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2010年8月10日 (火)

ザラスシュトラの発想方法が与えた影響

 ゾロアスター教の特質をなす二元対立の哲理は、ギリシア哲学の伝統的な思考とも、インドの哲学とも異質な独自な思想である。

 光と闇との対立抗争をもって世界が展開されて、存在のすべてが善と悪のカテゴリーに総括される。この世は善と悪の対立抗争する戦場となっているという。その二元論を形而上学的な体系をもって整備したのは、ササン朝のペルシャ神学においてであったとしても、開祖ザラスシュトラの発想法そのものが原型となった事はいなめないだろう。

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 パールシー神学界において一神教こそ最も優れたものとする西欧の進化論的見解から、ザラスシュトラの思想は二元論ではなく、唯一の最高神アフラマズダーへの信仰こそ重んじられたことがあった。インド的な環境においては避ける事の不可能な一元論傾向を浪厚にもつ神智学的解釈があった。このような近代主義をもってした結果、ササン朝のゾロアスター神学の二元論は、ザラスシュトラ自身の思想に反するものであるとする主張さえ盛んになったのである。西欧の学者の中にも、ササン朝の神学を魔術的な神秘主義として称して、ザラスシュトラ自身の思想とは別の起源を有するとすることがある。

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 ザラスシュトラ自身の思想を、アヴェスターにそって見てみると、後世の神学における二元論の形而上学の源泉となったものが明確に読み取れる。この思想の構造そのものを特色付けているのは、世界を構成する基本的なものが相互に対立する概念の存在である。
 光と闇を象徴するアフラとダエーワふたつの神による対立。このAhuraとdaevaはインドではアスラ(阿修羅)とデーヴァ(天)に相当し、本来は共に神的存在の呼称であった。しかし後世のインドでは専らデーヴァが神々の総称になって、アスラが悪魔的存在になったのに対して、イランではアフラが神的存在を意味してダエーワは悪魔の総称である。それらはインドとイラン両民族が形成された歴史的状況と密接に関係する。
 ザラスシュトラはアウラなる語をマズダーと共に、あるいは単独で最高神に対して用いる。そして陪神たちに対しても使用している。
 ダエーワはアカ・マナフ(悪思)の所生で、人をして悪事に陥らせ、人間の幸福、快適なる生を奪うとされる。悪魔の盟主として考えられているのがアンラ・マンユであった。
 次にザラスシュトラの強調したアシャ AShaとドゥルジDrujの対立がある。アシャはヴューダ語のリタrtaで「天則」ごとも訳すように本来は宇宙の理法を意味した。ザラスシュトラはアシャを専ら倫理的概念(正義)を指示する語となして、彼の教義の中核においた。これに対するドゥルジは「生を害する」意であるが、ザラスシュトラにあっては、特に「虚偽」の意味をもっている。このアシャとドゥルジの対立は、インドには見出すことができないもので、ザラスシュトラによってはじめて積極的に主張され古代イラン人の世界観に決定的な影響を与えたのであった。

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 現世と来世あるいは現界と他界といった、東洋仏教の宇宙観すら含まれる深遠なる二元論ともいえる。ここでは表舞台から姿を消したように思われるものも、名称や形を変えて敵対する経典にまで影響を与え続けることにも気づかされる。世界を思惟することの恩深さと、神学まで高められた叡智が何故あるのかということを考えさせられた。

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