黒川博行『てとろどときしん』大阪府警・捜査一課事件報告書
黒川博行が初めて出した短編集で、副題にあるように、大阪府警捜査一課の刑事が登場する6編を集めた短編集。
・「てとろどときしん」
・「指輪が言った」
・「飛び降りた男」
・「帰り道は遠かった」
・「爪の垢、赤い」
・「ドリーム・ボート」
「てとろどときしん」フグ中毒死が巧妙にされる事件を解く。
マメちゃんこと亀田淳也は30歳前で既婚者。童顔、色黒で背が低く、ころころとした体形から「マメダ」と呼ばれる。
黒さんは黒木憲造巡査部長、36歳独身。梅田まで歩いて15分、地の利と2DKで家賃が月々4万円の独身用住宅で侘しくも怠惰に暮らしている。
中毒死事件で店を畳んだふぐ料理店。単純な食中毒かと思いきや、閉店前には立ち退かせ屋が姿を見せ、あとにできた店の支配人はつぶれた店の仲居だったことが判明。
「指環が言った」は殺人を犯した飯場暮らしの日雇労働者・福島浩一が追い詰められて、ついに自白に至るまでの訊問のテクニックが良い展開なのだが、作者は反則技をつかいました。推理小説なので、この技使ったら、アカンという感じ。
「飛び降りた男」は盗みに入られ大怪我をした被害者の男が、悪党であったとんでも展開。登場する吉永誠一刑事は、二時間ドラマシリーズの原型。愛妻デコちゃんは愛嬌溢れる魅力的な女性となっている。
「帰り道は遠かった」はタクシー強盗と不倫の話。黒マメコンビが登場して、意外な展開になるので、少し意表をつかれる。
大阪府警捜査一課のふたりの刑事・黒マメコンビが巧妙に隠された真相を追う。賭け事と酒をこよなく愛して、およそ警察官らしからぬ二人である。その外見と関西弁丸出しの漫談会話からは、とても想像しにくいタフで優秀な刑事。特にマメちゃんは、休日返上で訊き込みに没頭する探偵顔負けの粘りと推理力の持ち主。
タクシー強盗事件の意外な真実や電車内で見つかった切断された指の謎を、大阪弁の掛け合いで刑事たちが解き明かす。
「爪の垢、赤い」福島区玉川のグリーンハイツ、大和田という地名など大阪を舞台に、前例のない特異な事件が起こる。
あとがきによると犯人当てクイズを依頼されて書いたという。犯人が分かりやすくと、頼まれたのに低い正解率だった。
「漫才刑事たちに休息はないのか」
「ようそんな口から出まかせを平気でいえますな。閻魔さんに舌ぬかれまっせ」
「かまへん。わしゃ二枚舌や」
大阪府警の刑事たちが、漫才みたいな大阪弁で事件を解決する。
「ドリーム・ボート」捜査の過程よりも、男運の悪い女の生き様をとことん描いてる。
あとがきで「真相は藪のなかというミステリーを目指して書いた。この作品あたりから、ハードボイルドにつながった」と記している。
(この短編は91年の作品、他の短編は87年と88年の作品)
◆黒川博行
1949年愛媛県今治市生まれ。6歳の頃に大阪に移り住み、大阪府羽曳野市在住。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。妻は日本画家の黒川雅子。
スーパー社員、高校美術教師を経て、専業作家。ギャンブル好き。
作品 「二度のお別れ」「雨に殺せば」「キャッツアイころがった」「カウント・プラン」「疫病神」「文福茶釜」「国境」「悪果」「破門」「後妻業」他多数
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