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2021年6月19日 (土)

たんぽぽの詩

 「たんぽぽ」高階杞一

 踏切の向こうで

 こどもがうれしそうに手を振っている

 パパー、早く

 って言うように

 そこから動いたらだめだよ

 そう言いながら

 ぼくは遮断機の上がるのを待っている

 警笛は鳴り続け

 いっこうに電車は来そうにない

 こどもはひとりでうろうろしはじめる

 待ち切れず

 渡ってしまおうと思った途端電車がやってくる

 目の前を黒い車輌がすごいスピードで過ぎていき

 過ぎ去ると

 もう

 こどもの姿は消えている


 警笛が止み

 遮断機が空に向かってゆっくりと上がる


 踏切を渡り

 誰もいない野原には

 春だけが

 ただ

 しーんと広がっていて


〔詩集「夜にいっぱいやってくる」より〕

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高階杞一 タカシナ キイチ (Kiichi Takashina) 1951年大阪市生まれ。大阪府立大学農学部卒。大学在学中より詩作を始める。 既刊詩集『キリンの洗濯』『早く家へ帰りたい』『空への質問』『高階杞一詩集』『雲の映る道』『いつか別れの日のために』『千鶴さんの脚』『水の町』ハルキ文庫『高階杞一詩集』『夜とぼくとベンジャミン』など。

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