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2020年9月25日 (金)

「沙漠の古都」国枝史郎

この小説の梗概を記しても登場人物の思惑方向が違うし、場所と時間移動が激しい。分量の割には展開は急流直下で、本来なら超長編を圧縮した内容。


発端となるマドリッドに、眼の周り燐光を帯びた獣人が現れて、市民の不安を煽る。探偵レザールと画家ダンチョンは、配達された新聞から獣人の推理をしていた。そこへ市長の妻が訪ねてきて、話を聞いた二人は事件に関与する。

先輩探偵ラシイヌ、謎の中国人青年張教仁とその恋人・紅玉(エルビー)など多彩な人物が織りなす怪奇冒険小説。この冒険譚のキーワードは、羅布、湖、埋もれた都会、狛犬である。


「沙漠の古都」は著者唯一の現代怪奇物で、日本人は登場しないエキゾチックな世界となっている。構想の大きさは「信州纐纈城」に等しい世界観が伺える。


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怪獣再び市中を騒がす。

 去月十日午前二時燐光を発する巨大の怪獣何処よりともなく市中に現われ通行の人々を脅かし府庁官邸の宅地附近にて忽然消滅に及びたる記事は逸速

く本社の報じたるところ読者の記憶にも新たなるべきがその後怪獣の姿を認めずあるいは怪獣の出現も通行の人々の幻覚に過ぎず事実上かかる怪獣は存在せざりしには非ざるやと多少の不安と危惧とをもって両度の出現を待ちいたるところ……

「沙漠の古都」国枝史郎を(青空文庫)

https://www.aozora.gr.jp/cards/000255/card45269.html


初出:「新趣味」博文館 1923(大正12)年3月~10月連載


国枝史郎

小説家。長野県茅野市生まれ。早大英文科中退。在学中自費出版した戯曲集「レモンの花の咲く丘へ」を契機に、劇作活動から朝日新聞記者を経て松竹座の座付作者となる。しかしバセドー氏病に罹患して活動なかばで帰郷。各地を転居しながらの療養生活中、「講談雑誌」(博文館)に寄稿した連載時代小説「蔦葛木曽棧」(大正11年)執筆を機に小説へ転じる。複数の筆名を用い探偵小説なども手がける一方、奔放な空想力で描かれる時代小説は現代にいたる伝奇小説のさきがけとなる。とくに代表作と言われる「神州纐纈城」(大正14年)は、陰惨怪奇、神秘的色彩の濃いその特異な作品世界が高く評価され、三島由紀夫からも「文藻のゆたかさと、部分的ながら幻想美の高さと、その文章のみごとさと、今読んでも少しも古くならぬ現代性とにおどろいた。その気稟の高さは比較を絶している」と絶賛された。

作品集は「国枝史郎伝奇全集」(7巻)未知谷、「国枝史郎伝奇文庫」(全28巻)講談社(絶版)。大衆文学館には、「神州纐纈城」「蔦葛木曽棧(上下)」「八ヶ嶽の魔神」の3作品が文庫本で収録されている。

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