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2016年6月15日 (水)

『パルプ』チャールズ・ブコウスキー(ちくま書房)

柴田元幸「史上最低の私立探偵」

安原顯「年に一度、必ず読み返す本」
高橋源一郎「柴田さんのチャールズ・ブコウスキーの『パルプ』の翻訳は、日本翻訳史上の最高傑作と思います。あの作品の柴田訳のブコウスキーは僕の文章の理想像です」

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「ハード・ボイルド」調の主人公ニック・ビレーンは、凄腕だと思っているが失敗ばかりの私立探偵。
死んだはずの作家セリーヌや、宇宙人らしき美女が出て来たり、登場するキャラクターも はちゃめちゃでギャグやユーモア満載。

俺はオフィスにいた。オフィスの契約期限はもう切れていて、マッケルヴィーは追い立ての手続きをはじめていた。馬鹿みたいに暑い日で、エアコンは壊れていた。ハエが一匹、机の上を這っていく。俺は手のひらをつき出し、そいつをあの世へ送り込んだ。ズボンの右脚で手を拭いていると、電話が鳴った。

電話の相手が依頼人としてやってくる、すばらしく魅力的な肉体をした絶世の美女。美女は「死の貴婦人(レイディ・デス)」と名乗る。

「死の貴婦人」はハリウッドに潜伏しているセリーヌを探してほしいと依頼した。セリーヌは『夜の果てへの旅』『なしくずしの死』『またの日の夢物語』などを書いた、実在するフランスの作家。
反抗と罵りと怒りを爆発させ、人生のあらゆる問いに対して〈ノン!〉を浴びせ、狂憤に満ちた恐るべきアナーキーな破壊的文体で衝撃を与えた。

「セリーヌは死んだよ。セリーヌとヘミングウェイは一日違いで死んだんだ。三十二年前に」とセリーヌがすでに死んでいることを知っている〈俺〉はそういうが、一時間六ドルで仕事を引き受けた。

また電話がかかって来て、新たな依頼人のジョン・バートンは「赤い雀(レッド・スパロー)」を探しているという。「赤い雀が見つかったら、一生ずっと、毎月百ドルずつあげよう」。

〈俺〉は「死の貴婦人」の情報通り、本屋でセリーヌそっくりの男と遭遇する。セリーヌが何を立ち読みしているかを見て、話も少しするが結局逃げられてしまう。捜査は振りだしだが、〈俺〉は競馬に行って金を使い、夜は酒を飲んで過ごした。

契約の切れたオフィスをめぐるごたごたもなんとかなって、電話でまた馬券を買う。俺は電話を切った。やれやれ。人間なんて地面一センチ一センチを確保しようと苦労するために生まれる。苦労するために生まれ、死ぬために生まれる。
俺はそのことについて考えてみた。そのことについて、じっくり考えた。
それから椅子の背に寄りかかって、タバコをゆっくり喫いこみ、ほとんど完璧な輪を吹き出した。

ツキがめぐって来たのか、さらに依頼が二件舞い込んだ。一件目の依頼人はジャック・バスという、50代半ばの金持ち風の男。まだ20代の奥さんシンディの様子が最近何だかおかしいので、浮気している相手がいないかどうかを依頼。

二件目の依頼人は30代のハル・グローヴァーズという男。ジーニー・ナイトロと名乗る宇宙人に付きまとわれて困っているという。ジーニーには不思議な能力があって、命じられると何でもその通りにしてしまうという。〈俺〉は「グローヴァーズ、あんたただ女のケツに敷かれてるだけだよ。そういう男っていっぱいいるよ」というが依頼を引き受ける。

セリーヌが本物のセリーヌかどうか調べる、赤い雀を探す、シンディの浮気調査、グローヴァーズにつきまとう宇宙人らしき美女の退治などの依頼が、同時進行で進んでいく。だが赤い雀には何の手がかりもなく、シンディの浮気調査では失敗ばかり。宇宙人の美女ジーニーは、相手の方が、二枚も三枚も上手で〈俺〉は手も足も出ないのだ。

やがて本屋でセリーヌを捕まえることに成功する。俺はそばに寄っていった。『死の床に横たわりて』のサイン本だ。と、奴が俺に気づいた。
「昔は」奴は言った。「作家の人生の方が、書いてるものより面白かった。いまじゃ人生も書いたものも、どっちもつまらん」奴はフォークナーの本を元に戻した。「あんた、このへんに住んでるの?」俺は訊いた。「かもな。あんたは?」「あんた、昔はフランスなまりだったんじゃない?」俺は訊いた。
「かもな。あんたは?」
「いや、全然。なあ、あんた、誰かに似てるって言われたことない?」
「人間みんな、多かれ少なかれ誰かに似てるものさ。あんたタバコ持ってるか?」「おう」俺はタバコの箱を引っぱり出した。「あのな」奴は言った。「一本出して火をつけて、喫ってくれ。そうすりゃ少し静かになる」奴は立ち去った。

やがてオフィスに薄いピンクのスーツを着た類人猿のような巨漢たちが現れて、一万ドルをくれれば「赤い雀」を渡してやるという。〈俺〉は、すべての事件を解決することが出来るのか。

「死の貴婦人」も宇宙人らしきジーニーも絶世の美女で、2人と〈俺〉が一緒にいる所を見たバーのバーテンダーはびっくり仰天する。〈俺〉が席を外してくれと頼む。
「いいですよ。でもあとひとつだけ教えてくださいよ」「いいとも」
「なんであんたみたいなデブの醜男が、そんなにもてるわけ?」

「ワッフルにバターミルクをかけるからさ。さ、とっとと行きな」

 

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