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2013年4月27日 (土)

ジョン・ファウルズ(John Fowles、1926年3月31日-2005年11月5日)

イギリスエセックス州、葉巻商人のロバート・J・ファウルズと、教師のグラディス・リチャードの子として生まれた。ベッドフォード校とオクスフォード大学で、フランス語とドイツ語を学び、卒業後フランスとギリシアと英国で教師として働いた。
『コレクター』が売れると教職を辞し作家として出発した。1968年ドーセットに移り住み、そこを舞台として『フランス軍中尉の女』を書く。「コレクター」よりも前に書いた長編小説、『魔術師 (The Magus)』を脚色し直し映画化。この作品は彼のギリシアでの経験を元にしたものであった。
『フランス軍中尉の女』は、1981年にイギリスの劇作家ハロルド・ピンター(2005年にノーベル文学賞受賞)により映画化され、アカデミー賞にもノミネートされた。

「魔術師」 The Magus
序 一九九八年版

 魔術師は二番目に出版されましたが、実は私の最初の小説なのです。私は何年もの間、多分、世間一般で最初の誕生を迎えるのと似た混乱があったにせよ、二〇数年間、この小説に手を加えてきました。最初に作品が出来上がった時には、世間のおとうさんやお母さんに最初の子供が生まれる時に経験するような当惑を経験しました。しかし、その子供たる著作は私の手を離れ、確実に云える亊として、ありとあらゆる読者の判断や意見に長年に渡って曝される運命なのです。それはあたかも、世界中に配送される不格好な小包みに貼り付けられたぎこちない宛名書きのラベルのようなものです。作品を出版する以前、私が作品を小包みに仕立てている時に、いつの日かこのかわいいモンスターとそれが後世に与える影響が世界中を駆け巡り、その亊から多いに教えられる所があり、自分で仕掛けた爆竹に驚いて飛び上がる亊になるだろうと予言されたら、自分が傷つけられ侮辱されたように感じたかもしれない。そして、明らかに私はさほど賢明な人間とは云えないゆえ、第一作としてこの素晴らしい作品を書くことは無かったことでしょう、、、。それにしたって、一体全体どうやって私が未だ知りもしない事柄を教えられると云うのでしょう?

 私も今では七十歳を越え、多少の謙虚さとささやかな知恵を学びました。あらゆる文学で真に偉大な航海が始まる場面は別にして、私が人生から学び取った一つの考え方、それが私に重大なヒントを与えたのです。ある意味、それは自分の真に云いたい亊が何であるのかとか、それをどのように云えばいいのかと云う亊を、本当に理解すると云う問題では無く、喪失の問題だったのであり、それゆえにこそ、今でも思っているのですが、発見に至るまでの長い航海のようなものだと思えたのです。様々に工夫を凝らして書き直してみたものの、その文章は決して「完結する」亊は無く、その結果の出来栄えは私にとってはどうもパッとしたものではありませんでした。

 唯一の創造主と云うものが存在するとすれば、天地創造の二日目に為すべき亊を心得ているはずです。灰色のしなびた顎髭を掻きながら、まったく自信喪失と云った面持ちで頭をふりつつ、、、実際まったく妙な話しなのですが、彼のゲームを紹介するでしょうか?とすれば、私は創造主たる神の本性を本当は誤解していたのではないかと考えざるを得なかったのです。多分、私が古代ギリシャ人達がオリュンポスの山に抱いたのと同じような敬意を払うべきだったのでしょう。それにしても古代ギリシャ人達は何故ヘラやアテネやアフロディテの居場所を見つける亊ができたのでしょう?

 この物語のエッセンスは一人のヨーロッパ人の若者です。成長すると云う亊は畢竟、教育と人格の面での様々な冗長さをゆっくりと脱ぎ捨てる、奇妙で時として痛みを伴うものなのです。その教育と人格の二面で愚か者に誤った教えを受けた場合もあるでしょうし、自然にまかせて粗野なままに形成されたという亊もあるでしょう。それはある種、精神的なスリム化の過程であり、一面では余分な脂肪をそぎ落とす健康的なスリム化でもあるでしょうが、反面では痛みを伴った驚くような自己嫌悪、恐らく自分の意志に反してそうなってしまったものへの深い嫌悪感の経験でもあるのです。ギリシャでのあの目もくらむばかりの青春時代、そこでの本当の私は絶望的なまでの劣等感に悩むひねくれ者であると同時に感受性豊かな人間でしたが、特に自分の物事をしっかり考える力に欠けている点に、自分が嫌になっていたのです。それは本作品中で自己嫌悪に悩むニコラスの性格にまさに反映されています。私の人生は精神的な不遇を運命づけられていただけでなく、その出発点にしてから船体に穴が開きボロボロの帆をかけた船で出港するようなものだったのです。その航海で自分がどこに行こうとしているのかちっとも分かりませんでしたし、納得のゆく目的、その意味さえもつかみかねていたのです。どこへだって?なぜだい、、、?

 前にも言ったように、この本が成功した亊を思う度に戸惑いを覚えるのです。どう考えても上手に書けていない亊は分かっています。新進の作家を待ち受けている、ありとあらゆる罠に掛かっていたのですから。そのような罠のうちのあるものは明らかに若さに起因するものでした。実際どこにゆくのかも分からない、まさにその未完成さが作品の成功の一因となったのです。大抵の若者はものを知らない亊を自覚しています。そしてこの世の無常さや不確実性を知らないという亊が一般的に言っても確実に真実に近づく最短コースなのです。ある意味でこれは無知、物を知らないという亊への記念碑なのです。しかし本書を読む読者に分かっていただきたい亊は、半ば文化的で肉体的、半ば強烈でまさにそこに存在しているというギリシャそのものに対する私の深い愛情なのです。当時も今も。
 私はギリシャ人にはなりきれませんが、そうありたいのです。
    ジョン・ファウルズ

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