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2010年12月28日 (火)

ニーチェ体験をめぐって

三島「戦争中、ヘルダーリンに夢中になっていて、ニーチェを読みはじめたのもその前後
   のころと思いますけどね、非常に好きでした。今度、手塚さんの新訳を拝見して、
   実に分かりやすくて初めて<ツァラトゥストラ>を読むような感じがするんです。
   前に読んだのは、なんだかお経みたいな・・・・。」
手塚「生田長江さんの訳でしょうか。」
三島「いいえ、登張竹風さんの<如是説法ツァラトゥストラーです。」
手塚「登張さんの訳は、最初は<ツァラトゥストラ>を<光炎菩薩大獅子孔経>として
   いました。それは二度目の訳でしょうね。われわれのときは、一時代前で
   生田長江訳です。」
三島「そうですか。初めに興奮して読んだのは<悲劇の誕生>ですね。
   <ツァラトゥストラ>の中で、むかし、<童貞>という題だったのが、こんどは
   <純潔>というふうにお訳しになっていらっしゃるけど、十代のころそれを一生懸命
   読んで、実にいろいろ思い当たって、ガックリきたものです。」
手塚「ヘルダーリンの名が出ましたが、わたしにとっても、いちばん好きな詩人と言って
   よく、そのヘルダーリンを発見して、愛読したのがニーチェですから、いろいろ縁
   がつながりますね。どちらも文明を底のところから考えて心配しているところが
   いつも教えられるところですが・・・。三島さんの世代のニーチェの読み方は
   どんなふうに言えましょうか。」
三島「わたくし、<ツァラトゥストラ>の影響をうけて短篇を書いたことがあるんですよ。
   <中世における一殺人常習者の哲学的日記の抜翠>という長い題ですが、それは
   非常にニーチィズムなんです。戦争中に書いたものですけどね。あのころは
   いちばん<ツァラトゥストラ>やニーチェ全般にかぶれていたころかもしれません。」
手塚「三島さんの周囲のかたも、だいぶ読んだんでしょうか。」
三島「ええ、大学なんかでもニーチェの話なんかよくして、かなり読まれているように思い
   ました。<悲劇の誕生>の、あのエネルギーの過剰からくるニヒリズムという言葉が
   非常に好きでしたね。ニヒリズムということばは一種の禁断の言葉でして、われわれの
   世代に共感を与えたと思います。それから超人という思想というよりも、なにか人を
   無理やりにエキサイトさせる力、ああいうものが戦争中のわれわれにとっては、麻薬
   みたいな感じもいくらかあったんです。ぼく個人の体験で申しますと、
   <ウンツァイトゲメース>というニーチェの言葉が非常に好きで、戦争中は<反時代的>と
   訳されていましたが、それがもう唯一のよりどころみたいなものでした。」
手塚「<季節はずれの>という訳もありましたね。」
三島「ええ。それに戦争中からずっと、戦争に便乗ずるインテリというツァイトゲノッセ
   (同時代者)、戦後は戦後派というツァイトゲノッセがきらいで、それでニーチェが
   その後も好きになったわけですね。」
手塚「わたしの中学時代は、大正のデモクラシー思潮をあらしのようにかぶった時で、
   個人の目ざめというようなことが手がかりとなって、ニーチェにもとりついたような
   気がしますが、そのニーチェは大の畜群罵倒者なのですから、おかしいようなこと
   でした。やはり反俗意識という点で支えてくれたんだと思いますね。でも、今の
   <反時代>は何になるか、これはつかみにくいですね。」 
三島「つかみにくいですね。ただ青少年はどんな時代でも自己弁護のために本を読むと思う
   んです。青少年に自分の弱さの自己弁護の材料を与えてくれるような本が歓迎されますね。
   戦争中、ぼくたちはこんな時代にたいして、とてもアンパッスンク(適応性)がないと感じて
   いたわけですね。それはある意味では劣等感です。それを、ニーチェが非常に朗らかに
   ウンツァイトゲメースと言ってくれたんです。自分はそれじゃ適応性がないだけじゃなくて、
   もっと積極的に反時代なんだと思えば安心する。それが、ニーチェの持っている、つまり
   青年に対する魅惑だと思うんですよ。」

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