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2011年6月19日 (日)

異界を旅する能 ワキという存在 (ちくま文庫) 安田 登

●能の物語は、生きている「ワキ」と、幽霊や精霊である「シテ」の出会いから始まる。旅を続けるワキが迷い込んだ異界でシテから物語が語られる。
本書では、漂泊することで異界と出会いリセットする能世界、そして日本文化を、能作品の数々を具体的に紹介しながら解き明かす。巻末に、本書に登場する46の能作品のあらすじを収録。

Ikai

●三島由紀夫の『豊饒の海』四部作すべてに登場する本多は、平凡な生活を送るが、しかしそんな本多にも深淵に直面せざるを得ないような悲劇は訪れる。
『豊餞の海』四巻を通じてシテたる美しき若者たちはさまざまに変化するが、その輪廻転生のさまをずっと見続けている男がいる。それが本多だ。
 これは能で言えばワキの役割だ。シテのさまざまな思いをワキ座に座って、じつと見続ける、そんなワキの役割と本多が重なる。しかし、本多がワキである理由はそれだけではない。           
『天人五衰』(『豊饒の海』四)の中で、本多は三保の松原の、天人遊行の夢を見る。
その夢は『天人五衰』の題名にもなる重要なエピソードだが、それは能『羽衣』にも連なることは明らかだ。多くの天人が遊行する中で「どこにも人の姿はなく、もし見ている本多がただ一人の人間だとすれば」とまず書かれる。遊行する天人たちは輪廻のシテたちであろう。そしてそれを見続けるただひとりの人間が本多だ。
                                       
 さらに次の文は「見ている本多がただ一人の人間だとすれば、漁師自竜とは自分のことではないかと思われた」と続く。漁師自竜は能『羽衣』 のワキ伯龍だ。
 さまざまに移り行く変化の種々相を、定点として観察し、その転生が実現されるのを見守り続ける本多は、まさに輪廻の天空を遊行する天人たちを見ているワキ、白竜だ。
 しかし、本多はワキにしではつまらなさすぎるし、順風満帆すぎる。第一巻『春の雪』の主人公である松枝清顕の学習院での親友として登場する本多は、裁判官、そして退官後は弁護士としてことさら取り立てた業績を残したわけではないが、偶然手にした大金をベースにした、穏やかな人生を送っている。
 そんな本多に、三島は最終巻でワキたらしめる試練を与える。
 最終巻は、本多の「旅」から始まる。それまで物語を見つめる定点として定住を続ける本多は、旅をすることによって、まずは外面においてやっとワキらしくなる。
(本書より)

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