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2016年10月16日 (日)

モラヴィア/ シュルリスム・風刺短編集

『ワニ』Alberto Moravia

モラヴィアのシュールな短編小説。

クルト夫人は夫の上司である銀行支店長の御宅を訪れて、奇妙な光景を目撃する。のそりのそりと部屋にワニが入ってきて、妻ロンゴ夫人はまるで毛皮を羽織るかのようにワニを身にまとう。紛れもなく生きたワニだった。

夫人は紅茶を淹れるため、素肌を半分むき出した背中にワニをしがみつかせたまま、重そうな素振りもなく、威厳をたたえて客間を移動する。

これは確かに珍妙であるが、ワニを身につけるのが最新流行のファッションなのかもしれない。グラデーション豊かな緑に黒い班点ある、ギザギザ鱗板で堅く覆われた尻尾は、見事な視覚効果をもたらしている。個性ある都会的なロンゴ夫人は最近パリに行ったという。上流社会に憧れてるクルト夫人の妄想は、次第に膨むのだった。

「髪を頭頂高くにまとめる髪型のように、市電やバスなどの混み合う空間では、ワニは少なからず迷惑になると思われる。でも自分とは違ってロンゴ夫人は、自家用車を持っているわ。イヴニングドレスとティアラで着飾って、市電に乗ろうとか映画館に行こうなんて思わないもの。ワニだってオペラとか舞踏家といった特別な催しにしか着て行かないに決まっているわ。」

紅茶に足らなくなったレモンを運んできた若い女中も、背中に立派なワニをしがみつかせていた。いかにも健康的で、丈が短かく窮屈な服から引き締まった黒い手足がはみ出している。ウリフリ地方出身の女中に、小ぶりなワニを衣装したのは似合い過ぎていた。「これはちっとやり過ぎ、裕福な奥様だからこそできる無駄遣いよね。」と思う。

大食漢として知られるワニの餌代も、夫の薄給からは、大型のトカゲだって飼うことはできないだろう。しかし自分もいつかはロンゴ夫人に、負けないワニを手に入れようと誓うのだった。

モラヴィア「薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集」 (光文社古典新訳文庫) 収録。

ファッションと流行のもつ滑稽さがシュールに描かれる。作者モラヴィアがイタリア人で、やはりファッションは切っても切れない関係にある。安易な流行ファッション、それに飛びつく人々は風刺の対象にされるのだ。

ゴダール映画『軽蔑』の原作者で、倦怠描写が異様につづくモラヴィアという印象だったが、内容は意外にも全盛期のTWO BEATがやりかねない、過激な超現実なシニカルなネタ満載された風刺短篇集。モラヴィアが面白く笑えるショートショートを、沢山書いてたとは驚きの光文社古典新訳文庫オリジナル編集。

『パパーロ』モラヴィア短編小説

得体の知れない非合法の「パパーロ」を売りさばいて、儲けようと企む男の一家の話。

パパーロの状態がすこぶる良かったので、そっくりロット買い占めた。最初は半信半疑だったが、格段に利潤のよさそうな取引を逃すわけにいかなかった。

秋にパパーロを売却すれば、500%以上の利益が得られると妻に聞かせた。

「臭かろうがチクチク刺されようが構わない、数百万が手に入るのだ」

巣にいる蛇のようにシャーッと物哀しい音を、娘は心地よいと感じて、眠っている間に優しくあやしてくれるようだと言う。

ある晩、大食漢であるパパーロは、果物を啜るのと同じように、妻の片足を啜ってしまった。指先の爪のついた綺麗な皮膚しか残っておらず、ストッキングのように巻くこともできた。この蛮行に顔色を失った彼をなだめたのは、妻だった。

「せっかく耐えたのです。あと少しだけ待っても同じこと。10月まで待ちましょう。富に比べれば、足の片方なんて大したことじゃありませんよ」

その前から夫妻はパパーロが、娘に身篭らせていた前兆を感じていた。得体のしれないものに身の破滅。家具は腐り果て、妻は片足を失い、娘は凌辱される。

急いで取引先へパパーロを売却すると、非合法を取り締まる機関から逮捕されてしまうのだった。

悲喜劇の要素が満遍なく展開されている短編。結局、パパーロとは何だかとは、一切記されてはいない。

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表題作「薔薇とハナムグリ」は、薔薇だけを好むコガネムシの一種たち仲間の中で、キャベツだけを好むハナムグリの娘を描いている。その嗜好は母親ハナムグリにも理解されないし、仲間にばれれば糾弾されてしまうだろう。これは性的少数者を寓話化した物語として読める。

官能的な寓話「薔薇とハナムグリ」、眠り続けるモグラの怪物の夢に操られる島民の混乱を描く「夢に生きる島」。ほかに「部屋に生えた木」「ワニ」「疫病」「蛸の言い分」など、シュールで風刺のきいた世界が堪能できる20世紀を代表する作家モラヴィアの傑作短篇15作。「読まねば恥辱」級の面白さ!

目次
1 部屋に生えた木
2 怠け者の夢
3 薔薇とハナムグリ
4 パパーロ
5 清麗閣
6 夢に生きる島
7 ワニ
8 疫病
9 いまわのきわ
10 ショーウィンドウのなかの幸せ
11 二つの宝
12 蛸の言い分
13 春物ラインナップ
14 月の〝特派員〟による初の地球からのリポート
15 記念碑

アルベルト・モラヴィア Alberto Moravia
[1907-1990] イタリアの作家。ローマ生まれ。9歳で患った脊椎カリエスで自宅とサナトリウムで長い療養生活を送る。療養所を出て執筆を始めた処女作『無関心な人びと』(1929刊)が大きな話題となり、以後、多くの長短篇小説のほか、評論、戯曲、旅行記など多岐にわたるジャンルで精力的に執筆活動を行った。またイタリア共産党から欧州議会に立候補して当選するなど、積極的に社会参加を行った。主な著書に長篇『無関心な人びと』『軽蔑』『倦怠』がある。

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