『オキーフの恋人 オズワルドの追憶』辻仁成
『オキーフの恋人 オズワルドの追憶』辻仁成
design stories booksの記念すべき第一弾作品として、長編小説「オキーフの恋人 オズワルドの追憶」(上下巻)が電子書籍となりKindle版より発売。
人気ミステリー作家が謎の失踪を遂げた。
女流画家ジョージア・オキーフを敬愛する青年編集者は、禁断の恋にのめりこんでいく。作家の代理人をつとめる盲目の美女が鍵を握る。凄惨きわまる女子高生連続殺人事件。更なる悪夢が続く下北沢の街。糸口すらつかめない犯人。女房に逃げられた厄年の「にわか探偵」が鍵を握る。
書き下ろし「オキーフの恋人」と、『週刊ポスト』連載の「探偵」に大幅な加筆訂正を加えた「オズワルドの追憶」が一体になった小説。
★2003年初版から何度かは書き直してる長編で、Kindleでの作者入魂のリリースとなったから、電子化書籍で読みたいと思った。
この二つの作品は東京の住宅地を同じ舞台にしながら、縦軸と横軸が常に交差して複雑に入り乱れていく。
絶世期の平井和正さんの『狼男だぜ』など彷彿させる、エンタメ小説に対する本気な向き合いがあって、ぐいぐいと引き込まれる探偵物語。
忽然と消えた作家の高坂譲が、失踪前に遺した小説「オズワルドの追憶」には連続殺人事件に巻き込まれる新米探偵・夢窓賢治の悪夢が描かれている。
担当編集者の小林慎一郎にしか見えない内なる妖精オキーフが現れて、彼を嘲笑うように本質を刺すのであった。
下巻半ばからカルト教団が物語の底辺に絡んできて、シラケてしまう読者も多いみたいのが残念である。連載での原稿枚数を稼ぐために書かれた冗漫な描写が下巻には目立っている。これだけミステリー小説をしぶとく探究してるなら、贅肉となる文章描写はもっと切り詰めて、読書の想像力へ訴える選択もあったと思う。絵画や夢についての描写が詳しく、赤瀬川原平『目利きのヒミツ』のようなアート視点があったら完璧に近づいたと思われる。そして下巻も上巻と同じく300頁位にまで余分な描写を推敲されたらと感じた。
女子高生を狙う連続猟奇殺人は無残にも成就し、なすすべもない私立探偵・夢窓賢治を窮地に追い込む。作者不在で進行する小説のプロットと同一の事件が現実に起こったとき、下北沢の町は恐怖と混乱の底に沈んだ。
オキーフとオズワルド、ふたつの物語を貫いて巨大な死の欲動が生起して、歴史が秘めた驚愕の事実が立ち現れる。
人間の記憶の悲しみを通して、現実社会の悪夢を極めた傑作巨篇。後半120頁分は渾身の展開となって息を呑む、犯人探し探偵小説と自分探し純文学とのコラボレーションがなされて、圧倒的な山場が用意されている。久しぶりに小説の世界へ没頭する、野心ある試みを堪能できた。
Kindle(design stories books )
2021年5月刊行
電子書籍化第二弾となる小説「ミラクル」改稿Kindle版も、引き続き読みたいと思います。
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