『羊歯行』石沢英太郎
真夜中の散歩道、背後に視線! ――親友・三原哲郎が、天草にありえぬはずのサツマシダを採集に出かけ墜落死した、と聞いて、嬉野は疑念をもつ。三原を天草へかり立てたのは、何者かの奸策によるのでは? 友情のため、愛好するシダへの冒涜をふり払うため、嬉野が究明に動くと……。ユニークな素材で構築する、本格の名手の出世作。他に初期名作5篇を収録。解説、野呂邦暢。
【粗筋】
被害者は羊歯マニアで、謎を追うのが親友。被害者に羊歯の魅力を吹き込んだので、責任を感じている。
被害者は珍しい羊歯を求めて山中で転落して事故死したらしい。しかし、ここに罠がある。危険な場所に珍しい羊歯があるのを犯人が吹き込み、被害者は目の色を変える。その場所で見つければ大発見で、マニアの性に訴えかけた。
犯人は被害者の親戚で同じ会社、苦労人で今の同族経営の会社を大きくした。被害者は本家のボンボンで、横滑りで会社の上層部にはいってくる。
その被害者の美しき妻に、犯人は一目惚れしてしまう。この奥さんとの性的シーンも不必要な感じはなく、終盤のクライマックスで活きるような伏線となっている。
植物オタクの被害者は当然セックスレス、美しき妻は逞しい犯人に抱かれてしまう。
夫の死を事故死だと思い込んでいた妻は、夫の親友から『これはそそのかして事故に追いやったのではないか』と推理を聞かされ驚いてしまう。
周囲から早い再婚だといわれてたが、再婚相手がまさか夫を死に追いやった犯人とは。奥さんは再婚相手の身体を含めた『愛』が復讐なのか本物なのか賭けてみる。
まず『あの崖に珍しい羊歯があるぞ』と誘惑する計画に不自然さがない。そしてその場所には土壌成分から考えて、絶対に生えているはずがない、と確信する被害者の親友(彼も羊歯マニア)にも不自然さがない。
証拠となる羊歯標本、それは偽の採集地が記された証拠となるべきものだが、それだけでプロバビリティの犯罪を立証するのには弱すぎたのである。そこで被害者の奥さんの立ち位置が活きてくることになる。
脳腫瘍の手術を受けた、病み上がりの男がいる。男は「サツマシダ」という、シダ愛好家の世界では珍種を採るために天草のとある山に登り、山頂付近で転落死する。男には親友がいて「サツマシダ」なるものが、天草なんかにあるはずがないということを突き止める。そこから物語は始まる、だれも疑わなかった「単独遭難死」に、実は殺人の可能性があるのではないか。
『羊歯行・乱蝶ほか』石沢英太郎(講談社文庫)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000139441
« 「世阿弥の言葉」野上弥生子 | トップページ | 『表象詩人』松本清張(光文社文庫) »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント