかに群れで生活する性質。

その他、詳、様、洋、羨、養、鮮、痒、祥、着、遅、義、儀、議、犠、議などに羊はついている。「義」とは「我の責任の限りの犠牲」という意味があり、「善」は、「儀式の祭具に盛る限りの犠牲」という意味があるが、「美」とは「大いなる犠牲」である。この場合の犠牲とは、「自己犠牲」であり、共同体の命運などに対して人間として行える最大限の犠牲、つまり己が命を献げて対象を高めるという含意があり、人の倫理の道において最も崇高な行いが「美」であった。

「美」という文字を何度もレタリングしたことがあって、大きな黄金色の羊は美しいという逸話もその頃に聞いたことが思い出された。 投稿者: 美の学校にて

美学校(Wikipedia)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%8E%E5%AD%A6%E6%A0%A1
美學校 事務局 http://www.bigakko.jp/

2010年3月10日 (水)

現UKのトップ・セレブ top 100

Mail on Sundayカルチャー小冊子『Live』に、現UKのトップ・セレブ100人ランキング・リストが掲載された。Britain's Got Talent / America's Got TalentなどTV番組でも知られたTVプレゼンター&ジャーナリスト=Piers Morganが厳選した「現UKを象徴する著名人」なんだそうだが、何だかヒトの求めるものを表していてるようにも思える。http://www.dailymail.co.uk/mailonsunday/

britain's top 100 celebrities
1、サイモン・コーウェル(音楽プロデューサー/『The X-Factor』etcの審査員)
2、ディヴィッド・ベッカム(サッカー選手)
3、シェリル・コール(女性歌手/サッカー選手アシュリー・コール(Chelsea)夫人/元ガールズ・アラウド)
4、ウィリアム王子
5、アント&デック(TVプレゼンター)
6、ロバート・パティンソン(映画俳優)
7、サー・ポール・マッカートニー(ミュージシャン)
8、ケイト・モス(モデル)
9、リオ・ファーディナンド(サッカー選手/Manchester United)
10、ロード・アラン・シュガー(実業家/TVプレゼンター)
11、ジェイミー・オリヴァー(料理家)
12、デイム・ヘレン・ミレン(映画女優)
13、サー・リチャード・ブランソン(実業家)
14、ジェレミー・クラークソン(BBCのベテランTVプレゼンター)
15、ヴィクトリア・ベッカム(ご存知、ベッカム夫人)
16、キーラ・ナイトリー(映画女優)
17、クリス・マーティン(ミュージシャン/コールドプレイ)
18、ダニエル・クレイグ(映画俳優)
19、ハリー王子
20、ケイト・ミドルトン(ウィリアム王子の恋人=次期英国王妃候補)
21、サー・エルトン・ジョン(ミュージシャン)
22、トニー・ブレア(ご存知、元英国首相)
23、テイク・ザット(ミュージシャン)
24、アマンダ・ホールデン(女性TVプレゼンター)
25、ウェイン・ルーニー(サッカー選手/Manchester United)
26、サッシャ・バロン・コーヘン(コメディアン/俳優)
27、ラッセル・ブランド(コメディアン/俳優)
28、ケイティ・プライス(TVタレント)
29、ジェンソン・バトン(F1のレーシング・ドライバー)
30、リリー・アレン(歌手)

