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2017年3月21日 (火)

内田百閒「百鬼園随筆」

内田百閒「百鬼園随筆」

百閒が凝視する世界は、顕微鏡のように細部と詳細を極めている。そこで表現されるものは現実を越えて、写生描写よりも超現実感覚がある。随筆と小説の間にあるのに、両者を遙かに超越してしまうのだ。

赤瀬川原平さんが百閒を『宇宙人の私小説』と解説してる。「要するに子供まま大きくなって、そのまま死んでしまった人と言っても構わない。この世では子供の特徴である。だから子供には宇宙人の特徴が重なっている。」

赤瀬川さんも絶賛した『蜻蛉玉』では、日本銀行に爆破して、押し入ろうとする空想の理由が詳しく述べられる。「整理されていないと気が済まない性分から、札束を上下裏表全部そろえる作業を、一晩で出来るだろうか」という貴重面な私と、丸いのが駄目なL君との対話。

「丸いものはいけませんか」
と私は念のため聞いてみた。
「いけませんねえ、特に小さな奴がいかんです」とL君が、いやな顔をして云った。
「林檎やボール位になると、まだいいんですが、葡萄、それからラムネの球、それから女の根懸け、あんなものが一番いけないです」
「憚りに入れるナフタリンの球はどうです」
「いけませんねえ」
「蜜柑玉のお菓子はどうです」
「駄目です」
「土瓶の蓋の摘みはどうです」
「止して下さい」
 とL君が怖い目をして云った。私は悪かったと思って、その話を止めた。しかし、腹の中では、まだいろいろと小さな丸いものを考え出して、それをいちいちL君に確かめてみたくて仕方がなかった。『蜻蛉玉』内田百間より

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現実を越えるのは、他の人には見えないものを見て、それを表現するから現出する世界。夏目漱石の門下生になりながら、芥川龍之介みたいに流行作家になることもなく、書きたいものしか書かなかった。他人とは違う価値観を貫き通したんで、借金取りに追われ同僚などから借財に借財を重ねて暮らしたらしい。

『地獄の門』は百閒らしい借金話。
明治の文豪で法政大学教授が、いくら友人からはもう借りすぎて借りられなくなったから、新聞広告に載っていた高利貸しを訪れる話などは、普通書かないだろう。
Aという借金取り、Bという追い込み屋とのやり取りを事細かに描写している。世の中の仕来りや空気、常識など百鬼園先生には関係ない。数年前「流行った「KY」などどこ吹く風。百鬼園流が世の中の標準とばかりに、嫌がる周辺まで巻き込むのが可笑しい。

『明石の漱石先生』では22歳の時に、漱石が郷里岡山の隣、明石市に講演で訪れたのを綴っている。大文豪の漱石宅に弟子出入りをして、先生が郷里近くに来るのは、媚びアピールする機会。異常に興奮と緊張しながら控え室を訪問するなど、純真無垢な子どものようで微笑ましい。先生への尊敬する念が只事ではない崇拝なので、講演が終わると夢から覚めた状態となる。まるでドリフのコント台本を渡された気分(°▽°)

「間抜けは単なる観念でもなく、空想でもない。現在目のあたりに実在するんだね。どうも驚いた」(『間抜けの実在に関する文献』より)

有名なのは「イヤダカラ、イヤダ」〈内田百閒 芸術院会員推薦を辞退する弁〉
「御辞退申シタイ ナゼカ 芸術院ト云フ会ニ入ルノガ イヤナノデス ナゼイヤカ 気ガ進マナイカラ ナゼ気ガススマナイカ イヤダカラ」
まるで子どものような断り口上は、いかにもこの人らしくておもしろい。
「偏屈、わがまま、へそまがり。百閒先生にはそんな形容がよく似合う。この種の発言ができるのは、周囲がアイツらしいと笑って許せる人格が備わっている証しだ。心と裏腹な言葉で体面を保ちがちな未熟者には、うらやましいことこの上ない」と伝えられるのだった。

子供か宇宙人の視点で、様々な地球体験が語られる一冊は、理科図鑑のようにオモチロイ。既に17歳で師匠漱石より、文章が達者だと言われるほど、無駄ない表現の境地になっている。

短章二十ニ篇「琥珀」「見送り」「虎列剌」「一等車」「晩餐会」「風の神」「髭」「進水式」「羽化登仙」「遠洋漁業」「居睡」「風呂敷包」「清潭先生の飛行」「老狐会」「飛行場漫筆」「飛行場漫録」「嚔」「手套」「百鬼園先生幻想録」「梟林漫筆」「阿呆の鳥飼」「明石の漱石先生」
貧乏五色揚「大人片伝」「無恒債者無恒心」「百鬼園新装」「地獄の門」「債鬼」
七草雑炊「フロックコート」「素琴先生」「蜻蛉玉」「間抜けの実在に関する文献」「百鬼園先生言行録」「百鬼園先生言行余録」「梟林記」

文庫の表紙絵は芥川龍之介で、門下生だった時代に、怖れを抱いていた感じが絵から良く現れている。タイトルは「百閒先生邂逅百閒先生図」で、「内田百間氏は夏目先生の門下にして僕の尊敬する先輩なり」という。

 

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