« カール・ドライヤー監督『吸血鬼(ヴァンパイア)』 | トップページ | セレクション「作家が語る創作論」作家…町田康 »

2017年10月 9日 (月)

Green Tea by Joseph Sheridan Le Fanu シェリダン・レ・ファニュ 「緑茶」

医師マーティン・ヘッセリウスのシリーズ"In a Glass Darkly"の第一編である。『吸血鬼カーミラ』もこのドイツ人医師のもとに届いた書簡の形態で語られている。

「医学は、わたしは内科と外科をこくめいに修めたけれど、自分で開業した経験はない。」

怪我をして医学を断念して、あちこち流転していているうちに、医師マルチン・ヘッセリウスと出会い秘書となる。亡くなった博士の手稿を語り手が翻訳した。その手稿はライデン大学の教授ファン・ルー氏にあてた 手紙となっている。

「ジェニング牧師は、背の高い痩せた男の中年で、いかにも規律のきびしい高派教会人らしい、 キチンとした古風な、こざっぱりした身なりの男だ」

或るパーティで出会った好人物のジェニングズ牧師は、何か言いたげに近づき、博士も彼の抱える秘密を察する。牧師の奇妙な癖、何もないところをちらちらと見つめる曰くある仕草が気掛かりだった。

そして彼の住居へ所用があって訪問すると、書斎にはスエーデンボルグの本があって、メタフィジカル・メディシンなる作用について言及される。

「スエーデンボルグ独特の用語で、いわゆる「表象」「感応」に関する章を読んでゆくうちに、 自分はある文句に行き会った。――邪霊が地獄の目とはべつの目で見るときは、「感応」によって、 おのずから独特の欲情と生命を表した、獰猛な獣の姿になって現れる、という趣旨がそこに書いてあった」

どうやら3年前からジェニング牧師は奇妙な幻覚に悩まされていて、博士に秘密を打ち明けるのだった。

「とにかく、まっ黒けな小猿で、ただ一つ目だっているのは、たいへん性分がねじけております ことです。はじめの年は、へんに沈んで、病気でもありそうなようすでございましたが、 ところが、その無愛想な、デレリとしたうわべの底には、たいへんな悪意と警戒心がひそんでおるのですな」

この幻覚は飲用していた「緑茶」の成分から、牧師の霊感体質を刺激して呼び寄せているのではないかと、ヘッセリウスは推測した。

「猿のやつがしきりとわたしに竪抗の中へ飛びこめ、飛びこめといってせっつくのです。 先生、まあ考えてもみて下さい! わたしがこの恐ろしい死からのがれましたのは、 そんな光景を姪が目前に見ましたら、とてもそのショックに堪えられないだろうと思ったから なのでした 」

物理現象を超えた存在。人間やこの世にある全てのものの存在する意味や理由など、自然を遥かに超えたもの。科学が発達していなかった頃の人々は、メタフィジカルなエナジーを無意識のうち衣食住などの生活に利用して、病やネガティブな目に見えない物から身を守っていたらしい。しかし黒い猿の幻覚は、病んでいる牧師本人にとっては、邪悪な霊存在として膨らんで、ついには自殺まで追い込んでしまうのだった。

――邪霊が地獄の目とはべつの目で見るときは、「感応」によって、 おのずから独特の欲情と生命を表した、獰猛な獣の姿になって現れる――

Img_1689

このヘッセリウス博士は怪奇探偵の走りとされる存在で、これに影響を受けたアルジャノン・ブラックウッドやウィリアム・ホープ・ホジスンは怪奇探偵小説を描いたといわれる。レ・ファニュの静かに心理深く描かれる怪奇の世界。

「ヘッセリウス博士、ジェニングズ師と邂逅の顛末を語ること」
人間は、本質的に、霊であります。霊は、有機化された存在であります。ただ、その具体性の点では、われわれのふつうに物質と呼んでいるものと、あたかも、光または電気が、物質とことなる如く、ことなつています。形のある具体的な肉体、それは、まさに文字通りの意味において、一種の衣裳であります。したがつて、死は、決して、生命ある人間の存在の中断ではなく、自然的肉体からの離脱にすぎません――これは、われわれの死と名づけるその瞬間にはじまる過程(プロセス)であります。遅くとも数日後の、この過程の完結こそは、『未生以前の世界』への復活なのです。
シェリダン・レ・ファニュ=著 砧一郎=訳『緑茶』早川書房編集部=編『幻想と怪奇1 英米怪談集』早川書房 ハヤカワ・ミステリ

J・S・レ・ファニュ
1814年アイルランド、ダブリン生まれ。ダブリン大学トリニティカレッジに進学し、38年、月刊雑誌「ダブリン・ユニバーシティ・マガジン」に“The Ghost and the Bone-Setter”を発表。その後も精力的に創作活動に励み、80に及ぶ短篇と15の長篇を残し、現在でもヴィクトリア朝を代表する怪奇幻想作家として愛読される。代表作に、『墓地に建つ館』『アンクル・サイラス』『ワイルダーの手』の長篇のほか、ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』に先駆けて発表された「吸血鬼カーミラ」などがある。73年没。

 

« カール・ドライヤー監督『吸血鬼(ヴァンパイア)』 | トップページ | セレクション「作家が語る創作論」作家…町田康 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

2018年4月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ

羽衣ストーブ館

  • 静岡新聞 2001年5月22日記事
    フランスを中心としてヨーロッパで製造されたアンティークストーブ100点以上はひとりの日本人個人によって南仏を中心に長期コレクションされたものであります。 ◆南仏より海を渡ってやってきたアンティークストーブ100台たちは清水港へ上陸して、東海大学社会教育センターに移築した江戸時代に作られた曲り屋の屋敷のなかに展示された。 ◆鋳物ストーブ100台たちは、その後も数奇な運命をたどることになる。
フォト

22カードの意味

  • _0 愚者
    タロットアルカナの22枚には、世界の変化を表すことが記されています。カードの意味を知るには、図案のもつ表のイメージから解放されることが大切です。

オンライン状態

ペンギンタロットの原画

  • 0の愚者から21の宇宙(世界)まででひとつの話が結ばれる
    兆しを理解して現実なるものを深くたのしく感知する訓練カードです。 タロットを機能させるには慣れ親しむことからはじまります。 まだ目には見えていない物事や潜在的な事柄を導き出す道具でもあります。 各アイコンをクリックすると、21のカードが観れます。