31、ジョナサン・ロス(TVプレゼンター/トーク・ショー・ホスト)
32、ボリス・ジョンソン(政治家/現ロンドン市長)
33、スティーヴン・フライ(コメディアン/俳優/作家)
34、クリス・エヴァンズ(TV&ラジオ・プロデューサー/プレゼンター)
35、ハリー・ヒル(コメディアン/TVプレゼンター)
36、エイミー・ワインハウス(歌手)
37、スーザン・ボイル(歌手)
38、ケイト・ウィンズレット(映画女優)
39、フランク・ランパード(サッカー選手/Chelsea)
40、マイケル・マッキンタイア(コメディアン)
41、ジェイムス・コーデン(コメディアン/俳優)
42、ヒュー・ローリー(ご存知『Dr.グレゴリー・ハウス』役でもお馴染みの俳優/元々の本業はコメディアンだったんですよね)
43、キャサリン・ジェンキンス(歌手)
44、サー・ミック・ジャガー&キース・リチャーズ(ミュージシャン)
45、ロビー・ウィリアムス(歌手)
46、レオーナ・ルイス(歌手)
47、クライヴ・オーウェン(映画俳優)
48、サー・クリフ・リチャード(歌手)
49、サー・アンソニー・ホプキンス(映画俳優)
50、ルイス・ハミルトン(F1のレーシング・ドライバー)
51、リッキー・ジャーヴェイス(コメディアン/俳優/脚本&演出家)
52、ヒュー・グラント(映画俳優)
53、グレアム・ノートン(コメディアン/TVプレゼンター)
54、ゴードン・ラムジー(料理家)
55、シャロン&オジー・オズボーン(ミュージシャン/TVプレゼンター)
56、ダニエル・デイ・ルイス(映画俳優)
57、ピーター・ケイ(コメディアン)
58、サー・マイケル・ケイン(映画俳優)
59、JLS(ミュージシャン)
60、デイヴィッド・ウォリアムス(コメディアン/TVプレゼンター)

61、アンドリュー・ロイド・ウェバー(ご存知、現ミュージカル界を代表する作曲家)
62、ダニエル・ラドクリフ(映画俳優/『ハリ・ポタ』シリーズetc)
63、エマ・ワトソン(映画女優/同じく『ハリ・ポタ』シリーズetc)
64、ナイジェラ・ローソン(美人女性シェフ)
65、デイム(女性版「サー」の称号)・ジュディ・デンチ(映画女優)
66、サー・アレックス・ファーガソン(サッカー・コーチ/監督Man U、etc)
67、コリーン・ルーニー(ウェイン・ルーニー(Man U)夫人/TVプレゼンター)
68、リアム・ギャラガー(ミュージシャン)
69、マルコ・ピエール・ホワイト(料理家)
70、ジェイソン・ステイサム(映画俳優『ロック、ストック、~』、『スナッチ』etc)
71、クリスティーン・ブリークリー(TVプレゼンター)
72、ローワン・アトキンソン(ご存知『Mr.ビーン』シリーズでもお馴染みの喜劇俳優)
73、ロス・ケンプ(俳優)
74、ジェレミー・パックスマン(BBC・TV政治キャスター/辛口なインタヴュー・テクで恐れられている人)
75、コリン・ファース(映画俳優/『恋におちたシェークスピア』『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズetc)
76、ステラ・マッカートニー(ファッション・デザイナー)
77、デヴィッド・ボウイ(ミュージシャン)
78、キャサリンゼタ・ジョーンズ(映画女優)
79、マイケル・シーン(映画俳優/『フロスト×ニクソン』『アリス・イン・ワンダーランド』etc)
80、エディー・イザード(コメディアン/俳優)

Lily makes Britain's top 100 Celebrities list by Piers Morgan!
http://www.dailymail.co.uk/home/moslive/article-1255806/The-100-British-celebrities-really-matter-Piers-Morgan-10-1.html
http://forums.lilyallenmusic.com/viewtopic.php?p=780571&sid=0ba5b0ccae892d1dda7030124fafb979

セレブや名誉なんて在ってないような「零な世界だろう」という現実もあったりする。

2010年3月 9日 (火)

