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2019年6月 9日 (日)

「オフェリア」ランボー

オフェリア


     Ⅰ


星眠る暗く静かな浪の上、

蒼白のオフェリア漂ふ、大百合か、

漂ふ、いともゆるやかに長き面かつぎに横たはり。

近くの森では鳴つてます鹿遂詰めし合図の笛。


以来千年以上です真白の真白の妖怪の

哀しい哀しいオフェリアが、其処な流れを過ぎてから。

以来千年以上ですその恋ゆゑの狂くるひ女めが

そのロマンスを夕風に、呟いてから。


風は彼女の胸を撫で、水にしづかにゆらめける

彼女の大きい面かほぎぬを花冠くわくわんのやうにひろげます。

柳は慄へてその肩に熱い涙を落とします。

夢みる大きな額の上に蘆が傾きかかります。


傷つけられた睡蓮たちは彼女を囲繞とりまき溜息します。

彼女は時々覚まします、睡つてゐる榛はんのきの

中の何かの塒ねぐらをば、すると小さな羽ばたきがそこから逃れて出てゆきます。

不思議な一つの歌声が金の星から堕ちてきます。




     Ⅱ


雪の如くも美しい、おゝ蒼ざめたオフェリアよ、

さうだ、おまへは死んだのだ、暗い流れに運ばれて!

それといふのもノルヱーの高い山から吹く風が

おまへの耳にひそひそと酷むごい自由を吹込んだため。


それといふのもおまへの髪毛に、押寄せた風の一吹が、

おまへの夢みる心には、ただならぬ音とも聞こえたがため、

それといふのも樹の嘆かひに、夜毎の闇の吐く溜息に、

おまへの心は天地の声を、聞き落もらすこともなかつたゆゑに。


それといふのも潮うしほの音おとが、さても巨いな残喘のごと、

情けにあつい子供のやうな、おまへの胸を痛めたがため。

それといふのも四月の朝に、美々びゝしい一人の蒼ざめた騎手、

哀れな狂者がおまへの膝に、黙つて坐りにやつて来たため。


何たる夢想ぞ、狂ひし女よ、天国、愛恋、自由とや、おゝ!

おまへは雪の火に於るがごと、彼に心も打靡かせた。

おまへの見事な幻想はおまへの誓ひを責めさいなんだ。

――そして無残な無限の奴は、おまへの瞳を震駭びつくりさせた。



               Ⅲ


扨(さて)詩人奴めが云ふことに、星の光をたよりにて、

嘗ておまへの摘んだ花を、夜毎おまへは探しに来ると。

又彼は云ふ、流れの上に、長い面※(「巾+白」、第4水準2-8-83)かつぎに横たはり、

真まツ白白しろしろのオフェリアが、大きな百合かと漂つてゐたと。

〔一八七〇、六月〕


アルチュール・ランボー Jean Nicolas Arthur Rimbaud

(中原中也/ 翻訳)

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