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2014年2月14日 (金)

「時の鳥」ジョージ・アレック・エフィンジャー

 時間旅行管理局に大金を支払って、古代アレクサンドリア図書館に出かける。
「明日のこの時刻になると、自動的にここへ連れもどされます」

 ハートスタインは恐ろしい考えにとらえられた。これだけ大勢の人びと、大学生や、大学教授や、逃亡犯人や、考古学者や、観光客や、それに人格異常の悩みをかかえた人たちが時間の中を往復していれば、そして、アレクサンドリア図書館がそれほど人気のある名所なら、何千何万もの現代人がその建物の中で身動きもとれないほどぎゅうぎゅう詰めになり、もとから過去に住んでいる人たちの物笑いの種になっているのでは?

 彼が見た図書館は採光豊かで案内板があり「司書」もいるといったように「現代の図書館に似たところがありすぎる。書物はパピルスではなく「どれもが革で装丁されて背中に象形文字で、きちんと題名と著者名をいれた近代的な本なのだ」。
タイトルは『筆写人殺人事件』『エトルリア新人小説選集第二巻』『ヒッタイト転覆計画』『冥界紳士録オシリスふたたび死す』といった故郷の図書館で見つかりそうなあらゆるものがあり、アレクサンドリアで見つけたかったものはなにもなかった。「アレキサンドリア・ニュース」新聞のバックナンバーまで揃っていた。

 この図書舘が彼の全人生でいちばん不満足な経験だったのにひきかえ、アレクサンドリアのその一夜は、たぶんいちばん記憶に残るものだった。パマリといっしょにいる一瞬一瞬が、二千年もかなたの未来にある自分の生活と、退屈でありふれた友だちのことを、物たりなく思わせるのだ。パマリはある小さい宿屋で夕食をとってはとすすめた。ハートスタインは、どんな料理を食べられるのかと好奇心を燃やした。古代人たちがどんなものを食べていたのか、彼はよく知らなかった。実をいうと、現代のエジプト人がなにを食べているかも、よく知らないのだ。しかし、宿の亭主が持ってきたものは、意外でもなんでもなかった。大皿に盛られたラムのローストと、おなじくラクダ肉のロースト。深鉢にはいったナツメヤシとオレンジ。奇妙な甘味のある、色の薄いワインが出された。
「ぼくはもっとギリシア風の料理が出るのかと思ってました。ここは長らくギリシア人に支配されていたからね。プトレマイオスはギリシア人の一族だったし、クレオパトラもエジプト人よりギリシア人の血のほうが濃かった」
「あなたはほうぼうの土地を族してらしたんでしょう。広い世界をごらんになっているのね。わたしはこのアレクサンドリアの町からいっペんも外に出たことがありません」
 ハートスタインは彼女の悲しそうな目をじっとのぞきこんだ。

「ぼくがどんなものを見てきたかを話しても、あなたにはとても信じてもらえないだろうな」自分の手を彼女のかわいい手の上に重ねた。
「話してください」パマリはわくわくした声でいった。「あなたが見てこられたことを話してください」
「そうします。でも、その前にアレクサンドリアのことを話してくれませんか。ぼくが見たのは、図書館と、この小さな宿屋だけなんです。それと、あなた」

パマリをふりかえって、彼はふと疑念をいだいた。手をのばし、彼女の顔にふれた。
「わたしほ現実よ」パマリがふしぎそうに彼を見つめた。「そうかな?」ハートスタインは彼女の肩をつかんでひきよせた。パマリは小さく吐息をもらした。けだるそうなまつげがうるんだ瞳を隠して、そのまま二度と現われなくなった。ハートスタインは彼女にキスしようと身をかがめ、無骨な両手で彼女の繊細な顔をつつみこんだ。もうすこしで唇と唇がふれあおうとしたとき、彼は前につんのめり、むらさきの輝きの中に足をつまずかせたと思うと(管理局)の時間回収ステージの上にもどっていた。

 現代に戻って「タイム・トラベルの名を借りたペテンだ!」とかみつくが、担当者は君が見たものこそが「過去」だという。
「それは過去がわれわれの持つイメージに左右されるということさ。過去はわれわれがこうだったろうと考えるイメージ、一般人のコンセンサスのとおりに見える。過去の中に,現在が影を落とさないものはひとつもない。
歴史家や考古学者がなにを知っていようと、長い歳月に耐えてどんなものが現在まで保存されていようと、その時代に本当に存在していたものがなんであろうと、そんなことはいっさい無関係。過去は大衆の信念の主観的博物館なんだ」
「客観的過去はわわれから閉ざされている。もっと正確にいえば、かりにそんなものが事実どこかに存在しているとしても,われわれにはそれが見つからない」
客観的過去を語っているつもりで「信念の主観的博物館」を語っているのではないのか? 
あるいは両者を区別する術を私たちは持っているのだろうか。

『ここがウィネトカなら,きみはジュディ-時間SF傑作選-』より

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George Alec Effinger(ジョージ・アレック・エフィンジャー)作品
『重力が衰えるとき』 When Gravity Fails (1987) ◦マリード・オードラーン
『太陽の炎』 A Fire in the Sun (1989) ◦マリード・オードラーン
『電脳砂漠』 The Exile Kiss (1991)

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