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2010年5月19日 (水)

地上の星 滝口修造

地上の星

 Ⅰ
鳥、千の鳥たちは
眼を閉じ眼をひらく
鳥たちは
樹木のあいだにくるしむ。

真紅の鳥と真紅の星は闘い
ぼくの皮膚を傷つける
ぼくの声は裂けるだろう
ぼくは発狂する
ぼくは熟睡する。

鳥の卵に孵った蝶のように
ぼくは土の上に虹を書く
脈搏が星から聴こえるように
ぼくは恋人の胸に頬を埋める。

 Ⅱ
耳のなかの空の
ぼくは星の俘虜のように
女の膝に
狂った星を埋めた。

忘れられた星
ぼくはそれを呼ぶことができない
或る晴れた日に
ぼくは女にそれをたずねるだろう
闇のなかから新しい星が
ぼくにそれを約束する。
美しい地球儀の子供のように
女は唇の鏡で
ぼくを ぼくの唇の星を捕える
ぼくたちはすべてを失う
樹がすべてを失うように
星がすべてを失うように
歌がすべてを失うように。

ぼくは左手で詩を書いた
ぼくは雷のように女の上に落ちた。

手の無数の雪が
二人の孤独を
手の無数の噴水が
二人の歓喜を
無限の野のなかで
頬の花束は
船出する。

 Ⅲ
鳥たちはぼくたちをくるしくした
星たちはぼくたちをくるしくした
光のコップたちは転がっていた
盲目の鳥たちは光の網をくぐる
無数の光る毛髪
それは牢獄に似た
白痴の手紙である。

白いフリジアの牢獄は
やがて発火するだろう
そして涙のように
消えるだろう。

 Ⅳ
鳥たちは世界を暖めた
ぼくの下の女は眼を閉じている
ぼくの下の女は眼を閉じている
鳥たちはぼくたちに緑の牧場をもってくる。

彼女の肥えた牡牛のような眼蓋は
こがね色に濡れている
レダのように 聖な白百合のように
彼女の股は空虚である
ぼくはそこに乞食が物を乞うのをさえ見た
あらゆる悪事が浮遊していた
ぼくは純白な円筒形を動かすことができる。
仏陀は死んだ。

 Ⅴ
闇のように青空は刻々に近づく
ぼくは彼女の真珠をひとつひとつ離してゆく
ぼくたちは飛行機のように興奮し
魚のように悲しむ
ぼくたちは地上のひとつの星のように
ひとつである
ぼくの精液は白い鳩のように羽搏く
ぼくは西蔵の寺のように古い詩を書く
そしてそれを八つ裂きにする
ぼくは詩を書く
ぼくは詩を書く
そしてそれを八つ裂きにする
それは赤いバラのように匂った
それはガソリンのように匂った。

氷のように曇った彼女の頬が見える
花のように曇った彼女の陰部が見える
そして鳥たちは永遠に
風のなかに住むだろう
狂った岩石のように。

盲目の鳥たちは光の網を潜る。

「滝口修造の詩的実験1927-1937」より

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