« ラジオ体操 | トップページ | くるくる視点 »

2011年7月14日 (木)

スターメーカー StarMaker.

オラフ・ステーブルドン作

 物語は、地上にひろがる美しい夜空のイメージを描写することから開始される。作品の語り手たる(私)の家、村、空、そして星、物語の視点は以上のようにして三段跳びを思わせる対数グラフ的な拡大をすすめていく。

 ある日〈私〉は、星々へ到達する飛翔が単に想像力を集中させることによって実現するという驚異的な事実を発見する。テレパシーカと肉体離脱による飛行方である。
やがて〈私〉は遠く宇宙へ旅する決意を固め、この不思議に瞑想的な手段を通して、〈もう一つの地球〉へと飛行する。
 前半は、こうして〈もう一つの地球〉に関する文明と歴史との詳細な鋭明に費される。
 この星の生命体は大ざっぱに言うと地球のそれによく似ていた。もちろん知的生命も存在しており、これがまた人間に近い形態をしている。ここでも人間は文明期と野蛮期とを繰り返して進展しているのだった。
なかでも面白いのは、一時期この星で大ブームになった「ラジオ番組を聞いて一生を送るシステム」であろう。これは、生まれたときからカプセルに容れられ、そこで寝ながらラジオ放送を聞いて暮らすのである。番組は幼児番組を聞き終わるころには、次のステップのための知識吸収と準備とがすべて完了するように仕組まれている。〈私〉はこの星を去る間際になって、「宇宙の創造者」StarMakerというものの存在を知らされ、大きな興味を抱く。宇宙を滅亡に向かわせながら、しかも同時に「滅亡される側」から限りない畏敬を集める中心的存在-スターメーカー。いったいこれは何なのだろうか。その疑問を解決するために新しい星間飛行システムを開発して、〈もう一つの太陽〉と、その彼方にひろがる無限の宇宙へ旅立っていく。

 多天体で出会った数々の知性体から、スターメーカーに関する情報は断片的に集まる。データを総合してみると、結局スターメーカーについて最大の疑問は、「この宇宙霊が本質的にもっている知性が〈苦痛〉であるのか、それとも〈愛〉であるのか」という判断の問題であることがわかる。

時間と空間の胞子である人間や銀河や宇宙はスターメーカーと対面するために生成発展していくのだった。
宇宙はそのたびにら脱皮する昆虫のように生まれ変わり、その分だけ無秩序の要素を棄てて〈究極秩序〉へと近づいてゆく。
「スターメーカーへの案内は二つの光だ。ひとつはわれわれの小さな原子群が照らす明るい光。そして今一つは星々の冷たい光」

 

『最後と最初の人間』において、人間の運命を宇宙的視点からみつめ続けた作者が次に手がけたのは、壮絶とも言える〈宇宙全体の運命〉を描き切る仕事であった。ここでは、気も遠くなるほど長きにわたった『最後と最初の人間♭の歴史さえも、その一エピソードに過ぎないほど魔大な時間の流れが、勇敢にも採りあげられる。しかし本編を描くにあたって、前作で用いた年代記的記述を断念し、一種の黙示録に似せた書き方で印象派風に、詩的に、宇宙全体の運行を語る方法を採用した。その結果、本編は『最後と最初の人間』よりもさらにめくるめくばかりの時空感覚を獲得することに成功している。

Photo

・スターメイカー
「肉体の束縛を離脱した主人公は、時空を超え、太陽系の彼方へと宇宙探索の旅に出る。棘皮人類、共棲人類、植物人類など、奇妙な知性体が棲息する惑星世界。銀河帝国と惑星間戦争、生命の進化と諸文明の興亡。そこでは星々もまた、独自の生を営む生命体であった。そして、銀河という銀河が死滅する終末の時がやって来る。星々の精神と共棲体を築いた主人公は、至高の創造主「スターメイカー」を求めて旅立つが…。宇宙の発生から滅亡までを、壮大なスケールと驚くべきイマジネーションで描いた幻想の宇宙誌。そのあまりに冷たく美しいヴィジョンゆえに「耐えがたいほど壮麗な作品」(B・W・オールディス)と評された名作。
」(アマゾンのデータベースから引用)

普通の人間の想像力では大風呂敷を広げるにも限度がある。思いつく限りのスケールの大きな話をしてみろと言われても、人類の歴史だとか、地球の成り立ちだとか、せいぜい150億年前のビッグバンくらいが限界だろう。

人間の想像の大きさを競う種目があったら、この作品はギネスブックに載っておかしくない。太陽系を超えて、銀河を超えて、5千億年の時空を超えて、あらゆる生命の営みを観察し、全宇宙の知生体と意識を統合し、やがて宇宙の終焉間近に、万物の創造主スターメイカーの意図を知るまでの、果てしなく壮大な物語である。数ページで数億年のスケールに圧倒される。

登場人物はほぼ「わたし」一人だ。「わたし」はテレパシーを通じて他の星の知的生命体の精神と共鳴し、統合されて「わたしたち」になる。統合によってその精神は覚醒レベルを高めていき、すべてを見渡す究極の集合知性へと発展していく。その高みから全宇宙を俯瞰する。

◆登場人物がいないためにそこに人間的ドラマはない。星々の多様な形態の生命の興亡史を歴史家として叙述しているのみだが、読み進むにつれ「わたし」のビジョンがどんどん大きく、普遍的なものになっていく加速感が読むものをひきつける。SFというより哲学書といったほうが正しいのかもしれない。1930年代にオラフ ステープルドンによって書かれた伝説的なこの作品は、後世のSF作家や科学者に多大な影響を与えたと言われる。世界の階層性や、精神的な統合への意志、進歩の概念、唯一の創造主の存在など、キリスト教、西洋文化的な要素を強く感じる。普遍を描いているので古さは感じない。フリーマン・ダイソン、ボルヘス、クラーク、バクスターらの絶賛の言葉は今も活きている。

« ラジオ体操 | トップページ | くるくる視点 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

羽衣ストーブ館

  • 静岡新聞 2001年5月22日記事
    フランスを中心としてヨーロッパで製造されたアンティークストーブ100点以上はひとりの日本人個人によって南仏を中心に長期コレクションされたものであります。 ◆南仏より海を渡ってやってきたアンティークストーブ100台たちは清水港へ上陸して、東海大学社会教育センターに移築した江戸時代に作られた曲り屋の屋敷のなかに展示された。 ◆鋳物ストーブ100台たちは、その後も数奇な運命をたどることになる。
フォト

22カードの意味

  • _0 愚者
    タロットアルカナの22枚には、世界の変化を表すことが記されています。カードの意味を知るには、図案のもつ表のイメージから解放されることが大切です。

オンライン状態

ペンギンタロットの原画

  • 0の愚者から21の宇宙(世界)まででひとつの話が結ばれる
    兆しを理解して現実なるものを深くたのしく感知する訓練カードです。 タロットを機能させるには慣れ親しむことからはじまります。 まだ目には見えていない物事や潜在的な事柄を導き出す道具でもあります。 各アイコンをクリックすると、21のカードが観れます。