たんぽぽの詩
「たんぽぽ」高階杞一
踏切の向こうで
こどもがうれしそうに手を振っている
パパー、早く
って言うように
そこから動いたらだめだよ
そう言いながら
ぼくは遮断機の上がるのを待っている
警笛は鳴り続け
いっこうに電車は来そうにない
こどもはひとりでうろうろしはじめる
待ち切れず
渡ってしまおうと思った途端電車がやってくる
目の前を黒い車輌がすごいスピードで過ぎていき
過ぎ去ると
もう
こどもの姿は消えている
警笛が止み
遮断機が空に向かってゆっくりと上がる
踏切を渡り
誰もいない野原には
春だけが
ただ
しーんと広がっていて
〔詩集「夜にいっぱいやってくる」より〕
高階杞一 タカシナ キイチ (Kiichi Takashina) 1951年大阪市生まれ。大阪府立大学農学部卒。大学在学中より詩作を始める。 既刊詩集『キリンの洗濯』『早く家へ帰りたい』『空への質問』『高階杞一詩集』『雲の映る道』『いつか別れの日のために』『千鶴さんの脚』『水の町』ハルキ文庫『高階杞一詩集』『夜とぼくとベンジャミン』など。
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