「漫才作者 秋田實」 富岡多恵子 (平凡社ライブラリー)
〈漫才作者秋田實は、東大で非合法の左翼運動をして弾圧され、大阪の吉本興業に逃げ込んだ。そして、横山エンタツと組んで、漫才の台本を書いた。それが「大阪漫才の起源」である。漫才とは、旧来の儀礼的な「萬歳」にマルクス的な弁証法が加えられたものだ。そのことが、今や大阪ではまったく忘れられている。しかし、私は大木こだま・ひびきの漫才に、肯定が否定であり否定が肯定であるような弁証法の「こだまとひびき」を感じたのである。〉(柄谷行人)
秋田實はエンタツアチャコを擁して近代漫才を確立した漫才作家で、彼をモデルにした朝ドラの『わろてんか』などに登場している。
青春時代は東京帝大の支那哲学科に進み、新人会に所属して左翼活動に従事する。昭和10年前後の左翼運動弾圧と壊滅を経て、多くの知識人が日本浪曼派などへと「転向」する中、秋田實が選んだのは漫才作家への「転向」となる。
秋田實がエンタツに会って交流していく状況を伝える文章を読むと、その興奮は、「錯乱」的でさえある。
エンタツおよび漫才師たちを通して知る世界は、工場や労働組合での活動で達することのできなかった「ヴ・ナロード」を秋田に実感させたにちがいない。
………(本書より)
「笑い。これは、つよい。文化の果の、花火である。理智も、思索も、数学も、一切の教養の極致は、所詮、抱腹絶倒の大笑いに終る、としたなら、ああ、教養は、――なんて、やっぱりそれに、こだわっているのだから、大笑いである」
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