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2012年9月25日 (火)

古事記1300年〈ニュースの本棚〉

■面白くて深い謎かけテキスト 鎌田東二・京都大学こころの未来研究センター教授(宗教哲学)
本年は『古事記』編纂(へんさん)1300年、『方丈記』著述800年、法然没後800年、親鸞没後750年という節目の年に当たり、日本の宗教や文化の総括と未来につなぐ力と知恵が問われている年だ。

 日本「古典」として第一に挙げられる古事記は、本居宣長の『古事記伝』以来、実に多様な研究書が刊行されてきた。ここで改めて取り上げてみたい研究書は、まず益田勝美『火山列島の思想』。この本を手にした学生の時、ワクワクした。「火山列島」のこの国にどのような「思想」が展開していったのか。「原始の日本人の呪術的想
像力」を、古事記の創世神話や出雲神話や英雄伝説の内側に潜行して、その「呪術的想像力」のイメージと論理をたぐりよせるカワザに目を燈った。

 火山の国の神々
とりわけ、本のメーンタイトルともなった論考は、「日本的固有神の性格」という副題で、「オオナモチ」と呼ばれた「大国主神」を、「大穴持の神として、この火山列島の各処に、時を異にして出現するであろう神々の共有名」で「火山の国に固有の神」と見てとるが、「3・11」後の日本社会の中での古事記や日本の神
の問題を考える際、避けて通ることのできない視点であろう。

 続いて上山春平『神々の体系』。古事記の「神統語」がシンメトリック(対称的)な構成を持っていることを鮮やかに切り取って見せた。神代の物語の中で、前半の国生み神話が「自然形成のロジック」を、後半の高天原・出雲神話や天孫降臨神話や日
向神話が「社会(国家)形成のロジック」を展開し、後者において重要なはたらきをするキーマンとして藤原鎌足・不比等の親子の存在と役割を翻り出した。

 山上伊豆母『日本贅能の起源』(大和書房・2940円)は、古事記の「フルコト」(古詞・古事)が「王権の口爾秘伝」として「近習の楽家多氏」などに継承されていく芸能史的展開をとげたことをスリリングに描き出した。

古事記研究については、文学・歴史学・比較神話学・宗教学・民俗学・深層心理学など様々な学問的切り口や方法論があったが、古事記を一個のコスモスとして、固有のテキスト解釈に徹しっつ内部論理と世界像に迫ったのが、西郷倍綱『古事記の世界』(岩波新書・品切れ)と、それを批判的に内部突破した神酔熟際光『古事記の世界観』(吉川弘文館・1785円)である。後者は、前者の高天原-あしはらのなかつくによもっくに葦原中国-黄泉国という垂直的三層構造の世界像を徹底批判し、アメークニの二元世界において、「葦原中国を中心とした世界像」を「天下」として捉え、それを治める「天皇」の物語に帰結していく古事記という作品の「世界観」に照準する。

 誰がまとめたか
 多様な作品論的研究に対し、徹底して成立史的研究に的を絞ったのが、大和岩雄『新版 古事記成立考』である。ここでは、稗田阿礼の実在も大安麻呂の撰述も疑問に付され、否定される。そして浮かび上がってきたのが太安万侶の曽孫の多人長で、われわれが知る「現」古事記は、「原」古事記を元に多人長が平安時代初期に著したと結論づけ、これまでの古事記研究の前提そのものを含めて批判の対象とした。
 要約すれば、古事記というテキストの内容をどう捉えるかという問題系と、それがいつ、誰によって、なぜまとめられたのかという問題系の解明に分かれつつ、しかしその両者が関係し合う。古事記は実に面白くて深い、謎かけテキストである。
 ◇かまた・とうじ 51年生まれ。10月に『古事記ワンダーランド』(角川選書)を刊行予定。

【朝日新聞】2012年09月23日(日)

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