夏樹静子『路上の奇禍』
1年の間隔をおいて福岡市内で発生した2つの過失致死事件に疑問を持った若い記者が、独自の推理を働かせて両事件の裏側の企みをあばいていく、凝りに凝ったつくりで推理ファンには楽しみな作品。
新聞記者の松尾は日課のジョギング中にある事件に遭遇する。ゴルフのスイング練習をしていた女性が、別のジョギング男性を誤って殺害してしまった。
その女性・初音によれば、被害者・宇野が急に飛び出して来たので、スイングを止められず当ててしまった。過失致死で、初音は宇野の遺族に多額の慰謝料を支払う。
数ヵ月後に松尾は新聞紙上で別の過失致死事件の記事を見かける。
川辺という男性が老人を射殺してしまった。所持する猟銃に弾が一発残されて、暴発したらしい。過失致死として終結を迎える
さらに月日が過ぎたある日、松尾は初音が経営するブティックが移転したことを知る。
そこは一等地だった。多額の慰謝料の支払いに苦しんでいた筈の初音、どこからその費用が出たのか? 疑問を抱いた松尾が調べ始めると、意外な事実が浮かび上がる。
初音は川辺が誤射した老人の孫娘だった。つまり初音は1件目の過失致死で加害者となり、2件目の過失致死で被害者側に立っていたのだ。老人の死により多額の遺産を相続していた。
宇野が慎重な性格の人物で、前を確認せずに走らないと判かる。そして宇野の妻が川辺と不倫関係にあるのも突き止める。
初音が宇野を川辺が初音の祖父を、それぞれ殺害して利益を得ていた。2件の過失致死は事故に見せかけた、交換殺人だった。
だが2件とも既に判決が出ている。一事不再理の原則により、2度と裁かれない。
割り切れない思いを抱き、松尾は宇野の妻から真相を聞き出そうとする。
だが宇野の妻はその話を聞くと、顔面蒼白になり震えだす。どうも交換殺人事態を知らなかったらしい。驚いた松尾はその場を辞去する。
その夜に、法律に詳しい友人と会食する。これまでの調査結果を明かし、相談を持ちかける。友人は笑って松尾の解釈が誤りであるのを指摘する。2件の事件が一事不再理となり、誰も罪に問えないと思っていたが間違いだった。
確かに判決が出ている以上は、初音の宇野に対する過失致死と、川辺の老人に対する過失致死は罪に問えない。だが初音の祖父への殺人罪と川辺の宇野への殺人罪は、二人の共謀が立証できれば罪に問える。
翌日に松尾はニュースで、宇野の妻が自殺未遂を起こしたと知る。おそらく松尾の口から真相を知った、宇野の妻が罪の意識に耐え切れなくなったと思われた。
ニュースによれば、近日中に警察が宇野の妻に対して事情聴取するらしい。そして真実が明らかになると松尾はよろこんだ。
【夏樹 静子】1938年12月21日 - 2016年3月19日
日本の小説家。旧姓名の五十嵐 静子名義による作品もある。 日本の女性推理小説家の草分けであり、繊細な心理描写と巧みなトリックによる『蒸発』『Wの悲劇』などの秀作により「ミステリーの女王」と称された。夫は新出光会長の出光芳秀。兄は小説家の五十嵐均。
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