『虚無への供物』中井 英夫

Kubutsu 

昭和二十九年の洞爺丸沈没事故で両親を失った蒼司(そうじ)・紅司(こうじ)兄弟、従弟の藍司(あいじ)らのいる氷沼(ひぬま)家に、さらなる不幸が襲う。密室状態の風呂場で紅司が死んだのだ。そして叔父の橙二郎(とうじろう)もガスで絶命――殺人、事故?駆け出し歌手・奈々村久生(ななむらひさお)らの推理合戦が始まった。(「BOOK」データベースより)
Kyomu 
『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』に並んでミステリ界の「三大奇書」にも名を連ねる畢生の大著。
眩暈感を催させる構造や、時間と空間の限定された具象性を備えながら観念的ともいえるワールドスケープ。有機的な人工性をたたえた稀有の幻想文学として再読されるべき名作。 
4つの連続密室殺人という非常にミステリ的なプロットの上、空前の大トリックに挑戦した作品。数々の趣向、幾多の推理合戦等、本格物として書ける内容も水の泡に帰してしまう。厳粛なる人の死というものを娯楽にして楽しんでいるような「読者が」、結局は被害者たちを死に追いやってしまう。ミステリという存在そのものを否定した、世界にも例のない「アンチミステリ」小説。最後まで読んで真犯人に辿りついて、空前絶後たる「虚無への供物」となっている長編巨作。

Nakai 

2010年3月 8日 (月)

カポーティの表現スタイルが極められた「無頭の鷹」

ニューヨークの画廊で働く男ヴィンセントは、ある娘と彼女が描いたという首を落とされた女と頭のない鷹の絵に出会ったとき、その絵のなかに彼自身のすべてが歪んだかたちで描かれているという強迫観念にかられ、 それほどに自分のことを知っている娘に惹かれて鏡のイメージを軸に物語を展開している。

Bestofcapote

「ヴィンセントは服を脱ぐと、きちんと箪笥にしまい、鏡をはめ込んだドアの前に突っ立って、自分の裸体に惚れぼれと見とれた」
「彼女の心は、がらんとした部屋の中で、青い空間を映し出している鏡のようだった」
「ああ、いったいなぜ彼は自分の愛する者の中にいつも自分自身のこわれた映像(イメージ)を見出さなければならないのか?」

鏡のモチーフを様々にデフォルメして織り込み、孤独の向こうにある暗闇をとらえてる。デフォルメされた鏡に自分がまだ自分であった頃の自己を見出し、魂の一瞬の閃きを描き出す。

「やがて、ゆっくりとすり足で、あの娘が灯りの下にやって来て、彼の横に立つ。すると、空が、まるで、雷にひび割れた鏡のようになる。雨が粉々に砕けたガラスのカーテンのように、二人のあいだに落ちてきたのだ」

その奇妙なところへと、衝動が覗くものをかり立て、鞭打って追いつめ、望まぬ夢、歓迎されざる運命を強いる。 カポーティ「無頭の鷹 The Headless Hawk」は「もう一人の自分」への恐怖が超現実に達する世界がえがかれている傑作短編。

トルーマン・カポーティ (1924-1984) 
http://www.nagasaki-gaigo.ac.jp/ishikawa/amlit/c/capote21.htm

『Capote』(カポーティ)BShi  2010年3月16日(火)放送
『ティファニーで朝食を』などで知られる作家トルーマン・ カポーティが、犯罪ノンフィクションという新たなジャンルを切り拓いたと言われる傑作『 冷血』を、綿密なる取材して書き上げるまでを描いた伝記ドラマ。
NHKハイビジョンシネマ「カポーティ」 <字幕スーパー>午後11:00~翌日午前0:55(115分)
http://hello.ap.teacup.com/applet/koinu/20100310/archive

THE INNOCENTS 
原作 Henry James : The Turn of The Screw 1895 『ねじの回転』 ヘンリー・ジェイムズ   
脚本 トルーマン・カポーティ  ウィリアム・アーチボルド
映像解説 http://hello.ap.teacup.com/koinu/413.html
『アザース』がオマージュにしたといわれる幻の恐怖心理映画。原作も脚本も想像する力が素晴らしい。

2010年3月 7日 (日)

