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2017年3月10日 (金)

室生犀星『しゃりこうべ』

曝れ頭との問答というケッタイな掌篇。死について語られているんだけれど、視覚場面的にもインパクトがある。
詩句「ふるさとは遠きにありて思ふもの」で知られる詩人の室生犀星が書いた、シュールな哲学問答する短編小説『しゃりこうべ』は無用なアニメーションみたいな世界。(^_^)

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「もう止せ。」
「いえ、わたしはわたしの言うだけのことを、わたしの生きている間はみんなに言わなければならないのです。」

「あとの者どもはあれらに勝手にさせたらいいだろう。おれ一人に取り憑ついた宿命でおまえはもう沢山だろうからいいかげんに止せ。」

「あなたはしゃりこうべですもの――そんなことは言ったって言わなくたって、この世には何なんにもならないことだとそう思いませんか。」

「ふむ、なるほどおれはしゃりこうべだ。――だが、おまえもそれになってしまって、箸のさきでその頭の鉢を曾かつておれののを拾いあげたように、その子供らにつまみ上げられるだろう――だからいいかげんにしろ。」

「いえ、わたしはまだまだですもの。ほんとにまだまだだ――。」

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「迎えにゆくぞ、――」
「来られるものですか? 不吉な、そして用もないしゃりこうべさん。」

 かれはそこで又一つ、追いかぶさったように身ぶるいをした。

「その頭の鉢の地がだいぶ剥はげかかっているぜ、――風邪をひとつ冒ひいたってもうそれきりだと思うがよい、おれの見舞いにゆく前に、誰かが行っておまえのかたをつけてしまうだろう。」

「おどかしたってそりゃだめです。――このとおりわたしはありがたいことには、全くこのとおりにいきいきしているんでございますからね。」

「いや、ありがたいことにはそんなひまにも少しずつずり込んでくるような気がするからね、まああわてずにおれみたいになるんだね。」

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――あんなに永い間電燈の下で辛抱していたことも、ここまでくれば結局どんなに辛抱甲斐のあったことかもしれない――とそうかれはかれらしく考えるのである。だが、とうてい彼は彼らしい以外には何も考えることはできなくて、しまいにはかれはその以前の、かれのための宿命である――いまはそのしゃりこうべが何か言おうとするのを聞きすてるわけにゆかないのである。

底本:「文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子」ちくま文庫
『しゃりこうべ』初出:「中央公論」1923(大正12)年6月号

http://www.aozora.gr.jp/cards/001579/card53174.html

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