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2014年2月 6日 (木)

人間以上 (ハヤカワ文庫SF)シオドア・スタージョン

スタージョンは中篇「赤ん坊は三つ」に「とほうもない白痴」「道徳」を前後編としてつけ加えて再構成した。

第一章「とほうもない白痴」
 彼はどこかひとりは離れて、言葉と意味とをつなぐ小さな環が切れてぷらさがっている世界のなかに住んでいた。言葉も知らず、外の世界を理解することもできなかったが、不思議と飢えたり、痛めつけられたりすることほなかった。そのときがやってくると、人はいつのまにか彼と顔をあわせてその眼を見つめており、両眼の虹彩は車輪のように回転し震えるのだ。すると振りあげた棒は力なくおろされ、食物や硬貨が差し出されるのだ。彼はこうして動物のように生きてきた。外界になんの反応も示さずに。

 狂信的なピューリタニストを父親にもち、世間もなにひとつ知らされることなく幼児のように無垢なまま育てられた一人の少女が、春のめざめのなかで仲間を渇望する声にならない叫びをあげたとき、彼の意識の奥底でなにかが目覚めた。他の人間と心を触れあわすこと、心をわかちあうこと、はじめて他人と世界を共有したのだ。けれども歓喜は一瞬で終わった。憤怒に狂った父親が少女を授げ殺し、白痴に繰り返し鞭を打ちすえたのである。

 心身ともにぽろぽろになった彼は、農夫のプロッド夫婦に半死半生のところを救われる。二人は親身になって彼の面倒をみた。子供のいない夫婦にとって、彼は天からのさずかりものにも思えたのだ。その愛情に応えるように彼も外界に対応することを覚えた。これまで理解の将外にあった言葉を操ることもできるようになった。ところが、すっかりあきらめていた子供がプロッド夫婦にできることになった。彼はプロッド夫婦の家を出る。

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第二章「赤ん坊は三つ」
 今では孤独ということの意味を知りローンと名のり、彼は森の中の小屋で暮らすようになった。やがて水が低いところに集まるように、世間からはじきだされた奇妙な子供たちが彼の周囲にみられるようになる。     
 手を触れないで物を動かせる大人びた少女ジャニイ。テレポート(精神移動)をする黒人の双児ポニイとピーェイ。六歳で一人前の人間に匹敵する記憶力をもち、憎悪にこりかたまっている少年ジェリイ。少しも成長しないかわりに、コンピュータのように知識を蓄えていく赤ん坊。

 しかも、かれらは奇妙な力をもっているだけの孤独な人間の集まりというだけのものではなかった。彼らは全体でひとつの生命体でもあったのだ。一人一人は自由な人間だが、集まるとより高次な存在になる。これをゲシュタルト生命という。ローンはこの複雑な有機体の神経中枢、命令する頭だった。そしてボニイとピーニイはまがったり伸びたりする腕であり、ジャニイは気をもみ、みんなをつなぐ胴体である。赤ん坊は知力は持たないが誤りをおかさないコンピュータであり、そしてジェリイはやがてローンのあとをつぐことになる予備の頭脳なのである。

 だが彼らの前途には、順調な成長を許さない障害がまちうけていた。
 まずローンの死である。洪水のあとの風の強い晩、洪水で根をさらわれてぐらぐらになった樫の木が、下を過っていたローンの頭上に倒れてきたのである。ジェリイは頭の役割を果たすにはまだ小さすぎた。
 ローンは死ぬまぎわ、高台の丘の止に棲むアリシア・キューの家にいくように指示する。「彼女に面倒をみてもらうのだ。彼女の言うとおりにするんだ。でも、いつもみんないっしょにいるんだぞ。そして彼女を幸せにするんだ。そうすれば彼女もきみらを幸せにするはずだ」

 さまざまなトラブルを繰り返しながらも、アリシアと子供たちはあゆみよる努力をつづける。けれども子供たちを立派な人
間にそだてあげようとするアリシアの義務感が、彼女の望む方向で子供たちを幸せにすることに成功した時、ゲシュタルト・オーガニズム(集団有機体)はその幸せの大海のなかで溺れ死ぬ危機に直面したのである。