一人称に憑依された拘束のトリック

自分に厳しくあることは、難しい。人間たすく流れるのは容易で、そこから流れをさかのぼっていくのは本当に困難だ。自分に優しく、人に厳しく生きていると、いずれ誰からも相手をされなくなる。自分には出来ない事、わかっていないこと、するつもりもないことを他人に要求して、納得してもらえるはずがない。自分のことを棚にあげて誰かに何かを要求するときには本当に気をつけなければいけないと思っている。根拠もなく自己像を肥大させ、他者とのコミュニケーションを断絶する、歪んだ姿がそこにはあるのだろう。
たとえば彼は、Xという人間が好きなのか、嫌いなのか、はっきりわからない。自分はXに好かれたいと思っているのに、Xを好きになることは出来ない。Xに対して誠実にもなれない。ほんとうのことは半分もいえない。それでいてXが自分と同じ不完全さを持つことは許せない。そんな人間ならいずれXは自分を裏切るだろうとウォルターは確信した。彼はXを怖れた。恐怖した。「ぼくだ、ウォルターだ」「やあ、ウォルター」あのけだるい、男とも女ともいえない、遠い声が、まっすぐに彼の井の底にまで届いた。部屋がシーシーのように揺れ、歪んでいるように見える。汗が口ひげのように上唇のところに吹き出た。「誰だ?」と彼はいった。ゆっくりといったので、言葉がつながっていないようだった。「知っているくせに、ウォルター。長い付き合いじゃないか」そして沈黙。誰からかわからない電話はすでに切れていた。  
トルーマン・カポーティ「最後の扉を閉めて」( Shut a Final Door by Truman Capote )

「もう一人の自分」を見つめようとする時、ある種の苛立ちを覚える。
自分の姿や声をじかに見たり聞いたりすることができない状態に似ている。「もう一人の自分」について気ずき易くなる条件とは何だろうか。ここで自分のことを「僕」や「私」の一人称ではなく、「あなた」「君」「おまえ」「彼」「彼女」「あのひと」といった二人称と三人称の代名詞で見つめることに戻りたい。
自己のアイデンティティは、自分が何者であるかを、自分に語って聞かせる説話である。
自分を納得させる一種の物語。自分の主張するアイデンティティを承認し肯定してくれる他者がいなければならない。誰か他者との関係において自己というアイデンティティは現実化される。

他者との社会関係が明確で、自己定義と他者による定義とが相互に矛盾の少ないものであればアイデンティティというものは安定する。人は自己定義を承認してくれるような他者をえらぶ。他者との関係が曖昧だったり、他者による定義が自分にとって好ましくないものだったりするとアイデンティティは不安定なものになる。その結果として一種の心理的危機におちいることがある。これをidentity crisisという。社会的文脈をはなれるときに、identity crisisが生じて「自分はほんとうはどういう人間なのか」がわからなくなる。
「自分が何者であるか」を確認するために、集団の中での関連をあてはめる。そのカテゴリーの内側に「仲間」がおり、外側に「敵」「他人」が位置づけられる。そこで一点透視の眼つきではなく、自分を対象化して考えてみるのがキーワードとなる。

 「もう一人の自分」を見つめようとする能力を持っているのに、客観する世界を見せない視点に自ら選択したがるのは何故だろうかと。一人称でのみで思考され描かれたものの背後を、二人称と三人称の目を開いて見つめると、不気味なほどの姿を露わにするかもしれない。逃げれば逃げるほど、敵は強く、大きく、恐ろしく見えるものだ。ここに一人称に憑依されて思考拘束された人のトリックがあったりする。

『サザエさん』の最終回の都市伝説

「サザエさんのアニメ最終回」
カツオは商店街の買い物券で福引で1等のハワイ旅行を引き当てる。
幸運に沸き立つ磯野家の人々はすぐにハワイ旅行へと旅立った。

ところが、一家を乗せた飛行機は途中で海に墜落。
海面に投げ出された磯野家の人々はサザエは貝のサザエに、
カツオは魚の鰹にといったようにその名が示す
海の生き物の姿に戻り、海の中へと帰っていった。

