『日付変更線』上下巻・辻仁成
その出会いは偶然か、必然か。葬儀屋で働きながら作家を志す日系四世のケイン・オザキ。遺骨をハワイの海に撤いて欲しいという祖父の遺言を叶えるため、日本からやってきたマナ。ひょんなことから知り合った二人だったが、実は祖父同士が第四四二部隊という日系人だけで構成された第二次大戦の伝説的な陸軍部隊で戦友だったことが分かり、物語は大きく動き出す。七十年の時を経て紡がれる一大巨編。
ハワイに住む日系四世の小説家を目指す青年が、二世の祖父と青年との時間を交錯させながら描いた長編小説。ダイニエル K イノウエ氏がモデルになっている登場人物。戦火の悲劇やミサイルが飛び交っている今、本作へ取り組んだ情熱は深く心に突き刺さる。
作者の辻さんは博多の歓楽街・中州を舞台にした映画『中洲の子ども』を、何度かの苦節ありながら監督している最中である。
少年期に彼の過ごした博多や函館など、エッセイに綴った『そこに僕はいた』を併読すると、主人公の生きた時間と共有できる感覚が味わえる。ここにエコーズというバンドの原点がある。
ホノルル空港が「ダニエル・K・イノウエ空港」と改名された理由は、「彼がアメリカ議員初の日系人として、いまのハワイを作り上げた人物」だからであった。
「この26年で掴んだあらゆる小説技術、文体、力を結集させました」と作者。
「この小説、離婚切り出された去年春に着手。執筆に専念没頭することで、心を維持させることが出来たのです。思えば命を削って獲得した血の文体です」と女優・中山美穂に離婚を持ち出されて、その後長男を引き取って男手で育てるなど、人生最大の難関を小説執筆が救ってくれという。

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