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2014年2月16日 (日)

能の空間と時間

 能は「間」の芸術であるともいわれる。だがその実、肝腎の「間」の概念規定が人によってまちまちである。試みに質問してみると、建築家はこれを空間であるといい、音楽家は時間だと答える。確かに、床の間・京間・間数・間柱などはそれぞれ、空間そのもの・空間の長さ・空間の単位・物と物とのあいだを意味する空間用語であり、束の間・間を持たせる・「間」がよいなどは、時間そのもの・事と事とのあいだ・リズムないしはタイミングを表わす時間用語である。これらほともに正解といってよい。「間」はもともと中国から漢字の間で渡来した概念でもっばら空間を表わしていたが、日本語への転化にあたって時間の意義も持つようになったとされているからである。

 このように異なる分野で語を共用しそれぞれ違う概念を表わしているぶんには、他にも例があることであり、さしたる混乱は起きない。だが、一方において「間を置く」「間合いを計る」「間伸び」などのように、時間と空間が複合された慣用句が数多く存在している事実をどう説明したらよいのだろうか。たとえば「間を置く」とは空間の距離をとることであり、時間をあけることでもある。おそらくこれは、われわれの祖先が民族特性とされている独特の日本的受容によって、本来異柘の存在であった時間と空間を、矛盾の統一においてすんなりと同次認識してしまったことの表われに違いないのである。したがってこのように、まには三通りの意義が含まれているところから、一見いかにも曖昧な語のように見える。だが実は、広義な内容を一語で言い表わす多様性と言語の基本的条件とされる簡撫さとにおいて、まは他国語に類例を見ない特異な概念用語であり、この曖昧さこそ日本語の優秀性を示す要素に他ならないのである。

この創出があったがゆえに、能における時間・空間を超えて舞台と鏡の間を繋ぐとともに、それ自体が舞台でもある橋掛りの機能をフルに生かして、時間を自在に操る夢幻能という優れた演出形式が生まれ、現世と別世・現実と非現実という対極を、ごく自然な形で同次存在させることを可能にしたのである。

金春國雄「能への誘い」より

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