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2017年4月15日 (土)

四幕戯曲「夜の向日葵」三島由紀夫

女ふたりの友情物語。純真でほがらかで人を疑うことを知らない女と、毒舌で苦労した女。園井花子は「幸福って、何も感じないことなのよ。幸福って、もっと鈍感なものなのよ」という。対して柏木君子は人を憎むのを知らない。敵を作らないし、憎むことの苦しさを知らない幸福な女。花子からすれば向日葵みたいな女。「夜の向日葵」は君子を取り巻く人々の憎しみ合いと、少しも動じない君子との対比で、結局は向日葵に幸福が転がり込んでしまう。
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第一幕は柏木君子の誕生会。
夫は五年前に亡くなって、大学生の息子が一人いる金持ちの未亡人。息子(和男)には恋人の伊原慶子がいる。
女学生時代の友人(園井花子も)が招待され、誕生会は滞りなく進む。
花子は君子の友人の中でも親友で、彼女が和男と慶子に交わした言葉に、戯曲主題が暗示されている。
「むかしから君子さんとわたくしとは、向日と影みたいなものだったの。あの人はどこまで行ってもいつも日向にいた、まるで向日葵みたいに。わたくしは蝸牛みたいにいつも向日葵のかげにいたの」
「子供のころから、あなたのお母様は、何でもほしいと思ったもので買っていただけないものはなかったんですってね。何でも思うとおりにならないことはなかったというじゃないの」
君子は和男が置き忘れたカバンの中から《右肺浸潤、療養を要す》の身体検査表を見つける。

第二幕。高原のサナトリウム(花子の夫が経営)に和男は入院した。慶子は見舞いに来るが、君子はもう来ないように告げる。和男との恋仲が、病人によい影響を与えない。慶子は興奮して君子と園井(院長)が出来ているのを、つい話してしまう。君子は激昂して来るなと告げる。(若いころ、君子と園井は恋仲だったが、花子が嫉妬して園井を奪った) 君子は花子に、慶子が和男に近づかないよう、見張り番を頼む。花子は請け合うが、反対に合わせようと努力する。
園井と君子の逢い引き。園井は花子から離婚訴訟を起こされているという。「でも、それが何なの、お互い三人の間に気持ちが通じていれば、それが何なの」原因は園井と君子の関係である。「そうしてみると花子の訴訟は、身を退いてあなたと僕を結ばせようという、新派の腹芸みたいなものになるわけですな。そんなら金なんか欲しがらなきゃいいのに」 君子「そこが花子さんの近代的なところよ」 花子の問題が片づいて、和男の病気が治ったら結婚する話は決まった。こっそり聞いていた河村照子(看護婦)は花子に一部始終を告げる。以前、河村は園井の愛人であったので、花子と敵対する関係であったが、今は二人の共通の敵である君子に復讐するため同盟を結ぶ。二人は和男と慶子を逢わせる画策をする。それによって和男の病気は治らなくなる。二人とも可哀そうに思いながらも、園井と君子が結婚できないことに喜びを見出す。和男と慶子にとっても功徳を施して満足する。見事な論理のすり替えだ。

第三幕。東京、花子のアパートにて。
花子は園井と離婚してアパートに移った。そこへ女学校時代の友人CとDが見舞いがてら偵察にやって来る。二人は空々しい慰めするが、花子相手にしない。(花子は悲しんではいない。君子によって「思う通り」になった) CとDが帰ったあと、河村照子が杉田誠を伴って来る。杉田は園井のサナトリウムの患者で君子を慕っていた。杉田は青年らしい文学的話をして去る。河村は和男と慶子の経過報告をする。二人は度々逢っているが、そのせいで和男の病状はよくならない。君子は悲しんでいるが、園井に会うとケロリとしている。そこに君子から電話がかかってきた。和男が今朝、亡くなった知らせである。河村は「君子さん、好い気味ですわねえ」と花子が思った通りになったのを皮肉ぽっくいう。その瞬間、花子は河村の頬を平手打ちにした。二人はお互いが自責の念にかられて、罪のなすり合いをする。

第四幕。十日たった君子の家。慶子は自責の念にかられ、サナトリウムで和男に逢っていたことを告げる。君子は花子が手引していたのを知るが、許してしまう。もし和男が慶子と逢わずに亡くなったらと思うと、反対に後悔したと考えたからである。慶子が去ったあと、君子、花子、園井の修羅場が始まる。
花子も自責の念に駆られ真実を告げにきたが、慶子に云ったと同じこと云う。花子は呆気にとられる。花子は園井の企みを暴露する。園井も和男が回復しない方がよかったのである。園井には君子の他に二人の女を囲っていた。二人の女に結婚を条件に金を出せていたのである。君子と園井が結婚すれば、二人の女は黙っていないから、花子の計画を知らぬふりをしていたほうが得策だったのである。しかし君子はすべてを許してしまう。君子は園井と結婚する決意を固める。

息子の死の原因を作った女に、息子に良くしてくれてありがとうと、皮肉ではなく、本心から感謝している。復讐劇を打ち砕く花子に、残ったのは和男を死に到らしめた自責の念たった。園井の加担は悪事を暴露されて、卑劣な男の印象を君子に与える。

「ほんとうに人間って若いうちに死ぬのが花ね。どうでしょう、この汚れを知らない、きれいなお顔。」 君子は不運でさえ味方につけ、肥やしにしてしまう。最大限に許す、憎まないと拡張した場合、損をするのは君子と係った者となる。
「もしあたくしが豚だつたら、真珠に嫉妬なんか感じはしないでせう。 でも、人造真珠が自分を硝子にすぎないとしぢゆう思つてゐることは、豚が時たま 自分のことを豚だと思つたりするのとは比べものにはならないの。」

昭和28年4月「群像」発表。


《この劇の科白は各幕フルスピードを以て演ぜらるべし》
自作解題によると、欧米の旅行中パリで小切手を盗難に遭って、散々となり憂鬱を忘れるために書いた四幕戯曲が「夜の向日葵」であったという。
早く読めば喜劇となり、感情を込めてスローに演じると悲劇の様相が濃くなる。
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