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2010年7月15日 (木)

眼に見えないもののあいだを旅しなければ

見つけ出さなければならないのは軽やかでやさしいもの、青々と茂る木の葉、枯葉から立ちのぼる煙、湯気、野原を通り過ぎてゆく影。雲のように空を渡る美しく軽やかなもの。幼な子たちを夢へと誘う穏やかな物音、静けさをそっと震わせるこだま。見つけ出さなければならないのは、遠いと同時いぎなに近くにあるこうしたものすべて、それからありとあらゆる匂い。草の匂い、太陽にじりじりと焼かれた松の匂い、野生の潅木の匂い、こぢんまりした房となって咲く小さな花の甘い香り。気持ちを落ち着かせ眠りへと導いてくれる匂い。赤子のように丸まって眠る時に包み込んで守ってくれる匂い。
これらの揺らめきはどれもあまりにも微かなうえに身近すぎて、本当に感じているのか、眼に入っているのか、耳にしているのか、はっきりとはわからないほどだ。
 もう逃げ出そうなどとは思わない。どこかの穴にもぐりこんで身を隠そうなどとは思わない。まなざしからまなざしへ、言葉から言葉へと次々に飛び移ったりはしない。もう他には何も求めない。待ち望まない。自由なのだ。

 眼に見えないもののあいだを旅しなければ。その場を動かず自分の場所に留まったままで、すぐそばにある空気のなかを進んでいかなければ。感覚という感覚を研ぎ澄ませて、あたりをうかがうのだ。
実にたくさんの道が四方八方にめぐらされている。岩陰の巣穴、空を流れる気流、木から木へと架け渡された枝。もうどこかの国や街や人を探し求めたりしない。誰かに話しかけられたり、誰かに案内してもらったりすることも待ち望んでいない。ひとりきりで冒険へと乗り出し、隣接する世界へと踏み込んでいくのだ。コガネムシや蝿、あるいは蜘昧のところにちょっと立ち寄る。カモメの後を追って飛ぶ。多肉植物や小麦や稲のなかに入り込み、背の高い椰子のもとを訪れる。こんな風に身体を動かさず、ただ自分の皮膚と瞳と耳だけを頼りに、数々の大旅行をするのだ。息を吸うと、蜜の香りが、硝石の匂いが、饅えた葉の匂いがしてくる。大地からもうっと立ちのぼる温気やひんやりとした大空、そして肌をひりつかせる海の塩を感じる。遠くはない。未知の領域は、生まれ落ちたその日からずっと、自分のまわりに広がっていたのだ。ただ、いつのまにか自分がその場所から離れてしまっただけのこと。ほんのわずかに上へ、あるいは左にずれているだけなのに、それが無限の隔たりになっている。けれども今この瞬間、ほんのわずかのあいだだけでも、そのすぐそばまでやってきている。

ル・クレジオ「地上の見知らぬ少年」より

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