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「サザエさんの漫画最終回」

サザエさん一家が幸福であったのは、
テレビアニメなどで描かれているあの時期だけのことであった。

波平がボケ老人になり、磯野家の人々は空回りしている。
マスオはよそに愛人を作り、サザエはヒステリー状態で、お魚くわえたドラ猫を金属バットで殴り殺す。
カツオはそんな家に嫌気がさして非行に走り少年院入り、ワカメは売春で逮捕される。
フネは不倫に明け暮れるようになり、波平は心筋梗塞で死んでしまう。

さらにタラちゃんが事故死するに及んでノイローゼになったマスオは自殺した。
一家崩壊の現実に耐えられなかったサザエはキッチンドリンカーとなり錯乱して大笑いする。

最終回で描かれるサザエさん一家のその後である。「磯野家の謎」でしりあがり寿が学生時代に書いたサザエさんのパロディ漫画「サザ江さん」が噂の元と東京サザエさん学会は推定している。

Sazae0 
兄弟は二人称の対話となり、家族は三人称にみられる視点による展開が望まれている。しかし親たちが対社会性もなく、一人称のみで対話することしか子供たちへ教えていいない。そんな家族では複数の一人称のドラマが、単独にオムニバス形式で語られることになる。そこからは多くの個としての主観性があり、社会的な視野のある発言や意見は得られないだろうと考えられる。そして其の子供たちが育てる子孫たちは、、、。

蠍と蛙の寓話

サソリが川の前にやってきて川を渡りたいと思った。
そこへ泳ぎの得意なカエルがやってきた。
「俺をおぶって向こう岸まで連れていってくれよ」
泳げないサソリを見るとカエルは答える。
「いやだよ。だってお前は俺を刺すに違いないだろう」
「安心しな。お前を刺してしまうと、金槌の俺までおぼれてしまうじゃないか」
カエルはもっともだと思い、サソリを背負って川に入った。
川の中盤に来た頃にカエルは背中に激痛を感じた。
「うう、なんでお前はおぼれることがわかっているのに俺を刺したりするんだ」
そういいながらカエルはサソリを背負ったままずぶずぶと水の中に沈んでいく。
サソリは哀しそうな声で言った。
「すまんな。それがおれの性 (nature)ってやつなんだ」

ベトナム戦争の頃に、もっともベトナムの子供たちに読まれた童話だという。植民地にされる側の痛みと、侵略する側の性分が、二人称の形式で描かれている物語。

2010年3月 6日 (土)

作劇を一人称にする方法

多くの書店にある新刊書の物語は、一人称によるものがほとんどである。
ライトノベルスなども以下のように、読者へ負担のかからぬ作文がされる。

① 場面の情景や一人称による気持ちが伝わる音読
② 題名や台詞について簡単に読めること
③ 登場人物は一人称による描写にしぼる
④ 一人称による作者と語り手の区別
⑤ 一人称による出来事の発端と終わり
⑥ 起承転結の 一人称による山場を捉える
⑦ 人物のはじめとおわりの 一人称による変化を捉える
⑧ 描写や効果的な 一人称による比喩・擬人法・反復・対比・類比
⑨ 以上のことを 一人称による表現として、関連した情報を把握する

TVや映画からあふれる娯楽のドラマは、一人称で語られるストーリーが圧倒的である。
作劇を一人称にする方法により、何が生まれていくか其れは予測されるはずである。
相手や集団や国からへの想い描くことによる視点より、思考されるケースは少ない展開。
ニ人称、三人称を分別されるような文体が読み分けるられる人口が減少している。
(そして戦うことの物語が正当化されるベースが育っていく仕組みになる)
めでたく頭脳の爬虫類化はすすんでいくのだった。

