« きうり民と風の民 レジェンド | トップページ | ウーマンロック [月末リクエスト] »

2016年3月24日 (木)

カポーティ『誕生日の子どもたち』(文春文庫)

映画みたいな短編集を読む。
カポーティ『誕生日の子どもたち』(文春文庫)

「私の頭にはいつもどこか別の場所があるの。そこでは何もかもが美しくて、たとえば誕生日の子どもたちのようなところです」

アメリカ南部の食べ物がいろいろと出てくる「感謝祭の客」、驚くべき朝食の描写は映画のファーストシーンみたいだ。

「朝食はきっかり五時半に用意され、量は常に食べきれないくらいたっぷりあった。今でも僕は、あの未明の豪勢な料理のことを思うと、ノスタルジックな食欲を身のうちに感じることになる。ハム、フライド・チキン、フライド・ポークチョップ、なまずのフライ、リスのフライ(季節が限定される)、目玉焼き、グレイヴィー・ソースをかけたとうもろこしのグリッツ、ササゲ、煮汁を添えたコラード、それをはさんで食べるコーンブレッド、丸パン、パウンドケーキ、糖蜜つきパンケーキ、巣に入ったままの蜜蜂、自家製のジャムとゼリー、甘いミルク、バターミルク、チコリの香りのする地獄みたいに熱々のコーヒー。」

この短編小説集には、6歳から10才までの少年と、その家族周辺が語られる。

「僕らはふたりで専用の荷車(実はおんぼろのうばぐるま)を引っ張って、庭に出て、ピーカンの果樹園まで行く。その荷車は僕のものだ。つまり、それは僕が生まれたときに買われたものだ。」

様々な情景が浮かんでゆく、記述がつづいてる。
「三時間後に僕らは台所に戻って、荷車いっぱい集めたピーカンを剥いている。自然に風で落とされたものに限られているから、それだけの数を集めるのはけっこう大変だ。背中がずきずき痛む。葉っぱの下に隠されたり、霜のおりた草の陰に埋もれたピーカンの実を捜すのは簡単ではない。おおかたの実はとっくに枝から振るい落とされて、果樹園の持ち主の手で売り払われていた(要するに、僕らはそこの持ち主ではないのだ)。
カチイイイン! 
殻の割れる気持ちのいい音が、小ぶりの雷鳴のようにあたりに響きわたる。甘くて脂分を含んだ象牙色の果肉のまばゆい山が、乳白ガラスの鉢に盛り上げられていく。」

そんな少年たちの村へ、13歳ほどの女の子とその母親が引っ越してくる。外見や物腰さらに言葉遣いは、既に大人だった。突如として現れた彼女は土地の人間、特に少年少女達に強烈なインパクトを与えてゆく。実は父親は刑務所にいて、母親は言葉が不自由なので、彼女は大人の役を務めてるのだ。そんな風変りな女の子に、子供たちは熱に浮かされたように虜になってしまう。

「この世界には神様がいらっしゃって、悪魔がいるということを わたくしはさんざん目にして参りました。しかし、わざわざ教会まで出向いていって、悪魔がどんなに罪深い阿呆であるかという話を聴かされたところで、それで悪魔をどうこうできるというものではありません。
13歳の少女、あっぱれです。さらには悪魔を愛することが大事と説き始めるのですから、なおのこと。この町を抜け出るには悪魔の力を借りる必要があることを言った」「誕生日の子どもたち」より

何者にも侵されない強固な矜持と意志。自分を脅かす「悪」や理不尽な差別と弱者を騙す詐欺などを、許さず徹底的に戦い排除する。その強さは紛れもなく純粋な心の賜物で、汚れない精神の極みでもある。現実に目を据えながら自分の夢を追う少女へ、周りの子どもたちは憑かれるのだった。そんな時は突如として残酷な現実で、映画のラストシーンのように断ち切られてしまう。無垢の時代は終わったのだ。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167705718


異色作「無頭の鷹」は他のカポーティ短編集にも収録されているが、翻訳によって印象が見違える。傑作。

≪世の中には生み出された作品そのものより、それを生みだした人物の方に興味がかきたてられる種類の作品がある。たいていの場合人はそのような作品の中に、かたちにすることができない、自分ひとりだけが知覚できるものだとそれまで考えていた何かを見出すことができるからである。≫ (村上春樹/訳「無頭の鷹」より)

ニューヨークの画廊に勤務するヴィンセントへ、ある日突然ドアを開けて自分の絵画を買って欲しいと訪ねて来た少女。いつの時代を生きているのか分からない、髪の短い風変わりで滑稽な容姿に驚きながらも、ヴィンセントは彼女が描いたという絵画に魅了される。首を落とされた女と頭のない鷹の絵には、ドッペルゲンガーを表す彼自身が、歪んだ形で描かれているという強迫観念にかられた。それほどに自分のことを、深く知っている娘へも惹かれてゆく。
数日間、ヴィンセントは自分の部屋に住まわせて世話をするが、無垢なる少女は不穏の兆候として現れる。
「無頭の彼は、あなたにも私にも似ているわ」
彼女の言動が不気味さを増して、次第にヴィンセントは疲れ果て、精神を病んでしまう。飾っていた絵画「無頭の鷹」を、鋏で切り裂き、スーツケースに20ドルと一緒に入れて、彼女を追い出してしまう。
それなのに雷雨の下では、立ち尽くす二人の姿が並んでいるのだった。彼女こそがヴィンセント自身の、鏡のような分身であったのかもしれない。

「無頭の鷹」は「村上春樹が心をこめて訳しました」とあるとおり評価が高い。「最初の一ページから読者を魅きつけ、有無も言わせずに魅了してしまうタイプ、つまり強烈な文体や美的感覚で読ませる作家」であり、「その作品は完璧であり、魅惑的であり、そこには読者のつけこむ隙は殆どない。
具体的に言うなら、他の作家にも『無頭の鷹』のような小説を書くことはできるかもしれないが、誰にも『無頭の鷹』を書くことはできない。そういうことだ」
と訳者は書いている。

Truman Capote,1924‐84。ニューオーリンズ生まれ。19歳で発表した「ミリアム」はO・ヘンリー賞を受賞。48年に長編小説「遠い声 遠い部屋」刊行。早熟の天才、恐るべき子供と注目を浴びた。「夜の樹」「草の竪琴」「ティファニーで朝食を」「冷血」など、映画化された作品が多い。役者として映画にも出演している。Image


« きうり民と風の民 レジェンド | トップページ | ウーマンロック [月末リクエスト] »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

羽衣ストーブ館

  • 静岡新聞 2001年5月22日記事
    フランスを中心としてヨーロッパで製造されたアンティークストーブ100点以上はひとりの日本人個人によって南仏を中心に長期コレクションされたものであります。 ◆南仏より海を渡ってやってきたアンティークストーブ100台たちは清水港へ上陸して、東海大学社会教育センターに移築した江戸時代に作られた曲り屋の屋敷のなかに展示された。 ◆鋳物ストーブ100台たちは、その後も数奇な運命をたどることになる。
フォト

22カードの意味

  • _0 愚者
    タロットアルカナの22枚には、世界の変化を表すことが記されています。カードの意味を知るには、図案のもつ表のイメージから解放されることが大切です。

オンライン状態

ペンギンタロットの原画

  • 0の愚者から21の宇宙(世界)まででひとつの話が結ばれる
    兆しを理解して現実なるものを深くたのしく感知する訓練カードです。 タロットを機能させるには慣れ親しむことからはじまります。 まだ目には見えていない物事や潜在的な事柄を導き出す道具でもあります。 各アイコンをクリックすると、21のカードが観れます。