北村薫『スキップ』『ターン』『リセット』〈時と人〉三部作
『スキップ』北村薫(新潮文庫)
昭和40年代の初め。わたし一ノ瀬真理子は17歳、千葉の海近くの女子高二年。それは九月、大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたしは家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じた……目覚めたのは桜木真理子42歳。
夫と17歳の娘がいる高校の国語教師。わたしは一体どうなってしまったのか。独りぼっちだ――でも、わたしは進む。心が体を歩ませる。顔をあげ、《わたし》を生きていく。
『ターン』北村薫(新潮文庫)
真希は29歳の版画家。夏の午後、ダンプと衝突する。気がつくと、自宅の座椅子でまどろみから目覚める自分がいた。3時15分。いつも通りの家、いつも通りの外。が、この世界には真希一人のほか誰もいなかった。そしてどんな一日を過ごしても、定刻がくると一日前の座椅子に戻ってしまう。ターン。いつかは帰れるの? それともこのまま……だが、150日を過ぎた午後、突然、電話が鳴った。
「だから、時間っていうのは、ぱらぱら漫画みたいなものなんじゃないかしら」/ぱらぱら漫画? /「ずらした絵を描いて、めくるやつよ。それで動いて見える」/ああ、あれか。/「だから一瞬一瞬が存在していて、それが無限に続いた連続体なのよ。一瞬がなかったら、全体もない。その絵の一枚に、わたしが止まったの」(本文より)
『リセット』北村薫(新潮文庫)
遠く、近く、求めあう二つの魂。想いはきっと、時を超える。『スキップ』『ターン』に続く《時と人》シリーズ第三弾。
「——また、会えたね」。昭和二十年五月、神戸。疎開を前に夢中で訪ねたわたしを、あの人は黄金色の入り日のなかで、穏やかに見つめてこういいました。六年半前、あの人が選んだ言葉で通った心。以来、遠く近く求めあってきた魂。だけど、その翌日こそ二人の苛酷な運命の始まりの日だった→←流れる二つの《時》は巡り合い、もつれ合って、個の哀しみを超え、生命と生命を繋ぎ、奇跡を、呼ぶ。
北村薫は渾身の力で描き、残されていた父親の日記と、少年時代の自分の日記を、はじめて作品のなかに活かしている。「期待の獅子座流星群。夜食にうどんを食べながら見ると、向こうの空に」なんて書いてある。へえっと思って。父が昭和七年に獅子座流星群を見ていて、私が『愛の一家』でその話を読んでて、今度また、それがやって来たなんてことになると、これは話に使わない手はないよな」と。
(「波」2001年1月号)
北村薫×宮部みゆき 対談「時を超えて結ばれる魂」―作家生活30周年記念・秘蔵原稿公開
https://www.bookbang.jp/review/article/542046
キタムラ・カオル 1949(昭和24)年埼玉県生れ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。高校で教鞭を執りながら執筆を開始。1989(平成元)年『空飛ぶ馬』でデビュー。1991年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞受賞。2006年『ニッポン硬貨の謎』で本格ミステリ大賞〈評論・研究部門〉を受賞。2009年『鷺と雪』で直木賞受賞。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。著作に〈円紫さんと私〉シリーズ、『スキップ』『ターン』『リセット』の〈時と人〉三部作、〈ベッキーさん〉シリーズ、〈中野のお父さん〉シリーズ、〈いとま申して〉三部作などがある。アンソロジーや評論にも腕をふるう〈本の達人〉としても知られている。2019年に作家デビュー30周年を迎えた。
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