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2019年12月18日 (水)

[性格と表情] 小津安二郎

 


 表情がうまい、というだけでは、いけないと思うんだ。悲しい表情、うれしい表情が巧みに出来る――つまり顔面筋肉の動きが自由自在だ、というだけではダメ、それならヤサシイと思うんだ。
 いまの、日本の映画俳優は、表情は決して乏しくないヨ。日本人は無表情だとよく言うけども少くとも、俳優の場合は、アメリカ人にくらべて表情は乏しくないと思うんだ。表情がうまいから、上手な役者だとは、言えない。表情のうまい、まずいは、おれに言わせれば問題じやないと思うんだ。
 大事なのは性格だな。性格をつかむことだと思うんだ。性格をつかんだ上で、感情を出すんでなければダメだと思う。性格をつかめないで、ただ感情を出そうとするから、表情だけうまい役者が出来る。悲しいから泣く、おかしいから笑うだけなら、映画俳優でなくても、だれでも出来る。泣いたり、笑つたりの感情表現は、せいぜい三、四割で十分だと思うんだ。
 監督は、俳優に感情を出させるんじやなく、いかに感情をおさえるかだヨ。「長屋紳士録」のかアやんかい――あれはね、お蝶さんがおれの注文を飲込みすぎていた傾向があつた。それに、従来のかアやんの性格から、より以上に飛躍したものを意図してもいなかつたんだ。
 性格とは何かというと――つまり人間だな。人間が出てこなければダメだ。これはあらゆる芸術の宿命だと思うんだ。感情が出せても、人間が出なければいけない。表情が百パーセントに出せても、性格表現は出来ない。極端にいえば、むしろ表情は、性格表現のジャマになるといえると思うんだ。
 おさえることだな。いかにして、おさえにおさえて、性格を表現するか――監督の仕事はここにあると思うんだ。「荒野の決闘」のヘンリー・フォンダが、床屋で香水をつけて来て、ヌーツと立つている――あれだな、ジョン・フォードのえらいのは。フォンダが柱にあしを突つぱつて、椅子の上にノケぞつて、ウフンといつてる。あのヘンリー・フォンダとジョン・フォードの気合いは、実際、うらやましいと思うな。「荒野の決闘」だけじやない、ジョン・フォード作品のヘンリー・フォンダはいつもいい。「怒りの葡萄」でも、「ヤング・ミスター・リンカン」でも。
 ウイリアム・ワイラーの作品が何か来ないかな。見たいね、「ミニヴァ夫人」なんか。ワイラーといえば、ベティー・デーヴィスは、ワイラーのしやしんだと、まるで人が変つたみたいに良くなるネ。「小さい狐」で、ハーバート・マーシャルの夫が死にかかつているそばで、ベティー・デーヴィスが立つてお茶かコーヒーをいれている。表情も何もしやしないんだ、平気な顔でお茶をいれている。ただ、茶わんのさわる音が、カチンカチンいうだけだ。「手紙」のデーヴィスもいい。ワイラーには失礼かも知れんが、ワイラーは少しマゾヒストの傾向があるんじやないかな。「手紙」や「小さい狐」を見ると、そういう気がする。デーヴィスもほかのしやしんの時とぜんぜん違つてくる。芸がさえてくる。
 キング・ヴィダーの「白昼の決闘」は来ないかな。ヴィダーはやつぱり見たいネ。ヴィダーだけだね、色彩映画もいけるのは。フォードの「モホークの太こ」はぜんぜんつまらんよ。あれでコリたと見えて、フォードはその後、色彩映画を撮らんね。ワイラーもテクニカラーは撮らん。
「月は上りぬ」はぜいたくなキャストで撮るつもりだ。五光くらいのキャストでネ。「長屋紳士録」はカラスだつたからネ。





底本:「日本の名随筆40 顔」作品社
   1986(昭和61)年2月25日第1刷発行
底本の親本:「キネマ旬報」キネマ旬報社
   1947(昭和22)年12月

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