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2014年2月 5日 (水)

「孤独の円盤」 シオドア スタージョン

A Saucer of Loneliness (Galaxy 1953/2)

この女の人が死んでいたなら、ぼくは思った。
白い光の洪水が降りそそぐ白い海、砕け波が沸きかえっては、膨大な量のシャンプーの泡になって白茶けた砂を覆いつくすこの海で、こうして出会うこともなかっただろう。心臓にナイフを突き立てたり、心臓に銃弾を撃ちこんだりして命を断つ者は、ほぼひとりの例外もなく、おのれの胸を注意ぶかく剥きだしにする。そして海での入水自殺をえらぶ人間はどんな衝動に駆られてのことかは謎だが一糸まとわぬ姿になるものだ。

 Stre
浅い海水に漂う女の体を浜に上げた。まだ息があり気がついた女は睨みつけると海へと走った。
「やめてくれ!私は泳げないんだ!」
「なら、放っといて!」
私は女の顎を強く打ち、体を浜辺へ上げた。女は泣いていた。
「あなたは、私の事を知っているの?」
「知っています...新聞で読みました」
女は自分が裸の事に気づき恥ずかしがった。女は私から離れて近づく事が出来なかった。

そして女は自分の事を話してくれた。17歳の時。場所はセントラルパーク。すがすがしい空気の朝。
彼女は空を見上げた。ビル、鋼鉄とガラスの塊。この世界はまるで、スクリーンに投影された影の様に、美しくはかない。
そして気がつくと頭上に円盤があった。ツバメの様に優雅に空を舞い、機械の正確なリズムを奏でる愛らしさを持っていた。
回りの人たちも空を見上げて何やら話をしている。彼女の頭上1mほどの所で円盤は止まった。近くの男が彼女の方に向けて十字を切って祈っている。(わたしの頭に光の輪があると、思っているのだわ!)

人が増えて手を広げ廻った。周りの人にぶつかるかと思ったが、彼女を中心に円の空間が出来て、その中を踊り続けた。
時々円盤がぐらりと揺れる度に悲鳴があがる。円盤は持ち直してその悲鳴が新たな群集を呼ぶ。つまずくと円盤は落ち彼女も横たわった。
「助けてやれ!」 「どうしたんだ」「ぶつかったんだ」「殴られたって?」「うっかり公園も歩けねえ」群集は去った。
「お嬢さん、お怪我はありませんか?どうされました」
身なりの良い紳士が、手を差し伸べてくれた。 私は起き上がった。

「円盤がぶつかったのです」
「なるほど、それは私の仕事だ。では、こちらへどうぞ。私はFBIです」

彼女は病院へ送られ質問は殆ど同じだった。FBIが医者に代わっただけだった。やがて住まいは刑務所に変わった。
質問をされないだけましだった。「あなたは、重要人物なのです」

 ある日、円盤が運ばれてきた。それを使って、あの時の状況をを再現させられた。しかし彼女は気づいていた。(この円盤は、あちこちを削り取られ、死んでいる。もう空っぽだ)一人だけ、私の味方だという人がいた。彼は言った。「あなたが、円盤と話した事を言う必要はありません。ただ、あなたが円盤と 話した『理由』を教えてくれれば良いのです」

『理由』を思いつくには数時間のおしゃべりが必要だった。子供の頃、花瓶を割った話、ワイングラス持って素敵な男の人を見る夢の話...円盤の事を話したくないか『理由』が見つかった。
「だって、これは、私と円盤の間の事で、あなた達には関係ないでしょ!」
「しかたない。あなたには黙秘権があります。それを行使して下さい。あなたを救えなくて残念です」

『法廷侮辱罪』と言うものになり、更に時が経って、彼女は刑務所を出た。彼女はレストランに勤め始めて、素敵な男にデートに誘われた。「僕は円盤に興味があるんだ。君が出会った円盤が何を言ったのか教えてくれないか?」彼女は家に帰って泣いた。それから尾行される様になった。

家にこもる様になりペットを飼い鉢を植えた。リスも草木も彼女には無関心だった。
壜に手紙を入れて海岸から流した。これを読んでくれる人を想像した。 拾ってその事を秘密にしてくれる人。
誰に問われても、絶対に壜の中の手紙の事を話さない人。そんな人を思って彼女は壜を投げた。

「寒くありませんか」話の終わった彼女に私は声をかけた。
「あなたが壜に入れた手紙の内容は、どんなものですか」
「あなたも、それが知りたいの?」
「いえ実は知っているのです。私はちゃんと覚えています」

ある種の生き物の魂は
言葉につくせぬ孤独を秘めている
途方もない孤独だから、わかちあうほかない
自分より劣る種族を仲間として、わかちあうほかない
それがわが孤独
知るがいい、この広大無辺の大宇宙には
おまえよりもなお孤独な存在のあることを

「みんな、円盤の事を知らないわ。あれは中に手紙が入った壜なのよ。宇宙のどこか 寂しい寂しい孤独を抱えたものが、誰かに見つけてもらうために、流したのよ」
「私は、あなたの壜の手紙を拾いました。そして、海流や風の流れを調べ、この砂浜の事に辿り着いた。そして貴方を見つけたのです。美しいあなたを」女は何もいわなかったが、体から光があふれているいるように思えた。
どんな孤独にも終りはある。充分に長く深く孤独であった人にとっては。

The Twilight Zone: 「孤独の円盤」放送映像
http://www.youtube.com/watch?v=1x_dJs9NOos

シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon, 1918年2月26日 - 1985年5月8日)
アメリカのSF作家。 テレビ番組の脚本を書いて1985年 のトワイライトゾーンには2本の短編(「孤独の円盤」と「昨日は月曜日だった」)が採用 される。
「 A Saucer of Loneliness」は1953年「ギャラクシー」誌に掲載された。アメリカの雑誌小説の黄金時代末期。同じ頃に書かれたカート・ヴォネガットの初期短編集「バゴンボの嗅ぎタバコ入れ」の序文で次のように述べている。
「人間に与える生理的、心理的な効果から見るかぎり、短編小説は、ほかのどんな物語形式のエンターテイメントよりも仏教風の瞑想に似ている。」

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