天声人語 ファイアマン出動
天声人語 ファイアマン出動 2019年06月22日(土)
英語でファイアマンは消防士だが、SF作家ブラッドベリの『華氏451度』に出てくるファイアマンたちは、本を焼き払うのが仕事だ。読書してあれこれ考えるのは有害無益だと、本の所有が禁じられた未来社会である
▼本を隠している家に踏み込み、火炎放射器を向ける。任務を遂行しながら、彼らは考えてしまうことがある。本にはいったい何が書いてあるのだろう? その一人が何冊かをひそかに持ち帰ったことで物語が動き出す
▼話は、金融庁審議会の報告書である。麻生財務・金融相が受け取りを拒否し、なかったことにした。完全な焼却処分はできなかったようで、ネットで検索すると原案が見つかる。拍子抜けする内容だ
▼年金水準の低下が「中長期的に見込まれる」と書かれたのが問題にされたが、今の年金制度を直視したにすぎない。全体は資産形成の勧めをやさしく書いた印象だ。年金の額に見合った暮らしを、という発想が全くないところに金融業界臭さを感じるが
▼などとあれこれ考える材料とするには悪くない。にもかかわらず「民は知らしむべからず」とでも思ったか。かえって視線が集まったのは皮肉であろう。同じことは財務省の審議会の意見書から「年金水準低下」が削除された件でも言える
▼先の小説では本の害悪がこう語られる。「いかにばかげたものか、いかに人を落ち着かない気分にさせるか」。そういえば我が首相は、「金融庁は大バカ者だな。こんなことを書いて」と漏らしたそうな。
【天声人語 2019年06月22日(土)】
三年前の天声人語が、今はさらに別の華氏451度が燃えたぎる日々。
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