地球の意識生命上昇サポート 
http://now.ohah.net/pari/demae/ET_message.html

泉谷しげる 「マンガは爆発だ!!」

Izumisigeru Izumiya 新宿髙島屋 10階 美術画廊にて

フォークロックのカリスマ・俳優業と常に第一線で活躍する泉谷しげる。
オフィシャルブログから派生したキャラクター原画から大作まで一堂に展観。

「うぴよとんとの歌」http://www.youtube.com/v/3aCTk9cRxDw&hl=ja_JP&fs=1&

「マンガは爆発だ!!」 http://www.youtube.com/v/rBz6rtHZ4aw&hl=ja_JP&fs=1

2010年02月24日 ~ 2010年03月08日
ホームページ
http://www.takashimaya.co.jp/shinjuku/event3/index.html (アートスペースのウェブサイト)
入場料無料
東京メトロ丸の内線・副都心線・都営新宿線新宿三丁目駅より徒歩5分、JR新宿駅南口より徒歩5分
〒151-8580 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-24-2 髙島屋10F

僕秩は子供にも優しいバカ(横線)サイトです と、トップページに記されている。
宇多田ヒカルも読んでいる 「僕のみた秩序」http://www.dfnt.net/t.html
NEWS:WebMoneyAward2009、WCA受賞!、京都大学で講演、帯コメント書きました】
【過去:宇多田ヒカルさんの日記に出る、宇多田さんに会う、飯野賢治さんの日記に出る】
【Yahoo受賞、僕秩SHOP!、僕秩をDSで!、携帯公式化!、僕秩ブログ】

2010年3月 5日 (金)

龍神の国の形

Riyou

2010年3月 4日 (木)

カゴメの図形

かごは竹かんむりに龍と竜で「籠」「篭」と書く。
かごめの歌の「かごめ」は竹で編んだかごの網目の形の籠目から来ている。
カゴメ→過去の目→囲め=封印=身篭る→篭目=六忙星→籠=龍

図形のイメージから具体へ変換してみると蜜蜂のつくる巣の力学がみえる。
「籠目紋」という下向きの正三角形と、上向きの正三角形の合わせた星型の「六芒星」のなかにある形。

Photo

「籠目紋」は古くは九字紋(くじもん)ともい九字を切る秘法を紋章化した。
五芒星は人間そのものである小宇宙を表わす。
六芒星はそれを取り巻く大宇宙を表わす。
五芒星と六芒星の二つの力を一つに合わせた時にさらなる力を発揮する。
丹田一点に意識を集めると氣のエネルギーが放射して宇宙空間に広ろがり、自分と宇宙が一体化する。

カゴメ→過去の目→囲め=封印=身篭る→篭目=六忙星→籠=龍

身篭る=胎児のエネルギーは龍のエネルギーに匹敵するパワーを表す。
胎児のエネルギーは、エゴを取り去り、純粋無垢になり潜在意識が浄化されること。
「龍」という字は「輝く」という意味を内蔵して、祥瑞・吉兆をよびよせる兆しとされてきた。
頭は駱駝、角は鹿、眼は鬼、耳は牛、項(うなじ)は蛇、腹は蜃、鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎にと、九つの獣の特徴を持っている。
地のエネルギーは、龍脈で、九頭龍、四神相応となる。
人のエネルギーは、九字切り、能望の実践となる。
9ナインは、奇数でも完成度を示している。
人は何のために生きているのかを考えさせてくれる数字でもある。
五体プラス三位一体。

籠目かごめ: 零画報
http://zerogahou.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-fd5c.html

2010年3月 3日 (水)

最小の頂点数で構成することができる立体

「四方位へ向けて」   三角錐が立ち並ぶ佇まい。

Tetrahedron

triangular pyramid, trigonal pyramidは、垂直断面に三角形を持つ錐体。
辺6本、頂点4つからなる。
面の数は立体に於ける最小限界の 4 つ。
このことからまた、四面体(tetrahedron)とも呼ぶ。
三角錐は、最小の頂点数で構成することができる立体。

幾何学に於いて、角錐の側面は全て三角形であるが、底面も三角形であるから、三角錐は全ての面が三角形である立体である。最小限に削ぎ落とすと、時には尖がって見えてしまうことも外部には伺えるかもしれない。そこで「結晶を見つめる」という能動的な心ある視点が、形を変容して試される。

