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2012年7月18日 (水)

ル・クレジオ『雨月物語』を語る

 溝口の芸術は視覚的であり、まさにその点で彼は現代映画を発明した。それはまたひとつの建築であり、それぞれのショットが細心の配慮をもって構築され、それぞれの撮影アングルは彼が筋立てに与える意味のために選ばれ、書剖の個々の要素は物語のなかでひとつの役割を演じるために設えられている。
 
空を背景にした枯木の鋭い爪は、源十郎の肉体に善かれた魔除けの梵字に負かされ、若狭姫の誘惑の歌は、仏僧の呪文に負かされる。同様に、宮木の人間性に見合うのは、若狭姫の欲望の動物性である。源十郎が愛人を退けようとするシーンで、女の顔つきが獣のような面に変貌し、叫びと晦時の混じる彼女の声は何を言っているのかわからなくなる。
 怪奇なものは単に、祝女のシャーマニズムの古い文化に結びついたもうひとつの世界の探索にとどまらない。
  それはまた、この物語の当事者たちが陥った疎外の、非現実の表現でもある。

『雨月物語』を観ながら人が覚える感動は、映像の美しさと、付随する太鼓の重々しい音にも似た、シークエンスのゆったりとしたリズムに由来する。しかしその感動はまた、表現される感情のはげしさ、事実確認の突き刺すような痛みからも生まれる。源十郎、宮木、藤兵衛、阿浜の暮らす荒涼とした谷間を開く映像を前にしたときに、最初に自分が気づい
たことを覚えている。そのとき私は、ああした人々が日本人であることを、彼らが別の言語を話し、別の暮らし方をしていることを忘れていた。私は彼らの世界のなかにいた。私が彼らに所属するように、彼らも私の一部を成していた。彼らの生きる幻想は私の日常になっていた。

Jmg2012ル・クレジオ映画を語る (2012/6/12)
溝口健二『雨月物語』(1953)について


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    フランスを中心としてヨーロッパで製造されたアンティークストーブ100点以上はひとりの日本人個人によって南仏を中心に長期コレクションされたものであります。 ◆南仏より海を渡ってやってきたアンティークストーブ100台たちは清水港へ上陸して、東海大学社会教育センターに移築した江戸時代に作られた曲り屋の屋敷のなかに展示された。 ◆鋳物ストーブ100台たちは、その後も数奇な運命をたどることになる。
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