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2010年8月13日 (金)

『失われた時を求めて フランスコミック版』

マルセル・プルースト作/ステファヌ・ウエ翻案・画 

翻訳者のことば:中条省平
『失われた時を求めて』は20世紀最高最大の小説である。
だが、長大かつ複雑なため、読了した人は少ない。
今回のコミック版を手がかりに、人類文化のこの宝の森に参入していただきたい。
文学の豊穣な風景が、眼前にパノラマのように開けるであろう。

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 第一部「スワソ家の方へ」

 ふと口にした紅茶に浸したマドレーヌ菓子の味から、幼少期に家族そろって夏の休暇を過ごしたコンブレーの町全体が自らのうちに蘇ってくる。
 そこには二つの散歩道があった。一つはスワソ家へ通じる。咲き匂うサンザシの花の向こうにスワンの一人娘ジルベルトを見かけ、私は異性への目ざめを感じた。もう一つの道はゲルマソト家へ通じる。スイレンを浮かべたゲィヴォソヌ川、その川上に住む高貴なゲルマソト公爵夫人。

 私は幼時から有名な作家になりたいと望んでいたが、同時に、自分の才能に対して疑惑を感じていた。そして雨あがりのふとした風景に陶酔しながら、その奥にある何かをはっきりつかみたいと苛立つ。馬車の動きにつれて位置を変える三つの鐘楼に感動し、かくされた真実の与える喜びをとらえようと、その印象の断片をノートに記してみたりする。スワソ家のほうとゲルマソト家のほう、思えばこの二つの散歩道はその後の私の生き方を暗示していた。

 第二部「花咲く乙女たちのかげに」

私はパリのスワソ家に出入りしてスワン夫妻や娘のジルベルトと親しむようになる。祖母と一緒にあこがれの避暑地パルペックの海岸に出かけ、そこでゲルマント家の人たち、とりわけ、貴公子ロべル・ド・サソ・ルー、その伯父で社交界の大立物シャルリュス男爵らと知り合う。
ある日、私は海岸で、はなやかな少女たちの一団に出会って強い印象を受けた。
画家エルスチールを通じて、そのうちの一人、アルベルチーヌと知り合い、心をそそられるが、彼女は私の接吻を拒み、出発してしまった。ハルペックの海岸で、私の前にさまざまな人間が現われ、また消え去り、夏の季節の幕は降りた。

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 第三部「ゲルマントのほう」 

 私の家はパリのゲルマント家の館の一部に引越した。ゲルマントの名から妖しい魅力は消えるが、ゲルマント公爵夫人の姿は私の心をときめかせる。私の祖母は老衰で死ぬ。私は訪れてきたアルベルチーヌと接吻を交わし、恋人同士になる。この前後から、シャルリエスの奇異な友情、奇異な行為が明らかにされていく。

 第四部「ソドムとゴモラ」 

 社交界の花形シャルリエスは男色者だった。仕立屋ジュピアソ、のちにはヴィオPソひきモレルに倒錯した愛を注いで苦しんでいる。いっぼう、私の恋人アルベルチーヌにも同性愛の傾向があることを知って私は苦しむ。嫉妬のあまり私は、アルベルチーヌと結婚する許しを与えてくれるよう、母に泣いて迫った。
       
 第五部「囚われの女」

 私はアルベルチーヌとともに閉じこもり、世間から離れた。彼女への所有欲は充たされるが、生き生きした喜びと安定はない。私がアルベルチーヌに感じるものは永久につづく欲望。その飽満と減退の間歌作用である。そして突然、アルベルチーヌは私の前から失踪する。

 第六部「逃げ去った女」

 私は失踪したアルベルチーヌが落馬して死んだという知らせを受けた。絶望が来る。愛と嫉妬が一度によみがえって私をとらえる。彼女から解放されるためにはすべてを忘れること、自分自身の死が必要だ。
そしてその死は、記憶というものがもつ一般的な性格にしたがって少しずつ自分
の内に育っていくのだ。時代は移った。ロベール・ド・サン・ルーはジルベルトと結婚した。

 第七部「見出された時」 

ロベールは不毛な情事に耽って妻ジルベルトを苦しめる。私は自分の文学的才能に思い悩み、療養生活にはいるべくパリを発つ。第一次世界大戦が始まっている。戦時下のパリ、没落していく社交界。そのなかで、シャルリースはいよいよ凄惨に性欲倒錯者の世界におぼれている。私の親友ロベール・ド・サン・ルーは、前線で戦死した。

 戦争は終わった。私の心は索漠としていたが、マチネの招待状を受けてダルマソト大公妃邸におもむいた。邸前で車を降りた私はふと中庭の不揃いな敷石につまずいた。その感覚がヴェニスの寺院の敷石の感覚に通じ、ヴェニスのすぺてがよみがえり、大きな歓喜が身内を浸たす。マドレーヌ菓子の味が幼いころのコソプレーをよみがえらせたように。

 皿に匙のふれる音、ナプキンの固い手ざわり、すべてが現在と過去にまたがるある超時間的な共通の世界に、存在のエッセソス、其の実在を啓示したのだ。ただこの奇跡だけが其の過去--失われた時--を見出させる力をもつ。そういう感覚や印象を、それと同じだけの思想をもつ形象に転置する。その方法こそ芸術作品の制作ではないか。私ほ天職の啓示を ぅけた。自分のテーマと手法を握った其の芸術家が私のなかで眼を開く。サロソには、変わり果てた知己の人たちがいる。

 老いて「時」の波間に浮かぷ亡霊のように。ジルベルトと故ロベールとの間に生まれたサン・ルー姥が私に紹介された。
 ゲルマントのほうとスワン家のほうと、その二つはついにこの少女のなかで結び合わされた。彼女は「時」の生んだ傑作だ。私は病気の発作による死の足音を聞きながら、忠実な女中フラソソワーズの傍らでいよいよ念願の書物に取りかかろうと思う……。

 記憶と時間の問題をめぐり、過去から未来への直線的な時間や計測できる物理的時間に対する円環的時間、それがまた現在に戻って今の時を見出して、円熟する時間の解釈のなかで失われた時を求めてた。現実は記憶の中に作られる」という提起は20世紀の哲学者たちにも大きな刺激をあたえた。

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第1巻 コンブレー(『スワン家のほうへ』第一部)
第2巻 花咲く乙女たちのかげに 第一部
第3巻 花咲く乙女たちのかげに 第ニ部
第4巻 スワンの恋(『スワン家のほうへ』第ニ部)
刊行中

世界文学史上不朽の名作『失われた時を求めて』
あまりにも有名なプルーストの大長編小説を、完全コミック化!
古典の冒涜か?名作の新解釈か?新しい読書体験への招待か?
フランス本国でも評価の分かれた問題作!

アメリカ、イタリア、スペイン、オランダ、クロアチア、韓国、台湾、中国、ブラジル、メキシコ、その他中南米、すべてのフランス語圏(スイス、ベルギー、カナダ、モロッコ、アルジェリア等)での翻訳・出版に次いで、待望の日本語版です。

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