Kagome

快楽コードは解かりすいけれども、水をきる笊の目は、いつもいつも「篭目」の形です。

魂は水の習性に相似しているといわれる。試練は「楽」ではない方向にある。

そこで「かごめ、かごめ」の図形をあらゆる角度より「簡単の心」を捨てて見つめる。

「8」という数に象徴したデルモンテ城
http://hello.ap.teacup.com/applet/koinu/20100302/archive

Qtzforms

2010年3月 2日 (火)

美しき挑発『レンピッカ展 - 本能に生きた伝説の画家

Main

レンピッカの待望の展覧会がついに日本で開催。2009年3月6日から5月9日まで渋谷・東急本店横Bunkamura ザ・ミュージアムで開催される「美しき挑発『レンピッカ展 - 本能に生きた伝説の画家

ワルシャワの良家に生まれ、思春期をロシアとスイスで過ごす。18歳で弁護士レンピッキ伯爵と結婚する。翌年ロシア革命でパリへ亡命。働かない夫を尻目に画業で身を立てる決心。時代に翻弄されながらも女性の自由な生き方を実践し、狂乱の時代とも呼ばれた1920年代のパリで独特の作風により、画家として一躍注目された。やがて第二次世界大戦の脅威の中、アメリカに亡命。その後、時代とともに次第に忘れさられていった。そして70年代に再評価され、1980年に82歳でその劇的な人生を終えた。

2010年3月6日(土)-5月9日(日)   Bunkamuraザ・ミュージアム
2010年5月18日(火)-7月25日(日) 兵庫県立美術館

http://www.ntv.co.jp/lempicka/

1 Lempicka_kizette

2010年3月 1日 (月)

あなたの飼育方法

 あなたの中にある、あなたにしかない「魔法の種」を見つけましょう。
「魔法の種」を大切に育てる過程で、あなたはどんどん、「なりたい自分」に近づいて行きます。

「自分とコミュニケーションがとれない人は、人とのコミュニケーションがとれない」本当の自分の思い・気持ち・感情が分からなくて、向き合うことなく生きているいる人がほとんどである。

「視点・気づき・実際に変わるためのキッカケ」これらのほとんどは、人とのかかわりの中にあります。一人では、なかなか成長できません。
(独りよがりになったり、知らないうちに枠にはまったり)
自分らしさ」に近づく感覚こそが「楽しい」と感じることなのです。

1、失敗を恐れていない。失敗するけど、そのたびに得る事が大きい。
2、毎日留まらない自分の殻をやぶれた感覚をもつ。
3、自分以外は全てが師と思って学ぶことが大切
4、人に期待するのではなく自分に期待する
5、関わる出会いを大切な機会としている

P1000225

両親から、悪い影響を受けるとそれは幼少の頃からのもので、とても根深い。
その影響を乗り越えるのは、とても大変な事だと思う。
63億人もいるこの地球上で会えつながれる「運」を持っていることを考える。
「相手は変えられないんだよ。でも自分は変えられるよ」

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羽衣ストーブ館

  • 静岡新聞 2001年5月22日記事
    フランスを中心としてヨーロッパで製造されたアンティークストーブ100点以上はひとりの日本人個人によって南仏を中心に長期コレクションされたものであります。 ◆南仏より海を渡ってやってきたアンティークストーブ100台たちは清水港へ上陸して、東海大学社会教育センターに移築した江戸時代に作られた曲り屋の屋敷のなかに展示された。 ◆鋳物ストーブ100台たちは、その後も数奇な運命をたどることになる。
フォト

22カードの意味

  • _0 愚者
    タロットアルカナの22枚には、世界の変化を表すことが記されています。カードの意味を知るには、図案のもつ表のイメージから解放されることが大切です。

オンライン状態

ペンギンタロットの原画

  • 0の愚者から21の宇宙(世界)まででひとつの話が結ばれる
    兆しを理解して現実なるものを深くたのしく感知する訓練カードです。 タロットを機能させるには慣れ親しむことからはじまります。 まだ目には見えていない物事や潜在的な事柄を導き出す道具でもあります。 各アイコンをクリックすると、21のカードが観れます。