 アリシアの手厚い保護を受け、それぞれの子供たちがそれぞれに幸せになっていくことはゲシュタルト生命の部分部分に自由な発展を促すこととなり、全体としての生命を破壊することに他ならなかった。さらに、ジェリイにローンの影を感じたアリシアは、彼に向けて心を解放する。
 だが「頭」としてまだ成長しきっていないジェリイにとって、成熟した女性の心のほとばしりほ受けとめるには大きすぎた。新しい「頭」はみずからのもつテレパシー能力のため、女の自我によって自分の心を抹殺されかかっていたのである。ゲシュタルトの本能はアリシアを殺すことを要求する。

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第三章「道徳」
 危機は外的要因によるものだけではなかった。集団自体にも内在していたのである。かれらのあいだには強い結びつきがあった。だが、かれらは一つの単一の生物なのである。新しい前例のないものなのである。それは、ひとりばっちの存在である。
 ゲシュタルト生命は実際なんでもできる。何でも手にいれられる。しかし、そうしたことがあろうと、かれらがひとりぽっちであることから逃がれることは決してできない。
 その全能のカと大いなる孤独の認識のなかで、ゲシュタルトの成長は歪められていく。この集団には今ひとつ重要なパートが欠けていたのだったのだ。
彼らはみな若く新しかった。人間それぞれの実体は不死という点では僅かの間しか生きなかったが、それでもみんな不滅だったのだ。質問を形づくることは、答を得ることだった。

 ぼくは一個なんだ、部分で属していて……
  (ようこそ)
 なぜばくに話してくれなかったんだ?
 (きみは用意ができていなかつた。きみほ完成されていなかったのだ。ローンに会う以前のジェリーは何だったんだ~)

 そしてもう……それは倫理なのか~ ぼくを完成したのはそれなのか~
(倫理とほ簡単すぎる言葉だ。だが、そうだ……多数がわれわれの第一の特性なのだ。
 結合が第二だ。きみの分身たちがみなそれぞれの部分だと知っているよう腎きみは、われわれも人塀の分身であることを知らなければいけないのだ)
 そしてジェリーは自分を恥入らせたことは、それぞれみな人間が人間に対してすることかもしれないが、人間性としてはやれないことだということを知った。

  「ぼくは罰を受けたんだ」かれは言った。
  (きみほ免疫になったんだ)
   われわれは、全人類の作りあげることに責任があるのか~
  (ちがう! われわれは、わかちあうんだ。われわれは人類なんだ!)
   人類はそれ自身を殺そうとしている。
  (喜びに似た、楽しさの波とすばらしい確信)
  (今日は今週はそう見えるだろう。だが人類の歴史に於ては……おお新しい種族、原爆戦争もアマゾソの広大な河面に立つさざ波なのだ)

 かれらの記憶や計画や計算の結果がジェリーにどっと流れこみ、その性質や模能がわかったのだ。そして自分の学びとった品性が、どうして自分の考えかたを小さくしているかが判った。それは砕くことのできない力があったからだ。そういう意識は、それ自体のためとか自身に反して用いることはできなかった。これこそ人類がなにゆえ、いかにして存在したか悩み多く、力強く自身の偉大な運命にふれて聖なるものとなったかだ。人々が死ぬとき幾百万もの人々が生きられるであろうとも、その死を許されない者があった。ここに人類が危険にさらされるような場合の指標や標識の灯があり、全人類が知っている保護者がいた。
 自分が原子であり、集団は分子であるとわかった。細胞中の一つの細胞だとわかり、全体の中に喜びとともに人類がそうなるであろう未来の構図を知った。(ありがとう、ありがとう……)そして慎ましく仲間に加わつていった。

この小説はサイボーグ009の物語設定のヒントになっている。「一人ひとりでは社会に適合できない子供たちが実はエスパー的能力があり集まって」大きな試練を乗り越えていく。集団として有機体となる幼年期への目覚めが、詩的なイメージで語られる。

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